『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第53話 悟空VSピッコロ

 

『さぁご来場の皆さま、お待たせいたしました!

 いよいよ決勝戦が始まります!

 天下一の達人は果たして孫悟空選手でしょうか!?

 ピッコロ選手でしょうか!?』

 

「……よくよく考えれば、儂らを『天下』の括りに含めるのはもう違わんかの?」

 

「知りませんよそんなの……」

 

悟空とピッコロ以外は全員2階の観覧席に移動していた。

ヒノカミの呟きに、クリリンが呆れながら呟きで返す。

 

ヒノカミは当の昔に、悟空らも3年前に『天界』に辿り着いている。

とっくに『天』に至っている者が『天下』一を決める戦いに出るのは不味いのではなかろうか。

 

「次回からは参加を見送るべきでしょうか?」

 

「観客も置いてけぼりにしてしまっとるし、それがよいかもしれんなぁ。

 大会後に審判に報告し、公表してもらうとしようか」

 

「もはや完全に身内同士のぶつかり合いになっておるからのぅ……。

 未知の強豪も流石に打ち止めじゃろうて」

 

サイボーグ桃白白も結局肩透かしだった。

チチと再会できたのは幸運ではあるが、本戦に進んだ他の7人とは比べ物にならなかった。

それに今大会での参加者は73名。前回大会の半分以下ととんでもなく少なくなっている。

これは明らかに悟空たちが飛びぬけてしまい他の武闘家たちが尻込みしたからだろう。

新しい芽を摘むような行いは望むところではない。

 

『さぁーーーーーーっ!!

 第23回天下一武道会!!

 天下をとるのは果たしてどちらでしょうか!?』

 

「でも審判さん、きっと寂しがる」

 

「いやいや、もう半ば身内みたいなもんじゃし。

 悟空とチチの結婚式にも参加してもらうつもりじゃし」

 

「……ってことは天界に連れていくつもりなの!?」

 

「大魔王のゴタゴタの時にもその場におったし、先代さまにもお目通りしとる。

 招待してもええじゃろ。

 それに二人の仲人として天下一武道会を代表する彼は欠かせまい?」

 

ついでに式の司会進行も任せてしまうつもりだ。

 

「まったくお前は、また勝手を……」

 

「かかか、良いではありませんか。

 儂は『身近で親しみのある神様』を目指しておりますので」

 

「……なぁブルマさん、さっきから何の話をしとるだか?

 『天界』とか『神様』とか……」

 

「あー、当事者だし知る権利はあるわよね……。

 説明は長くなるから、天下一武道会が終わった後にするわ。

 ……馬鹿みたいな話だから、簡単に信用もできないだろうしね」

 

「???」

 

 

『それでは天下一武道会決勝戦、始めてください!!』

 

「はーーーーーーーっ!!」

 

「だーーーーーーーっ!!」

 

悟空とピッコロが舞台の上でぶつかり始める。

彼らの拳と拳がぶつかり合うたびに大気が震え、大地が揺れる。

 

「ま、まるで見えぬ……!」

 

「無理もない。情けない話だがもはや私でも目で追えぬ」

 

「お二人でそれなら、もう観客は全くついていけないでしょうね。

 ボクらだって追いきれないときもありますし」

 

「凄すぎて、『凄い』ってことしか伝わんないわ。

 どっちが優勢なの?」

 

「ほぼ互角じゃの。

 ……あ奴らは『天神武装』を習得しておらぬ。

 どこまでも基礎能力を高めてきたからこそ、泥臭いぶつかり合いになっとる」

 

本来は特殊な血筋や素質が無ければ使えないヒノカミの能力を、誰にでも使える『技』に落とし込んだのが『天神武装』。

これを初歩とは言え習得したことでクリリンたち4人の強さは大幅に向上した。

しかし悟空とピッコロは本当に触りくらいしか学んでいない。

最初は習得に積極的だったが、時間の無駄だと諦めたのだ。

 

なぜなら『天神武装』はヒノカミの……『図抜けた才能を持たない凡人』の能力を再現した技だからだ。

『天神武装』の欠点、それはヒノカミとはかけ離れた『才能溢れる人間であるほど習得難易度が跳ね上がる』ことにある。

 

