『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第37話

ヒーロー殺し、ステインの個性は『凝血』。

相手の血を舐めることで、一定時間その動きを封じるというもの。

故に彼は相手にわずかでも血を流させるために多数の刃物を身に着け、それを操る技術を磨いてきた。

 

「わりぃな。俺には通用しねぇ」

 

だが彼の本来の戦い方である奇襲や暗殺ならばともかく、正面で向かい合っての戦闘ならばブレイザーも引けを取らない。

同じく刃物を使って戦うヒーローとして、それを使った戦い方は熟知している。

加えて彼らのいる環境がブレイザーの有利に働いていた。

 

「どうした?動きが悪くなってるぜ?」

 

「ぐぅ……うぅ……!」

 

分厚い氷に包まれたドームの内側は、急激に気温が低下している。

誤って氷を溶かさないようブレイザーも個性を使用していないので下がる一方だ。

軽装で、動き続けて汗をかいていたステインの体は急激に冷やされていた。

彼の体に霜が降り始めていることからすでに氷点下だろう。

頭が冷えているおかげでステインは冷静になれたが、思考と動きが鈍くなっている。

だからブレイザーの仕掛けた罠にあっさりと引っかかってしまった。

 

「ほらよ」

 

「!?」

 

ステインが自分に刃を振り下ろす瞬間に、ブレイザーは腕に着けていたサポートアイテムを外して投げ入れる。

勢いのままにサポートアイテムが両断され、中に圧縮されていた気体があふれ出し二人の体を覆い隠そうとする。

 

「ぐ、おぉぉお!?」

 

ステインは咄嗟に引き下がったおかげで、白い煙に包まれたのは刀を握っていた彼の両腕だけで済んだ。

しかし完全に凍り付いており、肘から先が全く動かせない。

 

「この状況じゃ使いどころもないからな。お前にやるよ」

 

一方ブレイザーは全身が氷に包まれたが、意に介さず砕いて動き出す。

 

「なんだ、これは!?

 なぜエンデヴァーの息子が、こんなものを……!」

 

「……俺のことよく知りもせずに、偽物だ本物だとか決めつけてたのかよ……」

 

もう片方の腕に着けていたサポートアイテム、炎の個性持ちでも凍り付いてしまうほど強力な、冷却材が入ったそれを取り外す。

かつてエンデヴァーが、炎を使うほどに体に溜まってしまう熱をどうにかするためにサポートアイテム会社に冷却材の開発を依頼した。

完成したそれはあまりに効き目が強すぎてお蔵入りになったが、ブレイザー……燈矢だけは問題なく使用することができる。

 

「俺、寒いとこ好きなんだよね」

 

ブレイザーはステインに近づきながらサポートアイテムを足元に転がし、勢いよく踏み砕いた。

 

「がぁぁあああっ!!」

 

広がった煙は二人の下半身を覆い一瞬で氷漬けにする。

ステインは一歩も動けなくなったが、ブレイザーはまたも氷を容易く砕いて歩み寄る。

 

「『ヴィランの話に耳を傾けるのは良い。

 ただそれはぶん殴ってふん縛って身動きとれなくしてからじゃ』。

 おっかない俺の師匠の言葉さ。

 ま、お前の話は聞く気が起きねーけどな」

 

ブレイザーは頭上に刀を掲げ、峰を返す。

 

「自分の話聞いてほしいなら、人の話もちゃんと聞けよ。

 小学生でも知ってることだぜ」

 

そのまま顔面に向けて勢いよく振り下ろした。

元よりつぶれていた鼻が更に凹み、前歯が折れ、気を失った。

ブレイザーはステインの武装を可能な限り取り外し、レーザーで氷のドームに穴をあけて外に出た。

 

「お待たせー……お、親父たちももう来てたか」

 

「ブレイザー……怪我は……ないようだな」

 

「当然。

 ただ体の芯から凍り付いてるから、このままだとこいつの手足が壊死しちまうかもな。

 解凍頼む」

 

エンデヴァーだけでなく、サイドキック達も脳無の対処を終えて合流していたようだ。

飯田も目を覚まし、ネイティヴと共に怪我の治療を受けている。

この中で最も炎の扱いに長けたエンデヴァーが慎重に氷を溶かし、サイドキックたちにステインを縛り上げるよう指示した。

 

「個性が使えないように、口も覆っちまってくれ」

 

「了解。……あれ?こいつもう起きてる?

 なんか呟いてるけど……」

 

「何?」

 

エンデヴァーがステインに近づき耳を傾ける。

 

「……ヒーロー……正しき……オールマイト……なぜ……」

 

「……何を言っているんだ?こいつは」

 

「さぁ……俺が来た時にはもう錯乱してたんだよな」

 

「飯田、お前何かしたのか?」

 

「その……ヒノカミから預かった言葉を伝えたのですが」

 

「「「だいたいわかった」」」

 

轟親子3人が飯田の一言で事情を察した。さすが親族である。

 

エンデヴァーは後処理を現地ヒーローと警察に任せ、念のため飯田を病院へと搬送する。

一日かけて精密検査を行ったが特に問題はないということだった。

 

事件翌日、警察署長が病院に訪れステインの件について飯田にも聴取を取りにきた。

飯田の独断先行は問題だが、彼が駆け出したおかげでネイティヴの命は助かった。

そのネイティヴ自身が、飯田はステインに過剰に攻撃せず自分を守ることに注力していたと証言し弁護している。

よって規則違反にまでは至らないと判断され、厳重注意を受けるだけで済んだ。

監督不行届きでマニュアル、学生を危険地に送り出したとしてエンデヴァーも処分を受けたが、わずかな減給だけと非常に軽いものだった。

 

世間を騒がせたヒーロー殺しの逮捕は大きなニュースとなるはずだったが、突如保須に現れ暴れまわった脳無の被害が大きかったことからこちらが大々的に報道され、世間は敵連合の危険性を強く認識することとなった。




ヒーロー殺し編、大幅短縮で完結です。
飯田はほとんど攻撃してないから違反扱いにならないし、捕まえたのはプロヒーローの燈矢なのでヒーロー側に特に汚点もなし。錯乱してたからステイン渾身の気迫が表に出ることもなく、脳無の危険性が知れ渡ってるからそちらの方に報道が集中して死柄木もニッコニコ。
これぞご都合主義!
本作の燈矢は熱に弱いけど寒さに強い体質を前面に押し出しています。
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