『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第7話 珠世

 

炭治郎たちが出会った鬼の女性『珠世』はかつて無惨に騙されて鬼となったが、数百年前にとある事件がきっかけで無惨の支配を逃れることができた。

以降は無惨を倒すために行動しているらしい。

そして青年『愈史郎』は珠世の手で鬼となった、無惨とは一切関わりのない鬼。

珠世が彼を鬼にしたのは重い病のため余命いくばくもなく、鬼となることでしか生きられなかったから。

ただ愈史郎は恩人である珠世への尊敬と好意が強すぎるせいか、珠世に近付く者は男女問わず攻撃的になり暴言を吐くという悪癖があった。

 

そして炭治郎たちに対してもそれを遺憾なく発揮した結果。

 

「カナヲが醜女のはずがないだろう!ものすごい美人じゃないか!

 瞳はパッチリしてるし鼻筋通ってるし髪もサラサラで時々ニコって可愛く笑うんだぞ!」

 

「た、たんじろ、もう、やめて……!」

 

「よく見てくれこの顔を!……なんで隠してるんだ?

 ちゃんと見てもらわないとカナヲがどれだけ美人か伝わらないだろ?」

 

グイッ

 

「!?どうしたんだ、顔が真っ赤じゃないか!」

 

「まって……かお、ちか……!」

 

コツン

 

「~~~~~~~~~~!!」

 

「やっぱりすごい熱……あぁっ!?

 大変です、珠世さん!カナヲが気を失った!

 カナヲを見てくれませんか!?病気かもしれない!」

 

「……その病気は私では治せませんが、命に別状はないので安静にさせておきなさい」

 

珠世は人間の医者の振りをして生活しており、実際に優れた医術を持っているのだが、調べるまでもなく匙を投げた。

恋の病はいつの時代でも不治の病なので。

 

しばらく後にカナヲは目を覚ましたが炭治郎と顔を合わせられず治療院の部屋の隅でゴロゴロと悶えながら転がり続けた。

自身も過去『珠世が好きなのか』と尋ねられた時に似たような反応をしたことがあったので流石の愈史郎も悪いことをしたと自覚し、これからはもう少し自制しようと心に決めた。

 

使い物にならないカナヲと看病する愈史郎を置いて話は進む。

 

「鬼殺隊の薬師と、鬼神の合作……!?」

 

「信じられないかもしれませんが本当です。

 先ほどの薬だけでなく、この癒しの炎の力もヒノカミさまから譲り受けたものです」

 

「この炎……まるで太陽の光のよう。

 見ているだけで私の中の鬼の細胞が悲鳴を上げています。

 血鬼術でもないのにこのような術が存在するとなれば、神の存在を頭ごなしに否定できそうもない」

 

「珠世さんは、鬼舞辻無惨を倒すために活動しているんですよね?

 カナエさんやヒノカミさまと協力することはできませんか?」

 

「鬼に友好的な柱……そのような方がいらっしゃるとは思いませんでした。

 他の鬼殺隊隊士に隠しながら鬼神と協力し、かつ鬼殺隊の当主はそれを認めている。

 であれば確かに、私を受け入れて下さるかもしれません」

 

珠世は無惨の支配を逃れてからずっと鬼の研究を続けてきた。

自力で他者を鬼に出来る事と言い、その知識と技術は本物だ。

そして自分の体に手を加え人を食わずとも生きていけるようになっている。

少量の血は必要だが、それは輸血と称して患者から買い取ったものだそうだ。

鬼そのものを憎む鬼殺隊では無理だろうが、カナエたちが拒絶するとは思えない。

珠世自身も協力者を得たいと考えてはいる。

 

「……ですが正直に言えば迷っています。

 勿論、炭治郎さんたちを信用していないわけではありません。

 しかし今日に至るまで、鬼殺隊の方に追われ殺されかけたことは一度や二度ではない。

 顔すらも見ていないようなお相手を信用するのは……」

 

「では、お会いになりますか?」

 

「は?」

 

炭治郎がゴソゴソと鞄を漁り、指先で摘まめるほど小さな何かを取り出す。

……これを先程無惨の前で使っていればよかったのかもしれない。

だが代わりに失われた命があった。

だから炭治郎は後悔していないし、神さまたちも否定はしないはずだ。

 

「それは……ガラス玉?」

 

炭治郎はその球体に、天神武装の炎を流し込む。

炎を吸い込み、玉は暖かい光を宿した。

 

「ゴホン……もしもーし、聞こえますかー?」

 

『何事じゃー?』

 

「!?」

 

「打倒無惨のために動いている鬼の人がいたんです。

 珠世という女性の方なんですけど。

 是非一度お会いしていただけませんか?」

 

