『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第124話 最後の『ワン・モア・タイム』

 

「…………」

 

何もない真っ白な空間に、ヒノカミは佇んでいた。

神霊の姿ではなく端末……人間だった頃のヒノカミの、六道リンネの姿で。

この空間も思えば見覚えがある。

シャーマンの世界の、グレートスピリッツの中。シャーマンキングのコミューンだ。

 

「……死んだ、か」

 

おそらくこの光景は、走馬灯のようなものなのだろう。

人間だった頃の彼女は個性により死と同時に生まれ変わっていたため、死後に霊体として過ごした経験がほとんどなかった。

唯一の例外が、ハオに招かれたグレートスピリッツのコミューン。

よって彼女の中の『死後の世界』の一番強いイメージがこの世界という訳だ。

 

「……まぁ、好き放題生きたしな。

 あんなのに敗れる最期と言うのは不本意ではあるが」

 

そして力を抜き、その場に座り込む。

 

「……頑張った、よな」

 

抱え込んでいた荷物全てをその場に下ろすかのように。

 

 

 

「六道リンネ」

 

 

「……お迎え、いや都合のいい幻か。久しいなぁ、言彦」

 

胡坐をかいて座るヒノカミの後ろには、いつの間にか彼女の愛する男が、異界の英雄が佇んでいた。

 

「げっげっげ。いいや、幻ではないさ。

 儂はお前に託した水晶に残された、獅子目言彦の残滓だ。

 常にお前の傍にいた、な」

 

「そうか……すまんな。お主も巻き込んでしもうたのか」

 

「いや、奴に水晶を破壊されたことで解き放たれたのだ。

 こうしてお前と再び言葉を交わすことができたのだから怪我の功名よ。げげげ」

 

言彦の形見である水晶の首飾り『獅子相承』は直接的な干渉以外を無効化するが、破壊神の『破壊の力』もまた概念を伴ったもの。

ぶつかり合えば力が強い方が勝るのは当然のこと。

ビルスの攻撃でヒノカミ諸共破壊されてしまったようだ。

 

「……なぁ、儂との旅はどうじゃった?

 退屈ではなかったか?」

 

「何を言う、お前との旅は新しさの連続だった。

 心躍る日々だった……だが随分とあっさり諦めるではないか?」

 

「儂は最期までは諦めなかった。だが終わった以上はな」

 

生きている限りはと抗い続けた。

だが彼女は死んだ。蘇る手段もない。

だからすっぱりと諦めへらりと笑った。

 

 

 

「おいおい、そういう笑い方は僕の専売特許だぜ?」

 

 

「!?馬鹿な、貴様は!!」

 

気付けばヒノカミの前には一人の女が、彼女の宿敵である『安心院なじみ』が立っていた。

驚愕で思わず立ち上がり、しかし言彦は構わずヒノカミを追い越して彼女の正面、なじみの隣に移動する。

 

「くけけけ。君の体をいじる時間はいくらでもあったんだ。

 まして君は僕が望んだ『世界を観測できる存在』。

 欠片を仕込むくらいはするに決まってるだろう?」

 

「……あぁそうだろうさ……だから儂は儂自身の体を散々調べた!

 神霊となってからこの魂も隅々まで!

 だが貴様の残滓はどこにもなかったはず!」

 

かつてならともかく、神霊となったヒノカミの能力は安心院なじみに匹敵する。

その力で自分自身をくまなく、何度も何度も調べた。

しかしヒノカミの中には安心院なじみの存在は見つからなかった。

 

「そのまま居座るだけじゃあ見つかっていただろう。

 でも君の中には都合のいい部屋が用意されていたからねぇ。

 間借りさせてもらってたのさ。家賃はちゃあんと払ってきたつもりだよ」

 

「家賃……?」

 

「おいおい酷いじゃないか。あんなに僕のことを求めてくれたのに。

 ステキな名前をつけて可愛がってくれたじゃないか。

 子供と評されたのは少し傷ついたけどね」

 

「っ!?貴様、まさか……『大願成珠』か!?」

 

「げらげらげらげら。

 僕も言彦と同じく、外殻を破壊されたことで解き放たれたのさ」

 

実験サンプルとしてヒノカミの体を弄りまわしていた安心院なじみは、当然彼女の中に仕込まれた『崩玉』の存在に気付いていた。

そして僅かながら意思を持つそれの中に自分の存在の欠片を埋め込んだ。

やがて崩玉と安心院なじみの欠片は一つとなり、もう一つの崩玉を取り込んだ際に確固たる自我を手に入れ今の形となった。

 

「尤も人格は僕そのままとは行かなくてね。

 崩玉と混ざり合った影響か、どうにも君に力を貸してやりたくなっちまうのさ。

 まったく、『悪平等』である僕を『不平等』にさせるなんて、とんでもねーチートアイテムだぜ」

 

「……はぁ、もうえぇわい」

 

「おや、随分と大人しいね。

 殴りかかってくるかと思っていたけど?

