『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第16話 上弦の鬼

 

珠世は多くの鬼の情報を持ち、彼女自身も鬼である。

胡蝶しのぶは鬼殺隊一の薬師であり、『火薬』も薬の一種である。

そしてヒノカミは『火の神』であり『日の神』である。

 

そんな彼女らが協力して開発したのが、『日光と同じ光を放つ閃光弾』。

鬼に対してこれほど有効な道具はあるまい。

そう、これは武器ではなく道具。故に使い手の実力に左右されない。

極端な話を言えば子供や老人ですら鬼を追い詰めることができるのだ。

 

製法は鬼殺隊全体に広く伝えた。

可能な限りありふれた材料を使っているので量産も容易い。

そんな便利な道具を今の今まで秘匿していた理由は何か。

数が揃うまで待っていたのも理由の一つだが、一番は『無惨が知ったら国外逃亡に踏み切る』と推測できたからだ。

 

国外に逃げられたら鬼殺隊では対処できず、ヒノカミでも捜索は困難を極める。

故にこの道具の存在を明かすと同時に、無惨を日本に固執させおびき寄せる『餌』が必要なのだ。

そしてその餌こそが珠世、すなわちヒノカミの施術を受けて『日光を克服した鬼』の存在である。

 

鬼殺隊の隊士たちに堂々と彼女の姿を見せたのはこれが理由だ。

ヒノカミの存在はあまり口外しないように言い含めているが、珠世についてはむしろ知らせてやれと伝えている。

やがて隊士たちが鬼の前で口にして、鬼を通じて無惨が珠世のことを知る。

そして珠世が日光を克服していることと、産屋敷の下に身を寄せていることを知るだろう。

 

日光さえ克服すれば閃光弾を恐れる必要もない。

珠世を確保し取り込めば全て解決するのだ。

千年の悲願を前に、いかに臆病な無惨と言えどこれに背を向けて逃げ出すことはできまい。

たとえそれが明らかな罠だったとしてもだ。

 

鬼殺隊全体、とんでもない数の人間を一斉に動かしたのだ。

その足取りから産屋敷家の所在は簡単に算出できるだろう。

さらにダメ押しで、上弦の壱を討伐した炭治郎や柱たちすら遠ざけた。

 

 

「……動いたようです」

 

作戦決行からおよそ1週間後、産屋敷耀哉が預かった通信機に連絡が届いた。

大きく5つに分けた部隊、その全てからほぼ同時に。

 

 

 

 

「素晴らしい提案をしよう。

 お前たちも鬼にならないか?」

 

「ならない!そしてこちらからも提案しよう!

 もう一度人としてやり直すつもりはないか!?」

 

「なんだと……!?」

 

「ヒノカミさまが言ってました。

 もうすぐ、夜でも闇が無くなる時代がやってくる。

 たとえ鬼殺隊が居なくなっても、鬼が大手を振って生きられる世界ではなくなるって!」

 

「……胡蝶たちの道具の威力は既に知っているはずだ。

 もはや鬼は強者ではなく、淘汰される弱者となる。

 お前が、望んで鬼となったのでないのなら……!」

 

「……黙れぇっ!!話し合いの余地は、ないようだな……!」

 

 

 

 

「良かったぁ!本当に生きてた!

 あのお方には怒られちゃったけど嬉しいよ!

 今度こそちゃんと食べてあげるからね!」

 

「……まさか、コイツが?」

 

「えぇ、かつて私を死に追いやった鬼。

 ……今はもう迷いません!

 仲間たちのため、未来のため、ここで必ず討滅します!」

 

「「はい、姉さん!!」」

 

「?そっちの子は肉質の感じからして血縁ぽくないけど……。

 あぁそうか、義理の姉妹ってやつだね!

 だったら安心して、ちゃんとみんな一緒に食べてあげるから。

 俺の中で本当の意味で一つになれるよ!」

 

「「「とっととくたばれ糞野郎」」」

 

 

 

 

「イィヤァァァアァアーーーー!

 キモイキモイキモイキモイ!

 何アイツ!何で目が口で口が目なの!?

 絶対不便だろその構造!メシ喰いづらいじゃん!

 ……ってもしかしなくてもメシは俺!?

 イヤァァァアーーー!!」

 

「やかましい!泣き喚くな!!

 鬼を前に醜態をさらすとはそれでも鬼殺隊の隊士か!?」

 

「キィヤァァァアァアーーーー!

 ヤダヤダ気持ち悪い!キュンとしないわ!ときめかないわ!!」

 

「甘露寺を怖がらせるなぁ!!」

 

「ヤダ贔屓!贔屓だわ!

 アンタこそそれでも鬼殺隊の柱かコノヤロー!!」

 

「貴様らぁ……揃いも揃ってこの私の美しい姿を侮辱しおってぇ……!」

 

「いやそれが美しいはねぇだろアホか」

 

「腐り落ちた目玉を無理やりはめ込んだからそんな顔なのか?」

 

「あのよくわかんない壺もキュンとしないのよね。骨董市の贋作?」

 

「貴様らァァァーーーー!!」

 

 

 

 

「おいこらテメェ!俺の毛皮を取るんじゃねぇ!返しやがれ!!」

 

「何コイツら!?なんで男の体に女の頭がついてるの!?

 美しいのに美しくない!何コレ!?」

 

「だっはっは!たしかに時透も結構女顔だよなぁ。

 化粧でもすりゃ化けるんじゃねぇか?

 無惨を仕留めたら、うちの嫁に任せてみるのも面白そうだ」

 

「……怒るよ、宇随さん」

 

「ウガァァァァァァ!!」

 

「ヤダヤダ気色悪いこっち来ないで!助けてお兄ちゃーーーーん!!」

 

「……こんなことで俺を呼ぶんじゃねぇよ……」

 

 

 

 

「貴様らぁ……儂が『可哀想』とは思わんのかぁ……!」

 

「思うかボケェ!いいからとっとと頸斬られろやぁ!!」

 

「散々人喰ってきたカスが何をぬかしてやがる!

 今度は俺がテメェを食い殺してやらぁ!!」

 

「弱きを騙り武器にしようとするとは……許し難し!

 腸が煮えくり返る、貴様にかけられる慈悲は無いと知れ!!」

 

「ヒ、ヒィィィィッ!!」

 

 

 

 

無惨は5つに分けた部隊それぞれに残る上弦の鬼をぶつけてきた。

徒党を組んで反抗することを恐れた無惨により、一部の例外を除くと鬼は肩を並べて戦えないらしい。

故に無惨は万が一にも邪魔に入られないように、上弦の鬼を柱たちの足止めに使ったのだろう。

 

「では、無惨は……!」

 

「えぇ、おそらくもう間もなく」

 

耀哉は妻のあまね、協力者の珠世と共に、屋敷の畳に座り庭の外を見つめる。

姿は見えない。彼らには炭治郎たちのような優れた感覚器もない。

だが彼らの魂が、無惨の存在を近くに感じていた。

 

 

庭の玉砂利を踏みしめる音が響いた。

 

 

 

「……始めましてだね、鬼舞辻無惨」

 

「そして、久しぶりですね……無惨」

 

「産屋敷……珠世……!」

 

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