『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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士郎が饒舌なのはヒノカミの影響です。
前回で桜にしたのと同じ様に『言葉で伝えること』の重要さを説いています。
ヒノカミの預かる二つ名だったり出会ってからの日々だったり、ヒノカミは割と士郎の夢を肯定する側だったりで、士郎の方もヒノカミの言葉を素直に聞いています。


第8話

 

セイバーとライダーの戦いは、セイバーの宣言通り一方的なものとなった。

まだ士郎たちは知らないが、慎二は魔術師ではなく本当のマスターでもない。

故に彼から供給される魔力はないに等しく、ライダーが本来の実力を全く発揮できていないからだ。

慎二が人食いに拘っていたのもそのため。

無関係な一般人をサーヴァントに食わせて腹の足しにしようとしていたわけだ。

 

対してセイバーはバーサーカーから潤沢な魔力を供給され戦闘開始時は万全の状態。

戦闘が継続し消耗した量を士郎から供給される形だ。

その量は乏しいが少なくとも慎二よりは遥かに多い。

 

「ライダー、宝具だ!宝具を使え!!」

 

「……よろしいのですか?

 周辺への被害は無視できないものとなりますが。

 そして私の魔力も……」

 

「構うもんか!いいから使え!

 衛宮のサーヴァントを殺せぇ!!」

 

「やめろ慎二ぃーーっ!!」

 

戦いの最中に士郎は慎二に必死に呼びかけ、思いとどまるように言葉を尽くした。

しかし相手は癇癪を起すばかり。そしてサーヴァント同士の戦いは明らかにライダーが劣勢。

我慢の限界が来た慎二はライダーに宝具の使用を命じた。

今のライダーが宝具を使えば魔力が枯渇し消滅する可能性も高いのだが、頭に血が上った彼はそこまで考えが及んでいない。

 

 

そしてライダーは首に短剣を突き刺し、溢れ出る血の中から天馬を召喚した。

 

 

これによって彼女の真名が判明する。

天馬はとある怪物の首を落とした際にそこから生まれたとされる幻獣だ。

その目を見た者を石にするという、ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹の末妹。

 

「『メドゥーサ』……!」

 

「セイバー!」

 

「わかっています、こちらも宝具で迎撃を!」

 

「それだけじゃ駄目だ!

 可能な限り街への被害を抑えてくれ!できるか!?」

 

「……お任せください!」

 

マスターの無茶振りをむしろ信頼の証と受け取り、セイバーは剣を構える。

彼女の剣を隠していた風の結界が解放され、光り輝く聖剣が姿を現す。

 

 

「『騎英の(ベルレ)……!」

 

「『約束された(エクス)……!」

 

 

天馬に騎乗したライダーが天高く舞い上がり、眼下のセイバー目掛けて突撃する。

激突の瞬間を狙ってセイバーが光の剣を振りかざす。

 

 

「『手づ(フォー)……』っ!?」

 

「『勝利の(カリ)……』、何っ!?」

 

 

しかし直前でライダーは軌道を曲げセイバーの上を通り過ぎ、士郎も追い越して、その遥か後ろにいる誰かの隣に緩やかに着地する。

 

 

「「桜っ!?」」

 

「義兄さん……先輩……!」

 

 

ライダーはペガサスを消し、イリヤの隣にいる桜の傍に静かに控える。

 

 

「……おいっ!何のつもりだ桜!!」

 

「わ……私……」

 

「サクラ」

 

いつものように慎二に怒鳴られ、いつものように視線を逸らそうとした桜は、隣にいるイリヤに鋭い目で睨まれ踏みとどまる。

震える体で腕に刻まれた令呪を突き出し、震える唇で力強く宣言する。

 

 

「……私が!ライダーのマスターです!!」

 

「「「なっ!?」」」

 

「はい、サクラ」

 

彼女の宣言と同時にライダーと慎二の間にあったパスが途切れ、桜との間に再構成される。

直後、桜から潤沢な魔力が流れ込み、消滅寸前だったライダーの体から力が溢れ出す。

 

「やっぱり本当のマスターだと違うわね。

 コレが相手だったら今のセイバーだと勝てなかったんじゃない?」

 

「そんなことは……っ、知っていたのですか!?」

 

「サクラがマスターだってこと?

 知ってたからこの子の隣にいるのよ」

 

「桜……」

 

「先輩……」

 

 

 

「……ふざけるんじゃない!」

 

「「「!?」」」

 

「……しつこい男は嫌われるわよ?」

 

慎二は殺意すら込めて桜を睨みつけるが、ライダーがそれを庇うように立ちふさがる。

しかし桜はライダーの横から彼女の前に出て、なけなしの力を振り絞ってその眼を見つめ返した。

 

「っ……なんだよ、今更!今更ぁぁぁーーーーーっ!!」

 

慎二は一瞬怯み泣き出しそうな顔になったが、すぐに憤怒の表情へと変貌した。

令呪の一画が刻まれた書を投げ捨て、セイバーやライダー、イリヤがいる事すら無視して桜を殴り飛ばそうと駆け出す。

 

 

「慎二ぃーーーっ!!」

 

「ぐぁっ!?」

 

 

そしてライダーたちが動く前に、士郎に殴り飛ばされた。

 

「くっ……衛宮ぁ!」

 

「慎二……俺はお前を、今でも友達だと思ってる!

