原作初期の誤解や葛藤が解消されており、アインツベルンの呪縛からも解放されているため、精神的に余裕があるからです。
でもそれ以上の理由は自分のサーヴァントがボケ倒すので、ツッコむ内に、自然と。
散策と結界の強化から戻ったその夜、4人は衛宮家の居間にて、イリヤの使い魔が記録した映像を再生し確認していた。
彼女は既に間桐兄妹に狙いを定めていて、今日は朝からその動向を監視していたのだが、兄の慎二があっさりと馬脚を露していた。
学園に仕掛けた魔法陣が悉く破壊されていると知ると、人気がないとは言え真昼の学校の敷地内にライダーを呼び出し、一方的に罵声を浴びせ始める。
バイザーで隠しているのでわからないが、ライダーは一体どんな眼で慎二を見ているのだろうか。
「……酷いものですね。
敵ではありますが、同じサーヴァントとしてライダーには同情すら覚えます」
「コイツ、ホントに魔術師の家系?
堂々と学校に来てるし、自分も命を狙われてる立場だってわかってるのかしら?
……どうしたのシロウ?」
「……信じたくなかったんだ。
確かにワガママな奴だけど、学校の皆を殺そうとするような奴じゃないって思いたかった」
聞けば間桐慎二は、衛宮士郎にとって友人と呼べる存在だったらしい。
『友達は選んだ方がいい』と口にしそうになったが、セイバーとイリヤは押し黙った。
この二人はそもそも、まともに友人がいないので。
「……でも、桜じゃなかったことにはちょっと安心してる。
桜には、こんな血生臭いことには関わってほしくないから」
「……魔術師の家系ってだけで、血生臭いことは避けられないわ。
多分そのサクラって子も相応の地獄は見てるんじゃない?
少なくともシンジがライダーを従えていることは知ってるはずよ」
「そう、なのか……?」
「儂も詳しくはないが、聞き及ぶ限りこの世界の魔術師はどいつもこいつも腐れ外道じゃからなぁ。
……あー、なんか憂さ晴らししたくなってきた」
「やめてね。ホントにやめてね!」
バーサーカーはマスターがいなくとも活動できる。
令呪さえも効かないのだから、彼女は何ものにも縛られない。
そして現代の魔術師で相手になるはずもない。何しろ彼女は神と同一視されるほどの力を持った、根源そのものとも言える魔法使いなのだ。
もし時計塔の連中が彼女に妙なちょっかいを掛けたら、本気でこの世界から魔術師が絶滅しかねない。
イリヤは呼び出してしまったものの責任として、速やかに聖杯戦争を終結させこの暴君にお帰り願わなければならないのだ。
たとえ多大な恩があり、こうして共に暮らす時間が愉快であったとしても。
「……ともかく、今はこのシンジってのに退場してもらうことを考えましょ」
「!?殺すつもりなのか!?」
「正直に言えばそれが一番簡単で確実ね。
……でも、シロウはそれじゃイヤなんでしょ?」
「ああ」
迷いなく頷く弟に、姉は深いため息を吐く。
面倒だがここで士郎の不興を買い同盟が揺らぐ方がマイナスが大きいと、イリヤは判断した。
「……コイツの令呪を奪いましょ。
才能も人格も最底辺なんだし、令呪が無ければライダーを従えるなんてできないはずよ。
他のサーヴァントも望んでこんな奴の下につくなんてありえないわ」
「令呪を?どうやって?」
「ベストは当人に使い切らせることね。
駄目なら捕らえてから厳重に封印するか、令呪をバーサーカーに焼き払わせる。
後者だったらかなりの苦痛を伴うけど……死ぬわけじゃないんだし火傷は後でちゃんと元通りにすればいいんだから、そのくらいの罰は受けてもらいましょ。
……どう?これでいい?」
「……ありがとう、イリヤ」
「その代わり奴らに戦いを挑むのはお主らだけでやるんじゃ。
奴を挑発し令呪を使い切らせよ。
使う様子がなければ持久戦を仕掛け魔力を枯渇させるんじゃ。
大した相手でもないし、お主らのちゃんとした初陣には丁度良かろう」
「わかった。頼めるか、セイバー?」
「無論です。バーサーカーに譲渡してもらった魔力があり、士郎から送られてくる量もこの短期間でわずかですが増えている。
この程度の者が使役するサーヴァントに遅れを取るはずもない。
セイバーの名に恥じぬ戦いをお見せしましょう」
話し合う間にも映像は続く。
学校にもう一度仕掛けようとしたが破壊されると同時に妨害術式も組み込まれていると知り、今度は大きめの商業ビルに仕掛けるようライダーに命じていた。
「慎二……!」
「完全にアウトね。神秘の秘匿の重要性をここまで理解してないなんて。
仮に聖杯戦争を生き延びたとしても確実に代行者に処刑されるわよ?」
「だったら、その前に絶対止めてやる!」
「狩場の下見にはこ奴も同行するつもりのようじゃな……明日の夜か」
「わかりました、我らはそこで仕掛けます。その間お二人は?」
「隠れて監視と警戒……と行きたいところじゃが、ちと確かめたいことがあってな。
悪いが儂らは同行できぬ。
ライダー以外の横やりが入る可能性は十分に危惧しておけ」
――――……
丸一日が経過し、士郎とセイバーが動き出す。
イリヤの使い魔を通じて慎二が下見に向かったビルの付近に、同じくイリヤの力を借りて人払いの結界を造り、慎二とライダーを迎え撃つ予定だ。
そして士郎たちと同時にイリヤも動き出していた。
「こんばんわ。お時間よろしいかしら?」
「…………」
こちらも人払いがされた夜の街の一角で、イリヤがとある人物の背に声をかける。
相手は驚く様子もなく、無言でイリヤに背を向け続けている。
こうして『間桐』の家の外にわざわざ出てきたことから、やはり『彼女』はイリヤの使い魔と監視に気付いていたのだろう。
「すでにご存知だとは思うけど、改めてご挨拶させていただくわね。
私は『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』。
此度の聖杯戦争に参加したマスターの一人。
お会いできて光栄だわ。
ライダーのマスター、『間桐桜』さん」
「…………」