『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話

 

雲取山山頂付近の屋敷の大広間にて、9人の柱、しのぶと炭治郎たち5人の計15人が並んで座りヒノカミ一人に向かい合う。

屋敷の主であるヒノカミに詳細を説明するため、カナエだけが一段前に座っている。

いつもの友人としての立場ではなく、鬼殺隊を代表する柱として己を引き締め背筋を伸ばしている。

 

当人が気にするかもしれないからと、炭治郎やその周辺の関係者に秘密にしていたそうだが。

 

「那田蜘蛛山で……炭治郎くんが十二鬼月を倒した一件から間もなく、炭治郎くんを探す鬼から隊士たちが襲撃を受けるという事件が続いていたのです」

 

「炭治郎を……狙いはやはり『始まりの呼吸』の根絶か。

 して、その襲撃を行っていた鬼というのが?」

 

「はい、上弦の壱です」

 

上弦の鬼を見た者は悉く殺されるため、無惨と同じくその正体は謎に包まれていた。

しかし襲撃の頻度が多ければ隠や鎹鴉など、生き延びる者も出てくる。

よって貴重な情報を収集できるこの状況は鬼殺隊としてはむしろ好機だった。

捨て石になる覚悟など、鬼殺隊の門を叩いた瞬間からできていて然るべき。

 

「隊士たちが集めた情報を精査し、鬼殺隊の過去の文献を読み解き、ついに上弦の壱の正体が発覚しました。

 奴の人間だった頃の名は『継国巌勝』。

 始まりの呼吸の使い手である継国縁壱の兄。

 元鬼殺隊の鬼狩りでありながら当時の当主の首を手土産に無惨へと寝返った裏切者です」

 

「…………」

 

「鬼となってからも、呼吸と剣技を使うようです。

 『月の呼吸』と言うそうですが、具体的にどのような剣技かは未だ不明。

 よってそれを知る為にも、隊士たちは引き続き情報収集に努めていたのですが」

 

しかし昨晩にとある隊士……善逸の兄弟子である獪岳という男が、鬼に命乞いすると同時に白状したらしい。

『竈門炭治郎は雲取山にいる』と。

 

「……すいませんでした。

 俺が、手紙に余計なことを書かなきゃ……!」

 

「善逸くんのせいではありません。

 緘口令が敷かれたのは上弦の壱が炭治郎くんを探していると判明した後。

 貴方が手紙に記したのはそれ以前のことなのですから、全ての責任は獪岳にあります」

 

「そ奴はどうなった?」

 

「鬼には見逃され生き永らえましたが、許されざる罪です。

 調べたところ彼は他にも様々な問題を起こしていたことが発覚しました。

 彼の育手である先代鳴柱の懇願により切腹は免れましたが、投獄されています。

 鬼殺隊が解散でもしない限り、二度と牢の外に出ることは叶わないでしょう」

 

今まで接点がなかったので明るみにならなかったが、獪岳は今の岩柱である悲鳴嶼が鬼殺隊に入る前の住職だった頃、寺で面倒を見ていた孤児だったと判明した。

ある日彼は寺の金を盗もうとして共に暮らしていた子供たちに追い出され、そこで出会った鬼に襲われ、自分を見逃してもらうために悲鳴嶼と子供たちを売り渡した。

鬼を寺に招き入れ、悲鳴嶼と子供たちが襲われている隙にのうのうと逃げ伸びていた。

その後鳴柱に拾われ鬼殺隊に入り、鬼狩りとして振舞っていた。

 

「最初から鬼殺隊を名乗る資格もねぇクズだったってわけだ。

 上弦の壱と言い……どいつもこいつも恥をさらしやがって!」

 

「我らはまだ鬼を名乗る其方を信用することはできぬ……。

 だが此度の一件の責は、鬼殺隊の柱たる我らが負わねばならぬ。

 故に、上弦の壱を迎え撃つためこの地に立ち入らせていただいた」

 

「これまでの統計を見る限り奴は神出鬼没。

 長距離移動手段があるのか、あるいはヒノカミさまのように転移が可能なのか。

 いずれにせよ今晩にもここに現れるはずです」

 

「事情は分かった。

 炭治郎、家族の避難は済ませておるな?」

 

「はい、門を通じて蝶屋敷に」

 

同時に珠世と愈史郎もそちらに送り出したようだ。領域の内側に気配がない。

柱たちに見つかれば面倒ごとにしかならないので英断だろう。

 

「であれば儂が何か言うことは無い。

 念のため屋敷の奥に控えさせてもらうが、事が終わるまで手は出さぬ」

 

例え勝率が上がるとしても、彼らが手を借りることを望まないだろうから。

 

「かたじけない!

