『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第9話

 

「……でさぁ、結局あの人誰なんだよ?」

 

「ヒノカミさまだよ!

 俺の家の神様なんだ!」

 

「神、だとぉ!?なら俺だって神だ!

 俺は山の神だぁ!!」

 

「張り合うなお馬鹿!」

 

「くけけけ。賑やかで結構結構。

 では改めて名乗ろうかの」

 

蝶屋敷の道場にて炭治郎・カナヲと並ぶ善逸と伊之助を前に、ヒノカミはまたも鬼の仮面を被り鎧を纏う。

 

「儂はヒノカミ。『火の神』であり『日の神』。

 熱と命を司る鬼神である」

 

「イヤァァァァァァーーーーーッ!

 やっぱり鬼だったーーー!

 夢じゃなかったぁーー!

 夢が良かったァァァァーーーッ!!」

 

「で、デカくなったくらいでいい気になるなよゴルァ!

 テメェよりデカイ鬼なんて何匹も倒してきてんだ!」

 

「あ、コラ!」

 

伊之助が炭治郎の声も聞かず、先日の戦いで折れたままの日輪刀を握り目の前の鬼に斬りかかるが、鬼は瞬時に彼の背後を取った。

鬼の手には、伊之助が握っていた日輪刀があった。

 

「なっ……!」

 

「……ん?これは意図的に刃をボロボロにしとったんかの?

 刀が折れたのは後から手を加えたせいで強度が落ちたからかもしれんな」

 

鬼の両手からあふれた炎が二刀を包み、炎が消えると新たな形の刀が現れた。

まるでノコギリのような刀身を持つ、鼠色の刀だ。

 

「ほれ、これなら頑丈じゃよ?」

 

「……」

 

差し出された刀を受け取った伊之助が、無言で両手の刀同士を思いっきり打ち付ける。

ギィィィン……と鈍い音が道場に響く。

刀身のノコギリの刃の先端にすら、わずかな欠けも起きなかった。

 

「……フッ、なかなかやるじゃねぇか。

 この俺の次くらいの神だと認めてやるぜ!」

 

「げらげらげら。勇猛な神であるなぁ」

 

「なに!?なに通じ合っちゃってんの!?」

 

「大丈夫だよ善逸。ヒノカミさまは鬼だけど、神さまだから!」

 

「何が大丈夫なんだよ!?神さまだとしても鬼なんだろ!?」

 

「儂は鬼じゃが、人は喰わん。

 人を食ったような奴とは言われるがの」

 

「喰ったの!?喰わないの!?ねぇどっち!?ねぇ!!」

 

(声大きい……うるさい……)

 

炭治郎の隣に無言で控えるカナヲが、向かい側の二人の勢いに呑まれてげんなりしていた。

 

「ハイハイ、皆さん静かに!

 私から説明いたします!」

 

収集が付かない、時間の無駄と判断したしのぶが強引に割り込んできた。

尚も声を上げようとした善逸はしのぶから冷徹な笑みを向けられ怯えて黙った。

 

目の前にいるヒノカミは信じられないかもしれないが本物の神であり、代々竈門一家が信仰してきた存在。

鬼ではあるが無惨とは一切無関係。敵対されない限り人を襲わない。

むしろ無惨のことを知って我々人間に力を貸そうとしてくれている。

鬼殺隊当主も彼女との協力関係を強めたいが、如何せん隊士たちは鬼への殺意が強すぎる。

今のところ恩恵を受けているのは、鬼を許容できる花柱のカナエを筆頭とした数名のみ。

 

「ですが私たちだけが強くなっても、少人数では鬼の全てを倒すことも、無惨を見つけ出すこともできません。

 少しずつ鬼殺隊と連携を進めるつもりで、その先駆けとしてお二人に声をかけたのです」

 

「お主らの修行期間は半年を予定しておる。

 既に基礎が出来ているとはいえ炭治郎たちよりはるかに短い。

 それでも柱の数歩手前までなら届くとみている。

 相当に辛く厳しい修行を乗り越えればじゃがな」

 

「『辛く厳しい』?どーってことねぇぜぇ!!

 この伊之助さまがそんな脅しでビビると思うなよ!」

 

「何言ってんだよ馬鹿!無理!無理です!!

 俺努力とかそういうの苦手なんで!痛いのも苦しいのもイヤァ!!」

 

良く理解しないまま鼻息を荒くする伊之助に対し、善逸は完全に縮み上がっている。

しかし彼のおおよその性格を掴んだヒノカミが一瞬で彼の隣に移動し、肩を組んで耳元に頭を近づける。

身長は善逸の方が高いはずなのに、縮み上がっているせいでヒノカミの口元は彼の耳の位置にある。

 

「ヒィッ!」

 

(……実はな、雲取山の屋敷には秘湯があるのじゃが)

 

「ひ、秘湯……!?」

 

それは死神の世界の零番隊『麒麟寺天示郎』の『浸かるだけで回復する湯』を参考に、ヒノカミが人間用として作り出したものだ。

中に入ると傷が癒え、気力も回復する。

カナエたちの修行の効率を上げるために利用していたもので、修行を終えた今でも蝶屋敷からカナエやアオイたちが入りに来る。

 

(屋敷の奥に、湯舟が一つ。

 良いか?一つじゃ。この意味がわかるな?)

