『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『僕のヒーローアカデミア』、アニメ完結おめでとうございます。
作者も何かしらの形で祝いたくて、急遽短編を一つ用意させていただきました。


第10話 ヒーローの世界:カーテンコール 

 

フレイムヒーロー『ヒノカミ』。

 

オールマイトのサイドキックであり、エンデヴァーの実の妹。

彼女は神野市での戦いでAFOに戦いを挑み、半ば道連れにする形で自らの命を捨てた。

 

しかし公には知られておらぬ個性により別の世界へと生まれ変わり、幾度もの転生と幾千年もの放浪の旅を超えて、ついに故郷の世界へと帰還した。

『轟舞火』としての生を終えて僅か数か月後のこと。

しかし常識外れた経験を積み死線を潜り抜けて来た彼女の力は、この世界を容易く滅ぼすことができるほどの域に達していた。

だと言うのにAFOとの因縁を終えた彼女は以前よりも更に暴走気味になっており、その手綱を握ることは不可能になっていた。

 

彼女はこの世界で既に死んだはずの人間なのだ。

若返っているとはいえ顔も同じ。轟家の奥に押し込められているのは無暗に人目に晒すわけにはいかないから。

だと言うのに転移能力なんてものまで持っているせいでふとした拍子にふらりと外に出てしまう。

大規模な災害が起きたと聞けば、オールマイトとエンデヴァーの面影を持つ鬼の鎧を纏い、例え世界の裏側であろうと一瞬で転移し、剛力と癒しの炎を振りかざしてあまねく人々を救ってしまう。

 

いいことだ。いいことではあるのだ。

だがどう見ても日本のヒーロー関係者だとわかる姿で動き回るのだから、世界中から『あの鬼人は何者だ』という問い合わせが殺到した。

事情を知る者たちが口裏を合わせて知らぬ存ぜぬを貫き通してきたが限界がある。

『日本のヒーロー協会がとんでもない札を隠し持っているらしい』というのはすでに世界中で公然の秘密となっていた。

 

そしてついに、現在の日本No.1ヒーローであるエンデヴァーが倒れた。

ヴィランにやられたのではない。ストレス性胃潰瘍である。

その病もヒノカミにより一瞬で治療されてしまうため療養することすら許されなかった。

 

もはやこれ以上は看過できぬと、ヒーロー協会と公安、そして日本政府が重い腰を上げた。

彼女の一番弟子であるフレイムヒーロー『ブレイザー』、轟燈矢の意見が採用され、彼女を24時間監視付きの部屋に閉じ込めることになった。

 

 

死刑すら生温い罪人たちが送られる特殊刑務所『タルタロス』へ収監される運びとなったのである。

 

 

社会で何が起きているかを知らせなければそれを聞いて動き出すことはあるまいと考えて。

まぁその気になれば世界全域くらい完全掌握できるのだが、彼女自身も多少の罪悪感はあるようで自制していた。

 

とはいえ彼女は犯罪者ではない……いや前世やら何やらを考慮すればいくらでも余罪が出てきそうだが、ともかく特例中の特例であり他のヴィランとは扱いを変えるように看守たちに指示が出されていた。

具体的には『どうやっても止められないんだからほっとけ』である。

 

端末の名前と姿そのままでは故人であるはずの轟舞火に似すぎているので、『六道リンネ』を名乗り姿も大人に変えている。

本人が言うには不可抗力、関係者が言うには見栄っ張りな彼女の新たな姿はとんでもない別嬪であり、凶悪犯罪者たちが色めき立ち欲望をあらわにするのも無理はない。

しかし彼女はオールマイトとAFOを足すどころか、掛け算にしてもまだ届かない本物の化け物だ。

襲い来る囚人たちは彼女に触れることすらできず全て叩き伏せられた。

外道畜生に容赦のない彼女は敵と見なした輩を半殺しにして治療しまた半殺しにするというデスループをためらいなく実行し、本来はヴィランすら守るべき看守たちは露骨に見ない振りをする。

間もなくタルタロスの頂点に君臨した暴君により圧制が敷かれ、一刻も早くタルタロスを抜け出したい凶悪犯たちはみな模範的な優等生となった。

根津の目論見通りである。彼は犯罪者たちの胃を犠牲にして、自分たちの胃を守り抜いたのだ。

 

 

 

そしてタルタロスの最深部の一室を占領し好き勝手に改造したリンネは今。

 

 

「くっ、この……っ!?……はぁぁぁーーーっ!?

