『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

41 / 786
第41話

各チームが別々の演習場に移動し、試験開始前に打合せの時間が与えられる。

住宅地を模したエリアに割り当てられた轟と八百万。

八百万は周囲を見渡し何かを探している轟の背中を見て思う。

彼は強い。同じ推薦入学だが実力は天と地の差。教師側にハンデ無しという特別扱いをされていることからも明らかだ。

故に自分が彼をどこまでサポートできるかが、この試験の合否を分けるのだと考えていた。

 

「……八百万。お前、雨出せるか?」

 

「はぃ?」

 

「濃い霧とかでもいい。ともかく演習場全体を湿らせて、炎を作りづらい状況にできるか?」

 

「え?いえ、流石に演習場全域を覆うほどの水分を生み出すのは……」

 

「……そう、だよな……」

 

ここで八百万は、表情の変化が乏しいのでわかりにくいが彼が焦っていることに気づいた。

 

「あの、どうなされたので?」

 

「……はっきり言う。俺が戦ってもヒノカミ相手じゃ勝ち目がねぇ」

 

「……は!?」

 

並みのプロヒーローを超える実力者であるはずの彼が、始める前からまさかの敗北宣言。

ヒノカミの戦いはUSJの襲撃事件にて短時間だが目にしている。

確かに強かったが、轟もそれに劣るものではないはずだ。

 

「個性の相性が悪い、環境も悪い、個性抜きでも敵わねぇ。……勝てる要素がねぇんだ」

 

「ど、どういうことです?詳しく教えてください!」

 

ヒノカミの個性は『炎舞』。『周囲の炎を操る』個性。

炎であればなんでもだ。当然轟が放つ炎も対象となる。

ヒノカミに武器を与えることになるので炎を出すわけにはいかず、轟の個性が半分封じられる。

次に、彼女自身は炎を出せないがここは密集した住宅地。燃やせるものがいくらでもある。

ヴィランとして振舞う以上遠慮はすまい。真っ先に大火事を起こして、大量の炎を確保してから襲ってくるだろう。

氷なんてすぐに溶かされる。これで轟の個性のもう半分がほぼ通用しなくなる。

となればヒノカミにダメージを与えるには体術しかないが、彼女は並外れた剣術の使い手。

過去にお互いに個性抜きで戦ったことがあるが手も足も出なかった。よって体術でも勝てない。

彼女の唯一の欠点は周囲に炎がなければ個性の意味がないこと。

だから周囲に水場がないか見渡したが貯水施設すら見当たらない。

一縷の望みにすがるつもりで問いかけたが八百万は無理だと言った。だから弱点を突くのも不可。

 

「赫灼……体育祭の最後で使った技だが、あのレベルまで高めた炎や氷なら押し切れるとは思う。

 だがあれは溜める時間と繊細な個性の制御が必要なんだ。

 わざわざ待ってくれるはずもねぇし、遠隔で炎を乱されたら暴走しちまう。

 ……俺じゃヒノカミに勝ち目がねぇんだ」

 

「そんな……」

 

「だから……」

 

勝てない。試験は不合格になる。八百万は諦めるしかないと悟った。

 

「だから、お前が戦うしかない」

 

「……は?」

 

続いた轟の言葉に八百万は自分の耳を疑う。

体育祭優勝を果たした1年最強の生徒が戦う前から敗北を宣言をするような相手と、自分が戦う?

 

「もちろん正面切ってぶつかれってんじゃねぇ。これは試験なんだ。

 狡い手でもなんでも使って勝利条件を満たせば勝ち。

 『煩わしいルールがあるなら穴をつけ』。これもヒノカミの言葉だ。

 だが俺じゃ策も思い浮かばない……お前の知恵を貸してくれ」

 

「……」

 

頼られている。強大な力を持ち教師すら特別扱いする彼に。

これに応えずして何がヒーローだ。状況が悪いからなんだというのだ。

ヒーローが不利なのは当たり前だと最初の授業でヒノカミが言っていたではないか。

 

(……同時に酷い罠を仕掛けられましたけど。……罠ですか)

 

相手は格上の教師。弱者の自分たちが勝利するには『ルールの穴を突く』しかない。

 

「……轟さん。氷で相手の炎を弱めることはできますよね?」

 

「あぁ」

 

「わかりました……私に作戦があります」

 

与えられたわずかな打ち合わせの時間が終わり、放送が流れる。

 

『期末テストを始めるよ!レディイイーー……ゴォ!!!』

 

直後、脱出ゲートの方角から爆発音が響く。

 

「始めやがったか……!頼むぞ!八百万!」

 

「そちらもよろしくお願いします!!」

 

轟が見つめる視線の先で、巨大な火柱が上がっている。

それは少しずつ大きくなりながらゆっくりとこちらに迫ってきていた。

 

「待たせたなヒーロー。……なんじゃ、お主だけか?」

 

「俺一人で十分……とは、嘘でも言えねぇな。

 ……勝たせてもらうぜ、舞姉!」

 

巨大な炎を背負ったヒノカミに、轟がたった一人で立ち向かう。

 

――攻撃をする必要はありません。

  彼女をこの場に押しとどめることと、彼女の炎を減らすことに専念してください。

  全身を強烈な炎で防御されていては作戦は成功しません。

 

幸いにも相手が使う炎のお陰で周囲の気温は高い。

どれだけ氷を使っても体温が下がることはない。

一切の加減なく巨大な氷を作り、ヒノカミの炎の攻撃をひたすらに相殺する。

 

「……なるほど、時間稼ぎが狙いか。

 ここの周囲の住宅はあらかじめしっかりと凍らせてある……簡単に燃料にすることはできぬの。じゃが」

 

「……!」

 

ヒノカミは轟から少し離れてゲートの方を振り向くと、持っていた炎をゲート周辺に向けて放ち、大爆発を起こした。

 

「っ!」

 

「ふーむ……その様子では八百万はあちらにおらんようじゃな。

 こっそり脱出するつもりでもないか……。

 まぁ良い。その時間稼ぎに付き合ってやる。

 八百万を警戒せねばならぬし、時間は儂の味方じゃからな」

 

ゲート周辺で先ほど以上の大火事が起こる。

それを引き寄せることで、ヒノカミは再び炎を補充した。

 

(わかっちゃいたが……やっぱりこの人、加減を知らねぇ!)

 

もしゲート周辺に八百万がいたらどうなっていただろう。

仮にそういった作戦を取るなら熱や衝撃に強い装備で身を固めるよう八百万に忠告していただろうが、今の彼女の攻撃はその程度の防御で耐えられるレベルではなかった。

 

「くっ!おおおぉぉ!!」

 

「かかか!もう一度消火作業のやり直しじゃな」




ヒノカミ対焦凍。
絶対やんなきゃと思ってましたが、戦闘考えるのすごく大変だった。
相性悪すぎて勝ち目がないもの。
1話にまとめるつもりでしたがうまくいかなかったので無理やり2話に分けます。
ちなみに主人公は本気の戦いになれば、エンデヴァー相手なら相性有利でも互角、燈矢相手なら負けます。
前者は操作できる量を超える大火力で押し切ってくるし、後者はノータイムで赫灼レーザー撃てるので操り切れずに貫かれる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。