 汚名を雪ぐ機会をいただいたこと、感謝する!」

 

「この山は儂の神域じゃ。侵入者が現れればすぐ気付く。

 襲撃があるまではこの屋敷で英気を養うがよかろう」

 

ヒノカミは鬼の存在を知ってまもなく雲取山全域を覆う結界を張っている。

外部からの邪悪な乱入者を察知する効果もあるが本質はそうではない。

これは『ヒノカミの力』から世界を守るための結界だ。

この内側でなら比較的大きな力を振るうことができる。

霊子の濃いこの世界でなら、魂はすぐに消滅しない。意思が強ければ数年でも持つだろう。

故にこの山で死に肉体が鬼に食い尽くされていようと、ヒノカミが後で蘇生できる。

……この世界の誰にも伝えていないが。

人道的にどうこうだけでなく、それを頼りに特攻を仕掛けられるのは気に食わない。

死者を蘇生できる存在がいると無惨に知られるのも不味い。

 

「……本当に侵入がわかるんだろうな?

 本当に俺たちに伝えるつもりがあるんだろうな?」

 

「炭治郎とカナヲもまた鋭い感覚を持つ故、確実に気付くじゃろう。

 人混みに紛れていた無惨すら察知したほどじゃからな。

 そして狙われる当人が嘘を言うはずもあるまい?」

 

「……そう、だな」

 

「無論、炭治郎とカナヲがここに残り戦うつもりがあればの話じゃが……」

 

「勿論です!鬼が俺を狙ってくるんなら、逃げ隠れなんてできません!」

 

「姉さんたちや炭治郎が戦うなら、私も」

 

「善逸、伊之助、玄弥は?」

 

「……やります。

 俺だって死ぬのは怖いけど、仲間は売れない。

 兄貴の尻ぬぐいは俺がする」

 

「そいつが最強の鬼だってんなら、そいつを倒せば俺が最強だぁ!」

 

「『無惨の配下』の中で最強なだけで、最強の鬼ってわけじゃねぇよ。

 ……俺も、できるなら戦いたいです。

 そのために修行してきたんだから……!」

 

「参戦するなら止めるつもりはないが炭治郎とカナヲの支援に徹しろ。

 敵の狙いは炭治郎の命じゃ。

 こやつを守る為に全力を尽くせ。良いな?」

 

彼らも想定以上に成長はしているがまだ柱には届いておらず、一緒に修行してきた炭治郎たち以外とは連携できるとも思えない。

強く言い含めておけば先走って柱たちの前に出ることはないだろう。

 

「……ねぇ、アンタほんとに鬼なの?

 全然そんな感じしないんだけど」

 

「確かにな、こうして話す限りじゃ地味で風変わりな小娘としか思えねぇ」

 

「くけけ。儂の鬼神としての姿を見せても良いが決戦を前に気を張らせるのも良く無かろう。

 後でお主らに話したいこともあるのでその時にな。

 では儂は席を外しておこう。

 屋敷の中の物は自由に使ってよい」

 

「……あのぉ、私お腹空いちゃっててぇ~……」

 

「げらげら。しのぶ、食糧庫を空にしても構わん。

 あるだけ振舞ってやってくれ」

 

「かしこまりました」

 

「きゃー!ありがとうございます~!」

 

ヒノカミは一人立ち上がり屋敷の奥、蝶屋敷への直通通路がある小屋へと移動。

そうまでせずともわかるとは思うが念のため雲取山の全域に意識を広げて待機する。

やがて日が沈み、夜空に美しい三日月が輝き始めた頃。

 

『来たぞ』

 

剣士たちの頭に声が響く。

 

屋敷の外に飛び出て周囲を警戒し始めるが、炭治郎たち5人が真っ先にとある方角を向いて刀を抜く。

 

 

「……竈門炭治郎……あの男の法螺では、なかったか……」

 

「コイツが……上弦の壱……!」

 

現れた男の姿は普通の人間と大差がなかった。

ただ一点、歪に開いた六つの瞳を覗いて。

 

「……ハッ!マジで来やがったな裏切者がぁ!

 鬼殺隊の最高戦力が揃った場によォ!!」

 

「……貴様ら雑兵が、どれほど群れようと同じ事。

 むしろ好都合……あの方にとって目障りな塵を、一掃できるのだからな……」

 

「……何故ですか!

 何故縁壱さんや鬼殺隊の皆を裏切ってまで、鬼になったんですか!?

 答えてください、巌勝さん!!」

 

「……その名は既に捨てた。

 今の私の名は……」

 

15人もの剣士に殺意をぶつけられているというのに全く揺らぐ様子もなく、鬼は腰の刀に手をかける。

 

 

「……『黒死牟』。

 それがお前たちを殺す者の名だ……。

 縁壱の残滓……跡形もなく消し去ってくれよう……!」

 




無惨は日の呼吸の使い手と判明した炭治郎を真っ先に始末したいはずですが、すでに炭治郎の実力が柱並なので下弦ではどうしようもありません。
上弦の誰を向かわせるかとなれば縁壱への殺意甚だしい黒死牟が名乗り出ると考えました。
彼が原作からフライングして大暴れしたのは、炭治郎が一向に姿を見せず業を煮やしたためです。
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