『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第110話 天上一武道会

 

参加者及び関係者にだけ知らされた特殊なコードを打ち込む。

すると生体認証装置が起動し、中にいる者が登録されたデータと適合した場合のみ、神殿にあるカプセルへの転移が可能になる。

頻繁に使用している関係者には慣れ親しんだことだ。

だがそうと知らぬただ一人は、普段と全く異なる転移カプセルの挙動に狼狽え、転移する瞬間には思わず目を閉じていた。

 

「…………」

 

そしてあまりにも現実離れした光景にミスター・サタンは大口を開けたまま硬直している。

鼻水も垂れていた。

 

空中に浮かぶ、巨大な半球状の建物。

ようやく硬直が解けたサタンが縁に近付きおっかなびっくり下を覗くと、雲海があった。

切れ間から地上が見える。地球が球体であるとはっきりわかる形で。

ここがとんでもない高さにある場所だと実感し恐る恐る後退りした。

 

次いで、広場に点々と立つ人々に目を向ける。中にはサタンが知っている人物もいた。

アクションスターの、ヤムチャとかいう男。

隣にいる女性は確か彼の妻だったはず。であればその女性とそっくりな女の子は彼らの娘か。

向こうにはカプセルコーポレーションの女社長。

つい先ほどサタンが使用した転移カプセルを開発した稀代の大天才。

その彼女が話しかけているのは最近娘に近付く小僧と、髪型以外は小僧によく似た男。

その足元には男をそのまま小さくしたような子供がいる。

三人兄弟か?いや、弟がいるとは聞いたが兄がいるとは言っていなかったはず。

 

「……おや?ミスター・サタン!?」

 

「ぬっ?お前は!」

 

サングラスをかけたチョビ髭の男。

この男も知っている。天下一武道会の名物アナウンサーだ。

 

「おぉ、やはりサタン!ついに天上デビューですか!

 アナタならもしかしたらと思っていましたが、本当にその時が来たのですね!?」

 

「何っ!?お前ここがどこか知っているのか!?

 天上とは何のことだっ!?」

 

「やや?ここをご存知でない?」

 

「無理やり押しかけて来たんです……お恥ずかしい限りで」

 

「そうでしたか。ですがサタンならいずれ自力で辿り着いた可能性もありましたし、時間の差ですよ!」

 

隣にビーデルが立ちアナウンサーに頭を下げた。

幾つか言葉を交わした後で彼はその場を立ち去る。

確かにビーデルは子供の頃から天下一武道会子供の部に出場していたので顔見知りなのは間違いないが、これほど親しかったとは予想外だ。

先ほどの会話の内容といい、まるで何か秘密を共有しているような……。

 

 

「おぉ、来たかビーデル」

 

「あっ、ヒノカミさま!

 ほらパパ、この人が主催のヒノカミさまよ。

 ちゃんと挨拶して」

 

「むむっ……!」

 

サタンがビーデルに促され振り向く。

そして視線の先にいた女の姿に言葉を失う。

 

絶世の美女であることは間違いない。

だが彼とて武道をたしなむ者、その威圧感と存在感に思わず息を呑む。

右肩に乗っている烏には脚が3本生えている。左腕に巻き付く白蛇もただの蛇ではない。

何より特徴的なのは、背中に背負った炎の光輪。

 

「今回は父がご迷惑をお掛けしまして……パパ?」

 

「っ!ゴホン、わたしが世界チャンピオンのミスター・サタンだ!

 身内の武道会だかなんだか知らないが手加減はせんぞ!?

 優勝はこのわたしがいただくから覚悟しておけ!」

 

「もう、パパ!?本当にごめんなさいっ!!」

 

「かかか、いやいや非常にありがたい申し出であったよ。

 思ったより参加を見送る者が多くてなぁ。

 儂や16号も出場せねばならぬかと考えていたほどじゃ。

 それに身内ばかりというのも刺激が少なかろうからな」

 

「母上、そろそろ」

 

「!?」

 

「おっと、もうそんな時間か。ではな」

 

ヒノカミという女を母と呼ぶ、赤と黒の表皮に覆われた異形の人間。

サタンは思わず警戒し身構えてしまったが、当人たちは気にすることなく立ち去っていく。

 

「……な、なんだあの女は」

 

「はぁ……以前話したでしょ?

 あの方が悟飯くんのおばあさんよ。血は繋がっていないけど」

 

「あの小僧の……『おばあさん』!?」

 

「そ。悟飯くんの隣にいる男の人が父親の孫悟空さんで、下にいるのが弟の悟天くん。

 あまり失礼なことはしないでよね?」

 

「父親!?兄弟ではないのかっ!?

 さっきの女といいどう見ても若すぎるだろう!

 なんなんだあいつらは!?」

 

「悟空さんは……40前くらいかしら?

 体質的に老けにくいそうよ。

 ヒノカミさまは正確な数字は聞いたことないわね……。

 『万は超えてる』って言ってたけど」

 

色々な世界や星を行き来したり、時間の流れが違う空間にいることも多いので、正確な年齢の算出が非常に面倒なんだそうだ。

『万は超えている』と言うより、『万を超えたあたりから数えるのが億劫になった』が正しい。

 

「ま、万……?一万歳……!?

 ホラ吹きにしても限度があるぞ!?

 人間がそんなに生きられるはずがないだろう!!」

 

「この地球の神さまだもの。人間じゃないわよ。

 あんまり失礼なことばかり言ってると天罰が落ちるからね!?」

 

「……神さま?」

 

完全に置いてけぼりになっているミスター・サタンを置いて、ヒノカミが建物の前に用意されたチンケな台の上に上がる。

台の前に立ったアナウンサーがマイクを握っていた。

 

『それでは、主催のヒノカミさまにご挨拶をお願いします!』

 

『え~、本日はお日柄も良く……って神殿は雲の上じゃから常にお日柄いいんじゃけど。

 掴みも大失敗したところでちゃっちゃと始めるかぁ。

 ……本家の天下一武道会を知っとる皆には悪いが、優勝しても賞金はない。

 そもそも金に困っとる奴おらんしな。

 だから大会の後の立食パーティーが目玉じゃ。

 至上の美食の数々を、貴様ら全員でも食いきれぬほど用意しよう。

 選手たちは試合で思いっきり腹を空かせ、勝利の美酒と共に味わうことも目標としてもらいたい。

 今日は祭りじゃ。騒ぐぞ貴様らぁぁぁーーーーっ!!』

 

「「「いぇーーーーーーいっ!!!」」」

 

『ありがとうございました!

 それではこれより第一回、『天上一武道会』を開催いたします!!』

 




ヒノカミたちはアナウンサーとちょくちょく会ってました。
天下一武道会がつまらなくなったとよく愚痴っていたので、誘ってみたら二つ返事で飛んできました。
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