彼女は乗り越えてきた試練の数と費やしてきた時間が馬鹿げているだけの、ただの努力家に過ぎない。

『努力を続けてこられたことこそがお前の才能』と言われたこともあるが、彼女が1の努力で1の成果しか出せない凡人であることに変わりはない。

1の努力で10や20の結果を示して来た超人たちを、彼女は嫌という程見てきた。仮に彼らに自分と同じ経験と時間があれば、自分などより遥かな高みに至っていただろう。

 

そして悟空とピッコロは『超人』だった。少なくともヤムチャたちよりは。

超人にはヒノカミのような『才能の差を覆すための小手先の技術』は必要ないのだ。

そんなものの習得に時間を割くよりも自分自身を鍛えた方がよほど効率がいい。

 

「儂から見ればヤムチャもクリリンも十分に超人なんじゃがなぁ……流石にあ奴らと比べると霞む」

 

「ワシはお主が自身を『凡人』と定義しとることに納得できんのじゃが?」

 

(これの過去を知らねば、私も同じ反応を示しただろうな……)

 

今のところヒノカミの過去を、『六道リンネ』として生まれこの世界を訪れるまでの全てを明かしたのは先代だけだ。

余計な混乱を招くから理由なく他者に明かしてはならないと厳命されているし、彼女自身も言いふらしたいわけでもないので口を噤ぐ。

 

「……しっかし、こりゃ決着つかんのではないか?」

 

「ですよねぇ……悟空もピッコロも全力で攻撃できないみたいですし」

 

「なんじゃと!?」

 

「お互いに観客への被害を気にしているようです。

 拳のぶつかり合いだけで衝撃波が生じているくらいですし、気功波の類は一切使っていない」

 

「そ、そういえば……!」

 

悟空は言うまでもないが、ピッコロもヒノカミに脅されているので暴れられない。

そしてピッコロにとってこの試合は自分を鍛えるための戦い。

有利な条件で圧倒しても意味が無い。だから悟空と同じ制限を自分に強いている。

 

「互いに決定打も無く、観客には何をやっとるのかもわからん。

 そんな試合をダラダラと続けては観客も儂らも退屈しそうじゃな」

 

ヒノカミが部屋の窓に足をかけ乗り出そうとする。

 

「何をするつもりじゃ!?」

 

「二人をけしかけたのは儂じゃからな。

 せめて戦いやすい環境を提供してやらねば」

 

舞台の隅、審判の隣に着地したヒノカミは上空に浮かぶ二人を見上げて声を上げる。

 

「悟空!ピッコロ!!」

 

「「!?」」

 

『ちょ、ちょっとヒノカミ選手!?』

 

審判が乱入を咎めようとするが、彼女は構わず続ける。

 

「場外が無くなるのでよければ、お主らが全力で力を振るえる場を用意してやる!

 このまま手抜きの戦いを続けるのとそちらと、どちらを望むか!?」

 

『て、手抜き!?』

 

「「……」」

 

無言で互いを見合う二人。

やがて悟空はニカっと、ピッコロはニヤリと笑う。

 

「……オラ思いっきりやりてぇ!

 ばあちゃん、頼む!」

 

「承った!!」

 

 

ヒノカミは武装錬金を発動させて飛び上がり、掌を叩きつけた。

舞台の上空に、舞台どころか会場全体を遥かに上回る大きさの球状の結界が生み出される。

 

「あんがとな!これでやっと本気が出せそうだ!」

 

「ふん、さっきまでの方が良かったんじゃないか?

 これでオレも遠慮なくお前を殺せるんだぞ?」

 

ヒノカミが禁じたのは無関係な観客を巻き込む行為だけだ。

対戦相手を、悟空を殺すことを明確に禁じてはいない。

天界での修行中と同様に死んだとしてもヒノカミの本体が蘇生させてしまうだろう。

だが恐怖と苦痛を与えることはできる。

悟空への恨みは無いがヒノカミに対し意趣返しとなるなら理由としては十分だ。

 

「そう簡単にはやらせねぇさ!

 へへっ……オラ『ワクワクしてきた』!」

 

「…………」

 

悟空を見上げて、鬼の仮面の下でヒノカミは穏やかな笑みを浮かべていた。

 

(ようやく、折り合いをつけられたか)

 

それでいい。思いのままに振舞うがいい。

恨みや憎しみで戦うのは、能天気なお前には似合わない。

 

 

 

「行くぞピッコローーっ!!」

 

「来るがいい!孫悟空!!」

 

先ほどまでとは比べ物にならない気迫と力を漲らせ、二人の拳が激突した。

 

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