『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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原作でのチチの教育ママっぷりは、悟空への不満や家計のひっ迫具合とか、諸々の精神的余裕の無さから生じたものと推測しています。
本作では大体解決してます。


第55話 予兆

「あー、もう……」

 

時間はもうすぐ正午。

疲れと苛立ちが隠せずにいたブルマは少しでもリフレッシュしたくて家の外の庭に出る。

すると丁度敷地内を走っていく小さな影を見つけた。

 

「あら、悟飯くん。今帰り?」

 

「あ、ブルマさん。お邪魔してます」

 

父親の育ての親の名と、父親と同じ尾を引き継いだ小さな子供は丁寧に頭を下げる。

本当に礼儀正しく優しい子に育ったものだ。

そして頭もいい。まだ4歳だというのに、年上の子たちに混じって学校に通っているのだから。今日の授業は昼前までだったらしい。

見た目は幼い頃の彼の父親にそっくりなのにまるで正反対。出会ってもう10年以上経つがあのやんちゃ坊主の姿は今でも鮮明に思い出せる。

……そういえばここしばらく、彼とは顔を合わせていない。

 

「ねぇ、わたしもついていっていいかしら?」

 

「あ、はい!おかあさんたちも喜ぶと思います!」

 

ブルマは父に一言断りを入れてから悟飯と一緒に敷地の隅の建物に入っていく。

中には筒状のカプセルが設置されている。一人用を想定した大きさだが、子供と女性なら一緒に入っても狭くはない。

装置を起動すると二人は消え、次の瞬間にはパオズ山のカプセルの中にいた。

悟飯はカプセルを囲う小屋の外に出て、洗濯物を干していた女性に駆け寄っていく。

 

「おかーさーーん!」

 

「悟飯ちゃん、おかえりなさい。

 ……あらブルマさんでねぇか?」

 

「おひさしー。突然お邪魔してごめんなさいね」

 

「遠慮なんてしねぇでけろ。ブルマさんにはいっつもお世話になっとるでな。

 そだ、今日はおばあ様もいらっしゃるでよ」

 

「ヒノカミも?」

 

「んだ。今悟空さと一緒に昼飯作っとるべ。

 良かったらブルマさんもどうだ?」

 

「いいの?是非お願いするわ」

 

チチはまだ洗濯の途中だからと、悟飯とブルマが二人で家の扉をくぐる。

 

「おとうさん、ただいま!」

 

「おう、おかえり。ブルマも久しぶりだな」

 

「たまにはそっちから顔出しなさいよ、もう」

 

「これこれ、今は手を止めるな」

 

「っといけねぇ!」

 

悟空と端末のヒノカミが並んでキッチンに立っているが、巨大なフライパンを握っているのは悟空の方だ。

 

「ホントに続けてんのねぇ……。

 正直、孫くんが料理覚えるなんて無理だと思ってたわ」

 

「かか、うまい飯を食いたいなら自分で作れるようになるのが一番じゃからな。

 じゃがまだ少し時間がかかるでの。

 悟飯よ、それまでブルマの話し相手をしてやってくれ」

 

「はい、おばあちゃん!」

 

一旦自室にカバンを置いてきた悟飯は、机に座ってブルマとたわいもない話を続ける。

やがて洗濯が終わったチチと、外で薪割りをしていた牛魔王が帰ってきた。

そして悟空とヒノカミが大量の料理を運んできて、皆で手を合わせて『いただきます』。

 

「……あ、美味し」

 

「チチにゃあまだまだ敵わねぇけどな」

 

「当たり前だぁ、そんな簡単に追い抜かれたらおらの立つ瀬がねぇだよ」

 

「……ハァ。孫くんがこんないいダンナさんになるって、あの頃にわかってたらなぁ……」

 

ブルマは盛大にため息をつく。

彼女は、しばらく前にヤムチャと別れた。

 

