冬木の聖杯戦争を運営する魔術師の御三家。
遠坂。
アインツベルン。
そして、マキリ。
元々はロシアの魔術師だったが数百年に日本に移り住み名前も『マキリ』から『
しかし土地と水が合わなかったのか代を重ねるごとに弱体化していき、ついに間桐慎二の父親の代で魔術回路が完全に消滅してしまった。
当主の弟には辛うじて魔術回路が残っていたらしいが魔術師となることを拒絶し出奔、その後何の心変わりか前回の聖杯戦争に参加したが死亡している。そして彼は結婚しておらず、子を残していない。
よって間桐はもはや御三家とは名ばかりの存在。
魔術の知識は残っていても行使はできず、魔術師ではない。
故に遠坂凛は、間桐が今回の聖杯戦争に参加しているとは思っていなかった。
魔術師でなければサーヴァントを召喚することさえできないだろうと。
……今の間桐に魔術師がいることは、彼女が一番よくわかっているだろうに。
「あぁ、『間桐』ではなく『遠坂』と呼ぶべきかしら?」
「っ!?やめてください!」
「……からかいすぎたようね、謝罪するわ」
心配性のバーサーカーに促され、イリヤは前もって聖杯戦争に参加しそうな勢力を調査している。
冬木の御三家である遠坂と間桐はその筆頭だ。特に念入りに調べ上げた。
その結果、およそ10年前にこの二つの家で結ばれた密約を把握した。
魔術師の家系では兄弟姉妹による後継者争いが発生することが多い。
どちらかが明らかに優れていればそちらを立てるだけで済むので問題ないが、その『姉妹』はどちらもあまりに才に溢れすぎていた。
よって騒動を避けるため遠坂家の次女である『遠坂桜』は養子に出され、『間桐桜』となったのだ。
「安心してちょうだい。
アナタの出生や、アナタがライダーの本当のマスターだってことは、シロウには秘密にしてるわ」
「……そう、ですか。でも、何故……?」
「そっちもとっくに把握してるんだろうけど、私はシロウの『お姉ちゃん』だもん。
出来の悪い弟ほど可愛いものよ。ついつい過保護になっちゃうのよね」
「お姉ちゃん、かぁ……羨ましいなぁ、先輩」
「逆にアナタには同情するわ。
実姉がリンで、義兄がアレなんだもん。
……何故召喚したライダーを、あんなのに渡したの?」
「……私がいけないんです。私が兄さんを苦しめるから……」
「……なるほど、なんとなく察したわ」
魔術師の家系にあって魔術回路を持たないとは無価値に等しい。
プライドだけは一級品な慎二はそれに耐えられなかったのだろう。
いっそ桜が傲慢に振る舞い慎二を見下してやればよかったのだが。
「アナタ、優しすぎたのね」
「!?」
彼女は慎二に引け目を感じ、同情心を抱いてしまった。
それが彼の神経を逆撫でし、彼は桜に対して暴力を振るうようになった。
そして桜は耐えることを選び、その姿勢が更に彼を苛立たせ。
その負の悪循環の果てが、今の彼らの歪な兄妹関係なのだろう。
「……私は、優しくなんか、ないです。
卑怯で、臆病で……兄さんに役目を押し付けて。
ライダーにも酷いことを……!」
「だから、私の前に出てきたの?」
桜は無言で俯いた。
彼女は自分がマスターだと把握されており、命を狙われている立場だと正しく理解している。
なのに拠点に籠るでなくこうして外に出てきた。
自分を監視していたイリヤに殺されるつもりで。
「義兄さんはライダーに、初めて手にした力に酔いしれて暴走してしまった。
覚悟も持たずに……このままだときっと誰かを、先輩を殺してしまう。
そして義兄さんも誰かに殺されてしまう。
だからその前に私が消えれば、ライダーも!」
「そこまでして守る価値がアイツにあるの?
どうしてアナタは自分を無価値のように扱うの?」
「私に価値なんて、あるわけないじゃないですか!
