住む家を失った慎二と桜は、ライダーと共にそのまま衛宮家へと連れていかれた。
そして間桐の二人がいると聞いた藤村がまだ夜明け前だというのに飛び込んできて、涙を流しながら兄妹を抱きしめた。
どうやら彼女は間桐家が燃えていると聞きつけてすぐに向かい、組を上げて必死の消防活動をしていたらしい。
しかし炎は消えるどころか弱まりもせず、突然跡形もなく消え去ったかと思うと何も残っておらず。
呆然としていたところで士郎からの連絡を受け、疲労と憔悴でボロボロな姿のまま走って来たというわけだ。
桜はもはや自分にとっての姉替わりと言える彼女の愛に思わず涙を流し、慎二は学校の連中ごとライダーの餌にしようとした相手にこれほど真摯に案じられわずかながら罪悪感を感じていた。
だが慎二以上の罪悪感を感じていたのはバーサーカーだった。
「…………」
藤村にお引き取り頂いた直後、ここまでずっと無言だったバーサーカーは桜と慎二に向き直り美しい土下座を披露した。
その背中にイリヤが腰かける。
流石は不動明王。多少の圧を掛けてもビクともしない、実に座り心地のいい椅子である。
「なんでアンタが『
「納得しました……なるほど、アナタのクラスに偽りはない」
士郎とセイバーがあきれ顔でバーサーカーの頭頂部を見つめる。
その気になれば彼女はもっとスマートに事を解決できたはずだ。
だが怒りのままに暴れ、臓硯が見つからぬからと結界で仕切った間桐の屋敷全てを跡形もなく焼き尽くして。
流石に弁護の余地がない。
ちなみにだが、臓硯は延命のために自身の本体を蟲に移しておりすでに人間ではなかった。
そして桜の中に埋め込んだ内の一体として隠れ潜んでいたのだが……バーサーカーの炎でまとめて焼き払われていた。
即ち、彼女が間桐家を焼き討ちする意味は全くなかったのだ。
この場の誰もその事実に気付いていないのでその点を責めることはできないが。
「あの、もう、それくらいで……」
「ダメよサクラ。今回の件は完全にコイツが悪いんだから」
家を焼かれた上に仮とはいえ祖父を殺された桜だが、彼女はバーサーカーを責めることもなくむしろ気遣っている。
慎二ですらも傷だらけの顔で拗ねたような顔で一瞥しただけ。
血のつながりがある彼ですらこのような態度を取るのだから、臓硯がどれほどの外道であったのか推して知ることができるというもの。
「聖杯戦争での出来事とは言え、マスターとしてサーヴァントの不手際の責任はちゃんととるわ。
間桐の屋敷はアインツベルンの名にかけて必ず建て直すから。
着工は戦争終結後になるし、どうしても時間はかかるけど……」
「あ、儂に任せてもらえるなら明日にでも」
「奇跡の安売りするんじゃないの!
なんでこの中で神秘の秘匿に一番疎いのが、魔法使いのアンタなのよ!?」
イリヤは持ち上がろうとしたバーサーカーの頭を踏みつけて再び畳に押し付ける。
「……で、建て直すまでの間アナタたち三人にはここで私たちと一緒に暮らしてもらうわ」
「えっ!?」
「冗談じゃない!なんで僕が衛宮の家なんかに!」
「アナタたちの身を守るためよ。
聖杯戦争に関わってしまった者を、他の魔術師が放っておくと思う?
たとえそれが、一時的にサーヴァントを預かっただけの非魔術師であったとしても。
間桐があの屋敷の他に強固な工房を持ってるっていうなら話は別だけど」
「……っ」
突然家が全焼したこと、そして名目上とは言え祖父を亡くしたことから、彼らも『しばらく学校を休んで良い』と藤村から許可を得ている。
そして士郎は慎二の唯一と言える友人であり、桜は事実上通い妻のような立ち位置だったので、二人が衛宮家に居候することに疑問を持たれることはないだろう。
「えっと……先輩や皆さんがよろしければ」
「サクラが望むのであれば、私も異存はありません。
お世話になります」
桜は無理やり聖杯戦争に参加させられた立場であり、ライダーは本来なら召喚されるはずもない反英雄。
二人とも聖杯にかける願いはない。
であれば互いの安全のために同盟を組むことに異論はなく、ここに3体のサーヴァントの連合軍が誕生した。
(なぁ慎二、頼むよ。お前もここにいてくれ。俺を助けると思ってさ)
(はぁ!?なんで僕が住むのがお前を助けることになるんだよ!?)