 

(……っ!?まさか、混……!)

 

(いや、残念ながら男女で時間を分けておる。

 ただし順番は、女性が先じゃ。

 すなわちカナヲや禰豆子が入った後の湯に……)

 

「フォォォォォオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!!!」

 

突如奇声と気勢を上げた善逸に周囲が驚き怯える。

例外は善逸とヒノカミの性格を把握済であり会話の内容を察することができた、冷たい目を向けるしのぶだけである。

 

「やりまぁす!俺もうめっちゃ頑張ります!

 矢でも鉄砲でも持ってこいやぁ!!」

 

「その意気じゃ。ちなみに過酷な修行に臨む主らを支えるためにアオイと禰豆子に協力を要請する。

 基本的には付きっきりでお主らの世話をしてもらうつもりじゃ」

 

「っしゃぁぁぁぁあぁああーーーーーー!!!」

 

気圧されるほどのやる気に満ちた善逸に、周囲が一歩後退った。

 

早速雲取山の修行場に転移した二人に天神武装の種火を受け渡す。

不可死犠の方は明らかに適性がないため省略した。

しばらくは隊士にとって第一関門と言われる『全集中の呼吸・常中』の習得に挑む予定だ。

邪な熱意を燃やす善逸はもちろん、負けず嫌いの伊之助も息巻いている。

彼らならきっと大成できるだろう。

 

 

そして二人から遅れること数日、炭治郎たちの同期の最後の一人が蝶屋敷にやって来た。

 

「……不死川、玄弥だ」

 

顔に大きな傷を持つ、モヒカンのような髪型をした大柄な少年だった。

 

「よく来てくれました。話は聞いていますね?」

 

「……大体は。強くなれるなら、何だってやります」

 

彼は『風柱』を兄に持ち、彼の力になりたいと鬼殺隊の門を叩いたが、どの呼吸にも適性がないと判明した。

それでも鬼を倒せるようになりたいとかなりの危険を犯していたが、世話になっているしのぶを信じて胡散臭い話に飛びついた。

 

「……よい覚悟です。

 紹介します。こちらが貴方の師となる……ヒノカミさま?」

 

「…………」

 

無言で玄弥を見つめるヒノカミの瞳には、強い輝きが宿っていた。

 

「……良い、良いぞこ奴は!」

 

「は、はぁ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「こ奴……『凡人』じゃ!疑いようもない真正の『凡人』じゃ!!」

 

「なっ……テメェ!!」

 

突如馬鹿にされ、短気な玄弥は目の前の無礼な小娘を殴り飛ばそうとした。

しかしヒノカミはそれを避けも防ぎもせず、顔面でまともに受け止める。

 

(っ!?なんだコイツ!?

 感触がおかしい……微塵も動かねぇ!!)

 

「加えて凡人なりに体をしっかり鍛えておるか!威勢も良い!」

 

「!?」

 

ヒノカミは拳が叩きつけられた状態のまま、玄弥の腹に種火を押し当てる。

 

「ぐっ!?テメェ、何しやがった!!」

 

「体の中にある熱を感じるか?

 自分自身を薪にするつもりで、炎を燃え上がらせ体の外に広げてみぃ」

 

「……玄弥くん、言われた通りにしてみてください」

 

「は、はぁ?えぇと……」

 

しのぶに促され、渋々試してみる。

 

 

「……こう、か?」

 

「やはり!」

「!?」

 

直後、玄弥の体から命の炎が溢れ出した。

カナエとしのぶは術を発動させるまで1カ月以上かかったというのに。

 

「消えた……なんだったんだ今のは?」

 

「そんな、早すぎる!

 どういうことですかヒノカミさん!?」

 

「げらげらげら!過去に儂の術には適性があると言うたであろう?

 『天神武装』は本来、『才能の無い凡人のための術』なのよ!」

 

「「はぁぁっ!?」」

 

「こ奴なら半年あれば第二……いや第三段階まで到達するやもしれん!

 そこまで至れば、柱に並ぶぞ!」

 

「半年で!?」

 

「俺が……柱に……!?」

 

「猫の手も借りたいと思っていたところに、まさか獅子の子が来るとはな!

 悪いが『今更やめた』はナシじゃぞ。

 今の儂らにお主ほどの逸材を見逃す余裕はないのでな!」

 

「……やめたなんて言わねぇよ。

 よろしくお願いします!!」

 




玄弥は『体質』は特殊ですが『才能』は平凡、よって最上位の適性を持つとしています。
他には煉獄杏寿郎の弟の千寿郎とかもえらいことになりそうですが、彼は幼いので除外します。
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