こんなに醜くて、汚れて、穢れきってしまった私に、価値なんて……!」
「『穢れ』、ねぇ……」
「ならば儂が焼き払ってくれよう」
「!?」
桜の背後から響く声。
そして振り向く間もなく彼女を包む『白い』炎。
アインツベルンの呼び出したサーヴァントが炎使いであることは桜も把握している。
であれば、今の声の主がイリヤのサーヴァントなのだろう。
(あったかい……これで、ようやく……)
燃えて、燃えて、燃え広がって。
頭の先から足の爪先まで、髪の毛の一筋に至るまで丁寧に燃やし尽くし、炎は消えた。
間桐桜を、その場に残して。
「……え……!?」
あれほどの猛火に包まれていたというのに己の肌には火傷の一つもない。それどころか。
(痛みが……胸の淀みが……、『蟲』が、いなくなって……!?)
意識を失いかけていた桜には聞こえていなかったが、つい先ほどまで彼女の体の中に潜んでいた蟲が断末魔の叫びを上げていた。
そして今はもう、全て灰も残さず焼却されている。
「お主の『穢れ』とやらは儂の炎により全て焼き祓われた。
それでも残るものがあるとしたら、それは『穢れではない』ということじゃな。
否定しようなどとおこがましい真似はするなよ?
仮初とは言え、『不動明王』の『迦楼羅炎』じゃからな」
「あな、たは……?」
「くけけけ……んじゃ、胸のつかえが取れたところで、ちょっと『兄妹喧嘩』に行ってこい!」
「え……え……!?」
桜が振り向くとそこにいたのは鬼の仮面を被った、自分とさほど変わらぬ背丈の小柄な女性。
イリヤのサーヴァント……言う通りだとすれば『不動明王』だということになるが、彼女は桜の困惑も無視してぐいぐいと話を進める。
「なぁに『兄を張り倒せ』という訳ではない。
ちょっと本音をぶつけるだけでいいから!
『嫌い』とか『気持ち悪い』とか『生理的に受け付けない』とか!」
「最後のは酷すぎません!?なんで、いきなり、そんな……?」
「わからんかぁ?
そりゃそうじゃ、儂は何も説明しておらんからな」
「だったら、説明してください!」
「説明せんと……口にせんと伝わらんからじゃよ」
「……え?」
「お主がお主の気持ちを口にせず飲み込んでしまうから、お主の想いがあのバカ兄貴に伝わらんのじゃ。
アレがお主に暴力を振るい始めたのは、お主から感情を引き出そうと……お主と『喧嘩』をしようという気持ちもあったのではないのか?」
「!?」
「お主の拒絶と無関心もまた、あ奴を苦しめ歪めたのではないか?
大人になると喧嘩なぞ容易にできなくなる。
子供のうちに一度ぶつかりあっておけ。お主が本当にあ奴を義兄と想い続けるつもりならばな」
「…………」
バーサーカーは俯き沈黙してしまった桜を強引にイリヤ押し付けた。
「んじゃ、今から士郎たちの傍に送るから。桜のことは任せた」
「ちょっと、アンタがけしかけたんじゃない。
なのについて来ないっていうの?」
「すまん、ちとやることができてな」
「……あっそ」
バーサーカーが桜とイリヤに軽く手を触れると、二人は忽然と姿を消した。
「…………」
桜の穢れを焼き払う過程で、彼女の身にこびりついていた呪いは灰となった。
そしてバーサーカーはその灰を通して、彼女の受けていた仕打ちをおおよそ理解してしまった。
「……間桐ぉ……臓、硯んんンンンン!!!!!」
炎を背負う憤怒相の鬼神が、大地を揺らし歩き出す。
彼女が定めた悪を討ち滅ぼすために。
臓硯なら桜を操って彼女の自殺行為を止めそうですが、相手がイリヤなので彼女を手に入れるチャンスと判断し少し様子見をしました。
そして行動する前に焼かれました。誰にも気付かれぬ内に。
桜の説得を容易にするために過去のヒノカミが彼女と会っていたという設定にしようかと考えましたが、断念しました。
10年前のヒノカミは龍之介の儀式に引き寄せられただけで、魔術師も聖杯戦争も知りません。
なのに桜と出会ったら彼女の様子から問題を察して間桐家に殴り込み、そこから魔術師と聖杯戦争のことを知り、激怒して関係者を殺しにかかるためです。
魔術師は根本的に外道の集まりなので、特殊な背景を持つか子供でない限りヒノカミの判定から逃れられません。
雁夜おじさんとウェイバーくんが辛うじて見逃されるかもしれませんが、他のマスターや協力者たちは間違いなく焼却されます。もちろん切嗣も。
冬木の大火災は起きませんが、Fateのストーリーが完全に破綻するので流石にマズイ。