『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第3話

 

高給につられた者や正義感に溢れた者などのごく一部を除き、鬼殺隊の隊士は家族や大切な者を鬼に奪われた復讐者だ。

激しすぎる修行で脱落し、過酷な最終選別で命を落とし、鬼との戦いで鬼に殺され鬼に食われ。

隊士の殉職率と負傷による離職率は桁外れだ。年を取り引退を迎えるまで生き延びた者など数えるほどしかいない。

それでもまだ多くの隊士たちが戦場に立ち、隊士を志す若者が詰めかける。

 

つまり『鬼殺隊』とは『自分や仲間の命を犠牲にしてでも鬼を殺したい人間の集団』なのである。

 

そしてヒノカミもまた鬼の姿と力を持っている。

鎧を纏わねばそうだと分かるまいが、隠して付き合い後でバレれば彼らは裏切られたと思うだろう。

だから、ヒノカミは最初から『自分は鬼だ』と明かすことにした。

その上で選択を彼らにゆだねた。

……もしかしたら『迷った末に実利を求めて手を伸ばすかも』とは思った。

 

「……え~~と?」

 

しかし間髪入れず差し出した手を掴まれた。この反応は予想外すぎた。

 

「……すごい!すごいわしのぶ!

 やっぱりいたのよ!『人と手を取り合える鬼』が!!」

 

「へ?……あ!」

 

カナエは花の咲いたような笑顔を見せる。瞳はキラキラと子供のように輝いていた。

 

「なんじゃなんじゃ!?」

 

「あの……実は……」

 

困惑するヒノカミに、彼女の妹であるしのぶが説明する。

 

確かに鬼殺隊の隊士の大半は、鬼への殺意を滾らせる復讐者。

しかし鬼殺隊の柱の一人『花柱』胡蝶カナエは、『人と鬼の和解』を夢見る理想論者だった。

よって鬼であることは彼女にとってむしろ高評価に繋がる。

自らの命を救ってもらったこと、人を食わぬと宣言していることなど、目の前の鬼神はまさに彼女の理想形だ。

 

「えぇ~~~……『花柱』とは『頭お花畑』という意味か?」

 

「違っ……否定、できない……!」

 

脅しのつもりだったのに拍子抜けしてしまったヒノカミはさっさと鬼の鎧を解除した。

それでもカナエはヒノカミの手を握ったままぶんぶんと腕を上下に振るう。

 

「あの!どうか、どうか是非私と友人に!」

 

「あぁ、はいはい。友人な。わかったわかった。

 ……よかろう。儂の負けじゃ。

 儂は鬼殺隊ではなく『胡蝶カナエ』個人に手を貸してやる」

 

「ありがとうございます!!」

 

本当は鬼殺隊全体に手を貸せれば最良なのだが。

無惨捜索のために彼らの人脈と情報網は是非ともほしい。

見つけさえすればヒノカミが瞬殺できる。

しかししのぶの反応から無理だと判断した。

それどころか獲物を横取りするような形になるので、鬼殺隊の一部が自分を殺しにきそうな予感さえある。

 

「……あの、姉さん個人にとはどういうことで?」

 

「儂の術を教えてやる。

 鬼の強さがどれほどかは知らんが、柱とやらのお主が身に付ければその強さは格段に向上するはず。

 ……ただし悪用はするなよ。

 余計な騒動も避けたいので他の連中に口外するのも慎んでもらう」

 

「わかりました!」

 

「……私にも、お願いできるでしょうか?」

 

「お主が儂を受け入れられるのならば」

 

「……お願いします!」

 

姉のお気楽さに拍子抜けしたからか、しのぶもまた鬼への殺意を呑み込んだ。

たった二人では心許ないが、彼女らは既に鬼殺隊という組織の最上位にいるらしい。

であれば彼女らが力をつけ鬼殺隊の中での発言力を増せば、組織ももう少しヒノカミに歩み寄ってくれるかもしれない。

 

(気の長い計画じゃが、やむを得んか)

 

 

 

「……あの!」

 

「「「?」」」

 

弟妹達の面倒を見ている両親に代わり、一人この場に残っていた炭治郎が突如声を上げる。

 

「俺にも修行を付けてもらえませんか!?

 俺も、強くなりたいんです!」

 

「「えぇ!?」」

 

「……ほぅ」

 

一般人を巻き込まないために戦っている胡蝶姉妹は、幼い炭治郎に思いとどまるよう説得するが。

 

「でも、いつ鬼が襲ってくるかわからないんですよね?」

 

「……儂がおる限りこの山は世界で一番安全じゃ。

 無惨なる害悪の存在を知った以上、奴が消えるまで立ち去るつもりもない。

 それでも強くなりたいと望むのか?」

 

「はい。確かにヒノカミさまが居れば鬼から守ってもらえるのかもしれません。

 でもだからってヒノカミさまに任せっぱなしで何もしなくていいわけじゃないですよね?

 弟や妹たちは、俺が守らなきゃ。俺は長男なんだから」

 

「……よかろう」

 

「ヒノカミさま!?」

 

「ただし、炭十郎がある程度健康になるまで待て。

 修行を付けるのはその後じゃ。カナエとしのぶもしばし待ってもらいたい」

 

「どういうおつもりですか……?」

 

「見せたいものがあるんじゃ。

 ……さて、我らも飯にしようか。

 その後お主らを家まで送ろう」

 

強引に話を切り上げ立ち上がったヒノカミに、お願いしている立場の二人は何も言えなかった。

 

今までの竈門家なら急な来客をもてなすような食料の余裕はない。

しかし炭十郎の分と同様にヒノカミが食料を産み出し、そちらを振舞った。

朝食後すぐに帰ろうとしたお客さんたちを引き留めようと子供たちがぐずったが、またすぐに呼ぶことになると言い聞かせ立ち去る。

胡蝶姉妹の住居である『蝶屋敷』の傍に転移したヒノカミは、一カ月ほどでもう一度会いに来ると告げ二人を置いてすぐに立ち去る。

 

 

 

「「「カナエさまーーー!しのぶさまーーーー!!」」」

 

「生きてた……生きでだぁ~~~~っ!!」

 

「…………!」

 

「「え?え??」」

 

扉を開けた途端、姉妹が引き取って一緒に暮らしている子供たちが飛びついてきた。

 

カナエの鎹鴉は彼女の危機を伝えるために、すでに戦場から飛び立っていた。

その連絡を受け飛び出したしのぶは鬼殺隊最速を誇る剣士であり、カナエとしのぶの鎹鴉は彼女の速さについてこれなかった。

そして鎹鴉や隠たちが遅れてその場に辿り着くと、そこにはカナエが流したおびただしい血痕だけが残っていた。

よって胡蝶姉妹は鬼に食われたらしいという話が、一晩で鬼殺隊に広まっていたのだ。

 

 

((…………しまったーーーーーー!!!))

 

 

胡蝶姉妹の死亡を受けて急遽柱合会議まで開かれている有様であり、その場に駆け込んだ二人は最初は『化けて出た』と騒がれ、生きていたと判明してこっぴどく叱られた。

『何故消息を絶った』『今までどこにいた』と柱たちに問い詰められてもヒノカミのことを話すわけにはいかず。

ひたすらに謝罪し頭を下げることしかできず、最終的にお館様のとりなしでなんとかその場は収まった。

 




本作でヒノカミと協力体制を築くことができる鬼殺隊関係者は、鬼に友好的な胡蝶カナエか鬼にされた妹を救うため隊士となった炭治郎しかいません。
本作では後者が生まれないので、前者の生存は必須となります。
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