スカウトを受け俳優となったヤムチャは瞬く間にその名を轟かせ、今や世界中に名を馳せるトップスターだ。

当然世の女性から盛大に持てはやされる。熱烈なアプローチを受けることも多かった。

思わず視線が引き寄せられたり鼻の下が伸びてしまうこともあったが、それは男性としてはやむを得ないレベル。

少なくとも彼はブルマという恋人に対し『不誠実』と言えるような振る舞いはなかった。

 

しかしブルマは、彼女自身が思っているよりもずっと嫉妬深かった。

恋人が自分以外の女性に惹かれることも、自分以外の女性が恋人に近付くことも許せなかった。

演技だとわかっていても恋人が女優と恋愛シーンをすることすら受け入れられず、ついついヤムチャに強く当たってしまうことが増えた。

そして彼が仲間たちに、『自分は俳優を辞めるべきだろうか』と相談していたと聞いた。

ブルマは嫉妬深い自分を変えられなかったが、自分が恋人の重荷になることも耐えられなかった。

二人は互いの想いを全て打ち明け、互いに好きでいる内に別れると決めた。

 

「いくらブルマさんでも、悟空さは渡せねぇぞ?」

 

「わかってるわよ、でも愚痴くらい言いたくなるっての。

 ……ホントに碌な男がいなくてさぁ」

 

ブルマは正式にカプセルコーポレーションのトップになった。

……そして大量の求婚者が詰めかけてきた。

 

悟空と出会った学生時代の頃も彼女の美貌と頭脳と財力を目当てに多くの男が群がっていたが、それがさらに露骨になった。

ブルマも出会いを求めているので何度か良さそうな男と見合いをしてみたが、どれも顔だけか口だけか家柄だけか。

その程度で妥協するには、彼女は『ステキな男性』を知りすぎていた。

そして見合いに失敗する度にストレスが溜まっていき、それが最近の彼女の不調の原因になっている。

 

「はぁ~~……もっかいドラゴンボール探しにいこうかしら?

 今度こそ『ステキな恋人』をって神龍にお願いしたいわ」

 

「儂の前でよく言えるの。

 あの時はやむなく協力したが、立場を明かした今となっては反対させてもらうぞ?」

 

「何よケチね、神様のくせに!

 ……そっか、神様なのよね」

 

ブルマはヒノカミの方を向き直り、両手を合わせて目を閉じる。

 

 

「神様神様、どうかステキな恋人とめぐり合わせてください!」

 

「ガチで神頼みすな!」

 

「……神様神様、どうか悟飯ちゃんが立派な学者さんになれますように……」

 

「お前も乗っかるなチチぃ!」

 

 

「やだぁもう」「冗談に決まっとるだよ」

 

「「ねーーーー」」

 

 

「嘘言うでないわ!儂そういうの敏感なんじゃからな!?」

 

端末を通じて本体の『大願成珠』が反応しかけた。こいつら本気だ。

 

食事を終えたら悟空は畑仕事の続きを。ヒノカミは悟飯の勉強を見てやる予定だ。折角なのでブルマもヒノカミを手伝うとのこと。

時折とは言えこうして神様と世界一の天才科学者から英才教育を受ける悟飯の未来は明るい。

 

 

 

「……っ!!!」

 

 

「「「?」」」

 

しかし突如ヒノカミが硬直する。

悟空たちは訝しむが。

 

 

「『……皆の者、聞こえるか?緊急事態じゃ』」

 

「「「!?」」」

 

目の前のヒノカミの声が、耳からだけでなく頭の中からも響いてくる。

おそらく別の場所にいる関係者にも念話を送っているのだろうが、だとしたらそれは端末ではなく神の力だ。

 

「『今より5分後、お主らを転移で儂のもとへ呼び寄せる。各々備えよ。

  どうしても手が離せぬ者は除外するので5分以内に儂の念話に連絡を返せ。以上じゃ』」

 

「おばあ様……?」

 

不安げなチチが見たヒノカミは、かつてなく顔をこわばらせていた。

 

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