『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第19話

 

鬼舞辻無惨襲撃の連絡を受けひとまず戻って来た隊士たちは、続いて無惨捕獲成功の報告を受ける。

奴が作り出した異空間の制御を奪い取り、配下の大量の鬼と一緒に閉じ込めているとのこと。

お館さまの証言と庭の地面に歪に固定された謎の襖を見れば彼らもすぐに納得した。

 

ヒノカミが解放しない限り時間の猶予はある。

空間を完全に遮断しているので、無惨は配下の鬼を通じて情報を得ることも、配下の鬼に指令を送ることもできない。

突然つながりが絶たれて、外に残された鬼たちは浮足立っているはず。

よって鬼殺隊は異空間にいる無惨と鬼への対処を先送りし、まず現実世界にいる鬼を一掃するため、再び日本中に散った。

 

引き続き部隊を5つに分け、炭治郎たちの超感覚を頼りに鬼を見つけ出し、頸を斬り落としていく。

ほとんどの鬼は無惨の意向で東京近辺に集中していたが例外があってはたまらぬと、鬼殺隊は時間をかけて辺境の地まで虱潰しにして鬼狩りを行った。

その間、万が一に備えてヒノカミが無惨を監視していたのだが、時折誰かが無惨の様子を尋ねても彼女は難しい顔をして口を閉じるばかり。

その反応が気にはなったがお館さまと珠世には詳細を明かしていると言うので、隊士たちはそれ以上の追及はせずにいた。

 

そして、およそ半年後。

改めて開かれた柱合会議までに、全ての悪鬼滅殺を完了した。

炭治郎たち5人としのぶ、9人の柱の計15人が、産屋敷の家に集まりお館さまを前に跪く。

耀哉の側にはヒノカミと珠世、そして彼女と同じく日光を克服した愈史郎の姿があった。

 

「みんな、よくやってくれた。

 これで残るは鬼舞辻無惨と、その配下の鬼たちだけだ」

 

産屋敷の宣言に、剣士たちは改めて気を引き締める。

無惨はもちろん、奴のおひざ元である異空間に居住を許された鬼たちは選りすぐりの化け物ばかりだという。

封じ込めているとはいえそこは敵の根城。どれほど激しく恐ろしい戦いになることか。

だがそれでも、ヒノカミに任せるのではなく無惨を自分たちの手で倒したい。

特に柱たちは殺意と闘志を燃やしていた。

 

「……みんなの考えていることはわかる。

 だがその前に、ヒノカミさまの話を聞いてくれないかい?」

 

鬼の鎧を纏わず、神霊の姿でもない、見慣れた小柄な女が一歩前に出る。

 

「え~~……儂が閉じ込めた時には、無惨以外にも多数の鬼がいた。

 この空間を作り出した鬼も含めて、お主らでも侮れぬ強敵ばかりではあった」

 

「……閉じ込めた『時』には?」

 

訝しんだカナエの発言に、ヒノカミは庭の一角にある襖を指さして答える。

 

「……そうじゃ。今あの中にいるのは無惨一匹だけじゃ」

 

「どういうことです!?」

 

「……『他の鬼を吸収して強くなった』、とかならまだ格好がついたんじゃがなぁ」

 

「おい、いいからさっさと結論を言いやがれ。

 なんで無惨以外の鬼が死んでやがるんだ!?」

 

不死川の追及に、ヒノカミは眉間のしわに指を当て絞り出すように答えを言う。

 

 

 

「……無惨が癇癪起こして配下を皆殺しにしたんじゃよ」

 

 

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

「見りゃ、わかる」

 

そう言ってヒノカミが掌を叩くと、空中に窓のようなものが現れる。

 

『出せ!出せぇぇぇーーーーーーっ!!!!』

 

「……これが、無惨?」

 

今なお異空間で雄たけびを上げ続ける無惨の周囲の壁や床には、乾いた血と破壊の後が大量に残されている。

それが奴の配下であった鬼の残骸だと推測できた。

 

「出られなくなったと気付いた直後に鬼たちに『何とかしろ』と命じ、どうあがいても出られぬと分かると『無能』と罵り八つ当たりを始めたんじゃ。

 この空間を生み出し制御していた鬼までぐしゃりとな」

 

「「「「「…………はぁ!?」」」」」

 

「待てよ、空間を制御してた鬼まで!?

