『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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本作にて初めて明確な『原作生存キャラ死亡』が発生します。
どうやっても彼が死ぬ運命は変えられませんでした。ご了承ください。
また、この章のヒノカミは神霊の姿としています。


第3話 『デスノート』

 

大学受験を目前に控えた高校生の少年『夜神ライト』。

彼はある日、道端で真っ黒なノートを拾った。

それは『名前を書くだけで相手を殺せる』ノート。

そして実際に試してみることで本物だと確信した。

 

彼はわずか5日間で300人以上を殺した。己を正義と信じ、悪と見なした者を次々と殺し続けた。

そして彼の前に真っ黒な異形の悪魔『リューク』が現れた。

リュークは己が死神であり、デスノートの所有者と主張。

ライトは彼がこのノートを取返しに来たのかと身構えた。

 

しかし彼はライトにそのままノートを預けると言う。

ただライトが何をするのかを近くで見せること、そして自分を退屈させないことを条件に。

 

正式にノートの所有者となったライトは、これから何をするつもりかというリュークの問いに対し堂々と宣言する。

このノートを使い、この世の悪人や犯罪者を死もって裁き続ける。

やがて人々も、悪が何者かの意志により排除されていると確信するだろう。

彼の目標は犯罪者を撲滅し、純粋に善なる者のみが生きることを許される『新世界』を構築すること。そして。

 

 

「僕は『新世界の神』となる」

 

 

「やめておけ。そんなもんになってもろくなことはないぞ」

 

 

ライトとリュークの二人だけだった部屋に第三者の声が響く。

いつの間にかリュークの後ろには炎の光輪を背負った美女が立っていた。

 

「ぐっ……!?」

 

彼女の左腕に巻き付いていた白い蛇がリュークの首へと伸び、きつく締めあげる。

彼女の右肩に止まっていた赤い烏が炎へと変化し、彼女の手元で真っ赤な刀身を持つ刀へと変わる。

 

「ノートを回収するつもりなら、此度は見逃そうかと思うたがな。

 ……責務を忘れ与えられた力を私欲のために使うと言うなら、死神を名乗る資格なし」

 

「~~っ!~~っ!!」

 

「遺言も命乞いも聞くつもりはない。消えろ、雑音」

 

女は言葉を発することもできずにいるリュークの首を斬り落とした。

死神だった『ソレ』は灰となって消えた。

 

そこでライトは秒針を刻む時計の音が止まっていることに気付く。

部屋の中を見渡せば、色と空気がどこか違う。

窓の外の風景に変化が見られず、音が全て消えている。

そしてようやく理解した。時が止まっているのだ。

そして目の前にいる女はそれを可能とするだけの力を持つ……『神』だということに。

 

「ふむ、随分殺したな?」

 

「!?」

 

ライトが視線を逸らしていた隙に、ノートが女に回収されてしまっていた。

彼女はペラペラとページをめくって名前を確認した後、ライトに視線を移す。

 

「……ま、今回のことは不問としよう。

 先ほどの愚図が半ば唆したようなものらしいからな」

 

女はライトを見逃すことにした。

しかし彼女の上から目線の発言に反発し、ライトは食い掛ってしまった。

 

 

「お前は何故悪人どもを野放しにしている?」

 

「む?」

 

「神ならば悪を裁き、善を救うべきだろう!?

 お前が何もしないから、僕が代わりにやってやろうと言うんだ!」

 

「ふぅむ……」

 

夜神ライトという男は成績優秀、容姿端麗で、あらゆる面でずば抜けた才能を持っていた。

故に己に絶対的な自信を持っており、プライドが非常に高かった。

だから彼は女神を前にしても『自分が正しい』と信じて疑わなかった。

 

その傲慢な少年の言葉を、女神は聞き届けた。

 

 

「そうか。では悪を裁くとしよう」

 

 

閉じていたノートを開いて何かを書き込み、そのページを突きつけた。

ノートには一目見てわかるほど大きな文字で、『夜神ライト』と書かれていた。

 

「……は?」

 

「貴様と同じことを言う輩なぞ今まで腐るほど見てきた。

 疑問で仕方ないんじゃよなぁ……『何故自分が悪でないと思い込んでいるのか』がな」

 

「なっ……ふざけるな!僕は、正しき者が生きられる世界を!!」

 

「今まで殺した分は不問にすると決めたが……更に殺人を重ねると言うなら間違いなく悪じゃろ。

 貴様が貴様の判断で他者を悪と決めつけたんじゃろ?

