『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第5話

 

カナエとしのぶには鬼殺隊の任務がある。

オマケに彼女たちが暮らす蝶屋敷は鬼殺隊の治療院を兼ねており患者が運ばれてくることもあるので、頻繁に空けることはできない。

治療院だからこそ何も知らぬ隊士が出入りすることも多いため、組織とは無関係なヒノカミと炭治郎が出入りしていては非常に目立つ。

よって、彼らの修行は雲取山で行われている。

その都度ヒノカミが二人を連れて転移で往復しなければならないこともあり、二人の修行に付き合ってやれる頻度はかなり少ない。

 

「お館様にも協力していただいているのだけれど……どうしても多忙なのよね」

 

「ふむ、当主は割と柔軟なんじゃな」

 

鬼殺隊の当主『産屋敷耀哉』はすでに胡蝶姉妹の事情とヒノカミのことを知っている。

胡蝶姉妹死亡騒ぎに際して当主にだけは事情を明かさぬわけにはいかず、事後承諾となったが特に問題が起きなければ良しとしている。

そして産屋敷は二人の行いを黙認し、支援すると約束。

以降は出来る限り胡蝶姉妹が時間を取れるよう任務を割り振りを調整してくれているらしいが、姉のカナエは鬼殺隊の柱であり妹のしのぶは幼くして医術を治めた鬼殺隊一の薬師。

彼女らでなければできない役目があり、彼女らでなければ救えぬ命がある。

こうしてヒノカミに指導してもらえるのも1か月に1度が精々だ。

今日もしのぶは急患が入ったためカナエしか連れてこられなかった。

 

「とはいえ、流石に歴戦の剣士じゃの。

 出力も持続時間も順調に伸びておる。

 お主らはこのままでよかろう」

 

「……炭治郎くんは、どんな調子?」

 

「全集中の呼吸の精度を上げている段階じゃな。常中には程遠い。

 天神武装も短時間。まだ戦闘しながらでは維持できん」

 

「……ねぇヒノカミ。

 実はもう一人、面倒を見てほしい子がいるの」

 

「ん?」

 

しのぶは弟子という立場を取っておりヒノカミと話す時は敬語だが、カナエとは友人だ。

だから公的な場でなければ敬称も付けないし、こうして頼みごとをしてくることもある。

 

「私たちが引き取って育てている子の一人で、『栗花落カナヲ』というの。

 年齢は炭治郎くんの一つ上よ。

 ……私としては、あの子には戦場から離れて静かに生きてほしいのだけれど」

 

「……訳ありか?」

 

その少女が人買いにつれられているところを強引に引き取ったそうだが、どうやら家族から虐待を受けていたらしく精神疾患を抱えているらしい。

感情がまるでなく、自分で考えて動くということができないとか。

それでは里子に出すこともできず、よって彼女自身は鬼とは無縁であるのに鬼殺隊に身を寄せている。

 

「そんなあの子が初めてワガママを言ったのよ。

 私たちが修行していると聞いて、『私も強くなりたい』って」

 

「ふぅむ……」

 

「幸か不幸か、剣士としての素質は十分あるわ。

 幼い今の内から鍛えれば柱に至るかもしれない。

 ……今はまだ、炭治郎くんとそう変わらないくらい。

 でもだからこそ彼と一緒に競い合えばあの子にいい影響を与えられると思うの。

 それに炭治郎くんは、明るくていい子だから」

 

「そりゃ構わんが、となると竈門家で預かった方が良いか?」

 

「え?……う~~~ん……それはアオイたちが寂しがるかもしれないわね……」

 

「あぁ、他にも預かり子がいるんじゃったか。

 ……良し、丁度いい機会じゃろ」

 

「?」

 

カナエはヒノカミに、動く理由を与えてしまった。

 

ヒノカミは即座に雲取山山頂付近の岩壁に洞窟を造り、その中にすっぽり収まる小屋を建てる。

 

「んじゃ、ちょっと行ってくる。すぐ戻るでの」

 

「え?」

 

転移したヒノカミは宣言通り、数分程で戻って来た。

ただし先ほど立てた小屋の入り口からだ。

 

「準備できたぞ。入ってみぃ」

 

「?お邪魔、します?」

 

小屋の中は小さな部屋が一つだけ。

入り口の向かい側の壁にあるもう一つの扉以外は何もない。

促されてその扉を開けると、全く同じ構造の部屋に繋がっていた。

丁度この扉を挟んで鏡合わせのよう。

そのままヒノカミに連れられ正面にある小屋の外への扉を開く。

 

「ちょっとヒノカミさま!

 裏庭に勝手にこんなものを建てないでください!」

 

「え?え!?」

 

カナエの目の前には怒った妹と、蝶屋敷があった。

 

ヒノカミはしのぶをなだめすかして、これが雲取山との直通通路であることを説明する。

半信半疑だった彼女も何度か往復して、事実であると思い知らされたようだ。そして目が死んでいた。

 

「これで気軽に行き来できるじゃろ」

 

「「あ、はい」」

 

「んで、お主がカナヲかの?

 儂がヒノカミじゃ。これからよろしくな」

 

「……?」

 

 

その後転移門を備えた小屋を隠すように修行場を兼ねた屋敷を作り出し、以降の修行はここで行うことになった。

そして竈門家と蝶屋敷の娘たちの交流も始まった。

 

同じく天神武装と不可死犠の種火を受け取ったカナヲは、主に雲取山で暮らし炭治郎と競う日々を過ごした。

カナエの推測通り、炭治郎の優しさと快活さはカナヲを明るく照らし、少しずつ彼女の感情を引き出していった。

そしてカナヲの代わりという訳ではないが、竈門家長女の禰豆子が頻繁に蝶屋敷に向かうようになった。

蝶屋敷は慢性的な人手不足であり、そして竈門家は貧乏一家。

炭十郎も随分と健康的になり、弟妹たちも大きくなって彼女の手も空いてきた。

『ちゃんとお給金を出すから』としのぶに頼まれ、看護師としてアオイたちと一緒に働いている。

鬼殺隊の給料は、隊士でなくとも非常に多い。

蝶屋敷で医術を学んでいけば、いずれ医者として大成するかもしれない。

 

 

そして、ヒノカミがこの世界にやって来て約4年。

 

カナエは鬼殺隊最強の柱となり。

しのぶは癒しの奇跡を操る名医となり。

炭治郎とカナヲは若くして柱に匹敵する強者となった。

 

そして二人は胡蝶姉妹の推薦により鬼殺隊最終選別に参加。

鬼を生け捕りにし閉じ込めている藤襲山で7日間生き延びるという試練にて、山にいた鬼を全滅させるという快挙を成し遂げた。

多くの参加者たちの命を救い、多くの参加者たちの心をボッキリとへし折って、雲取山へと凱旋した。

 

ちなみに二人に次いで活躍した隊士候補は、可愛い彼女を連れた少年への嫉妬の炎を燃やす、この時代では珍しい金髪の少年だったという。

 

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