『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

413 / 805
2025年もお付き合いいただきありがとうございました。
皆さまよいお年をお迎えください。


第11話 呪術の世界

 

「「…………あ?」」

 

呪術高専東京校の地下最深部『薨星宮』本殿。

そこで向かい合い殺し合っていた暗殺者の青年『伏黒甚爾』と呪術師の学生『夏油傑』は、謎の乱入者に気付き揃って動きを止めた。

 

甚爾が撃ち殺した星漿体の少女『天内理子』の遺体の傍に、真っ赤な和服を着た小柄な人間がしゃがみこんでいる。

ここは日本全域の結界を維持する不死の呪術師『天元』の膝元であり、国内主要結界の基底。

二人の男がこの場にいるのも特例中の特例。他に人間がいるはずもない。そう思い込んでいた。

 

「……」

 

謎の人物は掌に掲げた白い炎を天内に浴びせた。

この場にいる時点で一般人ということはありえないので、呪術らしき力を使ったのは驚くことでもない。だが。

 

 

ガバッ

 

 

「「!?!?!?!」」

 

「あ、あれ?私、何が……血ぃ!?」

 

「理子ちゃん!?」

 

「馬鹿な……反転術式!?

 いや、ちゃんと頭を撃ちぬいて殺しただろ!?」

 

「ふむ、やはりこの少女を殺したのはそっちの方か」

 

赤い服の人物が振り返る。どうやら女のようだ。

 

「儂は天元の契約者じゃよ。

 『星漿体の命が同化する前に失われた時』、あるいは『星漿体が同化を拒んだ時』。

 この世界に訪れその尻拭いをする。そういう『縛り』を奴と結んでおる」

 

「天元様の……!?」

 

「今回はその両方じゃな。

 星漿体……理子じゃったか?

 契約に従い、蘇生すると同時に彼女の体を作り変えた」

 

「え……!?」

 

「もはやお主は星漿体ではない。自由に生きよ」

 

天内を立ち上がらせた女は彼女の手を引き夏油の方へと歩み寄り、手前で軽く突き出す。

転びそうになった天内を夏油がしっかりと受け止めた。

 

「……と、言うわけでもはや彼女を殺しても何の意味もない。

 ハイお疲れ。解散じゃ、解散」

 

夏油たちの傍に立つ女はジェスチャーで伏黒を追い払おうとする。

 

「あー……ソイツが星漿体かどうかは関係ねぇんだわ。

 依頼人からは『天内理子の死体を持ってこい』っつわれてんのよ。

 そんでどうやらソイツを殺すにゃあ……テメェを先に殺さにゃならねぇみてぇだなぁっ!」

 

伏黒は従えている呪霊に吐き出させた刀を握り、謎の女へと斬りかかる。

だが女は慌てることもなく、側頭部に着けていたお面をゆっくりと顔の正面に持っていく。

 

 

「「!?」」

 

 

直後、女が巨躯の鬼へと変貌した。

そして伏黒を迎撃するかのように拳を振りかざす。

 

 

(あ、駄目だ。こりゃ死ぬわ)

 

 

勝ち目がないと悟った。伏黒は己の勘に自信を持っていた。

そして勝てないとわかって戦いを挑むような戦闘狂でもない。暗殺を請け負ったのはただのビジネスだ。

彼は地面に焦げ跡を作りながら強引に減速し、鬼の目の前で刀を脇に放り投げ両手を上げた。

 

「降参。もう手ぇ出さねぇ。だから殺さねぇでくれや」

 

「はぁ!?」

 

力量差を理解できていない夏油は伏黒の急な心変わりに思わず声を上げる。

 

「わかった。降伏を受け入れよう」

 

「ありが……」

 

ゴスッ!

 

言い切る前に鬼に頭頂部を殴られ、伏黒は床に倒れ伏した。

 

「降伏を受け入れたのではなかったのかっ!?」

 

「受け入れたとも。だから殺さぬように加減した。

 さて、他に儂がやるべき仕事はあるか?

 なければ天元のところへ向かうが」

 

気を失った伏黒を投げ渡された夏油は未だ状況を理解できず困惑するが、すぐに問題に気付いて声を上げる。

 

「っ!?この先に彼女のメイドがいる!