 なんでそこでカウンター入んだよ!?このチート野郎がぁ!!」

 

「かっかっかっかっか!儂の反射神経と思考速度に敵うものかよ!

 やはり格ゲーでは勝負にならんなぁ~~?

 次は何で挑んでくるかなぁ~~~?」

 

「はぁ!?だったら麻雀でもやるかぁ!?」

 

「運ゲーは勘弁してください!!!」

 

神野の事件で逮捕され投獄された死柄木弔とゲームしていた。

 

この世界に帰還したリンネ……ヒノカミがもう一つの世界で得た知識を下にこの世界のAFOの残滓を悉く駆除し悪行の数々を調べ上げた結果、発覚した。

AFOが志村転弧の本来の個性を奪い『崩壊』を与え、彼の父『志村弧太郎』を精神誘導し、転弧の家族が拗れ暴走するように仕向け、以降も悉く不幸を与え続け彼がヴィラン『死柄木弔』に転げ堕ちるように仕向けていたことを。

 

数か月前に根津とオールマイトを伴いタルタロスに来訪したヒノカミは、彼にも知る権利があると面会した弔に全ての事実を明かした。

彼の受けた衝撃はいかほどであっただろうか。

本当の仇敵に人生を弄ばれ、復讐しようにもすでに死んでいるという有様なのだから。

自暴自棄になった彼はその場で自身に個性を発動し自死しようとした。ヒノカミが再生し食い止めたが。

彼女がタルタロスに服役することになった理由の一つは、弔の自殺を防ぐためでもあった。

 

弔は今までの言動からはっきりしていたがゲームが大好きであり、とある世界で師と仰いだ者の影響を受けてヒノカミもかなりのゲーマーである。

しかも数多の世界を巡ってきた彼女はこの世界に存在しないゲームをいくつも記憶しており自在に再現することが可能。

この世界に存在しないゲームを自分だけがプレイできるという特別感は彼のゲーマー魂を刺激した。

OFAにまつわる全てと共に彼女の素性を聞いてみれば、ヒノカミの生まれもまた自分以上に悲惨なものだった。

最初は意固地になっていた彼もしつこく付きまとわれるうちに少しずつ遠慮が無くなり、牢獄に閉じこもるよりはマシと彼女の特別室でゲーム三昧の日々を送っていた。

 

しかしこの気ままな時間もあまり長くはない。

 

「そういや、そろそろどうするか決めたか?」

 

「あぁ?……知らね」

 

弔の犯罪のほとんどはAFOが唆した結果であるとはっきりしたため、情状酌量の余地有りと判断されていた。

元No.1ヒーローであるオールマイトの懇願もあり、彼の刑期は大幅に短縮された。

オールマイトは恩師の忘れ形見である弔を引き取ることすら望んでいたが。

 

「アレのガキなんてのは絶対受け入れられねぇけどな。

 まぁ、金だけ出させるさ。

 いくらでも持ってんだろうし、贖罪とかいう自己満足でいくらでも出してくれんだろ」

 

「かかか、んじゃニートまっしぐらか?」

 

「かもなぁ……もう何もする気がおきねぇ。悪事すらもな。

 死んでもいいがテメェが死なせてくれねぇし……」

 

「ふむ……ではどうじゃ?儂に手を貸さんか?」

 

「あぁ?」

 

リンネは具現化したいくつものゲームソフトの内、一つのパッケージを掴んで掲げた。

 

「……スポーツゲー?」

 

弔……いやこの世界にとって馴染みが薄く、彼も実際に触れたのはここが初めてだったジャンルだ。

無理もない。この世界では個性が広まった影響で人間の尺度が大きく変化し、個性を使わないことが前提である既存のスポーツは軒並み形骸化している。

 

「うむ。儂も数多の世界を巡って初めて実感したんじゃが、このスポーツというものも中々馬鹿にできんでな。

 人によってはこれに一生情熱を注ぐ者もいたほどじゃ。

 故にこの世界にも改めて普及させたいんじゃよ」

 

