『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第4話 真名

 

「イリヤが……じいさんの娘!?

 俺とイリヤが『兄妹』だって!?」

 

「そうじゃ。イリヤとお主は『姉弟』なんじゃ」

 

互いの認識にズレがあるが、無理もない。

どう見ても10歳前後にしか見えない幼女だが、イリヤの実年齢は18歳。

彼女はアインツベルンによりホムンクルスとして調整を受けたため肉体の成長が止まっていたのだ。

呼び出された直後にバーサーカーが彼女の肉体を改変したが、実年齢通りに成長するまで長い時間を必要とするだろう。

一番の原因は、イリヤが最初に会ったときに士郎を『お兄ちゃん』と呼んだことだろうが。

 

「でも、アインツベルンってのは魔術師の名門なんだろ?

 魔術師は婚姻をすごく重く見てるって聞いた。

 じいさんは、自分は魔術師としては出来損ないもいいとこだって……」

 

「……やはりお主は何も知らんのじゃな。

 セイバーを呼び出した以上、少なくとも彼女から聞いていると思っていたが」

 

「セイバー、から?」

 

「……まだ夜は長い。この機会に互いの情報のすり合わせをしておくべきじゃろう。

 お主らも、構わんか?」

 

「わかってるわよ……ちゃんと、向き合うから」

「…………」

 

いつの間にか士郎とバーサーカーの傍には、イリヤとセイバーも集まっていた。

 

再び座敷に戻り、4人は神妙な顔で向き合う。

セイバーとイリヤではどうしても感情や主観が紛れ込むだろう。

この中では唯一当事者でないバーサーカーだが、彼女が士郎への説明を引き受けた。

 

「……衛宮切嗣は、10年前の第4次聖杯戦争に参加したマスターじゃった」

 

「!?」

 

「そして彼が召喚し使役したサーヴァントが『アーサー・ペンドラゴン』……すなわち、今ここにいるセイバーとなる」

 

「なっ……セイバーが、じいさんの!?……アーサー王!?」

 

どうやら彼はセイバーの真名すら知らされていなかったらしい。

魔術師として未熟な彼から情報が漏洩する危険を避けるためだったそうだ。

 

「……キリツグのこと、黙っていて申し訳ありませんでした。

 ですがシロウの語る彼と私の知るあの男があまりに違い過ぎて、同一人物だと信じられなかったのです」

 

衛宮切嗣は『魔術師殺し』と呼ばれた暗殺者。

冷酷で機械的、人の心があるのかすら怪しく、第4次聖杯戦争では勝利のために一般市民を犠牲にする卑劣な手段を迷いなく選択していた。

セイバーと会話したこともたったの3度。

即ち、3画の令呪の行使である。

 

「聖杯戦争での勝利を望んだアインツベルンは、外様のマスターとして切嗣を雇った。

 表向きは彼の妻、アイリスフィールをマスターに見せかけ共に聖杯戦争に参加したんじゃ。

 そしてアイリは亡くなったが、彼は勝ち残った。

 ……しかし彼は目的であった聖杯を手にする直前で、その破壊をセイバーに命じたのじゃ」

 

「聖杯を……なんでさ!?」

 

「わかりません。ですが私は、あの時ほど令呪の存在を恨めしく思ったことはなかった」

 

「まぁアインツベルンで得た情報から儂なりに理由は推測しておるが……確証はないので今は脇に置こう。

 そして裏切りとも言える切嗣の行いに、アインツベルンの当主ユーブスタクハイトは激怒した。

 本拠地に拒絶の結界を張り、二人の子であるイリヤを迎えに来た彼を門前払いにし続けたそうじゃ」

 

「そうか……じいさんが頻繁に家を空けていたのは、イリヤを迎えに行こうとしていたのか」

 

「……でも私はずっと、『キリツグは私を捨てて、代わりに拾った子を育てている』って聞かされてたのよ?

 いきなり『これが事実だ』なんて知らされても、簡単に受け入れられるわけがないじゃない」

 

「故に、イリヤはお主ら二人との戦いを望んだんじゃ。

 父親の愛情を一身に受けて育った子と、母親を守り切ることができなかったサーヴァントに。

 ……な?お主らにとってはとんだ八つ当たりじゃろ?」

 

「いや、イリヤの憤りは当然だ。

 ……悪かった。俺はイリヤのことを何にも知らず、のうのうと生きていた」

 

「たしかに私は、先の戦いでアイリスフィールを守り抜くことが出来なかった。

 騎士として誓いを立てておきながら……私からも謝罪させてください」

 

「……もういいわよ」

 

「ん。よしよし、仲直りじゃな。

 となれば今更殺し合う気も起きまい?

 どうじゃ、ライダー討伐までとは言わず正式に同盟を組まぬか?」

 

「「「同盟?」」」

 

「儂もイリヤも、聖杯に託す願いなど持っておらぬ。

 我らが戦争に参加している理由はライダーのマスターのような外道に願いを渡さぬため、それだけじゃ。

 そしてお主らならばその願いは真っ当なものであろう。

 であれば、最後に勝者の座を譲っても構わん」

 

「良いのですか!?