 コイツに殺されている可能性が高い!」

 

「黒井が!?」

 

「それとコイツは私と同じ高専の生徒も……っ、殺したと言っていた!

 理子ちゃんを生き返らせたアナタなら助けられるか!?」

 

「ふむ、やってみんとわからんが、引き受けよう。案内を頼む」

 

「わかった!」

 

伏黒を抱えた夏油が引き返し、その後ろを天内と鬼がついていく。

そしてエレベーターの前で血だまりに倒れ伏すメイド姿の女が見えた。

 

「黒井!!」

 

「っ……できるか!?」

 

「まだ死んでおらん。楽なもんじゃよ」

 

鬼は血塗れの女に縋りつこうとする天内を押しとどめ、彼女にしたのと同じように白い炎を浴びせる。

 

「う……理子、さま……?」

 

「黒井……!よかった……よかったぁ……っ!」

 

「んで、後の一人は?」

 

「ここより更に上、地上にいるはずだ」

 

困惑したままの黒井を同行者に加え、一行はエレベーターで地上へと上がる。

屋外に出ると、おびただしい破壊の跡の真ん中に血塗れの少年が倒れていた。

 

「悟!」

 

「ふむ……ふむ?」

 

夏油が伏黒を放り出して、『五条悟』の下へ駆け寄ろうとした。

だが寸前で違和感に気付いた鬼が夏油に追いつきその肩を掴み、勢いよく引っ張り後ろに投げ飛ばす。

 

「がはっ、何を……っ!?」

 

夏油は途中で言葉を止めた。

鬼の向こう側で、死んだと思われていた五条がゆっくりと立ち上がったのだ。

 

「……あれぇ?傑、なんでいんだぁ……?

 俺を殺し損ねたあのマヌケはぁぁ?」

 

「悟……!?」

 

「んあぁ……?傑が倒したのぉ?うっそぉ~~……。

 あぁどうしよう、どうしてくれよっかぁ、どうにかしねぇとどうにかなっちまうよ俺ぇ……!」

 

(傷が塞がってる……反転術式……!?

 成功させたのか!?だが……)

 

「お前……悟、だよな……!?」

 

「……あぁそうだ!そこの鬼さん、さっき傑をぶん投げたよなぁ?

 だったら敵だよなぁ?敵ってことでいいんだよなぁぁぁ!!」

 

五条の持つ六眼という特殊な瞳は、完全に瞳孔が開き切っていた。

夏油すらもおののく呪力があふれ出している。どう見てもまともな精神状態ではない。

 

「死の間際で変な方向に目覚めたようじゃな。儂も覚えがある。

 ……仕方ない、こういう時は気が済むまで付き合ってやるしかなかろう」

 

鬼は怖れることなく、更に前に出た。

五条は歪な笑顔を浮かべ、重力を無視して宙へと浮かび、この世界の全てを見下すように宣言する。

 

「天上天下唯我独尊」

 

「……ほどほどにしておかねば、後で黒歴史になるぞ」

 

呆れながらも鬼は両手を大きく横に広げた。

 

「折角じゃ。この世界の流儀に合わせてそれらしくやろうかの」

 

 

パァン!

 

 

掌を勢いよく叩きつけると同時に今度は鬼が宣言する。

 

 

 

「領域展開『刻思夢想(イマジン)』」

 

 

 

周囲一帯が半球状の結界に覆われる。

そして同時のその内側にいた五条や夏油たちの頭に情報が流れ込んでくる。

彼女には必要ないのだが、この世界の呪霊や呪術師に倣い『自身の情報の開示』を行ったのだ。

 

「「「……っ!?」」」

 

・ヒノカミの領域『刻思夢想(イマジン)』は、その内側に彼女の記憶する物品や現象を具現化する。

 近代兵器や呪具などの物体、地震や暴風などの自然現象の再現が可能。

 領域の内外は時空間ごと完全に遮断される。彼女が指定した対象以外の出入りは不可能となる。

 掌を離すと領域は解除される。

・ヒノカミは再生・治療に長けた術者である。

 頭部に埋め込まれた核を破壊しない限り術により再生する。

・ヒノカミは熱操作能力に長けた術者である。

 熱量の強弱に関わらず、熱を伴う攻撃は通用しない。

・ヒノカミは疲労・飢え・老いが存在しない。

・ヒノカミは呪術を受け付けない。これは能力でなく体質である。

 同種の概念を持つ呪術を彼女以上の呪力を込めてぶつければ貫通できる。

 また、呪術を用いて発生させた物理的現象は無効化できない。

・この世界でのヒノカミの霊力の最大値は、この世界の人類(呪術師・呪詛師・非呪術師)全ての呪力の総量と同等である。

・ヒノカミは冗談や誤魔化しは言うが、嘘はつかない。

 

「な……なんだ、これは!?」

 

「……あははぁっ!あんたヒノカミって言うのぉ?

