『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第96話 絶望の未来

 

元の世界と同じ座標、平行世界のカプセルコーポレーションの上空に転移した4人。

トランクスのタイムマシンはゆっくりと降下していくがヒノカミと、彼女の手から離された悟空とベジータは宙に佇んだまま周囲を見渡す。

 

「……これが、西の都か……?」

「ひでぇもんだな……」

「……チッ!」

 

マシンから降りたトランクスが手を振っている。

目立つところにいると人造人間に見つかる可能性も高まるだろう。

彼の傍に着陸し、無言でその後をついて歩く。

 

「母さん!」

 

「おかえりトランクス!」

 

「「「……!」」」

 

面影と快活さは残っている。

だがあれほど見た目や服装に拘っていたブルマが艶の無い髪を雑にまとめ、ヨレヨレの作業服を着て、化粧もせず、深いしわが刻まれた口元にタバコを咥えていた。

 

「……孫くん!ベジータ!!」

 

そしてトランクスの後ろにいた者たちの姿を目にした途端駆け出し、しかし寸前で立ち止まる。

 

「……ってゴメンゴメン、別の世界なんだっけ?

 でもほんとにおんなじ!昔を思い出すわぁ~~」

 

「あ、あぁ……」

 

「で、アンタがあっちの世界の神さま?」

 

「……うむ。ヒノカミという」

 

「聞いてるわよぉ、あっちのアタシとは友達なんだって?

 神さまが友達なんて鼻が高いわね!

 あっちのアタシは退屈してなさそうだ!アハハハハ!!」

 

「……っ」

 

高らかに笑うブルマの目尻に雫が生まれ、やがて堰を切ったように涙が溢れ出す。

 

「アハハ……ごめん、全部枯れたと……思ってたんだけどね……っ」

 

「母さん……!」

 

父も、母も。

悟空も、ウーロンも、ヤムチャも、プーアルも。

亀仙人も、ウミガメも、ランチも、クリリンも。

天津飯も、チャオズも。

ピッコロも、悟飯も、ベジータも。

彼女の隣にはもう誰もいない。彼女は一人だ。

悟空たちを失い20年、最後の仲間だった悟飯を失い7年。

彼女はたった一人で、この荒廃した世界でトランクスを背負って生きてきた。

 

思わず一歩踏み出し手を差し伸べようとしたベジータを無言で押しとどめる。

それは、この世界のベジータの役目だ。

 

「枯らさぬようにとっておけ。

 もうすぐ好きなだけ流せるようにしてやるさ。嬉し涙をな」

 

「うん……っ!」

 

トランクスに肩を抱かれ、奥の部屋へと歩いていくブルマの小さな背中を見つめる。

姿が見えなくなるまで。

 

 

 

「……勝つぞ」

 

「「あぁ」」

 

ヒノカミの小さな呟きに、決意の込められた声が続いた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

翌日、前時代的なラジオから声が響く。

人造人間の出現と連中に襲われている地域を知らせるニュースだ。

 

「気を付けてね、トランクス!」

 

「はい!」

 

「こちらのブルマのことは任せておけ。

 人造人間のことは任せたぞ」

 

「あぁ、オラたちに任しとけ!」

 

「……必ず戻る」

 

「!?えぇ!」

 

ヒノカミとブルマが並んで、飛び立つ3人の超サイヤ人を見送る。

 

「……本当に、大丈夫よね?」

 

「楽勝……とは行かぬが、負ける要素はない。

 仮に犠牲が出たとしてもすぐに蘇生してやるさ」

 

「アハハ、神さまってのは頼もしいわね!」

 

ヒノカミがブルマの横顔に手を伸ばし、触れる。

直後白い炎が彼女を包む。

 

「えっ!?何!?」

 

熱くはない。暖かいとすら感じる。

炎が消えて気付いたのは、シミもシワも汚れもない綺麗な自分の掌だった。

 

「……えっ?これって、え!?」

 

「そんな姿で再会したらこっちの悟空たちが気に病みそうじゃからな」

 

続いて手鏡を造り出して投げ渡す。

 

「あまり褒められた行為ではないが、お主の功績を思えばこれくらいの特別扱いは許されてええじゃろ」

 

映っていたのは若々しい女の顔。

およそ20年前の、自信と活気に溢れていた頃の姿。

 

「……神さまってのは随分と気前がいいのね」

 

「かかか、儂は身内贔屓でな。

 皆には内緒じゃぞ?」

 

「どーやって隠せっていうのよ、これ」

 

やがて遠いところで巨大な気を感じた。悟空たちが戦闘に入ったようだ。

17号と18号の気は感じられないが悟空たちの気の変化から推測はできる。

圧倒的とは言えないが優勢のようだ。このまま数分もすれば……。

 

 

 

「……っ!!??」

 

「えっ!?どうしたの!?」

 

 

彼らのすぐそばに、突如として彼らを大きく超える気が出現した。

邪悪であまりに歪な、しかし覚えのある気。

大勢の戦士の気が入り混じったような気。

 

悟空と、ベジータと、ピッコロと。

 

「……フリーザとコルドの気!?

 ブルマ!この世界では連中が地球に来たのか!?」

 

「えっ?えぇ、そうだけど……」

 

「くそっ!!」

 

ヒノカミはブルマを掴み急いで転移する。

 

「きゃっ!ここって!?」

 

「!?おまえ、ブルマ?」

 

「あれ?たしか、ポポさん?

 じゃあここって神さまの神殿!?」

 

ボロボロになった神殿の広場に転移すると、顔色は変わらないが明らかに生気の無いミスターポポがいた。

 

「お前たち、どうやってここに?

 ここ、神さまの許可ないと入れない」

 

困惑する二人を置いて、ヒノカミは高らかに宣言する。

 

 

「地球の神として宣言する!

 全権をこちらへ!神意解放、神殿再構成!結界を展開せよ!!」

 

「「!?」」

 

ヒノカミを中心として神殿全体に光が走り、元の美しい姿を取り戻していく。

 

「ポポ、ブルマを頼む。

 儂はこれより悟空たちのもとへ向かう」

 

「……わかりました、神さま」

 

何故かはわからないが、地球と神殿が目の前の女を神と認めた。

ならば神に仕え尽くすのがポポの役目だ。

 

「何があったの!?」

 

「説明は後じゃ!悟空たちが危ない!」

 

邪悪な気が更に大きくなった。

ヒノカミなら蘇生は出来るが、このままでは蘇生したところでヒノカミごと殺されてしまう。

 

ヒノカミは胸元からカプセルを取り出し、地面に放り投げる。

煙が広がり中から出てきたのは。

 

「……」

 

「人……!?」

 

無言で佇む、巨躯の男性。

胸に付けているプロテクターにはカプセルコーポレーションのマークが刻まれていた。

 

「16号、ついてこい!

 これより悟空たちのもとへ向かい彼らを救出する!」

 

「了解した」

 

ヒノカミは鬼の鎧を纏い、男性と共に忽然と姿を消した。

 




『生物ではなく完全な機械であること』。
これが人造人間16号の最大の利点。

本作では二つの世界の時間が同じように流れているので、この時期はトランクスが最初に旅立って3年後。
即ち原作35巻最後の『セルがトランクスを襲ってタイムマシンを奪おうとしたタイミング』と同時期になります。
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