『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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外伝の方も考えてますが中々まとまった時間が取れないので短編でつなぎます。
1話だけなら数時間あれば何とか書けるので。


第8話 名も無きファラオ

 

かつての敗北を払拭するために、闇のゲームと理解して武藤遊戯に再戦を挑んだ海馬瀬人。

しかし彼は再び敗れ、敗者の罰として心を砕かれた。

自我を失い植物人間状態となった彼を救う術はなく、専門医は匙を投げた。

 

そこで瀬人の弟『海馬モクバ』は、兄が遊戯に挑んだ勝負にも用いた『デュエルモンスターズ』の生みの親である『ペガサス・J・クロフォード』を頼った。

彼の下には、不治の病であった彼の妻を治した凄腕の医者がいるという話を聞いていたからだ。

 

兄はペガサスを『胡散臭く油断できない男』と警戒していたが、愛するゲームの創造主として敬意も払っていた。少なくとも兄が動けなくなった隙に海馬コーポレーションの乗っ取りを画策するような醜い連中とは違うと信じた。

そしてペガサスはモクバの願いを快く引き受けた。

ペガサスは瀬人とモクバを、己が所有するとある離島へと呼び寄せた。

 

 

「おまたせしましタ」

 

「!?ペガサス!兄サマは!?」

 

「心配いりまセーン。彼女が言うには『あと10日もすれば自然に目が覚める』ト。

 むしろ『過労の傾向が見受けられたので、丁度良い休息になるだろう』とのことデース」

 

「ほ、本当か!?よかった……」

 

ゲストルームにて診察結果を待っていたモクバは、部屋に入ってきたペガサスに縋りついた。

即座に治してもらえなかったのは残念だが、確かに兄は働きすぎだった。

近いうちに確実に目が覚めると断言されたおかげで、ようやく安堵し力を抜くことができた。

 

「しかし……残念デース」

 

「っ!?な、なにがだ!?」

 

「まもなくこの島で、決闘者たちを集めた大会『決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)』を開くのデース。

 ……海馬ボーイを倒した武藤遊戯にも招待状をお送りしていマース」

 

「!?」

 

「なので是非とも海馬ボーイにも、この大会に参加して頂きたかったのデスガ……。

 大会開始予定は一週間後、そこから三日間を予定していマース。

 目覚めるのが10日後では、丁度大会が終わった頃になりマース。

 本当に残念デース……」

 

カタコトの日本語で仰々しく振舞うペガサスは確かに胡散臭い。だが間違いなく彼の本心だった。

デュエルモンスターズを深く愛するデュエリストとしても、大会を盛り上げる有力者としても、海馬には是非とも参加してもらいたいと思っていた。

だからこそモクバからの要請にも二つ返事で頷いたのだ。

 

 

「……なら、代わりにオレをエントリーしてくれ!」

 

「ワッツ!?」

 

「兄サマのデッキはオレが預かってる!デュエルだって勉強してる!

 だから、兄サマが目を覚ますまでオレが代理になって、大会で勝ち抜き続ける!」

 

「……モクバボーイ。ですがそれでは仮にアナタが敗北した時、海馬ボーイの名にも傷をつけることになりマース。

 ひいては、海馬コーポレーションのイメージダウンに……」

 

「へっ!情けねーけど、今の海馬コーポレーションは投資家たちの信用を失ってとっくにガタガタさ!」

 

「……ユーが勝ち残ったとしても、大会が終わる前に海馬ボーイが目覚める保証もありまセーン」

 

「絶対に目を覚ます!そして今度こそ、兄サマは遊戯を倒すんだぜい!」

 

「……Mr.クロケッツ。モクバボーイの参加手続きを進めなサーイ」

 

「かしこまりました」

 

「!?ありがとうペガサス!!」

 

「デュエルの練習相手も必要でショウ。大会の公平性を保てる範囲で、可能な限り手を貸して差し上げなサーイ。

 ……私は用があるので、ここで失礼しマース」

 

執事にモクバの相手を任せ、ペガサスは部屋の外へ出る。

そして誰もいない廊下をしばらく歩いたところで立ち止まる。

 

 

「……ユーの予言通りの展開となりましたネ」

 

「もちろんです。私の予知が外れることはありません」

 

「『アイツに関することを除き』、だろ?姉さん」

 

「フフフ、そうですね」

 

廊下の影から3人の人間が姿を現した。

その内の二人、少女の胸元と少年の腕には黄金に輝く装具があった。

同時にペガサスの長い前髪の隙間から黄金の瞳が覗き、呼応するように怪しく光る。

 

今より7年前。病に侵された恋人シンディアが奇跡的に快復すると同時に、ペガサスは彼女にプロポーズした。

そして新婚旅行で世界中を巡り、その途中でエジプトに立ち寄った時、二人は事件に巻き込まれた。

妙な儀式場に迷い込み『墓守の一族』と呼ばれる連中に捕まったペガサスは左目をえぐり取られ、代わりに『千年眼』という義眼を埋め込まれた。

そしてペガサスは『他人の心を読む能力』を得た。『千年アイテム』という、このような恐ろしい力を持つ道具がこの世界にいくつも存在していることを知った。

 

 

間もなくその墓守の一族は事実上滅んだ。

事件後すぐに帰国したペガサスとシンディアから事情を聴いた専属医が、千年アイテムなどよりよっぽど恐ろしいオカルトの力を持つ少女が、憤怒の鬼神となって殴り込みを仕掛けたので。

 

