『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第128話 就任

 

「…………あぁ」

 

呆然と呟く。

そしてぼんやりと周囲を見渡す。

 

『カァ……』

『シュルル』

 

赫月と白星がヒノカミの両腕の拘束を外した。

彼女は両腕を上ではなく左右に広げ、目の前で勢いよく叩きつけた。

 

「!?」

 

彼女の頭上にあった元気玉が弾け、音と光が広がっていく。

それらが通り過ぎた後には元の姿を取り戻した宇宙があった。

遠くに飛ばされていったはずの地球がすぐそばにある。

太陽も、完全に元通りだ。

 

「すげぇ……」

 

「こんな、簡単に……?」

 

近付いてきたベジータが悟空に続いて呆然と呟く。

 

そうだ、今の自分なら簡単に元に戻せる。

『元に戻せるから壊してもいい』と、先ほどまでは本気で思っていた。

 

星が星に見えなかった。

人が人に見えなかった。

何もかもが出来の悪い落書きか、足元を這いずる蟻のように見えていた。

正しく書き直すことに、うっかり踏み潰すことに、何の違和感も罪悪感も湧いてこなかった。

仮に何か間違えても、元に戻せばいいのだから。そう考えること自体が間違いであるとも気付かずに。

それほどに彼女は『圧倒的な全能感』で満たされていた。

 

(お主はこんなものを、3兆年も抱えておったのか……。

 良く自制しておったもんじゃわい。

 『我』ながら見直したぞ、『安心院なじみ(オリジナル)』)

 

「……ばあちゃん?」

 

思わず掌で顔を抑えたヒノカミに、ゆっくりと悟空が近づく。

グレートスピリッツも五大精霊もすでにその姿を消していた。

 

「……迷惑、かけたの」

 

「わりぃ、そこ、大丈夫か?」

 

「……痛いな。

 痛くて痛くて……涙が止まらぬ……」

 

右手で額と目元を隠し、左手で胸倉を掴むように抑える。

言い訳をして、涙を流す。

悟空たちは何も言わず、ただ彼女が泣き止むのを待っていた。

 

 

 

「今生の別れは済んだかな?」

 

「「ビルスさま!?」」

 

しかし破壊神はそれを待つつもりなどない。

いや、むしろ今までよく我慢した方だろう。

悟空たちへの情けか感謝か。ビルスとしては珍しいことに。

 

「元に戻れば、元に戻せば、無かったことになると思うのかい?

 宇宙の破壊は重罪だ。破壊神として、キミの存在を見逃すことはできないね」

 

「そんなっ!」

 

「……くけけ、なんじゃ一応仕事するつもりはあったんか。

 ほんのチビっとだけじゃが、見直してやろう」

 

ヒノカミは涙を拭い悟空とベジータを押しのけて、一歩ビルスの前に出る。

 

「……儂は消されて当然のことをした。

 貴様に破壊されようと恨みはない。

 ……じゃが生きると、足掻くと決めた。

 故に、最期まで抵抗させてもらおうか!」

 

ヒノカミは再び界王拳を発動した。

しかし倍率は1億に届いておらず、明らかに先ほどよりも弱体化している。

もっと力を引き出そうとすれば簡単にできるだろう。

だがこれ以上に力を上げればまた暴走してしまうという予感があった。

彼女は再び自分が自分で無くなることを怖れた。

ビルスに敗れ消えることになったとしても。

 

「……今度こそ、破壊してやる!」

 

「げげげ!舐めるなよ、何を隠そう、儂も破壊の達人じゃ!!」

 

互いに破壊の力を右腕一本に込めて、互いに向けて突き出した。

 

 

 

「そこまで」

 

 

「「!?」」

 

しかし二人の間に転移で割り込んだウィスが二人の力を霧散させた。

彼は中立の天使。破壊神の付き人だが師匠でもある。実力はビルスよりも彼の方が上だ。

ビルスとビルス以下のヒノカミの力では、彼が傷付くことはなかった。

 

「どういうつもりだウィス!何故止める!?」

 

「天使として止めねばならないからですよ。

 ビルスさまのためにもね」

 

「なんだと!?どういう意味だ!」

 

