『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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これも外伝ですが、時系列は並行世界移動能力を手に入れたヒノカミが故郷を目指して旅をしている途中となります。


第2話 明治元年 廃仏毀釈

 

幕軍を押さえた明治政府は神仏分離を布告し仏教勢力の抑制を計った。

日本中に仏教弾圧の嵐を巻き起こし、数多くの寺院・仏具・経文が破壊されるに至った。

これを『廃仏毀釈』と言う。

 

蝦夷(北海道)の山間の村で暮らす心優しい僧の青年と、彼が面倒を見る孤児たちが暮らす寺にもその波は押し寄せてきた。

明治政府に取り入るため速やかに廃仏毀釈に殉じると決めた村長は、彼らに村から出ていけと命じた。

孤児たちは幕府側についた元村長たちの子供であったため、子供たちだけでもという僧の青年の嘆願は聞き入れられなかった。

従うしかないと、青年は子供たちを連れて村を去る決意を固めた。

 

しかしその夜、子供たちが眠る寺に火がつけられた。

村長は彼らが立ち去るのを待つ時間すら惜しいと、手勢の破落戸に彼らの処分を命じたのだ。

修行のため一人寺を離れていた青年は、燃え盛る寺院に飛び込む前に破落戸に背後から後頭部を殴打され倒れ伏す。

 

 

(御仏よ……)

 

薄れゆく意識の中で、青年は一心に子供たちの無事を祈っていた。

 

(この子達はこれまでずっと辛い思いをしてきた……。

 どうか、これからは幸多い未来を……!)

 

 

ザッ

 

 

(どうかこの子達にご加護を……!)

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

数時間後。かろうじて一命をとりとめ意識を取り戻した青年が目にしたものは。

 

「「「和尚さま!!」」」

 

自分を囲んで見下ろす煤まみれの子供たちの泣き顔だった。

 

「コラ!揺らしちゃダメって言われたでしょ!!」

 

「だって……だってぇ……!」

 

「椿……皆も、よく無事で……!」

 

「あのお姉ちゃんが助けてくれたんだよ!」

 

そう言って太助が焼け落ちた寺院を指さす。

すると瓦礫の中から燃え残った仏像を抱えた小柄な女が立ち上がり歩み寄ってきた。

 

「……残念じゃが、他にまともな物は残っておらんな」

 

「お気になさらないでください。

 元より、大した物もありませんので……」

 

「君は……?」

 

「旅人じゃ。名乗るほどの名もない。

 ……頭、痛むか?手当はしたが……」

 

「っ、いえ……」

 

思わず触れてみれば、青年の頭にはいつもの布ではなく包帯が巻き付けられていた。

あれほど強く殴られ血が流れていたはずなのに、驚くほど痛みも違和感もない。

 

「そうか……動けるのならば急ぎこの場を離れるぞ。

 お主を襲い、寺に火をつけた輩が確認に戻るかもしれぬ」

 

「っ!そうだ、急がないと!」

 

もうすぐ日が昇る。

村人に目撃されぬようにと一度立ち去った連中も、やがて集まる何も知らない野次馬連中に紛れて確認に来るだろう。

その時青年と子供たちが生き残っていると知れば何をしてくるか。

 

「……っと、どうやら子供らはもう無理のようじゃな」

 

真夜中にたたき起こされた幼い子供たちは、和尚の無事を確認したところで緊張の糸が途切れたようだ。

最年長の椿を除いた4人は半ば意識がない。

 

「こっちの坊主二人は儂が抱える。残るはお主らで」

 

「吾郎は私が運びます」

 

「あぁ、頼む!」

 

青年たちの状態からそう遠くまでは移動できないと判断し、一行はまだ村の内側、森の中へと潜んだ。

熊が冬眠にでも使っていたのだろうか、小さな洞を見つけたところで年長者であった少女も限界を迎えた。

子供らをその中へと押し込め、警戒のために女と青年だけが外で座り込んでいた。

 

「行く当てはあるか?」

 

「いえ……」

 

「そうか。本州の方がまだ騒乱も少なかろう。

 とはいえ廃仏令が盛んな内は、僧侶の身分では辛かろうな。

 廃村か、山奥の廃寺でも探してみるか」

 

「旅の方に、そこまで面倒を見てもらうわけには……」

 

「せっかく助けたんじゃ。すぐに野垂れ死にされては気分が悪い。

 急ぐ旅でもない。そこまでは付き合うさ」

 

「……そう、ですね。子供らを助けてくださったのは貴女だ……」

 

「?妙に言いよどむな。何か言いたいことがあるのか?」

 

 

 

「……御仏は、なぜ子供らを救ってくださらなかったのでしょうか」

 

「…………」

 

「私を襲ったのは村長の手勢でした。寺に火をつけたのも間違いなく。

 連中のような人面獣心の外道共が、救われるべき心清き者たちの未来を奪う。

 だというのに、御仏はなぜ救われるべき者たちに手を差し伸べてはくださらぬのでしょうか……!」

 

「ふむ……推測と持論でよいなら答えるが?」

 

「!?お聞かせいただきたい!!」

 

 

 

 

「単純に人手が足りんのではないか?」

 

 

 

 

「……は?人手?」

 

「如来、菩薩、明王、天部。

 真に全能ならば一人で十分のはず。なぜそのように多くの仏がおる?

 ならば逆説的に、彼ら一人辺りが救える人数には限界があると考えられぬか?」

 

「は……?いえ、ですが、御仏は全てを漏れなくお救いくださると!」

 

「そう宣言したのはいつの時代の話じゃ?時代が変われば苦難も変わる。

 何より今のこの世の人口はあの頃の何十……何百……いや、何千倍かの?

 それだけ人が増えれば、それこそ千手観音であろうと手が足りまいよ」

 

「時代……人口……!?