(この家に男が俺一人だからだよ!
セイバーも、イリヤも、バーサーカーも、セラさんとリズさんも女だ!
この上桜とライダーが増えたら、居心地が悪いどころじゃないだろ!?)
(字面だけならハーレム野郎なのに内訳見たら地獄絵図じゃないか!
そのまま一人で人生の墓場に落ちろ!)
(逃がすか!お前も道連れだ!!)
「はい、シンジもオーケーね」
またも取っ組み合いを始めた二人を無視してイリヤが宣言した。
逆にセイバーは二人を見比べて疑問を口にする。
「……しかしバーサーカー、シロウの怪我の治りが早すぎるのですが。
貴女の渡した術とやらはこれほどの効果があるのですか?」
「いや、『天神武装』は相応に消耗するんで魔力がない状況では発動すらできんはずじゃ。
当人も使用しておらぬというし、『不可死犠』の方は適性が低いからまだ使えん。
別の要因があるのじゃろう。それが何かはわからぬが」
慎二の方には昨日の激しい喧嘩の傷跡が色濃く残り、かなりの男前になっている。
対して士郎は青あざ一つない。喧嘩を終えた直後は、どちらも同じくらいボロボロだったはずなのにだ。
「……見当はついてるわ。
やっぱり、キリツグはこんな形で隠してたのね」
「イリヤ……?」
「シロウの中には、セイバーの『鞘』があるのよ」
「なっ!?『
それはセイバーの『
第四次聖杯戦争において『アーサー王』を召喚するためにアインツベルンが用意した触媒。
セイバーの魔力に呼応し、その所有者に無限の治癒力をもたらす。
その効力はまさに規格外で、アーサー王が数々の偉業を成し遂げたのは『剣』ではなく『鞘』のおかげだという説まであるほどだ。
「聞く限り、シロウは10年前の大火災で致命傷を負っていたはずなのよ。
でも生き延びたのは……おそらくキリツグが『鞘』を埋め込んだから」
「なるほど、シロウが不完全な儀式で私を召喚することができたのはその縁があったからなのですね」
「ふむ……儂が取り出そうか?」
「……いえ、少なくとも今はまだ。
私はこの戦い、彼をマスターとして勝ち抜くと誓いました。
であれば『鞘』には私よりも彼の身を守ってほしい」
「わかった。まぁ儂らがいるうちはあ奴が他のサーヴァントに殺される事態にはなるまいが。
しかしそうか……重傷を負ってもすぐ治るのか……」
「っ!?」
バーサーカーの呟きを聞いたセイバーの背筋に冷たい何かが走り、彼女は思わず息を呑む。
バーサーカーが士郎に向ける視線には、悪意も、敵意も、殺意もない。
しかしなんだろうか……彼女から感じる、この『恐怖』は。
「……士郎。今日からの特訓はちとハードにするぞ。
まだ日は浅いが時間もない。そろそろ本格的に戦う力を身に着けていかねばな」
「?あぁ、いいけど。強くなれるってんなら望むところだ」
「……言質は取ったぞ」
「「「?」」」
ゴタゴタが終わり、少し遅めの朝食を取り、早速バーサーカーによる士郎への今日の指導が始まる。
根源に至った魔法使いの修行とやらはどんなものかと、興味本位で慎二も二人に同行した。
しかし10分足らずで慎二だけ引き返して来た。
「義兄さん?」
「……アレが魔術師になるための訓練だっていうなら……僕は魔術師でなくていい……」
「???」
補足すると、士郎の修行に使っている道場にはバーサーカーにより様々な結界が設置されている。
特に防音については念入りに。そうでなければ。
悲鳴を聞いたご近所さんが通報して、間違いなく警察がすっとんでくるから。
士郎もどちらかと言えば『凡人』なので『天神武装』の適性は無茶苦茶高いんですが、流石に期間が短すぎて一瞬発動するくらいしかできません。
なので別アプローチを加えつつ、訓練そのものをハードにして強化します。
ハードっていうか