申し訳ありませんが、本作では以下の形で進めさせていただきます。
・ヒノカミが自分を『鬼神の一種』と認識し鬼を名乗っている。
・ヒノカミは鬼のような姿に変身し、血鬼術のような超常の力を使う。
・鬼殺隊は無惨と関わりあるか否かを区別せず鬼を憎んでいる。
そして物語的に、ヒノカミを『鬼』扱いしておきたい理由があります。
どうかご容赦ください。
そしておよそ一月後。
まだ雪の残る雲取山の山頂に、ヒノカミたちは再び集う。
再び連れてきた胡蝶姉妹と炭治郎がヒノカミと並んで、神事の装束を纏った炭十郎を見つめる。
「これが、見せたいものなのですか?」
「あぁ、『ヒノカミ神楽』という。
かつて儂が救った青年、継国縁壱が彼らの一族に託した舞じゃ。
……まったく、儂の名なぞ付けおってこっ恥ずかしい」
本来は年の初めに行うものだが、今回は特別に炭十郎にお願いした。
日没から夜明けまで舞うような無理はさせない。半刻で十分。
その程度なら問題ないくらいには、炭十郎の体調も回復している。
『直接ヒノカミさまに見ていただけるとは光栄だ』と当人も非常に乗り気だ。
尚、『本当は舞ではない』それを神楽として勝手に保存していたのも、舞に名前を付けたのも、縁壱ではなく竈門一族の先祖である。
「……継国?どこかで聞いたことがあるような……」
「かつてとは、どのくらい昔の話なのです?」
「大体400年前じゃな」
「……本当に神さまなんですね。
いえ、疑っていたわけではないのですが」
「げらげらげら。……では頼むぞ、炭十郎」
「はい」
空気が変わった。静寂が場を支配する。
ただ、炭十郎の燃えるような呼吸音だけが響く。
『……ゴォォォォォ』
「!?」
「その呼吸は……!?」
胡蝶姉妹の驚愕を無視して、舞が始まる。
炭十郎が七支刀のような祭具を握る。
『円舞』円を描く。
『碧羅の天』腰を回して空に円を描く。
『烈日紅鏡』肩の左右で素早く振るう。
『灼骨炎陽』太陽を描くように大きく振るう。
『陽華突』柄尻を左手で押し空に突き出す。
『日暈の龍・頭舞い』龍のように駆け巡りながら振るう。
『斜陽転身』飛び上がり空中で逆さまになって振り上げる。
『飛輪陽炎』揺らぎを加えて振り下ろす。
『輝輝恩光』宙に螺旋を描く。
『火車』一回転しながら縦に振り降ろす。
『幻日虹』体を捻り回転する。
『炎舞』素早く振り下ろした後すぐに振り上げる。
そして、もう一度『円舞』へ。
何度も何度も止まることなく舞を続ける。
「そんな……まさか……!」
「こんな型知らない……でも!」
「ど、どうしたんですか、お二人とも?」
両目を見開き震える胡蝶姉妹に炭治郎が声をかけるが、その言葉は届いていない。
「間違いないわ……この舞は我ら鬼殺隊の、『鬼狩りの剣技』よ!」
「えぇっ!?」
「やはりか」
炭十郎の付けている花札の耳飾りの記憶を読み取った時に一瞬だけぼんやりとだが、刀を振るい化け物と戦う縁壱の姿が見えた。
つまり縁壱は、当時の鬼殺隊に参加していたのだろう。
故に侍である彼が遺した舞とは、彼が振るっていた剣の型に他ならない。
「継国、縁壱……『継国』!?
