『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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炭治郎や柱との戦いで、黒死牟は疲弊し弱体化しています。
その前提でご覧ください。


第13話

 

縁壱が生きていたのは既に400年も前の話。

今も生きているはずがない。何より黒死牟は年老いた弟の最期を看取っている。

だと言うのに彼の中にある強烈な嫉妬と憎しみが、目の前の男が『縁壱』であると叫ぶ。

 

鬼の視線が完全に予想外の乱入者へと向いた。

疲弊した息子を守るため、父は子をその場に残して前へと駆ける。

 

その動きは、常人からすれば遥かに速い。

だがこの場に集う超人たちの中では飛びぬけた速さとは言えない。

少なくとも全力の息子よりも、目の前の鬼よりわずかに遅い。

 

「「「!?」」」

 

だが、炭十郎は鬼の斬撃の嵐を緩やかに潜り抜け鬼へと突き進む。

 

「……見えて、いるな!?やはり、貴様はぁ!!」

 

それは炭十郎が『透き通る世界』と呼ぶ高み。

炭十郎が例えた通り、相手の骨格や筋肉の動きが透き通って見える、緩やかに時間が流れる世界。

極限まで修練を重ねて己の肉体を理解し、あらゆる無駄な動きと思考を削ぎ落してようやく至れる領域。

これが炭十郎が黒死牟の攻撃を予測し掻い潜れた理由であり、黒死牟が柱たちの猛攻を対処しきれていた理由である。

 

「なっ、鬼の懐に入った!?」

 

「くっ!月の呼吸……!」

 

「ヒノカミ神楽……」

 

『陸ノ型 常世孤月・無間』

 

『烈日紅鏡』

 

一振りで繰り出される無数の斬撃を、水平斬りではじき返す。

しかし全てをかき消すことはできず残る斬撃と三日月が炭十郎へと迫るが。

 

『幻日虹』

 

「ちぃっ!」

 

切り裂いたのは素早い足さばきで生み出された残像だった。

 

『玖ノ型 降り月・連面』

 

『日暈の龍・頭舞い』

 

続けて振り下ろされる多数の斬撃を、龍が舞うような動きで躱しつつ肉薄。

すれ違いざまに鬼の体を切り裂き、鬼の体から伸びる刀をいくつもへし折った。

 

「がぁぁっ!縁い……」

 

『斜陽転身』

 

『陽華突』

 

黒死牟が振り向いた時にはすでに炭十郎は飛び上がって己の姿を相手の視界から消し去っており、鬼の背中を薙ぎ払いながら着地し、直後鋭い突きで胸を貫く。

 

 

 

「……何故、あのように攻撃を続けられるのだ……!?」

 

悲鳴嶼が呆然と呟く。柱たちも息を整えつつ無言で目を見開いている。

炭十郎の動きは決して速くはない。

だが攻撃と攻撃の間隔が異様に短い。

相手が一つ技を放つ間に二つか三つの技を繰り出している。

敵の猛攻の悉くを緩やかに躱しながら、一瞬も立ち止まることなく刀を振るうその姿は、なるほどまさしく神楽舞。

 

始まりの呼吸は全ての呼吸の源流。

その中には彼らが扱うものと似通った技もあった。

炭治郎から技を見せてもらった柱たちは、確かに優れているが自分たちの扱う呼吸も劣るものではないと判断していた。

それは事実だ。『技単体』で見れば。

 

「そうか……これが、始まりの呼吸と他の呼吸の、決定的な違い……!」

 

始まりの呼吸は、ヒノカミ神楽は、『全ての技が繋がるようにできている』。

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁーーーー!!」

 

何度も体を斬られ、体から生えた刀を折られ、鬼は苦痛と怒りで冷静さを欠いている。

 

(……見えた。『隙の糸』)

 

『円舞』

 

「「「!?」」」

 

そして炭十郎の刃が、鬼の頸に届いた。

 