 ならば儂が儂の判断で貴様を悪と決めつけて何が悪い」

 

「っ……!?」

 

デスノートに名前を書かれた人間は、40秒で心臓麻痺で死ぬ。

問答を続ける内に、彼の寿命はあと数秒。

 

「『悪に裁きを』。貴様自身が望んだことじゃ。

 10……9……8……」

 

「っ、違う!僕は、こんなことを望んでなんか……!」

 

「3……2……1……」

 

 

「いやだぁぁぁぁぁぁあ!死にたくないぃぃぃいいいいいいっ!!!!」

 

 

ゼロ。

そう告げると同時に女神は炎でノートを灰にした。

 

「……ハッ……ハッ……ハッ……!?」

 

「げらげらげら。時間を止めとるんじゃからカウントは1秒たりとも進んでおらんわ。

 そして我が炎で燃やし尽くせばノートの効力も消えるでの」

 

「……ぐぅっ……っ!」

 

ライトは死ななかった。

揶揄われたと気づいた怒りと、醜態をさらしてしまった羞恥心で彼は言葉を詰まらせる。

 

 

「何故儂が悪を見逃しているのかと問うたな?答えよう。

 この世界は今を生きる人のもの。

 人が対処できる悪は人の決めた法で、人の手で裁くべきであろう」

 

女神が排除するのは人間では対処できない悪だ。

例えば規則を犯した、先ほどの死神気取りの愚図のような。

 

「故に儂は目の前で悪事を働いたり、相手からちょっかいをかけられない限りは悪であろうと手を出さぬことにしておる。

 その誓いを破り、世界全てを監視し、悪の悉くを裁けというならその通りにしてやっても良いが……」

 

そこで女神は一度言葉を区切り、彼女の顔から表情が消える。

 

 

 

「この世界の人口の、数割は殺すぞ?」

 

「!?!?!?」

 

 

300人どころではない。数十億の人間が消える。

名前だけでノートが何百冊も埋まるほどのおびただしい死者が出る。

間違いなく人間社会が成り立たなくなるだろう。

 

神は人間が思っているよりもはるかに残酷で、冷酷で、そして平等だ。功績や地位を考慮しない。例えそれが重要な人物でありいなくなることにより深刻な被害が生じるとしても容赦なく殺す。

何より神の視点から見るようになって彼女は痛感していた。世界には、『自分を善人だと思い込んでいる悪人』が多すぎる。

 

「それでも神に『悪を裁け』と人間たちが叫ぶようなら、望み通りにしてやろう。

 たいして関わりも無くよく知りもしない相手を『殺せ』と叫ぶような人間は、真っ先に皆殺しにしてやるがな」

 

「………………」

 

言うべきことは言ったと、女神は消え去った。

言葉を失い消沈するライトを置いて。

気付けば再び世界に音と色が戻ってきていた。

白昼夢かと思える出来事だったが、部屋の隅に積まれた死神とノートの灰の山が現実だったと主張していた。

ライトはおぼつかない足取りで立ち上がり、部屋の窓を開け、世界が再び時を刻んでいることを確認した。

そして窓から入り込んできた風が、灰を攫って空へと消えていった。

 




タイトル通り、『デスノート』より一幕。
原作を見る限りデスノートや死神のルールは色々あるようですが、ヒノカミ視点ではリュークの振る舞いは明確にアウトとなります。
そして彼女は死神だろうと幽霊だろうと殺せる。
この世界線に行くと、リュークの死は絶対に避けられませんでした。

ヒノカミの判定はそれこそライト……キラよりもはるかに厳しいです。
なので彼女が全世界を対象に悪人を皆殺しにしようとすればとんでもない数を殺すことになります。
それがどれだけ歪で異常なことかを理解していることが唯一のセーフティです。

ヒノカミは人間の善性を信じているし、慈愛の心も持っていますが、憤怒の化身でもあり人でなしを人として扱いません。
彼女の危険性もはっきり示しておこうと、この話を書くことにしました。
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