病が消えた炭十郎であるが彼は生まれつき虚弱体質。
このままではまたすぐ病にかかってしまうだろう。
折角呼ばれて蘇生までしたのにまたすぐ死なれてはたまらない。
彼が人並に頑丈な体になるまではこの世界に滞在することにした。
とはいえ、そこまで深刻な症状ではない。
体が弱っていた一番の原因は子供たちを優先するあまり満足な食事を取っていなかった事。
土台は整えてやったので、あとは食事療法で十分だ。
食料はヒノカミがいくらでも用意できる。妻の葵枝に病人食の作り方も教えた。
後は安静に過ごしていれば自然と回復するだろう。
付きっきりで看病する必要がないのだからと、ヒノカミは山の外に何度も出かけている。
外出の理由は『この世界の強度が妙に高い』原因を調べるため。
平穏な世界なら蘇生術なんて使えない。そんな高度な術を無理やり使えば間違いなく世界にひずみが生じる。
であればこの世界にもなんらかの超常が存在しているはずだ。
そしてある日、いつも通り人目を避けて夜中に飛び回っていたヒノカミは夜明け前に大きな力の発生を感じ取った。
力の発生源はすぐに消えてしまったが、何らかの痕跡でも残っていればとその場へ向かう。
「しの、ぶ……」
「姉さん!」
そこには瀕死の重傷を負った姉と、それを抱える妹の姿があった。
おそらく先ほど感じた力が姉の方に振るわれたのだろう。
しかし廃刀令の時代に刀を携えており、学生服と着物の中間のような妙な服を着ている。
事情は分からないが表舞台に立つ人間ではあるまい。
彼女が傷ついたのは、彼女の自業自得である可能性すらある。
「とはいえ、見捨てるのは寝覚めが悪いの」
「っ!?何者!?」
気の強そうな妹がこちらに気付いて、涙を流しながらもまなじりを吊り上げ、右手で姉を抱きかかえつつ左手で刀を構える。
「早とちりするな……その嬢ちゃんを助けてやる」
「!?」
ヒノカミは怪我人に、白い炎を投げつけた。
「貴様ぁっ!……!?」
炎に包まれた姉の姿を見て一瞬激昂したようだが、触れている自分が燃えておらず、熱さを感じないことに気付いたようだ。
「ゲホッ……あら?あらら?」
「なっ、姉さん!?」
息も絶え絶えだったはずの姉が胸元を押さえながら呑気な声を上げ始め、妹はいよいよ困惑している。
そして丁度朝日が昇り、3人を太陽が照らす。
「日の光を、浴びてる……!?」
「あなたは一体……」
「ふむ、そりゃ気になるか。
儂もいくつか尋ねたいのじゃが……」
道端の血だまりが残っている。間もなく付近の住人も目を覚ますだろう。
長話になりそうだからどこか落ち着けるところに行きたい。
しかしこの世界でヒノカミが案内できる場所と言えば。
「……竈門家しかないよなぁ」
「「え?」」
ヒノカミは二人の肩を掴み雲取山に転移。
まだ子供たちは眠っているようだが、母親の葵枝は起きていた。
「あらヒノカミさま。お客様ですか?」
「おはよう、葵枝。すまんがちと部屋を借りてよいか?」
「構いませんよ。奥の部屋をお使いください」
「え……?え……!?」
「ここは、どこ!?」
「全部説明してやるから、ついてこい」
急展開の連続に思考が停止しかけている二人を引きずって、まだ寝ている子供たちを起こさぬよう裏手から部屋に回る。
さして広くない部屋に並んで正座し呆然としていたが、葵枝にお茶を出されて二人はようやく再起動した。
「え……と……まずはお礼を。
危ないところを救っていただき、ありがとうございます。
私は胡蝶カナエと申します」
「あっ、姉を助けていただきありがとうございます。
妹の胡蝶しのぶです。
先ほどは刀を向けてしまい申し訳ありませんでした!」
「感謝と謝罪の言葉、確かに受け取った。
儂はヒノカミと言う。
お主らも儂に聞きたいことがあるとは思うが、儂もお主らに話を聞きたくての。
世話になっとるこの場を借りた」
自己紹介が済んだところで互いの事情の説明に移る。
とは言え、ヒノカミから言えることは多いようで少ない。
『ここの一族が崇めている神さま』。以上である。
流石にすんなりと受け入れられはしなかったが、少なくとも神を名乗るに相応しい力を持っていることだけは彼女らも身を持って理解していた。