 しかも女ぁ!?つぅかいくら嘘でも盛りすぎ……っ!?」

 

情報を咀嚼した五条は笑い飛ばそうとして、できなくなった。

直後鬼の体からあふれ出した呪力のような何か……霊力とやらの大きさを、五条の持つ六眼が正確に見極めていた。本当に世界中の人間の総量と同じかはわからないが、少なくとも五条とすら桁が違う。

 

「儂は嘘はつかん」

 

「……っ!」

 

開示された情報全てが事実だとは思わない。だが全てが嘘でもなさそうだ。ならばその前提で対処する。

『呪術が通用しない』としても、この技なら通じるはずだと五条は指を構えた。

五条家でも一部しか知らない、順転と反転を衝突させ生み出した仮想の質量を撃ち出す奥義。

 

「虚式『茈』」

 

五条の指先からエネルギーが放たれる。そして鬼に直撃する。

 

「…………!」

 

「儂が避ければ後ろの者たちに直撃していたぞ?

 随分と血の気が多いことじゃな」

 

無効化はされなかった。だが鬼は傷つくどころか微動だにしていなかった。

鬼の後ろにいた夏油たちにはそよ風すら及んでいなかった。

 

「がはぁっ!?」

 

「悟!」

 

硬直したままだった五条の腹を、掌を合わせたままの姿勢で一瞬で接近した鬼が容赦なく蹴り飛ばした。

呪力による防御が通じなかった。背中から壁に叩きつけられ盛大に血を吐き、崩れるように地面に倒れ伏す。

五条は薄れ行く意識の中で必死に反転術式を発動させようとするが、その前に彼の体を白い炎が包む。

 

 

「来い若造。力の差を思い知らせてやろう。

 何度でも、何度でも。血の気が引くほどにな」

 

「…………はっはぁっ!!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

天元は千年以上を生きている不死の呪術師である。しかし不死であっても不老ではない。

なので一定以上……五百年以上の年月を重ねると不死の術式が肉体を作り変え、彼女を人間ではない『高次元の存在』へと進化させようとする。これを放置すればやがて天元は意思を失い、まったく別の存在になってしまう。

彼女が維持している日本中の結界が消滅するだけでも大惨事なのに、変貌した天元が人類の敵となる可能性すらある。

なので彼女は五百年周期で星漿体という人間と同化し肉体の状態をリセットしなければならない。

 

それに待ったをかけたのが、同種の存在が生まれる気配を察知し異世界より来訪したヒノカミと名乗る女だった。

彼女は自身の進化を成功させた、天元よりも更に先にいる存在だった。

だが望んで進化したわけではない。『なりたくない』という天元の意思を尊重したいとは思う。

しかしそのために今を生きている人間を犠牲にするのは許容できなかった。

 

「そんで議論した結果、妥協案を採用することになったんじゃ。

 星漿体となる少女が天元との同化を望まぬ場合、儂が代わりに天元の肉体をリセットするという縛りをな」

 

「だったら星漿体を犠牲にする必要ねぇじゃん」

 

任務を終えた五条、夏油はヒノカミを連れて高専の教室に戻ってきた。

彼女は既に天元の肉体のリセットを終え、捕らえた伏黒を高専の教師に預け、役目から解放された天内を黒井と共に家へと帰している。

 

「それでは天元に加えて儂にも依存することになるじゃろ。

 儂とて完全な不死不滅というわけではない。リスクが増すだけじゃ。

 何より他所の世界を当てにすべきではないと、互いの意見が一致した」

 

