人間から神霊に代わったことで在り方が変わっていますが本質は同じとしています。
クリリンたちが作り出し維持している空間に一時避難したことで、悟空とピッコロも息を整えることができた。
もう一度天神武装を発動すれば、宇宙空間で戦い続けるヒノカミの援護に行くことができる。
だができなかった。
戦うことがではない。ヒノカミの援護をすることがだ。
鬼が赤い右腕で手刀を放つと、触れる全てを焼き尽くす炎が空間を割く。
白い左腕を振るえば、伸びて曲がって膨れ上がって周囲を薙ぎ払う。
フリーザが攻撃を掻い潜って近づけば、両肩のもう一対の腕が広がり鋭い爪を立てて襲い掛かる。
しかも鬼はまるでフリーザの動きを先読みしているかのように、的確に転移を繰り返して攻め続けている。
2倍近い戦闘力の差を覆そうというのだ。『鬼気迫る』とはまさに今の彼女を的確に表す言葉だろう。
近付けば確実に巻き込まれる。
特に至る所に飛び交う炎は触れるだけでその身を削られる。
彼らを守るエネルギー球も彼ら自身も例外ではない。
だからヒノカミは戦い続けながら、少しずつ悟空たちから距離を取っていた。
「無茶苦茶しやがるぜ……」
「こ、これならなんとかなるかも……!」
「あのヤロー、やはり力を隠してやがったか」
ヒノカミは『怒り』を力とするタイプの戦士だ。
修行で手を抜いていたわけではなく『本気の殺し合い』の方が全力を発揮できるというだけ。
そもそも悟空たちが彼女の強さに追いつくまで『本気で戦う』こと自体が無かったくらいだ。
彼らがヒノカミの事情を知らないのも無理はない。
「……なぁ、なんかおかしくねぇか?」
「何がだ?」
「なんでばあちゃん、あんなに焦ってんだ?」
「焦って?……そういえば……」
ヒノカミは多彩な能力を持っており、その一つとして『永遠快気』というものがあると聞いた。
端的に言えば、『疲れや衰えがなくなる』能力らしい。
エネルギー切れはなく、老いることもない。
霊体になる前から睡眠も食事も呼吸も不要だったそうだ。
だからこそ彼女は今も宇宙空間で暴れまわることができている。
よってヒノカミが得意とするのは『持久戦』。
端末でも周囲の気を吸収することで図抜けたスタミナを発揮していたが、本体の方はまさに無尽蔵のはずだ。
だが今の彼女はかなり危ない真似をしてまで、フリーザ相手に息つく暇すら与えぬ猛攻を続けている。
「……?」
「どうした、チャオズ?」
「ヒノカミの気、小さくなってる……!?」
「なんだと!?」
ラディッツがスカウターを彼女に向けてボタンを操作する。
桁数が大きくなったため簡易化していた表示を、1の位の数字まで画面に映し出されるように切り替えた。
「戦闘力が……下がり続けている!?」
「「「!?」」」
まだ戦闘力は6000万以上あったが、端数が見る見る減っていく。
毎秒数万という凄まじい速度でだ。このままでは6000万を切るのももう間もなく。
『ヒノカミは、己を燃やしておるのだ』
「っ!界王さま!?どういうことだ!?」
突如頭に響いてきた声に悟空が叫び返す。
『今あ奴が使っている技は、己の魂を燃料にすることで膨大な炎を生み出す技だ。
その熱をあの鎧で吸い取ることで無理やり自身の力を倍化させておるのだ』
「そんな!?」
ヒノカミにエネルギー切れはない。
だが一度に放出できる出力には限界がある。
そしてフリーザが相手では、今の彼女の出力ではまったく足りなかった。勝負すら成立しない。
鬼の鎧は熱を吸い取り力に変えるが、酸素すらない宇宙で熱エネルギーを確保するには、自分自身を燃やすしかなかった。
『備えるんだ悟空。ヒノカミではフリーザには勝てぬ。
だがフリーザを限界まで追い詰めることはできる。
であれば一撃で仕留めることができるはずだ。トドメはお前が刺すんだ』
「なっ……ばあちゃんを見殺しにしろってのか!?」
『宇宙での活動に時間制限があるお前たちではフリーザの力を削ぐことはできん。
それができるのはヒノカミだけだ』
「でもっ!」
『いい加減にせんかっ!これはあ奴からの伝言だ!
あ奴の決意と覚悟を無駄にするつもりか!?』
「「「!?」」」
『だからわしは……フリーザには手を出すなと言ったんだ……』
「……オラにみんなの気を分けてくれ。一撃に全力を込める。
ばあちゃんがやられる前に、なんとか……!」
「……クリリン、中継を頼む」
「わかった」
――――……
(次の、一手はっ!?)