 殴られてやるつもりもねーが」

 

「もう全部終わったんじゃ。怒る気力も、見栄を張る気概も湧いてこぬ。

 最期くらい、静かに迎えるさ……『まったく、いい人生だった』とな」

 

 

 

 

「……気に入らねーな」

 

 

 

「んあ?」

 

「死ぬまで諦めなかったが、死んだから諦める?

 馬鹿言うなよ、『死んでも諦めなかった』のが君だろう?

 足掻けよ。君はまだここにいる。

 消えるというなら消える瞬間まで自分を貫き通してみせろよ」

 

「その通りだ、リンネ。

 今のお前は新しく……いや、『お前らしくない』」

 

「……儂、らしくないか。だが……」

 

崩壊の足音が近づいてきた。

白い世界のところどころにヒビが入り、剥がれていく。

その向こうに見えたのは『無』。

もう彼女に出来ることは何も無い。

 

 

 

「……やれやれ、何のために僕らがわざわざ出てきてやったと思ってるんだい?」

 

ヒノカミの頭を掴むように両手を差し出した安心院なじみが、何かを彼女の耳元から奪い取る。

 

「それは……」

 

この姿ではつけていなかったはずの『ポタラ』が、彼女の両手にあった。

安心院なじみはその一つを言彦に投げ渡すと、二人揃ってポタラをぐっと握る。

 

「こいつは霊体同士ですら融合できるアイテムなんだろ?

 だったらやることは一つさ。

 ……僕らの魂の欠片で、欠けたキミの魂を補うんだ」

 

「!?」

 

「依り代を失った我らはどのみち消えるしかない。

 であれば、全てお前に託すとしようぞ」

 

二人が掌を開くとポタラの宝石球がわずかに変化していた。

獅子目言彦の持つ方は、『獅子相承』に似た無骨な水晶に。

安心院なじみの持つ方は、『大願成珠』に似た2色の陰陽玉に。

そして二人はそれぞれをヒノカミの耳に取り付ける。

 

 

「げげげげげ!約束しただろう、儂の心はお前と共に在ると!

 『もう一度』だ!『もう一度』立ち上がり、我らの新しい旅を始めようぞ!」

 

「これが正真正銘、君の最後の『コンテニュー(ワン・モア・タイム)』だ。

 さ、あのいけ好かねードラ猫をぶっ飛ばしに行こーぜ」

 

 

「……くっくっく」

 

 

差し出された二人の手を握り、ヒノカミは『もう一度』立ち上がる。

欠けた世界がまるで巻き戻しをするかのように再生されていく。

 

 

 

「行くか、『戦友/宿敵(あいぼう)』」

 

「「おうとも」」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……ん?」

 

「……ばあちゃん?」

 

ヒノカミを破壊したビルスは砂のように消えるはずの彼女の残骸の中に、光る何かがあると気付いた。

目の前で彼女が破壊される瞬間を見て、衝撃で硬直していた悟空も同様だった。

 

小さな光は少しずつ彼らから離れていき、輝きを増す。そして光は人の形を取った。

 

「「!?」」

 

現れたのは、たった今破壊したはずの女。

だがわずかに姿が違う。

額には帯……『ヘアバンド』を巻いており、後頭部で一つに束ねた髪がまるで炎のように揺らめき逆立っている。

そして耳に着けていたポタラが、左右それぞれで別の形になっている。

 

「馬鹿な……!?」

 

「ばあちゃん!」

 

俯いていた女神が、顔を上げ、目を開いた。

 

 

 

「…………」

 

 

「「っ!?」」

 

ビルスと悟空がその瞳を見て、揃って言葉を失った。

 

 

「……くくく、くけけけけ……」

 

 

女神は歪に口を歪ませ、奇妙な声をあげ始める。

 

 

「けけけ、けけけけけげげげげげげげげ!!

 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!!!!」

 

 

堰を切るかのように溢れ出した不快な嗤い声が、空気がないはずの宇宙に木霊する。

耳を塞ぎたいほどの醜悪さなのに、そうする気が起きないほどに、悟空たちは視線をヒノカミの眼から離せない。

 

 

彼女の瞳は相手を映しているのに、相手を見ていなかった。

 

まるで『自分以外の全てが価値のないゴミ』であるかのように、世界の全てを平等に見下していた。

 




・『潜在一遇(ワン・モア・タイム)

ポタラの力で『獅子相承(ニアデストロイヤー)』と『大願成珠(たいがんじょうじゅ)』に宿る魂と融合し己を再構成した。
獅子目言彦の『破壊』と、安心院なじみの『才能』をその身に宿す。


これより本作の最後の敵、『悪平等な救済者(ノットイコール・ヒーロー)』ヒノカミとの戦いを開始します。
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