「つっても派手さも面白味もねぇんだから、誰にも見向きもされねぇだろ」

 

 

「違う違う。『個性を前提としたスポーツ』を普及させるんじゃよ」

 

「はぁ!?」

 

 

個性は身体能力の一種だ。

いくら社会全体の平穏のためとはいえ『使ってはならない』と縛り続けられれば鬱憤はたまる。

実際にここタルタロスで囚人たちと向かい合うと皆個性を持て余した者ばかりだった。

だからこそ許可を得ているとは言え、個性を自由に使える『ヒーロー』に嫉妬する。

 

「だから大人も子供ももっと気軽に個性を使える場を作るんじゃ。

 でっかい競技場を作って、競技中は誰でも自由に個性を使ってよいことにする。

 万が一の事態に備えヒーローを警備員として雇うか」

 

相澤がA組に課した『個性把握テスト』、あれが分かりやすい例えだ。

個性の使用何でもあり。生徒の誰かが漏らしたように人々も『面白そう』だと思うだろう。

 

「最初は短距離走や砲丸投げみたいな個人競技から広め、ノウハウが揃ってきたら次は対人、そんで行く行くはチーム戦じゃの。

 とにかく競技の数を増やしに増やせば、あらゆる個性に活躍の可能性も生まれるじゃろう」

 

「なるほど、そりゃ個性を持て余してる連中が集まるかもな。

 確かにヴィランになる奴は減りそうだ……だがそれでも差別は生まれるだろ。

 強個性の連中が幅を利かせ、弱個性や無個性は縮こまって生きる事態は変わらねぇ」

 

「その通りじゃろうな。じゃがそれも仕方なかろう」

 

「はぁ?仕方ねぇ?」

 

 

 

「人は『平等ではない』。

 生まれや育ちによる差は絶対になくならない。

 数多の世界を巡り儂は確信した」

 

 

 

個性社会における公然の事実であり、しかし誰もが触れることを恐れたタブーを、リンネは迷うことなく口にした。

 

「『平等』なぞまやかしじゃ。儂や貴様がいい例じゃろ。

 この場に何も知らぬ者が現れ『そんなことはない、人は平等だ』などとのたまうならば儂はそ奴を殴り殺す自信がある。

 貴様はどうじゃ?」

 

「……あぁ、そうだな。オレもうっかり殺しそうだ」

 

「人は生まれながらにどうしようもない差がある。

 これはどうしようもない事実じゃ。

 ……じゃがその差が命を左右するようなものであってはならない。

 そうならないように努力する。儂にできるのはそこまでじゃ」

 

「……ま、確かにヴィランが減りゃあ、テメェの無力で死ぬような事態にゃあそうそうならねぇってか」

 

「そういうわけで、どうじゃ?

 ゲームで数多の知識を蓄え、儂と異なる観点を持つ貴様は割と本気で欲しい。

 貴様が言えばオールマイトもいくらでも出資してくれるじゃろうしな」

 

「ハハハ、そりゃ面白そうだな……だったら素寒貧にしてやるぜ!」

 

そういって弔はゲーム機に別のゲームをセットした。

人の一生を追体験するボードゲーム……いわゆる双六だった。

 

「さぁ勝負と行こうじゃねぇか!

 テメェが勝ったらオレが飽きるまでは乗ってやるよ!

 負けたらテメェの持ってるゲーム全部よこせ!」

 

「はぁ!?運ゲーは無しじゃろ!?」

 

「言っただろ?素寒貧にしてやるってよぉ!

 ゲームスタートぉ!」

 

「くっそぉ!こうなりゃ因果律弄って……!」

 

「いきなりチートコード使うんじゃねぇ!!」

 




本作本編『僕のヒーローアカデミア』、後日譚となります。

本作の弔は神野で捕まっており、ヒノカミたちの奮闘で彼からの被害も少ないため社会復帰の余地があります。
なのでこの外伝にて思い切って救うことにしました。

実はこの機会に、本作の初期プロットをベースにしたヒロアカ二次創作作品を新たに書こうかとも思いましたが、今書いてる外伝10もあるのにこっちが完全に止まってしまうだろうし、スッキリした終わりが思いつかないので思いとどまりました。
もしかしたらいずれ時間と余裕ができた時にもう一度考えるかもしれませんがね。
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