(――――)
(わかった!)
大願成珠の声なき声を聞き、その根拠や理由を問いただすことなく言葉に従う。
ヒノカミは戦い始めてからずっと、大願成珠に願い続けていた。
『フリーザを倒してくれ』なんて都合のいい願いではない。ヒノカミを遥かに超える強敵を消し去るなど、どれほどの祈りが必要かもわからない。
ヒノカミの願いは『フリーザを倒すための最適解を示し続けてほしい』だ。
その際に『悟空たちは守れ。だが自分が受ける被害については一切考慮するな』と付け加えて。
神でなくなったヒノカミとフリーザの戦闘力差は4倍近いのだ。手段を選ぶ余裕はなく保身を考えて勝てるはずがない。
使う技、腕を振る角度、込める力の量、転移のタイミングと座標すらも秒単位ミリ単位で忠実に指示に従う。一切の疑問を持たずに。
指示の通りに動けば、こちらの攻撃が当たる。
指示の通りに動けば、あちらの攻撃を避ける。
ただひたすらにそれを繰り返す。己の身を焼く激痛に耐えながら。
(――――)
(っ!よし!)
回避に失敗する振りをしてフリーザの気弾の前に身を晒し、敢えて攻撃を受けながら両肩の副腕を広げてダメージ以上の気を霊光鏡反衝で吸収する。
これでほんの少しだが吸収したエネルギーを熱にして鎧の強化に充てることができた。完全に吸収することもできるが、そうすると相手が気付いて気弾を使ってくれなくなる。
肉弾戦限定になるとヒノカミでは分が悪くなる。
すでにヒノカミの戦闘力は5500万にまで落ち込んでいる。5000万を切るのも時間の問題。
いよいよ『赫烏封月』以外でダメージを与えることが難しくなり、『白鎖彗星』以外で攻撃を受け止めることが出来なくなってきた。
しかしフリーザの方も随分と余裕がなくなっている。言葉を交わさずとも露骨に歪んだ表情が奴の内心を物語っている。
悟空たちの戦いも含めて、自分が殺されかねない状況にこれほど長く晒されたことが無かったのだろう。
(これでまだ行ける!まだもう少し削れる!
弱らせれば悟空たちが、必ず!)
(――――)
(……は?)
だがここに来てヒノカミは、大願成珠の指示に一瞬だけ疑問を抱いてしまった。
(――――)
(っ!?)
しかしすぐに従う。翼を広げて飛翔しフリーザから距離を取る。
位置取りを変えた先で左腕を前に突き出し変形させ、巨大な蛇の頭の形にする。
蛇の首の付け根を右腕で掴むと白い蛇に赤い光と鳥の要素が混ざり、龍の頭にも見える姿になった。
龍の口の中には巨大なエネルギーが圧縮されている。
ヒノカミの挙動を見てフリーザは一瞬驚いたものの、動きを止めない。
そのまま全力の気功波を撃ち出した。
ヒノカミの遥か後方にいる、悟空たちに狙いを定めて。
『天射矛砲……!!』
『ギャオォォォォオオオオオ!!!!』
龍の口が巨大な熱線を吐き出す。
熱線を圧縮して赫烏封月の絶対焼却の力を込めていれば、気功波の中央を貫きフリーザに風穴を開けることが出来ただろう。
だが相殺しきれなかったエネルギーがヒノカミと、後ろにいる悟空たちを消し飛ばすだろう。
それでは良くて相打ち、殺しきれなければフリーザだけが生き延びることになる。
だからこれはただの熱線。単純な出力勝負。
大願成珠に指示されるまでもなく更に己の存在を燃やして火力を上げる。
(……ぐ……!)
ラディッツたちのスカウターに表示されるヒノカミの戦闘力は信じられない勢いで変動していた。
4000万、3000万、2000万、1000万……。
「ばあちゃん!!」
『……ぐぁぁぁあああ!!』
それでも更に薪をくべる。
そしてついに熱線はフリーザの気功波を押し返し、フリーザを飲み込んだ。
熱線は宇宙空間をどこまでも伸びていき、そして遠く先で爆発が起きた。
おそらく星か何かにでも直撃したのだろう。
熱線が通り過ぎた空間には全身を炎で焼かれたフリーザが、満身創痍という様相で佇んでいた。
「……ばあちゃん?」
他には何もなかった。誰もいなかった。
ヒノカミの大願成珠の使い方を例えるなら『ガンダムW』の『ゼロシステム』。
悟空たちとフリーザの戦いを観察し、実際に自分で相対して集めた情報を基に最適解を算出し続けています。
何らかの現象を引き起こすのではなく可能性を手繰り寄せるようなものなので、これくらいなら彼女一人の祈りで叶えることができます。