『わかった。カナエとしのぶにも声をかける』

 

「よろしくお願いします!……これで数分もすれば来ると思います」

 

「え?え??」

 

そして炭治郎の宣言通り数分後。

 

「きゃー、きゃーっ!鬼殺隊の『花柱』、胡蝶カナエですーっ!」

 

「は、はぁ、珠世と、申します……?」

 

「カナヲが醜女じゃとオラァ!」

 

「げふぁっ!?」

 

「しのぶぅ!ちょっと毒盛れコイツに!」

 

「お任せください。丁度生かさず殺さずの新薬があります」

 

「や、やめろ貴様らっ……ぐぁぁぁぁぁ!!」

 

「待って、姉さんたち、待って!」

 

鬼の手を握ってぴょんぴょんとはしゃぐ柱。

左手の帯を操って鬼を雁字搦めにする鬼神。

動けぬ鬼に満面の笑みで劇薬を投与する女医。

 

元凶ではあるが自分を看病してくれていた鬼の青年を庇おうとするカナヲに対し、混沌とした場を作り出した元凶である少年は『みんな生き生きしてるなぁ』とニコニコ笑顔だった。

 

 

「……栗花落カナヲハ、美人デス……」

 

「「「わかればいい」」」

 

「良く、ない、よ!」

 

「ごめんなさいね~、ウチの妹たちと神さまが……」

 

「いえ、こちらこそ愈史郎が……」

 

状況が落ち着くまで随分時間がかかった。もうすっかり真夜中だ。

あらかじめ愈史郎が血鬼術で人払いの仕掛けを施していなければ、騒音で通報され警官がすっ飛んできただろう。

 

「……ゴホン、では改めまして。

 我々は無惨を討つため、珠世さんたちに協力をお願いしたいと思っています。

 無論、他の鬼殺隊の隊士から全力でお二人を守ります。

 そう簡単に信用いただけないとは思いますが……」

 

「いえ、皆さんのお人柄は理解しました。

 ……こちらからお願いさせてください」

 

「ありがとうございます」

 

「儂らは雲取山に居を構えておる。そちらにお主らの住居と研究施設を用意しよう。

 蝶屋敷に繋がる転移門もあるのでしのぶらとのやり取りも問題ない。

 門のことは隊士たちには秘密にしておるので安心して良い」

 

「そ、そうですか……転移……」

 

突然3人が目の前に現れただけでも驚いたと言うのに、息つく間もなく追加投入される燃料に珠世の表情が硬直していく。

硬直してなお美しい。きっと明日も美しいぞ。

 

「……おい、本当に安全なんだろうな?」

 

「儂は雲取山全域に結界を張っており、邪な心を持つ侵入者があればすぐに反応する。

 無惨が来ても対処してやるわい。

 ……というか、無惨が来てくれたら探す手間が省けるんじゃがの。

 そうすれば儂が殺して終いにできるのに」

 

「……奴は臆病で用心深いですからね。

 ヒノカミさんの存在を、無意識に感じ取っているのかもしれません」

 

「でも無惨の匂いは覚えました!」

「私も、魂の色を……」

 

「まさかこんなにも早く無惨と遭遇するとは……二人とも良くやりました」

 

炭治郎は鼻が、カナヲは眼がいい。

その影響もあってか二人は霊感が非常に鋭い。

これで無惨が二人に近付けばその存在を察知することができるはず。

今回は逃げられてしまったが、次の機会があれば今度こそヒノカミを呼び出し彼女が動く。

 

「それで、二人は引き続き任務なの?」

 

『カァァァ!次ノ場所ハァ、南南東ゥ!』

 

「……だ、そうです」

 

「そう……二人とも、間違いだけは犯しちゃだめよ?」

 

「「?」」

 

「まだ言ってんの姉さん!?」

 

「だって、やっぱり早すぎるわ!まだ十五なのよ!?」

 

「葉兄上とアンナ義姉上は十五で産んどるんじゃがなぁ」

 

「お黙りなさい!……二人とも、いいからもう行きなさい!」

 

「「あ、はい」」

 

若者二人を追い出した後、しのぶはその場で柱と鬼神に説教を始め、夜明け前に珠世たちから声をかけられようやく止めた。

太陽が昇れば鬼である彼女らは動きが取りづらくなる。

 

「では、お説教の続きは雲取山の屋敷でしましょう」

 

「「ひぃぃっ!?」」

 

「「…………」」

 

少女の背中に、般若が見えた。

 

 

 

そして珠世たちが雲取山に居を移してしばらく。

カナエから、『炭治郎とカナヲが十二鬼月を討ち取った』という連絡が届いた。

 




自業自得だったり正論で殴られるとヒノカミはたじろぎます。
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