『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第69話 サイヤ人の王子

 

『ガォォォーーーー!!』

 

『グォォォーーーー!!』

 

2体の大猿の戦いは激しさを増していた。

互いに疲弊し傷を負い、それでも相手を倒そうと掴みかかる。

変身の影響で凶暴化していることもありもはや技も何もなく、まさに怪獣大決戦と言った様相だ。

 

「悟空!」

 

「みんな!ナッパってのは?」

 

「オレが始末した……状況はどうなっている?」

 

離れた場所から2体の戦いを見ていた悟空の元に、ナッパを倒したピッコロたちが合流する。

 

「さっきまではオラも一緒に戦ってたんだけど……兄ちゃんが『後は一人でやらせてくれ』って」

 

「大丈夫なのか?互角に渡り合っているようだが、何か勝算でもあるのか?」

 

「わかんねぇ。でもすげぇ気迫だったからさ。

 ベジータとは元は仲間だったんだし、譲れねぇことがあんのかもしれねぇな」

 

「……この人数ならアレの尾を斬り落とすのも難しくない。しばらく待つとしよう」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

『はぁーっ、はぁーーっ!

 サイヤ人の王子であるこのオレが、弱虫ラディッツなんぞにぃ!!』

 

『……フッ、王子か。……くっくっく』

 

『何がおかしい!?』

 

『サイヤ人の王子……事あるごとにお前はそう口にしていたな』

 

それが『支配者・統率者』としての『王』なのか。

『強者・頂点』としての『王』なのか。

あるいはその両方のつもりなのかは知らないが。

 

『……滅びた種族の王を名乗って何が誇らしい?』

 

『どういう意味だ!?』

 

『はっきり言ってやる……サイヤ人の王子なんて肩書は、”無力な負け犬の称号”に過ぎんのだ!!』

 

『何だとぉ!?』

 

ベジータが『支配者・統率者』としての『王』を名乗っているつもりならば。

国も民も滅びたというのに王族だけが生き延びているなど恥でしかない。

それが大切な存在だったとしても、それが所有物に過ぎないとしても、自分の物を守れず失ったのだから。

 

そしてベジータが『強者・頂点』としての『王』を名乗っているつもりならば。

 

『弱者であったオレに牙を剥かれ、落ちこぼれだったカカロットに戦闘力で追い抜かれた貴様の、どこが王者だ!!』

 

『……っ!?』

 

弱き者が頂点としての王を名乗るなど、これほど滑稽なこともそうはあるまい。

 

カカロットは大猿には変化できなかったが、瞬間的にそれに匹敵する戦闘力を発揮する手段を持っていた。

カカロットが本気だったならとっくにベジータは殺されていたはずだ。

出し惜しみされていた。出し惜しみが出来る相手だとみなされていた。

改めて事実を突きつけられベジータは言葉を詰まらせ、怒りと屈辱で震える。

 

『サイヤ人の王子である……王子で”あった”ことを誇るのは結構だがな!

 そんなものに価値を見出しているのはもはや貴様だけだ!

 オレたちは滅んだんだ……とっくにこの世界に負けちまった、負け犬の種族なんだよ!!』

 

『貴様ぁ!!』

 

サイヤ人であるラディッツにサイヤ人であることを侮辱され、激昂したベジータが襲い掛かる。

しかし行動が短絡的すぎてあっさりとカウンターを喰らい吹き飛ばされた。

 

『がふっ!?』

 

『……ナッパも死んだ。ついにオレたちは、たった3人になっちまった』

 

かつてはラディッツもサイヤ人であることに誇りを持っていた。

しかしこんな辺境の惑星の、宇宙への進出すらできていない原住民たちに戦闘力で敗北し。

たかが惑星の神に何度も敗れ、何度も殺され、その度に生き返らされて。

ようやく受け入れたのだ。自分たちサイヤ人は強者などではない。

ただ『弱いものいじめが得意なだけだった』と。

だからフリーザに面従腹背した。正面から立ち向かおうとしなかった。

そして力の差を思い知らされこの星の神にひれ伏した自分もまた、間違いなくサイヤ人だ。

 

『オレは生きるぞ、どんなに無様だったとしても!

 オレはサイヤ人として……サイヤ人であることを背負って生きていく!』

 

『がぁぁぁぁーーーーー!!!!』

 

遂に怒りが限界を超えたベジータが、なりふり構わず突撃する。

対するラディッツも飛び出して迎え撃つ。

 

 

『ラディッツーーーー!!』

 

『ベジータぁーーーー!!』

 

 

全身にエネルギーを纏った2体の大猿が激突した。

 

「「「うわぁぁっ!?」」」

 

衝撃波が周囲の岩山を全て吹き飛ばし、離れていた悟空たちも思わず腕で顔を隠す。

やがて訪れたのは静寂。

 

「ど、どうなったんだっ!?」

 

土煙が晴れた後、爆心地の中央では2体の大猿が互いの顔面に拳を叩きこんだ状態のまま静止していた。

 

「し、死んじまったのか……?」

 

「……ううん、生きてる。ギリギリだけど」

 

「立ったまま気絶してんのか……とんでもねぇ連中だぜ」

 

「全くじゃの」

 

「「「どわぁっ!?」」」

 

いつの間にか悟空たちの集団の中にヒノカミが紛れ込んでいた。もちろん神霊の方だ。

 

「ばあちゃん、いきなりどうした?」

 

「いや、終わったようじゃからな。後始末じゃよ」

 

まずヒノカミは天空に浮かぶ紛い物の月に手をかざし、掌をギュっと握る。

 

「「「!?」」」

 

それだけで光は跡形もなく消え去った。

2体の大猿もベジータとラディッツの姿に戻っていく。

 

「儂は今から一帯の復元に取り掛かる。

 ラディッツを回収して先に神殿に戻っておれ。

 亀仙人たちが吉報を待ち望んでおるからの」

 

「そうだ、仙豆を!」

 

クリリンがラディッツの方に駆け寄り、口の中に強引に仙豆をねじ込む。

隣に立つピッコロは気を失ったままのベジータを見下ろす。

 

「おい、ベジータの方はどうする?」

 

「……オレが連れていく」

 

「「ラディッツ!」」

 

回復したラディッツが立ち上がり、ベジータを肩に抱える。

 

「どうする気じゃ?」

 

「わからん……だが今となってはもう、殺してやりたいとも思わん」

 

「……好きにせぃ」

 

飛び去って行く悟空たちを背に、ヒノカミは『刻思夢想』で破壊された周辺の地形を再現。

先代より学んだ能力を組み合わせ具現化した物体を固定化・永続化させていく。

 

そして破壊の爪痕は全て消え去り、平和な地球が戻って来た。

 




残念ながら、現時点でのベジータでは『悟空のライバル』として不十分と判断しました。
なので彼との決着はラディッツに譲る展開としました。

ベジータは臆病で小心者なラディッツを馬鹿にしていましたが、結局フリーザに従っていたことを思えばラディッツこそが一般的なサイヤ人に一番近いと思います。
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