『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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もう少ししたら仕事が忙しくなりそうだから、その前に貯められるだけストック貯めないとって動いてたら、この外伝の完結まで書き上げてしまいました。
次の外伝までとんでもなく時間が空くことになりますがちゃっちゃと2回投稿で出し切ることにします。


第13話

 

バーサーカーの放つ火球の嵐を掻い潜りながら、必死に放った苦し紛れの一撃。

キャスターのクラスを冠する英霊にしてはあまりに弱く、しかし現代の軟弱な人間を殺すには十分な威力だ。

それでも相手はアインツベルンの最高傑作。

威力の大半は防御結界を貫くために浪費され、わずかな手傷を負わせる程度にとどまるだろう。

 

「させるかぁぁーーーっ!!」

 

だがイリヤの前に士郎が踏み出し刀を構える。

キャスターは予想外の、そして好都合な展開に口角を吊り上げ嗤う。

 

士郎が魔術師として未熟であることは今日までの偵察で把握している。

防御の魔術など使えず、彼が攻撃を受ければ確実に重傷、当たり所によっては致命傷だ。

マスターがやられればセイバーには必ず大きな隙が生じる。

そこで残る竜牙兵をイリヤスフィールにぶつければ戦線は崩壊するだろう。

合理性を欠いた感情任せの行動。

キャスターは、無能な味方に足を引っ張られ敗北する彼らの未来を予見した。

 

しかし今の衛宮士郎は蛮勇を犯すただの愚者ではない。

 

「散らせぇぇっ!!」

 

キャスターの魔力弾が彼の持つ『ソードサムライX』の刀身に吸収され、柄についた飾り緒から放出されていく。

エネルギー攻撃ならばその出力を問わず無効化できる、バーサーカーがAランクの『道具作成』スキルで作り出した異界の武器だ。

 

「バカな!?」

 

「隙あり」

 

「っ!?しまっ……!」

 

天を焼く一際大きな爆炎がキャスターを飲み込んだ。

ここにきてようやくキャスターは、バーサーカーが意図的に自分の攻撃を見逃したのだと悟った。

セイバーのマスターならば自分の攻撃を防げると確信し、その結果を見て自分が致命的な隙を晒すと見越して。

 

(……もう、もうこれを切るしか……!)

 

もっと状況に整えてから踏み切りたかったが、事ここに至ってはもはや他の選択肢はない。

キャスターはなけなしの魔力を全て使って『宝具』を取り出し、転移した。

士郎の背中に守られたイリヤの背後へ。

 

「「!?」」

 

 

「……『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』!!」

 

 

それは突き刺した対象の『あらゆる魔術』を初期化する短剣。

『裏切りの魔女』と呼ばれたキャスター『メディア』の伝説そのものを形にした武器。

 

キャスターの本当の狙いは『バーサーカーを奪うこと』だった。

 

これでマスターとサーヴァントの契約を初期化し、直後にサーヴァントと強制契約を結べば自分が新たなマスターとなれる。

初期化した後で再契約せねばならないのだから、一度に行える方が遥かに効率がいい。

だから本来狙うべきは奪う対象であるサーヴァント。

しかしバーサーカーはセイバーすら圧倒する技量を持ちしかも狂ってすらいないので隙が無く、脆弱な魔術師であるキャスターが刃を届かせることができるとは思えなかった。

故に2工程に分ける形になるが、まずはマスター側を攻撃して契約を破棄させ、次に突然の契約破棄に戸惑うバーサーカーの隙を突いて接近し強引に契約を結ぶ。

 

本当にバーサーカーと契約する隙が生まれるのか。

バーサーカーのサーヴァントを運用するには膨大な魔力を必要とするというが、これほどの英霊を維持する魔力を自分が賄えるのか。

そもそも、自分がマスターになったとしてもバーサーカーを制御できるのか。

 

不確定要素の多い作戦だった。

しかしセイバーとアーチャーを圧倒し、キャスターである自分にも勝る多彩な能力を持つバーサーカーをどうにかするとしたら、彼女にはこれ以外の方法が存在しなかった。

そのために、守るべき自らのマスターすら危険に晒してまで、勝負を挑んだ。

 