ウィスはさらに食いかかろうとするビルスを無視して持っていた杖の先端を自分の顔に近付けていく。

 

 

 

『ぴんぽんぱんぽーーーん。

 第7宇宙の皆さまにお知らせで~~~す』

 

ウィスの気の抜けた声がこの場にいる者たちだけでなく、宇宙全体の神々や、それに類する者たちの頭に響く。

 

『この放送を持ちまして、北の銀河の惑星、地球の神である『ヒノカミ』さんが……』

 

 

 

 

 

 

『第7宇宙の『大界王神』にご就任されたことを報告いたしまぁ~~~す』

 

 

 

 

 

「なっ……何だとぉぉぉッ!!!!!」

 

絶叫を上げるビルスに対し、悟空とベジータとヒノカミの3人はポカンと口を開けたまま硬直している。

 

「『大界王神』って……界王神さまより偉い人ってことか?」

 

「ずっと昔のブウに吸収されて以降は空席だと言っていたな……」

 

「……え?なんで?儂が?」

 

「そうだ!何故コイツがいきなり界王神なんだ!?

 そんな簡単になれるはずがないだろうが!?」

 

 

 

「なれるんですよ、ヒノカミさん……いえ、ヒノカミ『さま』なら」

 

 

 

「「界王神さま!?」」

 

左手に何かを持った界王神がこの場に転移してきた。

 

「おい界王神、どういうことだ!?説明しろ!!」

 

「彼女はすでに条件を満たしているからです」

 

凄むビルスにまったく怯えることなく、界王神は彼の前に出て一つずつ説明する。

 

「まず彼女はご先祖さまの……15代前の界王神に弟子入りを済ませています」

 

魔人ブウ討伐前、老界王神の封印を解除し潜在能力を解放してもらう儀式を受けた後。

正式に指導するにあたり弟子入りしてもらわねばならぬと言われ、続けて丸三日彼女の周りで妙な踊りを続けるという謎の儀式を受けていた。

当時の彼女が1週間も地球を離れていた理由の一つがこれだ。

 

「そして彼から指導を受けた後、『ポタラ』を託されています」

 

それは本来界王神だけが身に着けることを許される神具。

しかも貸し与えるのではなく、正式に譲渡されている。

……少し形が変わってしまったが。

 

「この時点で、後は現界王神である私が承認すれば、彼女は界王神となります。

 ですが大界王神……私以上の地位となれば、私やご先祖さまの独断で任ずるのは横暴が過ぎる。よって……」

 

界王神は抱えていた紙束をビルスに突きつけ、見えるように広げる。

 

 

 

「第7宇宙の有力者の方々より、委任状に署名をいただきました。

 『ヒノカミをこの宇宙の大界王神と認める』と!」

 

「なにぃっ!?」

 

 

老界王神が用意した書類を受け取った二人はまず彼女と親しい北の界王のもとへ向かい事情を説明。

彼のテレパシー能力で宇宙全体に呼びかけたことでスムーズに話は進んだ。

勿論彼自身も書類に署名している。

他にはあの世の閻魔大王。

ナメック星の最長老ムーリ。

今や宇宙規模のスーパーヒーローとなったギニュー特戦隊。

ヒノカミが救ってきた星々の神や英雄たちの名も。

 

「と、いうことですよ、ビルスさま。

 『信頼と実績』……つまり『人望』。

 彼女が言った通り、この一点において彼女は神の器だったわけですね」

 

「ふざけるな!そいつは第7宇宙を破壊しようとしたんだぞ!?」

 

「ビルスさまだって過去に何度も壊しそうになってたじゃありませんか」

 

「ボクは破壊神だからいいんだ!」

 

「であれば、大界王神である彼女も問題ないことになりますね。

 実情はともかく、立場上は破壊神と我々界王神は同格のはずです」

 

「観念なさってください、ビルスさま。

 ……界王神の任命権は、破壊神にはないんですから」

 

「ぐ……ぬぬぬ……っ!」

 

どうやら彼らの決着はついたようだが、そこで置いてけぼりだったヒノカミが手を上げる。

 

「……申し訳ない、その……儂が、大界王神?になることの、何がそんなに問題なんじゃ?

