『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第34話

職場体験開始予定の前日。

飯田は放課後にヒノカミに生徒指導室に呼び出され、二人きりで向かい合っていた。

 

「単刀直入に聞く。

 お主、ヒーロー殺しを手にかけようとしとるじゃろ」

 

「っ!……なんの、ことでしょうか」

 

「……ま、そういう反応をするわな。

 じゃがはっきり言う。……無意味じゃから辞めておけ」

 

「!……」

 

飯田は思わず反論しようとするが、そうすれば言質を取られてしまうと無言を貫く。

 

「あぁ、誤解しとるようじゃが儂は復讐という行為を否定してはおらぬぞ」

 

「……は!?なぜですか!

 ヒーローが私怨に走るなど許されることでは……」

 

「ヒーローも人間じゃ。

 大切なものを傷つけられれば憤るのは道理。

 八つ当たりならともかく、責任が完全に相手側にあるとなればなおのことな」

 

呆然とする飯田にヒノカミは畳みかける。

 

「儂は復讐を、己の心に区切りを付け、未来に進むために必要な儀式と考えておる。

 己の未来を犠牲にするやり方では意味がない。

 真っ当な方法を選ばなくては。

 お主は違法で危険な真似を考えているようじゃから、その点を改めさせたい。

 ……が、いまだ学生で実力も足りておらぬお主では取れる手段も限られる。

 大人になるまで待てといっても我慢できるはずがあるまいな」

 

目の前の飯田は視線を険しくして歯を食いしばる。

ヒノカミからは見えないが、机の下の手は強く握りしめられ震えていた。

 

「しかし何としてもお主に考えを改めてもらわねばならぬ。

 違法だから、危険だからという理由だけではない。

 ……今回の場合、お主のやり方では成功したとしても、復讐を遂げることができんからじゃ」

 

「……どういうことですか?」

 

ヒノカミの発言は無視できるものではなく、飯田も聞く耳を持った。

ヒノカミは分厚い紙の束を取り出し机の上に置く。

 

「儂なりにヒーロー殺しの情報を集めておった。

 その結果わかったことがある。

 奴はかなり厄介な思想犯じゃ。

 自らの信念に殉ずるならば本望という狂人の類よ。

 ……殺されたところでなんとも思わんのじゃ」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

「お主は本当に狂った人間を見たことがなかろう。

 あれは人の形をした何かじゃ。

 同じ言語を口にしていようとも理解できぬし、してはならぬ。

 さて、そんな輩にお主はどうやって復讐するつもりじゃ?」

 

ただの快楽殺人犯ならば力づくで止めるのが最も正しい。しかし思想犯では相手が悪い。

ヒーロー殺しはおそらく自分の生き方に酔いしれている。

自分の思想を広げることに人生を、命を捧げているのだ。

……捕まえるだけでは生温い。法の裁きすら受けさせず殺してやろうと飯田は考えていた。

しかし相手に後悔させられないのでは復讐にならない。

そして狂人を知らない飯田では他に復讐の方法が思いつかない。

 

「……一体……どうしたら……」

 

「……今更お主の職場体験を取りやめることはできぬし、ヒーロー殺しに出会ってしまえば復讐にならぬとしても挑まずにはおれまい。

 じゃが今のお主が戦えば間違いなく殺される……そこで」

 

ヒノカミは柏手を打ち、俯いていた飯田の顔を自分へと向けさせる。

 

「これよりお主に知恵を授ける。

 うまくいけばお主は生き残り、違法を問われることもなく、ヒーロー殺しに復讐を果たすことができよう。

 犯罪スレスレ、かなり綱渡りな方法じゃが……聞く気はあるか?」

 

「……お願いします!」

 

その後、日が暮れるまで飯田と話し合い、自分が考えた策と集めたヒーロー殺しの情報を伝える。

当然だがヒーロー殺しの情報とは一生徒に明かしてよいものではない。

 

「ばれたら教職どころかヒーロー資格も失うかもしれんの……。

 まぁあと数カ月持てばいいから問題ないか」

 

生徒たちを職場体験に送り出した後、保健室でリカバリーガール相手に呟く。

 

「巻き込もうとするんじゃないよ。

 あたしは何も聞いてない、いいね?」

 

「かっか、わかっておる」

 

リカバリーガールが書類を書き終え、ヒノカミへと差し出した。

リカバリーガールが運営に関わっている大病院で、極秘裏に手術を受けるための書類だ。

USJの襲撃以来、ヒノカミの症状は急速に悪化している。

数カ月持てばよいといったが、このままではその数カ月すらも持たない可能性が出てきたのだ。

予知では彼女が決戦に参加することになっているが、肝心な時に病状が深刻化しており戦力外では話にならない。

故に1年ヒーロー科の生徒がおらずスケジュールに余裕があるこの一週間を利用し、もう一度本格的な治療を行うことになった。

 

「感謝するぞ、治与」

 

「……あたしにできることは、このくらいだからね……」

 

ヒノカミは保健室を出て廊下を歩く。

治療が終わるまでヒノカミは何もできない。

関係者以外に知られないよう連絡も絶つことになっている。

 

「……手は打った。死ぬなよ、飯田」

 

集めたヒーロー殺しの情報はすべてエンデヴァーにも連絡した。

あとは彼に託すしかない。

 

後日、飯田の向かった保須市で事件が発生し中継映像が報道された。

しかしそれはヒーロー殺しではなく、敵連合の脳無が出現し無差別な破壊を行っているというものだった。




あぁ、委員長が主人公に毒されていく……。
次回、保須市の事件です。間は一気にすっ飛ばします。
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