『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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この作品の中では、ハンドカフスは一般的な手錠のように押し当てるだけで拘束するものとしています。
黒影がエクトプラズムにたたきつけるように使用していたので大きな差異はないと思います。


第42話

『蛙水・常闇チーム、条件達成!』

 

他のチームが合格したという放送が流れてくる。

戦い始めてからすでに20分以上が経過した。制限時間は残り10分足らず。

ヒノカミは轟を押し切ることよりも姿を見せない八百万を警戒していた。

だから彼の出す氷を相殺し続け、結構な量の炎を消費してしまっている。

気付けば演習場内の住宅、つまりヒノカミの燃料は随分減っていた。

閑静な住宅地だった演習場はほとんどが焼け野原で、形を保っているのは轟が念入りに凍らせている周辺の数軒のみ。

まだまだ余裕があるとは言え明らかに目減りしては浪費を減らしたくなる。

ヒノカミは炎の一部をあえて周囲にまき散らし、勝手に燃え広がって炎が増えることを期待していた。

時々ちらりとゲートを確認する。ゲート周辺は真っ先に燃やし尽くしたので見晴らしがよく、動くものがあればすぐ気づく。

未だに八百万がそこに現れる気配はない。

 

(脱出での勝利を狙っている線は薄そうじゃな……。

 となれば儂をどうにかして倒し、ハンドカフスをかけるつもりか……!?)

 

戦いながら思案していたヒノカミにどこからか何かが飛んできた。

ヒノカミが咄嗟に刀で両断する。真っ二つになって地面に落ちたそれは、たった今頭に浮かんでいたハンドカフスだった。

 

「お待たせしましたわ!轟さん!」

 

「八百万!」

 

「なるほど、凍らせた周囲の建物の中に潜んでおったか。

 何をしておったのか知らぬが……今更出てきて儂に勝てるとでも?

 唯一の勝機と言えたカフスはこの有様じゃぞ?」

 

「……フフッ」

 

八百万は笑って小さな箱を肩に掲げてヒノカミに向ける。

下に付いた引き金を引くと、蓋が開き中から何かが発射された。

 

「ロケットランチャーか?儂に銃火器は……っ!?」

 

弾頭が爆発し炎が出れば自分の武器になるだけと甘く見ていたが、飛んできたものが何なのかに気づいて、慌てて刀で弾く。

ヒノカミの足元に転がったのは……ハンドカフス。

 

「これは……複製品か!?偽物で儂を捕らえたとして無効じゃぞ!?

 試合前に渡した本物でなければ、捕縛したとは認められん!!」

 

「そうでしょうね……ところで」

 

八百万は背負っていた袋をひっくり返した。吐き出された大量のハンドカフスが彼女の足元で小さな山を作る。

 

「どれが本物か、お分かりになります?」

 

「……!?」

 

ヒノカミは先ほど弾き落とした足元のハンドカフスを掴みとり凝視する。

 

(……色、形、構造……全く違いが判らん!おそらく素材の成分すら……!!)

 

困惑するヒノカミをよそに、八百万は手元のリモコンのボタンを押す。

周辺の住宅を覆っていた強固な氷と、住宅そのものが音を立てて崩れた。

中から無数の箱……いや、ロケットランチャーが現れ、銃口をヒノカミに向け取り囲んでいる。

彼女の手元のリモコンは発射スイッチなのだろう。そして弾頭はおそらく、複製品のハンドカフス。

 

「これだけの数を一斉に放てば、一つくらいならあなたの手足にかかるでしょう。

 それが偶然にも、たった一つしかない、本物のハンドカフスかもしれませんわね」

 

「!!!!」

 

教師側が判別できなければハンドカフスが本物か偽物かは関係ない。

偶然命中した一つを『本物だ』と言い張られれば、否定できない以上『本物』として扱わざるを得なくなる。

 

これが八百万が考えたヒノカミ攻略作戦。

彼女は試合開始直後から、ハンドカフスの構造解析とその精巧な複製品の量産、そしてハンドカフスを発射する機構の構築に全力を費やした。

轟が周辺の建物を念入りに凍らせていたのはヒノカミの燃料にさせないためでもあるが、一番の目的は八百万を隠し守りつつ、攻撃準備中であることを悟らせないため。

轟にヒノカミの炎を削らせたのは、流石にエンデヴァー並みの炎を纏われ続けてはハンドカフスが全て溶かされてしまうため。

 

「ちなみにこの武器、圧縮した不燃性のガスを利用しておりますの。

 構造はペットボトルロケットと同じような、ちゃちなものですわ」

 

つまりヒノカミが暴発させたり、火薬を燃料として奪い取ることはできないということ。

全方位からこの数の弾を発射されれば、そのすべて刀で撃ち落とすほどの技量はさすがになく、二次災害を期待して周辺に炎をまき散らしていた今のヒノカミでは炎が足りるか怪しい。

 

「あぁそうそう。実は弾頭すべてがカフスというわけではありません。

 少量ですが消火剤を詰め込んだ弾も混ざっておりまして……むやみに破壊するのはおすすめ致しません」 

 

「……か、かかか……」

 

ヒノカミは一歩引き下がろうとするが、八百万がボタンの上の指に力を入れたため踏みとどまった。

少しでも動けば撃つという意思表示だ。周囲の炎を集めることも、手元の炎を圧縮することも許さないだろう。よって爆発を利用しての離脱は不可能。

 

「轟さんもお手伝いをお願いします」

 

「あぁ」

 

轟は八百万が先ほど地面に転がしたハンドカフスの山に近づき、両手で一つずつ拾い上げて投擲の構えを取る。

ヒノカミの顔は盛大に引きつっていた。

 

「残り時間も少なくなっていますので、手早くいきましょう」

 

「かか、かかかか……!!」

 

「お覚悟を」

 

ポチ。

 

 

「かああああああぁぁ!!!」

 

 

『……轟・八百万チーム!条件達成!!』




ちょっと強引ですが、これでヒノカミを攻略したことにさせてください。
八百万を生かしつつ、アンチ轟みたいな能力を持つ主人公を倒す方法が、こんなんしか思いつかんかったんや……。
八百万のカロリー足りなそうですが、栄養補給の携帯食料くらい持ってると思います。
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