『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第115話

 

(……いやぁ、大したもんだよこのお嬢ちゃんは)

 

5時間に及ぶ儀式が終わり、すでにパワーアップの過程に入っている。

その内容とは、胡坐をかいて座った相手に向けて、同じように胡坐をかいた老界王神が広げた掌を向けるだけというもの。

それを20時間。現時点で半分のおよそ10時間が経過している。

その間に老界王神は居眠りしたり、漫画を読んだり、ヒノカミの胸をガン見したり。

はたから見てとても真面目にやっているようには見えなかったが、それでもヒノカミは微動だにしなかった。

完全に己という存在を殺し、世界と同化している。

 

(……ま、『世界そのものを作り出す能力』に『世界のあらゆる情報を記録する能力』なんてのを持ってるんなら、このくらいは楽勝なんじゃろうが)

 

ヒノカミが己の心の防壁を取り払っている状態だからこそ、老界王神は彼女の記憶を簡単に読み取ることができた。

彼が送る力の繋がりを通じているのでより鮮明に、完全にだ。

 

(まったく、たかだか数万年そこらしか生きてねぇガキがよ。

 苦労ばっかどんどん勝手に背負っちまってよ。

 ただの人間の癖にこんなになっちまうまで突っ走ってよ。

 もうちっと楽に生きれなかったもんかのぉ)

 

しかし内心の呟きとは裏腹に老界王神の口角は吊り上がっている。

その性分も含めて彼女だと理解したから。

苦労も何も望んで背負っているのだ。

彼女は不自由かもしれないが、誰よりも自分勝手に生きている。

 

(へっへっへ、やっぱりこのお嬢ちゃんが一番面白いのぅ)

 

彼女の言う通り、彼女の実力は彼女の仲間の連中よりも大きく劣るだろう。

彼女が弱いのではない。周りの連中が強すぎる。

このままパワーアップを終えたとしても比肩するのは難しいかもしれない。

 

(……どぉれ、ちぃっとばかし、サービスしちゃるかの)

 

老界王神が足元に広げていた漫画を閉じ、真剣な眼差しを向け不敵に笑う。

彼女自身の姿勢もあって、力の通りは非常に良い。

普段以上に力を注ぐことができるはずだ。

 

(これが終わったら、ついでにアレもやっちまうか……へっへっへ!

 こりゃ面白くなってきたわい!)

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……母上」

 

「すまん、遅れた」

 

パワーアップにかかるのは丸一日という話だったが、ヒノカミが地球に戻って来たのは一週間近く経ってからだった。

 

「何かあったのか?」

 

「ついでに先祖の方の界王神さまに修行を付けてもらっていてな」

 

「…………」

 

「……安心せい、いかがわしいことはされておらん。

 むしろあれほど真摯に面倒を見て下さるとは思ってもみなかったほどじゃ」

 

「なら良いが……む?」

 

そこでセルは、ヒノカミの外見の変化に気付く。

 

「母上、それは?」

 

「あぁこれか?これも先祖の界王神さまから頂いたものじゃ」

 

そう言ってヒノカミは髪をかき上げ、老界王神が身に着けていた『耳飾り』を見せる。

 

「『ポタラ』という。効果は……まぁ秘密じゃな」

 

「やれやれ、『その方がカッコイイから』かね?」

 

「かかか、それと中々に危険なものじゃからな。

 みだりに明かすのも使うのも不味いのよ」

 

「ほぅ」

 

ヒノカミがそのように危惧する物を譲るとは、老界王神が彼女を厚遇したというのは本当らしい。

セルは老界王神の評価を、ほんの少しだけ上方修正した。

 

「それで、母上はどれほどの力を手に入れたのだ?」

 

「それは実際に披露して見せよう。悟空らはどうしておる?」

 

「丁度今、下界で天下一武道会が行われていてな。

 ミスター・サタンとビーデルが出場するからと観戦に行っている」

 

相変わらずカプセルコーポレーションは天下一武道会のスポンサーを務めているため、特別観覧席は使用可能。突然全員で押しかけても余裕を持って観戦することができる。

ちなみにビーデルが誘ったのは悟飯だけだったが、彼が仲間たちに声をかけたところ皆昔を懐かしんで乗り気になり、結果ほぼ全員が揃ったという形だ。

大勢で応援した方がいいだろうという、善意100%で。

 

