『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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勿論、ヒノカミは屋敷近辺にガッツリ結界を張っています。
万が一犠牲者が出ても、確実に蘇生できるように。


第17話 糞餓鬼

 

産屋敷耀哉と鬼舞辻無惨には血縁関係がある。

ただそれは千年以上前の話。

もはや赤の他人と言えるほどに血のつながりは薄いと言うのに、その顔つきは驚くほどよく似ていた。

ヒノカミに治療された耀哉の顔を見て、あまりにそっくりで珠世も驚き怯えてしまったものだ。

 

しかし二人がこうして直接向かい合うと明らかに別人と分かる。

力無き人間でありながら堂々とした佇まいで穏やかに微笑む産屋敷耀哉。

千年を生きる凶悪な鬼の首魁でありながら苛立ちを隠せず平静を欠いた鬼舞辻無惨。

青筋を浮かべ強く歯を噛み締めた、実に悔しそうな顔。

それを見れただけで珠世は胸のすく思いだった。

 

「珠世……まさか貴様が日光を克服するとはな……!」

 

「えぇ。羨ましいですか?」

 

「おや、私との会話に応じてくれるつもりはないのかな?

 鬼の首魁ともあろうものが、随分と狭量じゃないか」

 

「…………」

 

(私と同じ顔……奇妙な安堵感……気色が悪い。

 吞まれるな、ともかく……)

 

「珠世さんを手に入れれば勝ち、かい?」

 

「……ちぃ」

 

思考を読まれて舌打ちし、珠世は口元に手を当て嗤う。

 

「……君は永遠を、不滅を夢見ているそうだね」

 

「珠世から聞いたか……その通りだ。

 そして珠世を手に入れさえすればその夢は現実となる」

 

(なんだ、こいつらのこの余裕は……!)

 

この場にいるのは産屋敷耀哉と産屋敷あまね、そして珠世。

その少し前に控え無言で敵意の視線を向ける、3人の元柱。

現柱たちへのついでに預かった故人からの手紙を受け取り再び立ち上がった煉獄槇寿郎と鱗滝左近次。

継子の失態の責任を取るため老骨に鞭打つ桑島慈悟郎。

ただの鬼ならともかく、無惨を相手にするにはあまりに頼りない戦力だ。

無惨は黒死牟に止めを刺した縁壱もどきを警戒していたがここには彼の姿も気配もない。

 

無惨にとって厄介なのは珠世がいる部屋に吊り下げられた大きな提灯。

おそらく最近連中が使いだした閃光弾と似た作りなのだろう、日光と同じ光を感じる。

近付けば無惨と言えどただでは済むまい。血鬼術も打ち消されるだろう。

しかし物理的な衝撃を起こして屋敷ごと破壊すれば済むだけの話だ。

目的である珠世は鬼。粉々にしても再生するのだから問題はない。

 

「……警戒しているね、無惨。

 だが無駄だ。君の願いは叶わない。

 だって君は、ここに来てしまった」

 

「フフ……罠だと分かっていたでしょうにね」

 

「……だとしても、この程度の戦力で貴様らに何ができる?」

 

柱も含めて隊士たちは全て出払っている。

上弦の鬼を足止めにぶつけた以上、ここに来るまでには半日以上かかる。

……連中が使う光玉のせいもあって劣勢のようだが、知ったことではない。

日光さえ克服すれば、無惨にとって自分以外の鬼など邪魔なだけだ。

むしろ処分する手間が省けるというもの。

 

「ふふふ、私たちは見ているだけさ。

 君に天罰が下るさまをね」

 

「天罰……?ふん、愚かな。

 神などいない。この千年、私は神も仏も見たことがない」

 

「そうかい?私たちの一族は信じていたよ。

 ……そして、祈りは届いたんだ」

 

 

ゴウッ!

 

「!?」

 

突如、屋敷の周囲一帯を覆うように白い炎が噴き出し、半球状の分厚い炎の壁が生み出された。

炭治郎が使っていた、黒死牟の体を焼いたものと同じ炎だと気付いた。

つまり、閉じ込められた。無理に通り抜けようとすれば焼き尽くされてしまうだろう。

 

「終わりだ無惨。君はやり過ぎた」

 

「産屋敷……!」

 

「君は何度も何度も虎の尾を踏み抜き、龍の逆鱗に触れてきた。そしてついに」

 

 

ドンッ!!

 

 

「!?!?!?!?!」

 

「神の怒りに触れたんだ」

 

無惨の目と鼻の先に上から巨大な何かが落ちてきた。

無惨は落下で生じた衝撃を受け吹き飛ばされながらも距離を取って身構える。

 

(なんだ……他の人間の気配はなかったはずだ!!)