更に言うなら、天元はヒノカミをこの世界から遠ざけたいと考えていた。

善性ではあるのだが制御不可能。下手をすればこの世界にとって進化した天元以上の脅威となるかもしれない。

特にこの世界の一般的な呪術師の在り方は、彼女の逆鱗に触れる可能性が高すぎる。

腐っていても必要なのだ。呪術師は。祓う者がいなければこの世界は呪霊に呑みこまれることになる。

彼女ならそちらへの対策も講じるだろうがそれがどのようなものになるかは全くの未知数。いずれにせよ危険だ。

 

「と、言うわけで儂はもう去る。次来るとしたらまた五百年後な」

 

「ご協力、ありがとうございました」

 

「何、天元との縛りじゃ。気にするな」

 

そんな天元の考えを理解しているから、ヒノカミは敢えてこの世界の問題には手出ししない。

苦しんでいる人がいるとわかってはいる。だがこの世界を支える天元がヒノカミの活動を拒んでいる以上、この世界の人間が自力で問題に対処すべきと考えていた。

 

 

「おいおい、勝ち逃げはズルいっての」

 

 

その彼女を、この世界の住人が引き留めた。

 

「まだアンタにボコボコにされた借り、返せてねぇじゃん。

 それに気が済むまで付き合ってくれるんじゃなかったのぉ?」

 

「……失礼だぞ、悟」

 

五条をいさめる夏油だが、彼も惜しいとは思っていた。

呪術師の殉職率はけた外れ。死後数日くらいなら蘇生できるというヒノカミの能力はとんでもなく魅力的だ。

 

「確かに言ったが……天元との縛りがなぁ」

 

「じゃあオレとも縛りを結んでよ。

 『オレがアンタを監視する』って条件でどう?」

 

「流石に弱すぎる。話にならん」

 

「じゃあ『オレが高専を卒業するまで』。

 あと監視者は『オレと夏油』で」

 

「おい、私を勝手に巻き込むな」

 

「ふむ、期間を絞れば確かに。

 お主ら二人の行動を制限することにもなるし、いけそうじゃな。

 あとはお主らから儂への対価じゃ。何を誓う?」

 

「『卒業までにアンタに一発ぶちかます』。

 期待しといてねん♪」

 

「くけけけ……まとめよう。

 『五条悟と夏油傑は、高専を卒業するまでの間ヒノカミの監督責任者となる。

 ヒノカミは両名の監視下でのみ、この世界に干渉することを許される。

 両名は期間中にヒノカミに対し、対象が納得する攻撃を成功させる』。

 これでいいか?」

 

「その一撃とは、具体的にどのようなものなのでしょう?

 そしてもし、その目標を達成できなければ……?」

 

「どんな形でもよい。儂に『してやられた!』と思わせればお主らの勝ちじゃ。

 そんで失敗した時には『ヒノカミはこの世界で三日間の自由を得る』としよう」

 

「三日の自由……?それだけでよろしいので?」

 

「よろしいんじゃよ」

 

むしろおつりがくる。

この世界から外道畜生を悉く駆除するなら一日あれば十分だ。

 

「そんで、どうする?乗るか?」

 

「おっけー♪」

 

「それくらいなら問題ないか……わかりました」

 

大問題である。

 

「さて、では早速やりたいことがあるんじゃが、許可をもらえるか?」

 

「何を?」

 

 

 

「理子を殺そうとした『盤星教』を潰す」

 

「……行こっかぁ♪」

 

 

二人の教師である夜蛾正道が報告を受け高専に戻った時、すでに彼らはいなかった。

間もなく盤星教が壊滅したとの報告を受けた。

何の力も持たない非呪術師だけでなく、呪術師も一人残らず再起不能にされたうえで捕縛されたという。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「君らが五条君と夏油君と……噂のヒノカミ様かい?

 聞きたいことがあるんだが」

 

「なんじゃ?」

 

「どんな異性が好み(タイプ)だい?」

 

「「は?」」

「獅子目言彦」

 

「……誰それ?」

 

「儂の恋人」

 

「アンタ恋人いたの!?そのナリで!?」

 

「いて悪いかぁっ!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……げほっ、げほっ」

 

「灰原ぁっ!!」

 

「あれ、ここは……高専?」

 

「できた、呪禁存思……!」

 

「やはりお主はシャーマン寄りじゃな夏油。

 これからも励め。さすれば儂の補助が無くとも自力で蘇生できるようになる」

 

「はい!!」

 

「……ズルくね?天神武装とか言うのといい、なんで傑ばっかり強くなるワケ?」

 

「儂は元々凡人じゃからな。儂が使う術は貴様のような天才タイプとは肌が合わんのよ。

 ククク、このままでは『最強』の称号は夏油のものになるかもなぁ?」

 

「あぁん!?……久しぶりに稽古つけてくんねぇ?」

 

「げらげらげら……また鼻が伸びてきたかぁ?