「獲りやがった!」

 

「……いや逃げろぉ!!」

 

「!?」

 

首の無くなった体が、ようやく動きが止まった炭十郎へと刀を振り下ろそうとしていた。

そつなくこなしていたように見せかけていたが、彼はすでに疲労困憊。

一度立ち止まってしまった炭十郎は動き出そうとするも足がおぼつかない。

このままでは両断される。

 

 

「うぁぁぁぁああああーーーーーーー!!!」

 

「「「!?」」」

 

しかし鬼と炭十郎の間に、炭治郎が駆け込んだ。

振りかざした『黒い』刀に『白い』炎を纏って。

 

『円舞一閃』

 

彼の友、善逸の操る雷の呼吸の踏み込みを学び編み出した高速の斬撃が、鬼の体を切り裂いた。

切り裂かれた体はまるで陽の光を浴びたかのようにボロボロと崩れ落ちていく。

 

「はっ、はっ……ありがとうございます、珠世さん……!」

 

初めて珠世に会った時、彼女は『不可死犠』の炎を見て『太陽の光のよう』だと言った。

今になってそれを思い出した炭治郎は、人間の傷を癒す白い炎は魔や呪いを払う聖なる炎でもあると気付いた。

もし考えが間違っていたら逆に鬼の傷が治り追い詰められていた可能性もあったが、炭治郎は土壇場の賭けに成功した。

 

 

 

「お……のれ……!縁、壱ぃ……!」

 

首だけになった黒死牟が、なおも殺意を込めて炭十郎を睨みつける。

しかし少しずつ首の切断面から崩れていく。

 

もはや死は間違いないだろうと確信してはいるものの、鬼狩りたちは完全に消滅するまではと距離を取っている。

しかし炭十郎は彼らを無視して黒死牟の頭へと近づき、跪いて顔を近づける。

 

「……よくご覧ください、巌勝どの。

 私は縁壱さまではありませぬ」

 

「……な、に……!?」

 

「私の名は、竈門炭十郎。しがない炭焼きにございます」

 

「……!?」

 

ようやく幻が解け現実に気付いた巌勝は、改めて炭十郎を見上げる。

 

雰囲気はどこか似ている、が確かに別人。

だがその剣技は、才は、相対した恐怖は、確かに縁壱のものだった。

 

 

 

「……嘘だ」

 

それはつまり、目の前の男が『縁壱』と同じ高みにいるということだ。

 

『私たちの才覚を凌ぐ者が今この瞬間にも産声を上げている。

 彼らがまた同じ場所へと辿り着くだろう』

 

かつて弟が語った楽観論を、内心では『そんなはずはない』と否定した。

お前のような気味が悪い化け物が生まれるはずがない。

お前だけが特別なのだ。お前だけが異質なのだ。

 

……では目の前の男は何だ?

 

「嘘だ……!」

 

嫉妬に焦がれた。

超えたいと願った。

そのために家族を捨て、仲間を捨て、人であることすら捨てた。

そうしなければ勝てないと思った。

そして、そうしてでも勝てなかった。

だから縁壱は化け物なのだ。

化物でなくてはならないのだ。

 

なのに、それに並ぶ者が生まれたのだとしたら。

 

……縁壱が特別で無いのなら、そこに至れなかった私は何だ?

 

「嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁあああーーーーっ!!!」

 

己がただの凡愚だと、気持ちの悪い醜い化け物は己なのだと突き付けられたようで、巌勝の首は悲鳴を上げるように絶叫する。

その様子があまりにも哀れで、炭十郎は心のままに言葉を続けた。

 

 

「お労しや、巌勝どの」

『お労しや、兄上』

 

 

「……っ!?があぁぁぁあああーーーーーっ!!!」

 

狂乱した巌勝は六つの眼の全てから涙を流し、崩れ落ち消えるその瞬間まで叫び続けていた。

 

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