『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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今回、普通の物語的にやっちゃいけないタブーを容赦なく踏み抜きます。
ヒノカミなら出来るし、確実にやると思ったから。


第14話 袖の下

 

戦いの後、動ける者が動けない者を担いですぐに屋敷の中へと戻る。

直後、蝶屋敷に避難していた禰豆子やアオイたちが医療器具を持って大広間へと駆け込んでくる。

 

死者はいない。しかし重傷者だらけだった。

序盤はしのぶに余力があったため対応できたが、増え続ける隊士たちの怪我に彼女の息が続かなくなり、終盤では致命傷以外は放置せざるを得なかった。

指を失った者、腕を失った者、眼を失った者、耳を失った者。

生き延びはしたものの、本来ならもはや剣士としては復帰不可能なほどの傷を負っている者も多い。

 

「私と禰豆子さんの炎で、少しずつ再生させていくしかありませんね」

 

「……どのくらい、かかる?」

 

「腕や眼を一からとなると……傷の深い者なら、3カ月は」

 

「……ごめんなさい、もっと私の力があれば」

 

「謝んねぇでくれよ嬢ちゃん。力不足を痛感してんのは俺たちの方だ。

 お前の親父と兄貴に、おんぶにだっこだったんだからな」

 

「いえ、皆さまの戦いが鬼を弱らせ、冷静さを奪っていたのです。

 私のしたことなど、最後に手柄を掠め取るような真似に過ぎません」

 

「だとしてもだ……我らの未熟を恥じるばかりよ」

 

「まったくだ!柱として不甲斐なし!

 穴があったら入りたい!!」

 

天神武装による自己治癒力を持たない柱たちは全員包帯だらけ、まさしく野戦病院のような様相だ。

それでも彼らは痛みに苦しむのではなく、力不足を嘆くだけでもなく、より一層精進せねばと闘志を燃やしていた。

 

「流石に姉さん以外の柱が全員行動不能というのはまずいですからね。

 怪我の少ない者から優先的に治療し、復帰していただきましょう」

 

「……甘露寺と冨岡、あとは不死川か。

 悲鳴嶼さんには早めに復帰していただきたいが……」

 

「いや、今は歴代最強の柱たる胡蝶カナエがいる。

 私の不在は大した問題とならぬ。むしろ後回しにしてくれても……」

 

柱たちが今後の予定を話し合っていたところで、屋敷の奥から何かが溢れ出してくる。

 

「「「!?」」」

 

大広間一面を覆うような『白い炎』が、その場にいた怪我人全てを呑み込んだ。

 

 

「げらげらげら。悪いが時間がもったいないのでな。

 さっさと完治してもらうぞ」

 

「「「ヒノカミさま!?」」」

 

結界に覆われた雲取山の中にあって、山頂のこの屋敷には更に結界を重ね掛けしてある。

それでも彼女の全力には程遠いが、この場にいる全員の傷を一瞬で治す程度なら朝飯前。

全てが癒えていく。指も、腕も、眼も、耳も。

何もかもが文字通り、傷や障害など最初から何一つなかったかのように。

 

「……兄貴!?傷跡が!?」

 

「玄弥、てめぇ顔が!」

 

「なんだ、違和感が……まさか……!」

 

「キャッ!伊黒さんのお顔ちゃんと見たの初めて!

 かっこよくてステキ!」

 

「……これが……光か……!?」

 

「悲鳴嶼さん……!」

 

「はいはい、治ったならちゃっちゃとこれ受け取れ」

 

困惑する柱たちを無視して、ヒノカミは次々と彼らに紙封筒の束を押し付けていく。

 

「……なんだこりゃ?」

 

「ん~……ご機嫌取りのための袖の下、かの?」

 

「賄賂だぁ?俺ら柱が金なんぞで……!?」

 

訝しむ宇随が、封筒の一つを摘まみ上げ裏面を見て動きを止める。

他の者たちも同様に気付いた。

 

その封筒は手紙。

表面には宛先である彼らの名前。

そして裏面には差出人の名前。

 

 

「……錆兎?」

 

「粂、野、匡近……!?」

 

「有一郎……そうだ、僕には、兄さんが……!」

 

「……母上……?」

 

それらは彼らが失った家族や戦友たちの名前。

彼らは震える手で封筒を開き、中の紙を取り出す。

 

「あ、あ、あぁぁ……っ!!」

 

「そんな……そんな!」

 

紙の上には見覚えのある筆跡で、当人の想いが記されていた。

中には当人以外には知りえない情報も羅列されていた。

 

「ほい、伊之助にも」

 

「あん?」

 

「儂を見かけて、是非にと頼まれての。

 ……っと、確か読み書きができんのじゃったな。

 アオイ、代わりに読んでやってくれ」

 

「ヒノカミさま、皆さんに配ってる手紙はいったい?」

 

「ここ数カ月、方々を巡って書いてもらったんじゃよ」

 

死者たちに、生者たちへの手紙を。

生前に残した遺書ではなく、死後に綴った言葉を。

 