 どれ、ぼっきりと手折ってやろう」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「焼き討ちじゃぁーーーーーーーーっ!!!」

 

「待ってください!我々呪術師が、非呪術師を手にかけるわけには……!」

 

「おい傑……村ぐるみでガキんちょ嬲ってるような奴らを見逃せってのかぁ……!?」

 

「それはっ……だが……!」

 

「外道畜生に容赦なぞいらんわ!

 後で儂とお主で全員蘇生すりゃいいじゃろ!!」

 

「…………死ね猿どもがぁーーーっ!!」

 

「お前のが溜まってんじゃねぇか!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

時は流れる。

五条悟と夏油傑は高専を卒業し、同時にヒノカミはこの世界から立ち去った。

そして二人は生徒から教師となった。

 

天元すら遥かに凌駕する鬼神の薫陶を受けた二人の呪術師の力は特級という階級に収めることすらおこがましく、また彼らの教導を受けた後輩や生徒の成長も著しく。

腐敗した呪術師の上層部は目障りな若造どもを何とかして排除したいと考えたが消してしまうには二人の能力はあまりに惜しく、搦め手で縛り上げようとしても力づくでなぎ倒していく。

やがて東京高専はアンタッチャブルな領域と認識され、歴史ある名家とやらはこぞって距離を取った。

対して問題を抱えた子供らが救いを求めるかのように引き寄せられ、少しずつ勢力を拡大させていった。

 

 

星漿体天内理子を巡る戦いから12年。

 

「アダダダダダッ!ギブ!

 ギブだって傑!」

 

「はっはっは。まだまだ足りないさ。

 生徒が死にかけてる時に土産を選んでいたような馬鹿にはね……!」

 

「いや、もう特級に片足突っ込んでる恵なら大丈夫かと……イギャーーーッ!」

 

「成長しないね、コイツ。夏油様の爪の垢煎じて飲ませたのに」

「吊るす?もう吊るした方が早い?」

 

「え?いつの間に爪の垢飲まされてたの僕?」

「え?いつの間に爪の垢取られてたの私?」

 

眼帯で六眼を隠す五条は、袈裟姿の夏油に卍固めで締め上げられていた。

二人の傍には侮蔑の目を向ける双子の少女と、隅で申し訳なさそうにしている恵と呼ばれた少年。

 

そして椅子に縛り上げられた少年『虎杖悠仁』が呆然とその寸劇を見つめていた。

 

「……え~~と?」

 

「あぁごめんよ。虎杖君、だったね。

 私は夏油傑。この馬鹿と同じく呪術高専の教師さ」

 

ようやく締め技をほどいた夏油が、人によっては胡散臭いと取られる笑顔で虎杖に近づく。

 

「事情は聴いている。宿儺の指を取り込んだと」

 

「あ、はい、すんません……」

 

「ハハハ、悪いのは全部この馬鹿さ。

 だが巻き込んでおきながら申し訳ないんだが、私たちに協力してもらえないかな?」

 

「協力?」

 

虎杖が平安時代の呪詛師『両面宿儺』の指の一つを取り込み、宿儺の意識が復活した。

それに呼応してか、他の宿儺の指も活性化しているらしい。指は呪いを引き寄せ、多くの被害を生むだろう。

宿儺は四つ目四つ腕なため、指は全部で20本。内6本は高専が確保した。

 

「宿儺の器となった君は、他の指を引き寄せる。

 君の中にいる宿儺が力を取り戻そうと呼びかけているからね。

 つまり言い方は悪いが、虎杖君にはこの指を回収するための生餌になってほしいんだ」

 

虎杖が呑みこんだものと同じ宿儺の指の一つを、夏油が虎杖の前に掲げる。

 

「もちろん、僕と仲間たちが君の命と立場を守るよ。

 上の連中は宿儺の器となった君を『死刑にしろ!』なんて騒いでるけどねぇ」

 