 

当然だ。それは人間ではないのだから。

 

立ち上がったそれの輪郭は人型。

全身を金属の鎧で覆っており、白い炎の光を反射して輝いている。

この時代では比較的長身の無惨から見てもかなりの巨漢。

ゆっくりと兜に包まれた顔を上げる。

 

 

「……鬼……!?」

 

 

金色の二本の角と、恐ろしい憤怒相の仮面。

鬼の祖を自称する無惨をして、『鬼』と呼ばざるを得ない姿をしていた。

 

 

ブンッ!

 

「ぐぁっ……!?」

 

鎧の男が無造作に腕を振るうと暴風が生じ、無惨は吹き飛ばされる。

無惨は慌てて全身からかぎ爪の触手を伸ばし地面に突き立て、炎の壁に激突する前になんとか停止した。

 

「貴様ァアアア!!」

 

殺されかけたという事実に激昂した無惨が牙だらけの口を広げ衝撃波を放つ。

目の前の大男は避ける素振りすら見せず、まともに喰らう。

 

「……な……!」

 

大男は一切動くことなくその場に立っていた。

その背の向こう側には傷一つない産屋敷たちとその家屋があった。

 

「……酷いゲップじゃのぉ。

 悪臭を浴びせるとは下品な攻撃じゃな。

 ちゃんと歯を磨いておるのか?」

 

「っ!?……がぁぁぁぁあああっ!!!」

 

言葉を話した。

しかし無惨はそれ以上に自分を侮辱されたことが許せず、今度は触手を伸ばして叩きつけようとする。

 

「邪魔」

 

「ぎっ!?」

 

その全てが一瞬で細切れとなった。

鬼の右手には赤い石剣。その先端から白い炎の刀身が伸びていた。

 

(……斬られた!?見えなかった!?)

 

無惨はボロボロと崩れていく触手の残骸を見て、ようやく自分でも目で追えないほどの速さで攻撃を防がれたのだと気付いた。

そして周囲を覆う炎の壁を作り出したのが、目の前の鎧の男だということにも。

 

 

 

「脆いのぉ……遅いのぉ……弱いのぉ……!」

 

無惨の存在を知ってから溜まり続けていたヒノカミの鬱憤が、ついに当人を前にして溢れ出す。

無惨の悪行の数々は今更言うまでもないだろう。

しかしヒノカミはそれとは別に、どうしても無惨を許せない理由がある。

 

それは無惨が『鬼』を名乗ったことだ。

 

鬼と言えば一般的にはマイナスイメージが強いだろう。

実際にヒノカミが巡って来た世界でも大半はそうだった。

しかし彼女自身はむしろ鬼という存在を好意的に見ている。

それは彼女は実際に多くの鬼と直接顔を合わせており、そのほとんどは獄卒。つまり善性の存在だったからだ。

ドラゴンボールの世界でも、霊界と魔界の世界でも、あの世で働く鬼の方々には大変世話になった。

それに獄卒ではない者も例えば、第一回魔界統一トーナメントの覇者となった『煙鬼』は強く気のいい快男児だった。彼の仲間の妖怪たちも同様だ。

 

だからこそ許せないのだ。

無惨『ごとき』が鬼を名乗ったことが。

 

奴の誕生の経緯は珠世から聞いている。

とある医師の施術を受けて体が変異した人間だと。

ならば人間だろう?なぜ鬼を自称した?

 

千年を生きた?鬼なら数万年は生きて当たり前だ。千歳程度ではまだまだ若造。

人を喰う?人しか喰えないの間違いだろう。過去に出会った人食い鬼は時に獣肉を喰らい、浴びるように酒を飲んでいた。

日光以外では死なない?弱る程度ならわかるが日光を浴びた程度で死ぬなど脆弱すぎる。

 

無惨は己をただの人間と比較し、上位者と粋がっていた。

しかしヒノカミの知る鬼と比較すれば、無惨はあらゆる面で『出来損ないの落ちこぼれ』なのだ。

鬼という枠組みに加えることすら受け入れがたいほどに。

その不満を呑み込み、敢えてコイツを鬼と呼ぶならば。

 

「貴様のような粗悪品が鬼を騙った。

 鬼を貶め、鬼を侮辱した。

 ……ただで死ねると思うなよ、糞『餓鬼』が……!」

 

思い知るがいい、劣等種。本物の鬼を。

 




無惨は『鬼』を名乗りそう呼ばれていますが、ヒノカミ基準で言えば『鬼』という種族には当てはまりません。
なんらかの要因で変化した、特異体質の『人間』です。

だと言うのに生意気にも鬼を名乗る己惚れた小僧に本物の『鬼』の恐ろしさを理解させる。
これが本作にてヒノカミを鬼扱いした一番の理由です。
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