 アインツベルンの悲願とやらは……!」

 

「それはバーサーカーがどうにかしちゃったわよ……お爺さまももういないし。

 ……でも何よ!根源に至るどころか根源そのものに近いサーヴァントって!」

 

「根源ってたしか……魔術師が目標としている?」

 

「げらげらげら。そんじゃ、儂の真名も明かしておこうかの」

 

バーサーカーが頭の横にある仮面に手をかけながら語り始める。

 

 

「実は儂も、前回の聖杯戦争に参加しておったのよ。

 望まぬ形で呼び寄せられた、イレギュラーサーヴァントとしてな」

 

「貴女も!?では貴女が、ついぞ姿を見せなかったキャスターのサーヴァント!?」

 

「その時は聖杯戦争のことなど何も知らんかったし、クラスが何か以前にサーヴァント扱いだったかすらわからんがな。

 儂自身の在り方も今とは大きく違ったしの」

 

当時はまだ故郷を探す旅の途中。

とある殺人鬼が魔導書を斜め読みした程度の知識で召喚の儀式を行い、その結果平行世界を移動している途中だった彼女がこの世界に引き寄せられた。

彼女は状況を把握するや否や即座にその殺人鬼を始末し、被害者を癒してから醜悪な記憶を消去して解放し、自身は姿を隠した。

当時この世界からすぐに立ち去らなかったのは、念のために故郷と関わりがないか調べておこうと思ったからだ。

 

「世界を渡る……それは、第二魔法……!?」

 

「ここではそう呼ぶらしいな。

 そして、あの悲劇が起こった」

 

聖杯戦争の過程で引き起こされたという、冬木の大火災。

都市の一角が突如焼き尽くされ、多くの人間が犠牲となった。

 

「その時の儂は偶然にも震源地の近くにいたのよ。

 迫る炎を打ち消して周囲を守り、範囲外の被害者を治療し、犠牲者を蘇生した。

 それでも全員は救いきれなかったがな。

 ただの炎でなかったからこそ死者の魂の損傷が大きく、蘇生が間に合わぬ者が多すぎた」

 

「蘇生!?」

 

「その話……まさか、アンタが!?」

 

「咄嗟の事態とは言え、儂はその姿と力を耳目に晒しすぎた。

 既にこの世界が故郷と無関係とははっきりしていたので、余計な騒動になる前に慌てて立ち去ったんじゃ」

 

しかし彼女に救われ彼女の『鎧姿』を見た多くの人間たちが、彼女をとある存在と勘違いした。

そして都市の復興に当たり災害跡地に社を立て、人々は感謝と信仰をそのとある存在に捧げてきた。

 

「死者の蘇生……魂からの肉体の再構成はアインツベルンが求める第三魔法の手がかりとなり得る。

 故にユーブスタクハイトは、冬木の大火災にて『この世界の英雄と同一視された』儂をサーヴァントとして召喚し、その力の秘密を探ろうとしたんじゃ。

 この冬木の社に祀られていた『石像』を強奪し、それを触媒としてイリヤに召喚を行わせたわけじゃな」

 

今回のアインツベルンは勝って願いを叶えるために聖杯戦争に参加したのではない。

聖杯戦争にかこつけて狙いのサーヴァントを呼び出すことそのものが目的だった。

その結果が今ここにいるバーサーカー。

彼女は本来この世界の存在ではなく、英霊でもない。

しかし彼女をとある存在と誤認した人々の信仰心により、縁を通じて彼女はその存在の名を借り、英霊として召喚された。

 

 

「儂が預かった名は『不動明王』。

 悪しきを挫き人々を守護する武神である」

 

宝具を発動した彼女の姿は、炎を背負う憤怒相の鬼神。

力づくで人々を迷いや災いから救済する『ヒーロー』。

いわば世界意志に認められた『正義の味方』が、衛宮士郎の前に立っていた。

 




真名:不動明王(ヒノカミ)
クラス:バーサーカー
属性:混沌・善・天

筋力:A+
耐久:EX
敏捷:D
魔力:B
幸運:F
宝具:B

本作の世界線では第4次聖杯戦争にて、龍之介の犠牲となった子供たちの助けを求める声に引き寄せられジル・ド・レェの代わりに召喚されていました。
各陣営は知らぬうちに一騎脱落したのかと考えていましたが勿論そんなことはなく、聖杯は原作ほど活性化していません。
冬木の大火災が発生した際に周辺への被害を防ぎ、守りきれなかった範囲の被害者の救出に尽力したところで、時間経過や焼失などによる死者の魂の劣化によりそれ以上は救えず、これ以上の騒動になる前に立ち去りました。
爆心地付近には行っておらず、『衛宮』士郎となった少年の境遇に関しては原作と大差ないものとしています。
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