 お前が制御を手放したら無惨と異空間はどうなるんだ!?」

 

「本来はその鬼に制御権が戻るんじゃが、死んどるからなぁ。

 異空間は崩壊、下手すりゃ無惨は永遠に虚無の空間に閉じ込められるかもしれん」

 

「……ねぇ、無惨はアンタにボロボロにされたんだよね?」

 

「見た目は取り繕っておるが、負傷と疲労は残っているはず。

 食人での補給が出来ない状況で暴れたんで更に疲弊しておるの」

 

「あの、ヒノカミさまに交渉を持ちかけたり、反省した振りをして外に出してもらおうとか言い出したりは……」

 

「八つ当たりの相手を失ってからは終始この調子じゃ。

 怒りが収まる様子はなく、休養も睡眠も取っておらん。

 血走った眼は寝不足もあるのかもしれんな」

 

「……まとめると、だ。

 無惨はテメェにボロ負けして逃げ出したが閉じ込められ。

 八つ当たりで貴重な戦力と体力を無駄にして。

 自分で脱出の可能性すら潰して。

 テメェとの再戦に備えて対策も取ることなく。

 自分の行いを顧みることもなく。

 半年も延々と『出せ出せ』騒ぎ続けてるってことか?」

 

「そうなる」

 

 

「「「「「馬鹿じゃねぇのコイツ!?」」」」」

 

 

あんまりにも無惨な無惨に一同は頭を抱えるが、奴の生態を理解している珠世が補足する。

 

「それが鬼舞辻無惨です。

 己が絶対であり、己以外の全てが己に従うのが当然と、本気で考えている。

 幼稚な全能感に支配されたまま千年たっても精神的に成長しなかった、真正の『餓鬼』なのです」

 

「うわぁ……うわぁぁぁ……」

 

「これが、鬼の、首魁なのか……?

 こんなのが千年以上、人間たちを苦しめて……?」

 

「……怒りを通り越して、呆れ果てる。もはや言葉もない」

 

普段は言葉足らずで誤解されやすい冨岡の言葉に、柱全員が内心で激しく同意した。

 

 

「……なぁ、お主ら。

 無惨と戦うのはやめにせんか?」

 

「はぁ!?何言ってんだテメェ!」

 

「見逃せというわけではない、適当に処分してしまいにせぬかという意味じゃ。

 ……だってそうじゃろ!?お主らコレと命を懸けてまで戦いたいか!?

 嫌じゃぞ儂は!害虫駆除で死人を見るとか!!」

 

「うっ……」

 

「……確かに!戦で果てるも誉れと考えていたがコレは違うな!

 頸を取っても誇れるものではなく、殺されでもしたら恥以外のなにものでもない!」

 

「……だがそれでも、千年以上世を乱し続けた怨敵であるのだ。

 ただ処分するだけでは散った戦友や先達たち、今なお戦う者たちが納得できまい……」

 

「「「う~~~ん……」」」

 

またも全員が頭を抱える。

生きていたら迷惑しかかけない害悪であり、殺すにあたっても殺し方を考えねばならないとは、どこまでも厄介で面倒な存在だ。

 

「であれば、出来る限り屈辱的な最期を迎えさせるということでどうかな?」

 

そこで産屋敷が手を上げ、珠世が続く。

 

「どうか私共にお任せを。

 必ずや皆さまにご納得いただける末路をご提案させていただきます!」

 

「産屋敷の財力と権力の全てを使って実現すると約束するよ!」

 

「ぅわぁ~お、頼もしぃ~~……」

 

「あぁ……悪い笑みを浮かべる珠世さまも美しい……」

 

「貴様もぶれないな愈史郎」

 

「恋は盲目ってヤツなのね!キュンキュンしちゃうわ!」

 

 

そして数カ月後。

無惨が最期を迎える日……大晦日がやってきた。

 




無惨が恐ろしいのは『戦闘力』だけであって、それ以外に褒める所が何もない。
悪党の美学も信念もカリスマもなく、ただただ自分勝手で傲慢で見苦しい。
そしてその戦闘力すら圧倒されたらいよいよ何も残らない。
原作者さまの認識でも『無惨は人というより虫』らしいですよ。
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