 だからお前が間違ってるなら、殴り飛ばしてでも止めてやる!!」

 

「間違ってるだって……!?間違ってるのは、この世界の方だろ!!」

 

「がはっ!?」

 

「シロウ!」

 

「待ちなさい、セイバー」

 

士郎を守ろうとしたセイバーはイリヤに止められ、何故止めるのかと睨み返す。

 

「これは殺し合いじゃないわ。喧嘩よ。

 ……だったら気の済むまでやらせてあげなさい」

 

「しかし……!」

 

「死なない限りはバーサーカーが治してくれるわ」

 

「……くっ」

 

今の士郎なら、セイバーの助力を必要としているなら彼から呼びかけてくるだろう。

マスターの心情を理解したセイバーは、騎士として不承不承ながら踏みとどまった。

桜は魔術師として血生臭い光景は何度も見てきたが、こんなに原始的な暴力の応酬は逆に耐性がなく、慎二と士郎の殴り合いから目を背けそうになりながら、それでも視線を逸らさずおろおろと見守っている。

ライダーはそんな桜の隣にじっと立っていた。

 

 

「なんでだ!なんで僕が魔術師じゃないのに、お前が魔術師なんだよ衛宮!

 お前も内心で、ずっと僕を見下してたんだろ!?」

 

「いつも誰かを見下してたのは、お前の方だろ慎二!

 そもそもお前が魔術師の家系なんて知ったのはついさっきだ!!」

 

「うるさいっ!さっさとその自慢の魔術とやらで僕を倒せばいいだろ!?」

 

「俺が使えるのは物を強化する魔術だけだ!

 こんな咄嗟だと使えないし、何よりなけなしの魔力はセイバーに渡してすっからかんなんだ!

 俺みたいな落ちこぼれが、どうやったら他人を見下せるって言うんだよ!?」

 

「はぁ!?なんでそれでマスターになれるんだよ!?

 おかしいだろ!?……ズルイだろ!!」

 

「ズルイのはお前だろ!

 お前は要領が良くて、勉強でもスポーツでも成績優秀で!

 馬鹿な俺がどれだけ努力してきたと思ってるんだ!

 ずっと羨んでたのは俺の方だ!!」

 

「うるさいっ!魔術の使えない魔術師に価値なんかないだろ!

 僕は、僕の価値を証明しなきゃ……!」

 

「お前がどれだけすごい奴かなんて、俺が嫌という程知っている!!」

 

 

最初は止めようとしていた桜も、やがてゆっくりと伸ばしていた手を下ろす。

義兄と先輩の付き合いをずっと見てきた彼女だが、これほど感情をさらけ出してぶつかり合う姿を見たのは初めてだった。

傷だらけで倒れそうなのに、何故だか二人がとても生き生きとしているように見えた。

 

「……そういえばイリヤスフィール、バーサーカーはどうしたのです?」

 

「あー、まぁ、予想はつくと言うか。

 ……いい機会だから知っておくといいわ。

 セイバーは、武人として妙に高く評価してるみたいだけど……」

 

「?」

 

 

 

 

「アイツは『狂戦士(バーサーカー)』なのよ」

 

 

 

 

直後、街の遥か遠くで火柱が上がった。

イリヤ以外の全員、もはや殴り合いともいえぬつかみ合いをしていた士郎と慎二も思わず動きを止め炎を見上げる。

 

「アレは……!?」

 

「……行けばわかるわ」

 

セイバーが士郎とイリヤを、ライダーが桜と慎二を掴み、今なお上がり続ける火柱を目掛けて建物の屋根の上を駆ける。

 

「ウチが……!?」

 

火柱が上がっているのは、間桐の家だった。

セイバーとライダーは近くの建物の屋根の上に降り立ち、士郎たちを下ろす。

眼下では集まった野次馬を警官が必死に押しとどめ、消防車が放水を続けていた。

しかし火は一向に弱まる様子はない。そもそも炎の挙動が不自然すぎる。

天突くほどの高さまで燃え上がっているというのに間桐の敷地の外には火の粉の一つも飛んでいないし、これだけ近くにいても熱を全く感じない。

 

 

 

『……どこじゃぁぁぁああああああ!!!』

 

「「「!?」」」

 

怒号が火柱の中心から響く。

人々は炎の中に、何かの影を見た。

 

『出てこいぃ、小僧ォォォオオオッ!』

 

「……鬼の、バーサーカー……」

 

「あぁ……ウチが、ウチが……!」

 

おそらく地下の蟲蔵の蟲一匹に至るまですべてが跡形もなく燃え尽きていく状況を前に、慎二が頭を抱え膝をつく。

 

「……ふふっ」

 

「サクラ?」

 

対して思わず笑いをこぼしたマスターを、ライダーが訝し気に見つめる。

 

「ごめんなさい、不謹慎で。

 でもなんだか……スッキリしちゃった」

 

「……それは何よりですね」

 

 

その炎は夜通し燃え続け、突然綺麗さっぱり消え去った。

地面には大穴が空いており、大地すらドロドロに融解しところどころガラス化していた。

あまりに異質な事件は翌朝のニュースにすぐに取り上げられた。

そしてその家には『間桐臓硯』という老人が住んでいたが事件後は行方不明、事件当時家を離れていた彼の孫の証言から、生存は絶望的であると告げていた。




ヒノカミ、すでに臓硯を焼いてしまったことにまだ気付いていません。
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