 ビルスならば儂を破壊して次を据えれば解決するのではないか?」

 

「そうはいかないからですよ」

 

「私もご先祖さまに聞いて初めて知ったのですが……先代の大界王神さまは教えて下さらなかったので……」

 

「「「?」」」

 

揃って首を傾げるヒノカミたち3人に、ウィスがにっこりとほほ笑んで説明する。

 

 

 

「『界王神』と『破壊神』はセットなんですよ。

 どちらかが死ねば、もう一方も死んでしまうんです」

 

 

「……は?」

 

 

「今まではこちらの界王神さんがビルスさまの対を務めていたのですが、ヒノカミさんが大界王神になるにあたり、その役割も貴方に受け継がれています。

 ……つまりお二人は、もう殺し合いができないんですよ。自殺になってしまいますからねぇ」

 

 

「……はぁぁぁーーーーーっ!?」

 

ウィスが二人の衝突を止めたのもそのためだ。

いくら中立とは言え破壊神の付き人として、破壊神を死なせるような事態は見過ごせないので。

これが老界王神の考えた、ヒノカミとビルスの争いを止め、互いの消滅を避ける方法だった。

 

「ビルスさまは常々『界王神が弱すぎて気が気じゃない』とおっしゃっていたではないですか。

 よかったですねぇ。彼女ならまず死にませんよ?」

 

「いやだ!こんな敬意の欠片もないムカつく女がボクの対なんていやだぁ!!」

 

「儂だって貴様のような役立たずのクズの対とかいやじゃ!

 ……ちょっと待て、界王神が死んだら破壊神も死ぬんじゃよな?

 貴様自分が死ぬかもしれないのに、魔人ブウをほったらかして居眠りしとったんかぁ!!」

 

「…………界王神の奴らが弱いのが悪いんだ!」

 

「破壊神がサボる方が悪いに決まっとるじゃろがい!

 死ぬほど眠りたいなら今この場で永眠させてやろうかぁ!!」

 

「ボクを殺せばお前も死ぬと今聞いただろうが!

 それとも聞こえてなかったのか!?

 そりゃしょうがないな!そんな小さな耳じゃあなぁ!!」

 

「あぁん!?無駄にデカイだけで民の声すら聞かぬその耳で何をほざくか!

 儂が今更死を恐れると思うなよ!?この場で腹でも斬ってみせようか!」

 

「バカやめろ!ボクまで死ぬだろうが!!」

 

 

ビルスがヒノカミの髪を、ヒノカミがビルスの耳を掴み。

もう一方の手で互いの口に指を突っ込んで頬を引っ張り合う低俗な争いを、悟空たちは呆然と見つめていた。

 

 

「……なるほど、確かにビルスさまの『真の敵』ですねぇ。

 破壊できるのに破壊できない、まさに天敵。

 これで退屈も減るでしょう。オホホホ」

 

「アレが……大界王神と、破壊神……?

 オレたちの宇宙の、トップ……?」

 

「えぇと、ともかく解決したってことでいいんだよな?」

 

「少なくともこの場は、ですね。

 ……余計にこじれたような気もしますが」

 

「考えようによってはプラスですよ?悟空さん。

 どうやらヒノカミさんは生き急ぐタイプのようですが、やらかしそうになったらビルスさまが止めて下さるわけですし」

 

「なるほど……じゃあいっか!」

 

 

「「ふんがぁぁぁぁあーーーーーっ!!!!」」

 

 

あまりに長く取っ組み合いを続けるので、最終的にウィスが二人の頭をどついて気絶させた。

 

争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。

そして争いとは、どれほど高レベルの者が行おうと醜いものなのだ。

 

白目を剥いて宇宙に浮かぶヒノカミと、気絶したままウィスに引っ張られていくビルスを見て、悟空たちはそう痛感した。

 




原作超にて『トランクスが界王神の弟子になっている』こと。
ゴワスの弟子であるザマスが強引にですが『界王神』となっていること。
ここから話を広げて『生まれや種族を問わず界王神に弟子入りすることは可能で、弟子が界王神に昇格することも可能である』という設定としました。

次回、最終話となります。
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