『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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今回、会話のみで進行します。
というか、延々とヒノカミが語り掛ける形になりますがどうかご容赦を。


第10話 正義の味方

 

「……流石に飛ばし過ぎたか。

 夕飯まであと少しというところじゃし、今日はここまでとしよう」

 

「はぁ、はぁ……お、押忍……」

 

「……いびっとる儂が言うのもなんじゃが、よく踏ん張るなぁお主は。

 折角じゃから聞いておきたい。

 何がそこまでお主を突き動かす?

 何故お主は『正義の味方』を志した?」

 

「……じいさんが……切嗣が、『正義の味方』になりたかったって言ってたんだ。

 『誰かを助けたい』っていう願いが綺麗で憧れた。

 だから俺は、切嗣の理想を叶えてやりたいと思ったんだ」

 

「切嗣か……まぁあ奴のやったことはともかく、願いそのものは確かに美しい。

 しかしだと言うなら……」

 

「?」

 

 

「お主『も』誰かに憧れられるような存在にならねばな」

 

 

「……俺、も?」

 

「そりゃそうじゃろ。お主は切嗣に憧れその理想を受け継いだのじゃろ?

 であればその思いが途絶えぬように、お主もまた誰かに切嗣の理想を託さねばならぬ。

 そのためにはお主もまた、『衛宮士郎のようになりたい』と思われる人間でなければならぬ」

 

「そ、そうなる、のか?

 でも、俺は誰かに胸を張れるような人間じゃ……。

 いやそもそも、正義の味方が他人を頼るなんて本末転倒じゃないか?」

 

「ふむ……少し昔話をしよう。

 これは儂の……いや、とある平行世界での話じゃ。

 そこはこの世界よりももっと超常が日常で、力ある悪が力なき無辜の民を傷付け支配する、そんな世界じゃった。

 人々は己の身を守ることで精一杯、ただ息をひそめて悪と災いに怯える日々を過ごしていた」

 

「……酷いな」

 

「そんな世界に、一人の若者がいた。

 『皆が笑って暮らせる世界にしたい』、『そのためには平和の象徴が必要だ』と語り、『己が柱になる』と誓った。

 彼は今お主が受けた仕打ちすら生温い地獄を越えて、ついに『最高のヒーロー』と呼ばれる存在となった。

 存在そのものが悪に対する抑止力とされ、彼が笑顔で駆けつければ人々の不安はたちまち掻き消え、誰もがつられて笑顔になる、そんな男じゃった。

 ……さて、お主と彼では決定的な違いがある。

 それが何だかわかるか?」

 

「……実力だって言いたいんだろ?

 わかってるさ。俺は凡人で、そんな凄い人みたいな、誰でも助けられるような力は……」

 

 

「違う。彼が守ろうとしたのは人々の命『だけ』ではないことじゃ」

 

 

「……え?」

 

「彼が守ろうとしたのは人々の『命』と、『笑顔』と、『未来』。

 彼は常々口にしていた。『私が来た』と。

 それは傷つき苦しむ人々を『私が来たからにはもう大丈夫だ』と鼓舞し安心させ、悪に対しては『私が来たからにはもう逃げられないぞ』と委縮させ後悔させた。

 だからこそ多くの人々が彼を慕い、多くの少年少女が彼に憧れた。

 それは痛快に悪を倒す姿であったり、彼の地位や名声や得ていた金銭であったりもしたが、確かに彼らは『彼のようなヒーローになりたい』と願った。

 やがて彼に憧れた少年少女は大人になり、彼に続いて立ち上がり、そしてヒーローたちの力の結集により世界は平和と安定を取り戻したのじゃ。

 彼らもまた『正義の味方』であろう。

 共に闘うことを恥だと思うか?」

 

「……いや」

 

「……そして教えておこう。

 彼もまた、何の力も才能も持たぬ無力な少年じゃった。

 ひょっとすれば今のお主より弱いくらいのな」

 

「!?」

 

「ほとんどの人間が超常の力を持って生まれる世界において何の祝福もなく。

 家族は一人残らず悪に殺され天涯孤独。

 だからこそ彼は己が立つと決めた。

 『空っぽの私には、他に役割がないから』と」

 

「……じゃあ、なんで、その人はそんな凄いヒーローになれたんだ?

 何の力もないって言うなら……」

 

「彼の師が『自らの力を他者へと託す』異能を、師の師より受け継いでいたからじゃ。

 『ワン・フォー・オール』と呼ばれたその力を受け継ぎ、彼はそれを見事使いこなし英雄となった。

 そして……儂がお主に譲った炎もまた、『ワン・フォー・オール』を起源とするものである」

 

「あの炎が!?」

 

「そうじゃ、儂の扱う力は『ワン・フォー・オール』から派生し別の進化を遂げたもの。

 鍛え上げればそれこそかの英雄にも勝る力をお主に与えるであろう。

 ……じゃがな、それほどの力をもってしても救えぬ命は確かにある」

 

「…………」

 

「先ほどお主は『誰でも助けられるような力』と言ったな?

 そんな便利なものなどありはしない。

 彼は数え切れぬほどの人命を救いはしたが、取りこぼした命もまた数え切れぬほどあった。

 しかし彼は己の無力を悔いながらも諦めず、そして人々の前では常に笑顔を絶やさなかった。

 どれほど苦しくとも、悲しくとも、彼は誰にも己の苦難を悟らせなかった。

 お主の『己の命と引き換えにしてでも誰かの命を救う』という志は立派じゃが……その程度では『足りぬ』。

 『ヒーロー』とは、『正義の味方』とは、人々の『心』も救わねばならぬ」

 

「……俺にも、なれるのかな?」

 

「なりたいものになれるのは、なろうとした者だけじゃ。

 そしてなりたいと思ったのなら、お主はもう少し『他人の心』を知らねばならぬ」

 

「他人の心?」

 

「相手の心がわからねば、相手の心は救えまい?

 他者を完全に理解することは誰にもできぬ。

 それでも理解しようとする努力は忘れるな。

 その上で『考えるより先に体が動いていた』と言うならば……。

 それは仕方ない。心が命じたことは誰にも止められない。

 命を使わねばならぬ時もあるじゃろう。

 じゃが『命の無駄遣い』はするな。

 お主の命は切嗣が必死に救った命じゃ。

 無為に散らせることこそ切嗣への親不孝と心得よ」

 

「……難しいな」

 

「難しいに決まっておろう。

 やる気と覚悟だけで務まるほど『正義の味方』は甘くない。

 常に学び、考え、迷い、悩み、藻掻きながら進め。

 苦難を乗り越えるほどお主に託した炎も大きくなっていくじゃろう。

 さすればやがて儂と同じように種火を生み出すこともできるようになる。

 そしていつかお主も誰かに己の理想と力を託せ。

 切嗣のように。『最高のヒーロー』のように。

 ……尤も、根っこが儂の炎じゃから外道が使おうとすればその魂ごと燃やし尽くしてしまうじゃろうがな。くけけけけ」

 

「はは……そりゃおっかないや。

 自分はもちろん、誰に託すかも責任重大だな。

 ……よし、まだ頑張れる!

 時間ギリギリまで、もう一度お願いします!」

 

「くけけけ。んじゃ、もう一回試そうか。意識を集中せよ!」

 

「押忍!」

 




オールマイトと衛宮士郎は境遇も割と似ており、ヒノカミは二人を同種であると認識しています。
よってオールマイトと共に苦難の道を歩んできたヒノカミは『正義の味方』肯定派です。
肯定した上で『それじゃ不十分だからもっと頑張れ』と言います。
鬼ですが、優しくて厳しい鬼です。
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