思い出した!始まりの呼吸の剣士の名前!」
「ではまさかこれが……長い歴史の中で失われた、『始まりの呼吸』……!?」
「ヒノカミ神楽が、鬼殺隊の……ご存知だったんですか!?」
「推測でじゃがな。
……そこまで大層なものだとは思っていなかったが」
つまり竈門家とはただの一般人ではない。
『鬼殺隊の剣技である始まりの呼吸を400年間受け継いできた一族』なのだ。
「炭治郎、お主はあの舞は踊れるか?」
「型は、覚えています。
父さんのように半日もずっと踊り続けることはできませんが……」
「半日!?」
「ふむ、剣技を学び始めていた段階か。
……どうじゃ?これでもまだ炭治郎が修行に参加することを認められぬか?」
「……撤回します。
『始まりの呼吸』は現代の我らが扱う全ての呼吸の祖であり、どの呼吸より優れていたと聞きます。
それを扱う剣士となればこちらから頭を下げて鬼殺隊に勧誘したいほどです」
「くけけけけ。
まぁ才能は炭十郎の方がぶっちぎりのようじゃがな。
しかし流石に妻子を持ち、少し前まで死にかけてた病人を戦場には駆り出せぬ。
……だからその辺にしておけ、おい」
とっくに半刻は過ぎているのに炭十郎の舞は止まる様子がない。
完全に集中している。いわゆるトランス状態というやつらしい。
例え今突然鬼に襲われたとしてもそれを容易く躱し、返す刀で首を斬り落とすだろう。
「…………ふん!」
「げふぅっ!?」
「父さーーーーーん!?」
しかしヒノカミの速さには反応できなかった。
どてっぱらに拳を叩きこまれ悶絶する炭十郎は、あらかじめ竈門家の部屋に広げておいた布団の上に転送された。
「……さて、では術の伝授に移るが」
「大丈夫なんですか!?彼は大丈夫なんですか!?」
パンパンと埃を払うかのように掌を叩いたヒノカミは、何事もなかったかのように話を続けた。
「あのまま続けさせるよりマシじゃ。
……んで、儂が教える術は二つ。『天神武装』と『不可死犠』という」
「天下無双?不可思議?」
「くけけ、お主らがどんな文字を想像しているのか手に取るようにわかるわい。
じゃが残念ながらこんな字じゃ」
ヒノカミは指先から炎を出して空中に文字を描く。
「『天神武装』は生命力を体外に放出して物質化し、鎧として纏う術。
発動中は身体能力、特に頑強さや自己治癒能力が強化される。
そして『不可死犠』はお主らにも見せた白い炎。
己や他者の傷を癒し病を消す。
極めれば死後間もないなら死者すら蘇生できるが、そこまでは無理じゃろうな」
「すごい……!」
「でもどうやって術を覚えるんですか?
まさか何年も山ごもりとか、お経を唱えたりとか……!?」
「そういう修験道染みた方法ではない。
もっと手っ取り早く済ませる」
そう言って彼女は掌の上に小さな火を作り出す。
以前は長時間相手に術を浴びせたり相手の生命力を使って術を使って見せたりを何度も繰り返す必要があった。
しかし流石に時間と手間がかかりすぎると、今では術の伝授にはアレンジを加えている。
イメージ元は霊光波動拳を継承する霊光玉と、OFAだ。
「これが種火じゃ。受け入れれば術が継承される。
始まりは小さな火じゃが、肉体とともに育て上げていけばやがて大いなる炎となる」
「そ、そんなお手軽なんですか……!?」
「ただし術の適性は個人の素質に左右される。
『天神武装』は習得速度に差が出るくらいじゃが『不可死犠』は合わなければそもそも習得できん。
お主らには可能性がありそうなんで両方渡しておくがな」
そう言って3人の体にそれぞれ二つの炎を押し当てると、体の中に吸い込まれていった。
「……特に、何の変化もありませんね」
「くけけ、普通の人間ならな。
まぁ数時間もすれば実感も湧くじゃろうて」
あとはこの種火をどれだけ大きな炎にできるか。それは彼ら次第だ。
「無理やり薪をくべることもできなくはないが負担も大きい。
適性と傾向も見たいので、しばらくはお主らなりに試行錯誤しながら鍛えてみよ」
「「「はい」」」
今後他の外伝を書くことになった場合も、術の継承はこのやり方で行こうと思います。