 そんな……それでは御仏の教えは、一体何のために……!」

 

 

 

「いやむしろ、だからこそ仏教があるんじゃろ?」

 

 

 

「……と、おっしゃいますと?」

 

「煩悩を断ち切り、悟りを開き、『自らが仏となることを目指す』のが仏道であろうが」

 

「っ!!」

 

「解脱し涅槃に辿り着くことが『成仏』。

 だがそれはただ己が苦しみから逃れるためだけではない。

 『新たな仏となって、我らと共に救われぬ衆生を救ってほしい』という、釈迦如来の祈りと懇願。

 そして『全てを漏れなく救う』とは仏が全能であることを示す言葉ではなく、『皆で力を合わせれば全てを漏れなく救うことができる』という目標であり決意表明。

 『仏に救いを求める』だけではなく『己が衆生を救う仏となる』。それが仏道の本質であると、儂は捉えておる」

 

「成仏とは、解脱し終わりを迎えるためではなく、仏として新たな始まりを迎えるため……!」

 

「ま、重ねて言うがこれは儂の持論と推測じゃがな。

 その点、お主はすでに立派に仏様よ。あの子らを救い育ててきたのだからな」

 

「……それを言うなら、まさに貴女こそが我々の仏です」

 

「かっかっか。生憎儂は仏になど慣れぬよ。

 儂が歩んできたのは仏道どころか修羅の道……荒事ばかりが得意でな」

 

そこで話を区切って立ち上がった女は、青年と子供たちが眠る洞を背に前に進む。

そして立ち止まり森の中を鋭く見つめると、やがて木々の後ろから武器を持った男たちが姿を現した。

 

「っ!?お前たちは、村長の……!」

 

「まさかアレで生き残ってたとはねェ……」

 

「事情は椿から聞いた。この者たちはこのまま村を離れる。

 であれば貴様らが手を出す必要はもうないはずじゃが?」

 

「村長さんには『ちゃんと始末した』って言っちまったんでね。

 それにどうせなら……もう少し暴れたいと思ってたところでよォ」

 

「外道め……!」

 

 

 

「そうか、気が合うな。

 儂もどうせならもう少し暴れたいと思っていたところじゃ」

 

 

 

「……あン?」

 

小柄な女が更に前に出て、掌を叩きつけ合掌する。

するとその体が……『鬼』に変じた。

 

「「「っ!?」」」

 

『祈れど無駄じゃぞ。どうやら神仏はお忙しいようじゃからな』

 

右手に炎の剣を握り、左腕に白い大蛇を従え、背中から炎を噴き出した鬼が踏み出す。

 

 

 

「あのお姿は……!?」

 

炎を操り、剛腕を振るい、外道共を蹂躙する憤怒の鬼。

しかし僧の青年は恐ろしいとは思わず、その姿をとある存在と重ねていた。

 

「『自らが仏に』……そうか、貴女自身が……!」

 

そして先ほどまでの彼女の話を頭の中で反芻し、自らが進むべき道と目指すべき姿を見据えていた。

 

 

間もなく破落戸は瀕死の重傷を負った状態で地面に転がっていた。

一命をとりとめるかは運次第。しかし生き残ったとしても後遺症でまともに生きていくこともできまい。

貴重な手勢を失った村長はこれから難しい舵取りを迫られることになるだろうが、知ったことではない。

奴が青年や子供らを見捨てたように、女もまた村長を見限っていた。

 

旅を始めた一行は本州へ渡り、廃仏令が進む時代でも寺を守り続けている老僧と出会う。

彼に青年と子供たちを託した後、女は旅立っていった。

『もう会うことはないだろう』と添えて。

 

そして5年後。

子供たちの成長を見届けた青年も一人で旅に出た。

彼は過酷な修行により鎧の如き筋肉を纏った巨漢へと変貌しており、その剛腕で外道畜生を退治する破戒僧として名を轟かせた。

力尽くで救うべき者を救い罰すべき者を罰する。

彼の姿と在り方から、彼に救われたか弱き民衆は畏敬を込めて、彼に叩き伏せられた札付き共は畏怖を込めてこう呼んだ。

 

 

『不動明王の安慈』と。

 




『るろうに剣心』より一幕。
前回投稿した短編との関連性というか、話題のつながりが強いので、続けて投稿しました。

安慈和尚は原作と同じような武人かつ破戒僧になりましたが、全てを破壊するためではなく守るべきものを力づくで守り、道を踏み外しかけた者を食い止めるためとその在り方は大きく違っています。
火付けで家族を失いかけた彼は京都大火を絶対に食い止めようとするので、十本刀ではなく剣心陣営として志々雄との戦いに参加します。
左之助の純粋な師となり彼を成長させるでしょう。

この作品は本編か外伝に入れられないかと考えたこともありましたが、無理だと判断しました。
なぜかと言うと、ヒノカミの性格では『剣心たちを救わない』からです。

剣心は自らの正義感に突き動かされ、人斬りになることを受け入れています。
家族を置いて家を飛び出し赤報隊に参加した左之助も同様。
巴と縁も復讐のために外道の集団に取り入っています。
そしてこういっては何ですが、巴の夫は侍であり殉職は当然のこと。

よってヒノカミの判定では、原作の彼らの不幸は全て彼らの『自業自得』です。
その場に居合わせたとしても見捨てる可能性が高く、主要キャラがこの有様ではこの作品でちゃんとした話を作るのは無理だと判断しました。

しかし安慈和尚。
彼は彼自身に非がなくあまりに悲惨であり、ヒノカミと同じく『不動明王』がモチーフなキャラなこともあり、こうして短編としてまとめることにしました。
同じ作者である『武装錬金』を使って助けるのも、味があるかなと。
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