『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第33話

二日間の臨時休校を挟み、再びいつもの学生生活が始まる。

彼らの次のイベントは職場体験。

体育祭を観戦したプロヒーローからの指名があった者はその中から、指名がなかった者は雄英からオファーしたリストから体験先を選択し、1週間の職場体験を行う予定だ。

校外で行う初のヒーロー活動。

差し当たって、彼らも自身が名乗るヒーロー名を考えねばならないのだが。

 

「『爆殺王』のどこが駄目だってんだクソが」

 

「そりゃ『殺』の字に決まっとるじゃろ」

 

A組生徒の中で爆豪のみ候補が決まらず、弟子の面倒を見ろとヒノカミにお鉢が回って来た。

放課後指導室で居残りである。

ヒーロー名の正式決定はプロになってからの話だが、仮称であっても今決めなければそれまでは本名で呼ばれることになる。

敢えて本名を名乗った生徒もいたそうだが。甥とか。

ともかく、ヒーローは名前を憶えてもらわねばならない人気商売。

名前が決まるのが遅いほど覚えてもらう期間が短くなる。マイナスにしかならない。

 

「そうじゃ、カタカナの候補はないか?」

 

いくつか候補を出させてみたが危ない漢字が消えないので、方針を変えてみる。

ヒーロー名はカタカナが基本。

漢字だと名前を読み間違えられることがある。

サインを書くときに無駄に時間がかかったり、達筆でなければ見栄えが悪くなるなどのデメリットもある。

だからこそ和風な外見の彼女も『ヒノカミ』と名乗っているのだ。

短文をヒーロー名にするなど論外である。

 

「……『ダイナマイト』」

 

「なんじゃ、良い名があるではないか。

 ……ん?ダイナ……『マイト』?」

 

「っ!忘れろぉ!」

 

単語としては全くの別物だが、一部が一致しているのは偶然か故意か。

どちらにせよ折角出した良い候補を取り下げられてはさらに居残りが伸びてしまう。

からかいたい気持ちをぐっと我慢してヒーロー名決定とし、別の話題を振って気を逸らす。

 

「そういえばお主、体験先は決めたか?

 無茶苦茶候補があるはずじゃが……」

 

雄英体育祭準優勝は伊達ではない。

彼には全国から数千件もの指名が来ている。

轟には一歩及ばなかったが、クラス指名数3位の緑谷にはダブルスコアで圧勝している。

なのに体験先を決めるまでの期日はわずか二日。すべての候補を確認するには時間が足りなすぎる。

 

「逆に聞きてぇが、俺に一番合ってるヒーローはどいつだ?」

 

「オールマイトと兄上を除けば……ラビットヒーロー『ミルコ』かの」

 

女性トップヒーローで、ヴィラン退治を専門とする女傑。

実戦には事欠かないし、彼女の足技は高機動戦闘時にキックが主体になる爆豪にとって良い参考になるだろう。

爆豪は指名リストをパラパラとめくる。

 

「……『ミルコ』……あった。

 じゃあこいつにするわ」

 

「おいおい、そんな簡単に決めてよいのか?

 貴重な機会じゃぞ?」

 

「いくらアンタでも、こんな時に無駄な嘘言わねぇことくらいわかってんだよ」

 

「……かっかっか。

 その厚い信頼を喜ぶべきか、信頼が重いと悩むべきか……」

 

ともかく爆豪のヒーロー名と職場体験先が決定した。

これでヒノカミの役割は終了だ。

職員室に戻ろうとして席を立つと、爆豪に呼び止められた。

 

「そういやデクにオールマイトが会いに来てたが、ありゃなんだ?」

 

「あー、出久にはナイトアイというヒーローの指名を受けてもらうつもりでな。

 指名をくれた他のヒーローたちには悪いがの」

 

「……アレ(OFA)関連か」

 

ヒノカミは無言で頷く。

OFA後継者と気づかれないようグラントリノやナイトアイは緑谷から距離を取っていたが、体育祭であそこまで活躍したならナイトアイが指名してもさほど違和感はないだろう。

今回は彼ら外部協力者に緑谷を直接見てもらうには丁度良い機会だ。

 

「……あぁ、アレ関連と言えば。

 お主らには伝えておらんかったがエンデヴァーも関係者じゃ。焦凍は違うがの」

 

体育祭中にエンデヴァーが緑谷に接触していたことを後になって知り、ヒノカミはようやく緑谷たちに連絡していなかったことに気づいた。

 

「そういうのは先に伝えとけや……」

 

「すまんすまん」

 

かっかっか、と高笑いをして、今度こそヒノカミは職員室へと戻っていった。

自分の机に向かう途中で相澤から呼び止められる。

 

「ヒノカミ、ちょっといいですか?

 ……これなんですが」

 

「飯田の希望体験先か……『マニュアル』?」

 

「あいつにはもっと上からも指名が来てたはずです。

 そして住所が……」

 

「保須……『ヒーロー殺し』か」

 

体育祭終了後、彼の兄であるヒーロー『インゲニウム』が『ヒーロー殺し』と呼ばれるヴィランに襲われ、再起不能の重傷を負ったと聞いた。

事件現場は保須市。ノーマルヒーロー『マニュアル』の事務所がある場所だ。

 

「……復讐、じゃろうな」

 

「やはりそう思いますか。

 変更させるべきでしょうか?」

 

「向こうから指名が来て、当人が受けると決めた以上強引な手段はとれぬな。

 思惑を追及しても飯田にしらを切られれば意味がない。

 ……実はこの件は近々エンデヴァーが動く手筈になっておるんじゃ。

 気に掛けるよう頼んでおくくらいならできるが……」

 

彼が保須市に向かうことを止められない以上できることは少ないが、やはりできる限りのことはしておかねば心許ない。

 

「……相澤、しばし時間が欲しい。

 儂の仕事の一部の引き継ぎを頼みたい」

 

「わかりました。……よろしくお願いします」

 

ヒノカミは根津校長にも協力を求め、ヒーロー殺しに関連する情報を徹底的に集め始めた。




ヒーロー殺し編、緑谷不参加です。
主人公が色々と出しゃばってるせいで彼の出番がかなり減っています。
体育祭も駆け足でしたが、ヒーロー殺し編もがっつり削っていきます。
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