 

「……それが、アナタの宝具?」

 

 

「……え……!?」

 

しかし彼女の計画は、彼女の危惧していた段階の遥か手前で阻まれた。

 

キャスターの短剣が、イリヤに突き立てられていない。

彼女の身に纏う『白銀』のコートの表面がまるで鱗のように変質し、刃を防いでいた。

 

「『リバース』!」

 

「なっ!?」

 

イリヤの宣言と同時に彼女のコートが分解されキャスターを取り囲み再構成される。

 

「ぐっ、あぁぁ……っ!」

 

『防護服』と『拘束服』、二つの姿を持つ『シルバースキン』がキャスターを捕らえた。

セイバーやライダーの動きすらも大きく阻害する枷をつけられては、ただの人間と変わらぬ身体能力しかないキャスターにはどうすることもできず、彼女は無様に地面に転がることとなる。

 

 

「ぐっ……」

 

「……!?宗一郎さま!!」

 

何とか顔だけを動かした彼女の視界の先で、葛木がセイバーに切り伏せられていた。

周囲には一体の竜牙兵も残っていない。

 

「……急所は外しました。しかし、その負傷ではもはや動けまい」

 

「決着、じゃの」

 

「……っ!う、うぅぅ……っ!」

 

バーサーカーも自分のすぐ傍に着地してきた。

もはやキャスターに逆転の目はない。

アサシンはまだ生きているようだがライダーをまだ撃破できておらず、そもそも山門をマスターに見立てて召喚したためその付近から動かせない。

仮にこの場に呼び寄せることができたとしても、2体のサーヴァントと2人のマスターに囲まれた状況からキャスターと葛木を救出するなどできるはずがない。

 

「……降伏、します。

 アサシンにも戦いを止めるよう指示しました。

 だからお願い、宗一郎さまは……!」

 

「魔術師でもない者を、排除しようとは思いません」

 

「なっ!?葛木がマスターじゃないのか!?

 もしかして慎二みたいに、キャスターにも他にマスターが……」

 

「いいえ。私の主人(マスター)は、宗一郎さまだけよ」

 

「……訳ありみたいね」

 

「ふぅむ、どうじゃ?良ければ儂らに事情を……セイバー!!」

 

「!?ぐぁっ!?」

 

セイバーが何者かから攻撃を受け弾き飛ばされる。

彼女は空中で体勢を整えつつ士郎たちの傍に着地した。

 

「……宗一郎さま!?」

 

「バカな!その傷で戦うなど……死ぬぞ!」

 

胸の傷からおびただしい血を流し、口からも血を吐きながら、葛木が拳を構えて立っていた。

 

「……すでに死んだ身だ。今更何を恐れることがある」

 

「あぁぁっ!どうか、どうかおやめください!!」

 

「止まれ、葛木!」

 

「魔術師じゃないのに……なんでそこまで……!」

 

「残されたこの命、そのために使うと誓った。

 ……逃げろキャスター。そしてお前の望みを果たせ」

 

光を映さぬ掠れた瞳でなおも一歩、一歩と歩みを進める葛木。

既にフードが外れ素顔が露わになっていたキャスターは、大粒の涙を流し叫ぶ。

 

 

「できません、宗一郎さま!

 ……『アナタと共に生きること』が、私の望みです!!」

 

 

「「「……!」」」

 

「そういう、ことかいっ!」

 

バーサーカーは白い炎を右腕に宿して突撃し、葛木の拳を受け止める。

炎は腕を通して葛木の全身に燃え広がっていく。

 

「イヤァァァーーーーッ!!宗一郎さまぁーーーーっ!!!」

 

「落ち着きなさいキャスター!彼は無事よ!」

 

炎が消えると葛木の胸の傷は消え去っており、バーサーカーは困惑で生じた彼の隙を突いて左腕の帯で簀巻きにする。

 