「あの腐った連中に、私と悟を敵に回してまで実行する気概はない。

 それで、どうかな?引き受けてくれるならことが終わった後で君の体から宿儺を引きはがそう」

 

 

『ほざいたな蛆どもが』

 

 

「「「!?」」」

 

そこでここまで沈黙していた宿儺の意識が表に出てきた。

虎杖の頬に宿儺の口が浮かび上がっていた。

 

「愉快な体だね」

 

『この儂を祓うだと?惰弱な呪術師風情が。

 小僧の体をものにしたら真っ先に殺してやる』

 

「『殺してやる』……?」

 

 

 

「「できもしないことをほざくなよ三下」」

 

 

 

五条と夏油の雰囲気が変わった。

五条は眼帯を持ち上げて六眼を露出させ、夏油の背後に二体の鬼が出現する。

 

(馬鹿な、何だこの呪力量は!?儂をも凌駕するだと!?

 そしてあの二体……降魔調伏の式神!?)

 

「時代は変わったんだよ、おじーちゃん♪

 仮にお前が全盛期の力を取り戻したところで、僕らには及ばないのさ」

 

「尤も、取り戻すことすらできないがな」

 

夏油は持っていた宿儺の指を後ろに放り投げた。

 

ガブゥッ!!

 

『!?』

 

「呪霊や呪物は式神たちの食事にしているんだ。

 流石に貴様の指ほどとなると消化に時間がかかるので間をおいて一度ずつしか与えられないが……これでようやく6本目だ」

 

「アハハハ!残る全部を集めたとしても14本分。

 七割までしか取り返せないんじゃあ勝ち目なんかないよねぇ!」

 

『貴様、らぁっ!!』

 

「貴様が協力を拒むというのなら、この場で引きはがし彼らの餌にしてやろう。

 選べ。指を集めるまで生きながらえるか、すぐに死ぬかだ」

 

『…………っ』

 

 

六眼と無下限術式を持つ呪術師御三家の一つ五条家の現当主。『対人最強』五条悟。

特級呪霊を凌駕する式神を従え、あらゆる呪いを祓う霊媒師。『対霊最強』夏油傑。

 

 

「頭が高いぞ、骨董品」

「僕たちは、最強なのさ」

 




『呪術廻戦』より。
実は最後まで見てなくて、年末の休みを使って一気読みしました。
リクエストでもあったんで本作で扱えないか考えながら読み進めてたんですが……無理でした。
とにかく相性が悪すぎる!具体的には以下。

・死滅回遊や天元の力の規模から推測すると、ヒノカミの出力が高くなりすぎる。
・天神武装と不可死犠が呪術・呪霊特攻。
 登場人物の誰かが使えるようになった時点でバランスが壊れる。
・ヒノカミには呪いが通じない。
・呪術師上層部がクズしかいない。

ヒノカミが動けない理由も動かない理由もないため、彼女を普通に参戦させるとその瞬間に全て蹂躙されます。
ならば『登場人物の誰か一人にだけ接触し力を渡してから立ち去れば』とも考えましたがそれも不可能。
なぜならヒノカミと最も親和性が高いキャラが『夏油傑』であるためです。
能力的にも性格的にも近しく、彼が学生時代の内に接触すると彼が高専から離反し呪詛師になる理由が大体消えてしまう。
そして彼との親和性が高すぎるからこそ、他のキャラを選ぶのもなんか違和感がある。

どうあがいても原作が崩壊するため、短編とすることにしました。
それでも途中まで外伝として考えていたせいで、普段よりも1話当たりの文字数が長くなりましたが。
尚、夏油が従えている式神はハオが使っていた前鬼と後鬼です。
夏油が呪霊を食うことで受けている負担に気付いたヒノカミが、やめさせるためにプレゼントしました。

そして年の瀬の今になって投稿した理由ですが、次の外伝の投稿開始が明日1/1を予定しているためです。
凡そ頭の中に話ができあがったのに外伝を始めてしまうと、そちらを終えるまで短編を投稿しづらい。よって大慌てで書き上げ、ろくな推敲もせずに投げることとしました。文法や表現が酷い有様だとは思いますがご了承ください。

そして次の外伝は、現在10話ほど書き上げています。
今日みたいについつい短編書いちゃうから進みが遅い。あまり期待せずにお待ちいただければ幸いです。

では改めて、今年もお疲れさまでした。
来年からもよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。