最初は産屋敷から譲ってもらった情報を基に『イタコのアンナ』から学んだ降霊術で呼び出そうとした。

そして『憑依合体』で彼らに一時的に自分の端末の体を貸し、手紙を書いてもらうつもりだった。

相手がちゃんと成仏していた場合はそれで何とかなった。

しかし地縛霊や守護霊となり現世に留まっていた者は不可能で、しかもその数が多すぎた。

鬼殺隊隊士の関係者で故人ということは、そのほとんどが鬼の犠牲者。

まともな死に方をした者の方が少ないだろう。現世に囚われるのも無理はない。

 

よってヒノカミは彼らと直接会うために各地を巡ることにしたのだが、無惨に自分の存在は知られたくない。

なので行動は主に日中。鬼は活動していないが、同時に霊の力と存在が弱まる時間でもある。

霊力の感知が難しく捜索は難航した。とにかく虱潰しに飛び回った。

すると、自分が探している者以外の霊を見つけたり逆に霊に見つかったりすることも当然ある。

鬼殺隊関係者ならばついでにと応じてやったり、全くの無関係の霊に絡まれたり、怨霊はついでに祓っておいたりとかなり慌ただしい日々を送っていた。

ちなみに、たまに人目につき拝まれたりしていた。お供え物は丁重にお断りした。

 

間もなく行われる柱合会議を目途に奔走していたがすでにかなりの量が集まっており、都合よく柱全員が揃っている。

よってこの場で交渉に踏み切ることにしたのだ。

 

 

「……そうか……あの子たちは、私を、守ろうと……!」

 

生後間もなく光を失ったため、視力を取り戻しても文字が分からない悲鳴嶼の代わりに禰豆子が手紙を読んで聞かせていた。

 

「……母ちゃん」

 

関係者を探している途中で出会った『琴葉』という女性の想いは、ちゃんと伊之助にも届いたようだ。

 

 

「さて、気に入ってもらえたかな?

 儂からのとびっきりの袖の下は」

 

「テメェ!ちっとは余韻に浸らせてやれや!!」

 

故人を偲び涙を流す同僚たちを庇うように噛みついた実弥だったが、彼の頬にもしっかり雫の跡があった。

 

「そう重く受け止めんでもお主らなら死んだらあの世で会えるわい。

 どう考えても全員天国行きじゃし。

 あ、早く会いたいからといって自殺はするなよ?

 それやったら地獄行きじゃからな」

 

「……天国は、本当にあるのか?」

 

「無い世界もあるが、この世界ではありそうなんじゃよな。

 もっと念入りに探せばどこかにあの世への入り口があると思うんが」

 

「……本当に、神さまなんだな」

 

「……っと、そうじゃ。

 あの世に関することで、貴様たちに言っておかねばならんことがある。

 これは連絡でも要請でもなく、警告じゃ」

 

「警告だと……?」

 

 

この世界には『あの世』が、『天国』と『地獄』が存在していると仮定する。

だとしたら死者がそのどちらに行くかを決めるための裁判がある。

裁判官は十王。その補佐は獄卒。

すなわち、地獄の鬼である。

 

 

「獄卒は悪人でもなければ無惨の手下でもないからな!

 お迎えが来ても絶対に斬りかかるなよ!?

 あの世で無差別に鬼狩りとかしたら地獄行きになるからな!!」

 

「「「ブフッ!?」」」

 

「笑いごとではないぞ!

 貴様ら無駄に強すぎるから獄卒らが殺されかねん!

 あの世では亡者は死なんが、彼らは普通に死ぬからな!?」

 

この世界のあの世の鬼の強さは知らないが、霊界と魔界の世界やドラゴンボールの世界の鬼たちくらいであるとすれば、鬼殺隊なら徒党を組めば倒せてしまうかもしれない。

そうなったらいくら誤解だとしても、どれほどの善人であっても、彼らの地獄行きは避けられなくなる。

 

「ぶっははははは!そうかそうか!

 あの世があるならそこにも鬼がいるよなぁ!

 鬼殺隊の隊士としちゃあ退屈しねぇぜ!」

 

「それを辞めろと言いたいんじゃよぉぉぉ……!

 流石の儂も怒るぞ!あの世の代わりに!!」

 

「鬼になった!?これが、鬼神!?」

 

「あぁ……怒りを鎮めたまえ……南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

「今こそ、ヒノカミ神楽を捧げる時!

 いこう、炭治郎!」

 

「はい父さん!」

 

「儂に何かある度にとりあえず踊り始めるのを止めろ!」

 

ヒノカミは鬼の姿のまま即座に炭十郎の前に転移し拳骨を落とした。

神さまだという自覚はあるが、舞なんか捧げられても恥ずかしいことに変わりはないので。

 




原作の錆兎たちを見る限り、この世界に幽霊が存在するのは間違いない。
そして原作では死の間際に親しい人の霊と再会し救われたり、そのまま一緒に成仏するような描写が多すぎるんですよね。
死者たちと再会させないと原作キャラたちが救われないし、かといって彼らを殺すわけにはいかない。
よってこんな方法を取ってみました。
かなりのズルです。
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