結局ペガサスを捕まえた一団の主犯らしき少年は見当たらず、儀式場の石板にはペガサスが見たという千年アイテムは残されていなかった。

だがエジプト全土をしらみつぶしに探していく過程で彼らは別の形で隠れ潜む墓守の一族を見つけた。

それがイシュタール家。

『イシズ・イシュタール』と『マリク・イシュタール』の姉弟、そして姉弟に忠誠を誓う養子の『リシド』、そして彼らの父親だ。

父親の方は長年掟に縛り付けられていたためか酷い精神状態でありまともな会話もできなかった。

だが子供たちの方はまだ染まり切っていなかったので、イシュタール家が所有していた千年アイテムと共に引き取ったのだ。リシドも同行を願い出た。

 

イシュタールの一族の歴史と、やがて蘇るらしい『名も無きファラオ』とやらを知ったペガサスたちは、それが邪悪な存在ではないかと危惧していた。

そして武藤遊戯という少年が『千年パズル』を身に着けており、二重人格であるという情報を得たことから、彼こそがファラオの魂を宿していると確信した。

 

だからペガサスは『決闘者の王国』を開くと決めたのだ。

千年アイテムを所有し、その恐ろしさを知る者として、デュエルを通じてファラオの魂を見極めるために。

 

「ファラオが正しき者ならよし。

 私たちイシュタール家の使命を果たすためにも、彼に助力いたしましょう」

 

「だが、そのファラオが悪しき者であるのなら……」

 

 

 

「儂が殺す」

 

 

 

ペガサスたちの密会の場に新たな女性の声が響く。

彼女こそがペガサスの雇った専属医であり、墓守の一族を滅ぼした鬼神。

彼女ならば武藤遊戯からファラオの魂だけをはぎ取り跡形もなく焼却することなど造作もない。

 

「……ま、杞憂であることを願おう。見極めは頼んだぞ」

 

「かしこまりました」

「あぁ」

「お任せください」

 

この大会では島中に散らばったデュエリスト同士が『スターチップ』をかけてデュエルを行い、いち早くスターチップを10個集めた4人が本戦に出場できることになっている。

また、デュエルを行う際に周辺の地形に沿ったフィールドを形成し、有利や不利が生じる仕様となっている。なのでデュエリストたちが己の有利な地形に引き籠り大会が停滞する可能性があるのだ。

 

それを払拭するために運営側が投入するのが『プレイヤーキラー』である。

彼らはあらかじめ大量のスターチップと、デュエルモンスターズの創造主であるペガサスから強力なカードを預かっている。

デュエリストはプレイヤーキラーとの戦いに応じ勝利することができれば多くのスターチップを手に入れることができる。

つまり、彼らはお邪魔キャラであると同時にボーナスキャラでもあるのだ。

 

イシズたち3人にはプレイヤーキラーとして大会に参加してもらう。

そしてできるならば武藤遊戯と直接戦い、彼を見極めてもらう。

だが島は広く、デュエリスト側には拒否権もある。

だから彼がイシズたちとぶつからずに大会を勝ち抜いた時に備えて。

 

「私が優勝者とデュエルする……遊戯ボーイならば、闇のゲームで」

 

「千年眼やオリジナルカードは卑怯じゃが……やむをえまい。

 どうせお主とのデュエルは賞金や栄光には一切関係ないオマケじゃしな」

 

「フフフフ……どこまで私を楽しませてくれるのか、非常に楽しみデース!」

 

「おっと、その前に僕らが倒してしまっても文句は言わないでくれよ?」

 

軽快な様子ながらも闘志をみなぎらせるデュエリストたち。少女は彼らを頼もしく見つめていた。

 

……ちなみに少女はデュエルに関しては戦力外である。運が悪いので。

99%勝利できる状況を整えても、1%の可能性があれば敗北を引き寄せるのが彼女なので。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

やがて『決闘者の王国』は幕を開き、そして閉じた。

大会での勝敗や、誰が優勝したのかなど些末なことだ。触れるべきでもないだろう。

『武藤遊戯と名も無きファラオは正しい魂を持っていた』。ペガサスたちにとってはそれだけが重要だった。

 

 

「腐り切った外道の臭いがするので警戒していたが、まさか連れの方に紛れていたとはな……」

 

「っ、なんだコイツ!?何故オレ様の闇の力が通用しねぇ……!?」

 

 

「逃げてもよいぞ。すぐに捕らえて殺すがな……!」

 

 

「ぁぁぁぁあああああああっ!?!?!?!?」

 




『遊戯王』より。
原作では『マジック&ウィザーズ』ですがこちらの方が皆さんなじみ深いでしょうから『デュエルモンスターズ』としています。

ペガサスなら『恋人を助けてほしい』と信心深く神に祈りそうなので、そのタイミングで乱入となります。
シンディアを救った後、妙に力が使いやすいので念のためしばらく滞在していたところで千年アイテムの存在を把握、危険視した彼女が動き出した結果が本文の状況です。

以前後書きか何かで書いたはずですが、ヒノカミは暴力を振るうことをためらいません。
カードゲームの世界だろうが容赦なく物理的に殺しにかかります。
闇のゲームなんて応じることもなく、彼女にゲームを強制することもできません。
なので『ヒノカミがアウト判定しそうな奴らを存在させない展開にする』。
これが物語を成立させるための最低条件となります。そりゃ一話で収まるわ。
そして闇バクラは逃れられません。これはどうしようもありません。

あ、ちなみに作者にデュエルを描写する実力なんてありません。
アニメは5Dsまで見てましたが紙はGX初期当たりで集めなくなったし、マスターデュエルも以前やってましたがプラチナが精々でしたし。
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