「む……ぐ……」

 

「バカタレ。男だろうと女だろうと、惚れた相手を泣かせるな」

 

バーサーカーはそのまま葛木を引きずってイリヤとキャスターたちのもとに歩いて戻って来た。

 

「お主の願いは『受肉』か。メディア」

 

「っ……嗤いなさいな。裏切りを経験しても治らぬ、馬鹿な女と……!」

 

 

 

「それ叶うなら聖杯はいらんよな?」

 

 

 

「「「……え?」」」

 

 

「ん-……座から一端切り離して、死んだら戻るようにするか。

 確かお主は神の血族であったな。

 しかし子を成すことまで考えたら人間の体の方がよかろう。年取るけど。

 ちぃとアレンジ加えるから生前ほどの力は発揮できぬじゃろうが、構わんか?」

 

「『子』っ!?それは、話が、早すぎ……!」

 

「なんじゃい生娘でもあるまいし」

 

「ちょっと待ってくれバーサーカー!

 アンタ……そんなこともできるのか!?」

 

「そりゃできるさ。儂が『第一魔法(無の否定)』と『第三魔法(魂の物質化)』の達人であることは知っとるじゃろ」

 

今の彼女はバーサーカーのクラスに押し込められているため術の類が全体的に弱体化しており、死ねば崩壊が始まる人間の魂だと肉体の再構成が間に合わず蘇生はできない。

だがしっかりとした霊体を維持しているサーヴァントなら時間制限がない。であれば。

 

「半日ほど付き合ってもらえれば用意してやるわい」

 

「半日!?そんな短時間で……そもそもどうやってそれほどの魔力を用意するつもり!?」

 

「コイツの魔力は無尽蔵なのよ……どんだけ現界しても戦闘しても一切減らないのよ!」

 

「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!

 アンタ魔術師に喧嘩売ってるの!?」

 

「そうでしょ!そう思うでしょ!?

 おまけに令呪まで弾くのよコイツ!」

 

「なによソレ!?じゃあ最初から私に勝ち目なんてなかったんじゃない!」

 

「待ってください!何故キャスターの願いを叶えるのです!?

 彼女は多くの無辜の民を……!」

 

「儂の役目は悪事を止めさせることであって、罰を与えることではないからな。

 受肉すれば実体を維持する魔力を得るために他者を襲う必要も無くなる。

 無論、その上でまだ私欲のために悪事を働くつもりなら……」

 

「っ!?……しないわ。

 願いを叶えていただけるというならこれまでのことも何らかの形で償うと誓います。

 ……裏切りの魔女の言葉なんて、信用ならないでしょうけど」

 

「生前のお主の裏切りはお主のせいではないからなぁ。

 術も人々の命を奪うものでもなかったし、信じるさ。

 ……ここで罰として彼女を処したところで何のメリットもない。

 ならば生かし尽くしてもらった方がよかろう。

 それが転じてこの世界と、この町の被害者たちのためとなる」

 

「しかし!」

 

「『苦しむ』ことが『償う』ことではない。

 それはただの自己満足でしかない。

 他者にとっても、当人にとってもな」

 

「っ……」

 

「……セイバー、俺からも頼む」

 

「……わかりました」

 

「ん。では桜たちと合流するか。

 拘束解くが、暴れるなよ?」

 

「……わかっています」

 

「……キャスターの願いが叶うならば、歯向かう理由はない」

 




第一話の時点でイリヤは『白銀のコート』を着ています。
一応『武装錬金』は『錬金術』なんでオカルトの要素を含んでいるんですが、そもそも『刃が突き立てられない』ので宝具が発動しないと判断しました。
シルバースキン、超便利。

ちなみにヒノカミは当初オリジナルと同じ形(ブラボーの全身コートのサイズダウン)でイリヤにプレゼントしましたが、猛反発を受けたので泣く泣く彼女の要望の形に仕立て直したという裏話があったりします。
『カッコイイのに』『改変したら性能落ちるのに』とブツブツ言ってましたが却下されました。
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