続いて胡蝶姉妹から彼女らの事情を伺うことになったのだが。
「鬼と、鬼殺隊かぁ」
「えぇ。私は隊士たちの最高位である柱の一人、『花柱』を名乗っています」
話をしている内に目を覚ました子供たちに群がられつつ、ヒノカミは唸る。
長男の炭治郎と長女の禰豆子が何度も注意し引き剥がすが、彼ら二人に対し弟妹は4人。手数が足りなかった。
やがて母から『朝食の準備ができた』と呼ばれ子供らは一斉に離れていった。少し寂しかった。
「……もしや、お主らは儂を鬼と思ったのか?」
「はい。日を浴びても平然としていらしたので、疑いは晴れましたが」
「……う~~~ん」
『鬼舞辻無惨』。
千年以上もこの国の闇に潜む鬼の首魁。
人に自らの血を植え付け、人食い鬼に変えるという。
鬼に変えられた者。
鬼に食われた者。
無惨自身に食われた者や弄ばれた者。
犠牲者は数知れぬという。
ヒノカミの脳内裁判にて有罪か無罪かと言えば、議論の余地もなく有罪である。
見つけ次第スピリット・オブ・ファイアのおやつにしたい。
だが奴は1000年以上も姿を隠し続け、所在どころか顔すらわかっていないという。
よほど警戒心が高いか、小心者か、あるいはその両方か。
この世界では広範囲の領域を広げるのは無理そうだ。
相手の情報もほとんど無いとあれば、見つけ出すにはかなり大掛かりな捜索を行わねばなるまい。
しかしそうすると、ヒノカミという圧倒的強者が自分を狙っていると知った無惨は全力で姿を晦ますだろう。
オマケに時代が悪い。大正時代となれば海外に逃げ出すのも容易い。
捜索範囲が地球全域となれば、見つけ出すのにどれほどの時間がかかるか。その間にどれほどの被害が出るか。
無惨の行方がはっきりしない内は、ヒノカミが直接動くのは悪手だろう。
「……ヒノカミさま、どうか鬼殺隊にお力添え頂けないでしょうか!
我ら人の身でできることは限られますが、それでもできうる限りのお礼を致します!」
「お願いします!」
「……うぅ~~~~~~ん」
そして遥か昔より無惨と奴が従える鬼を退治するため活動しているのが、彼女らが所属する『鬼殺隊』。
そこに所属する者の大半は鬼に大切な者を奪われた復讐者。
かなり過激なようだが、彼らの復讐には正当性がある。ヒノカミは復讐を否定しない。
鬼を人に戻す手段はないようだが、あったとしても対処は難しいだろう。
無理やり鬼にされた者たちは哀れと思うが、精神まで変質し人を食い殺そうとする鬼を、己の命を懸けて殺さず救えというのはあまりに傲慢だ。
それでも鬼も犠牲者であるので、可能ならば救ってやりたいとは思うが。
よって、ヒノカミとしては揃って頭を下げる胡蝶姉妹の懇願に応じてやりたい。
むしろこちらからお願いしたいくらいだ。
無惨を放置すれば、竈門一家も犠牲になるかもしれない。
だが一つだけ、ヒノカミと鬼殺隊が協力するには非常に深刻な障害がある。
「……儂はお主らに手を貸してやりたいとは思う。
じゃがおそらく、お主らが儂を『受け入れられぬ』と思うんじゃよなぁ」
「……?どういう意味でしょうか」
「つまり……」
ヒノカミは頭の横にある『鬼』の仮面を掴み。
「こういうことじゃよ」
「「!?」」
『鬼の鎧』を纏った。
胡蝶姉妹の勘違いは、勘違いではなかった。
ヒノカミは『神』であり、『鬼神』としての側面を持っている。
もちろん無惨とは全くの無関係であり、人喰いもしない。
「だがそれでも鬼は鬼じゃ。
お主らは儂の、鬼の手を取ることができるのか?」
憤怒の表情を持つ巨躯の鬼が試すように右手を差し出す。
しのぶは思わず跳ぶように後退り。
「……は?」
カナエは前のめりになって鬼の手を握りしめた。
カナエは享年17歳。
冨岡と同い年で、彼は原作開始時19歳だったそうです。
よって彼女の死亡時期は原作の2年前ほど。
そして炭十郎の死亡時期は明記されていませんが、原作17巻の『父が病死する10日前』の炭治郎の姿が原作開始時の禰豆子(12歳)より幼く見えるので、11歳と仮定。
原作開始時の炭治郎は13歳なので、炭十郎の死亡時期は原作の2年前。
以上より、この二人の死亡時期はほぼ同時としました。
ちなみにこの時しのぶは14歳。ちょっと幼く、かつ怒りっぽく書いたつもりです。