「……あ奴も乙女心を分かっておらんなぁ」

 

「悟空とは違う形でだがな。似ていないようで似た者親子だ」

 

「では先にお主だけにお披露目といこうか」

 

「それは役得だな。精神と時の部屋を使うかね?」

 

「いや、その必要はない。

 そもそも戦って見せる必要もないしな」

 

そう言ってヒノカミは掌を合わせた。

 

純粋な戦闘能力という点では、結局彼女はセルや悟空たちに届かなかった。

それこそ、勉強を優先して満足に修行をしていない孫悟飯と大差ないくらい。

今までの彼女と比べればとんでもない成長ではあったがこれから始まる決戦を前にしては十分とは言い難かった。

 

 

「『刻思夢想』」

 

 

しかしヒノカミの記憶を見た老界王神は気づいた。

彼女の高い戦闘力は副産物でしかない。彼女の本質は戦士ではない。

己の個性の正体に気付いた彼女が異界を旅して求めたのは『癒しの術』と『転移能力』、すなわち『技術』だった。

そして旅の過程で得た絆と思い出こそが彼女の真の力。

 

 

 

「……卍解『天鎖斬月』」

 

「それは……!?」

 

 

死神の世界にて彼女の弟であった人物が振るっていた武具。

黒い刀と、黒いロングコート。

溢れ出る霊力をその身に凝縮し超速戦闘を可能にする特性を持つ。

しかしその強化の度合いはこの世界においては大した数値ではない。

……『オリジナル』の力ならば。

 

「だがこの圧は……まさか!?」

 

 

「如何にも。これが儂の得た力。

 『オリジナルを超えた性能の武具の具現化』じゃ」

 

 

今までの彼女の『刻思夢想』の力では、どれほどエネルギーを注ごうと彼女が記憶するオリジナル以上の性能の武具は作り出せなかった。

だが老界王神の術と指導を受けて、彼女は『限界を超えた』性能の武具を具現化できるようになった。

 

「主に斬魄刀、武装錬金、オーバーソウルじゃな。

 儂が覚えているそれらの武装を、儂のスペックに合わせた出力で呼び出せる。

 この刀を握っている今なら、スピードだけならお主らに匹敵するかもしれんぞ?」

 

「……!」

 

現時点で宇宙最強であるセルすらも息を呑む。

彼はヒノカミから彼女の旅路を聞かされており、彼女の記憶する様々な武具の概要も聞き及んでいる。

どれもこれも多少のレベル差なら覆しかねないとんでもない特性を持ったものばかりだった。

 

それらを、今のヒノカミに合わせたスペックで振るうことができる。

 

「『刻思夢想』以外の能力も全体的に強化された。

 単純な力比べではやはりお主らには届かぬが、搦め手ならいくらでもじゃな」

 

「フッ……これではご老公にクレームはつけられそうにないか」

 

「まぁだ根に持っとったんかい。お主案外ねちっこいのぅ」

 

「勿論だとも。母上の子なのだから」

 

「……否定できん」

 

 

間もなく下界では天下一武道会が終了した。

優勝は前回に引き続きミスター・サタン。

決勝で行われた彼の娘であるビーデルとの戦いは終始彼女が優勢で進んだのだが……無意識に遠慮が出てしまったのだろう。

父を追い詰めたところで隙が生じてしまい、そこを突かれて場外負けとなった。

 

「舞空術使えば落ちずに済んだんじゃねぇか?」

 

「ですよね。気弾も一切使ってなかったし、ビーデルさん調子悪かったのかなぁ……」

 

「……この親子は……」

 

超人も神秘も見なくなった表舞台でそんなものを使えばどれほどの騒ぎになることか。

ビーデルの配慮を全く理解していない悟空と悟飯の発言に、一般人代表のつもりでブルマが頭を抱えていた。

 

 

お前のような一般人がいるか。

 




作者が完全に扱いきれると思いませんが『刻思夢想』にテコ入れします。
エネルギー消費の方は『永遠快気』により解決していますが最大出力には限界があるので、具現化の維持にエネルギーを割くと他の能力に回す力が減ります。
他にも使い慣れていない武器であることと、具現化のタイムラグなどを踏まえて、一番実力が発揮できるのは従来通り自分自身のスタイルである点は変化ありません。
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