キャスターと葛木を連れ帰ったバーサーカーは、宣言通りおよそ半日をかけてキャスターの肉体を構成し、それに霊体を入れて接続することで受肉させた。
外見も能力もサーヴァントだった時とほぼ同じ。
しかし自力で魔力を生成できるようになったのでもはや一般人から魔力を搔き集める必要はない。
神代の魔術師であるメディアともなれば、溢れる魔力量も桁外れだ。
よって彼女は受肉と同時に柳洞寺の山門に縛り付けていたアサシンを解放し、正式にそのマスターとなった。
「しかし……増えたなぁ……」
かつてはこの広い屋敷に、家主である衛宮士郎一人で暮らしていた。
そこで聖杯戦争に巻き込まれセイバーを召喚し。
イリヤ、バーサーカーと同盟を組み。
アインツベルンのメイドであるセラとリズがやって来て。
慎二と桜とライダーを匿い。
監視と安全のために葛木とキャスターとアサシンもこちらに移り住むように指示した。
マスター3名。
サーヴァント4騎。
元サーヴァント1名と元殺し屋1名。
アインツベルンのホムンクルス2体。
総勢11名の大戦力である。おまけに一般人1名。
「流石に手狭よな……空間を拡張するか?」
「いいわね。アナタがいれば魔力はいくらでも工面できるんだし、とりあえず倍くらいに広げましょ。
工房と、あと全員に個室を……あっ!宗一郎さまのお部屋は私の隣でよろしいでしょうか!?」
「任せる、好きにしろ」
「時々は藤ねぇが来るんだし、気付かれないようにしてくれよ?」
「あ、ついでに大きいお風呂作ってー。
この家のも結構大きいけど、交代で入るのも大変だし」
「掃除する手間を考えなさい!いえ、むしろアナタが掃除しなさいリズ!」
「でも確かに狭いわね。4,5人は一斉に入れる大きさにしておきましょ。
セラの手間が増えないように浴槽に汚れを弾く魔術を組み込んで……男女で2つお願いね」
「女性はどうしても時間がかかるし男女で分けるのは賛成だ。
でも男は4人しかいないんだから、そこまで大きくなくてもいいんじゃないか?」
「いやいや、手足が伸ばせる大きさの風呂は良き物であるぞ?
思えば呼び出されて今日まで一度も湯舟に浸かれておらぬ。
完成した暁には一番風呂を堪能したいものだ」
「……いい加減にしろよお前らぁ!
違うだろ!魔術ってのは、もっとこう……違うだろ!?」
唯一の一般人である慎二が大声でツッコミをいれる。
もはや彼はこの屋敷の最後の常識人枠だった。
「道具も力も使ってなんぼじゃろ。
悪事に用いるのでなければ用途に貴賤もあるまい」
「私が生きていた時代だと科学がない分、なんでも魔術だったのよ。
……でもそうね、少し真面目なお話もしておきましょう」
キャスターの宣言に、広間に集まった全員が少しだけ表情を硬くする。
「サーヴァントは7騎。内5騎はここに集まっている。
……まぁ私は変な形で外れちゃったけど。
残るは2騎。アーチャーとランサー」
「アーチャーはリンのところ。
でもランサーの所在とマスターがわからない」
「一度仕合って魂は覚えたから、現界すれば儂の結界が反応するんじゃがな。
おそらく自陣の拠点に阻害の結界を張り、その外では実体化を避けておるのじゃろう」
「私も可能な限り調べていたけど、足取りはつかめなかったわ。
ただ『全てのサーヴァントと戦い、しかし決着もつけずに帰還する』という『クー・フーリン』らしからぬ振る舞い。
それを命じているマスターとの相性は良くないでしょうね」
「気になるのは彼ほどの英霊がその望まぬ命令に従っているということでしょうか。
マスターがそれほどまでに強力な魔術師なのか、私がシンジに従っていたように別の要因があるのか……」
「いえ、一番の問題は『クー・フーリンが彼らしからぬ戦いを仕掛けてくる』ということでしょう」
「その通りよ。本来の彼なら真っ向から挑んでくるだろうけれど、マスターが命じれば分断工作や闇討ちを仕掛けてくるかもしれない。
マスター相手に必中の槍なんてものを持ち出してくる可能性を考えたら、どれだけ警戒してもし足りない」
「はっはっは、私などよりもよほど『
「よって、アーチャー陣営との戦いも今は避けたい。
横『槍』を入れてくる可能性が高すぎるわ。
……明日からは坊やたちも復学するのでしょう?
霊体化できるライダーとアサシンには、坊やたちと宗一郎さまの護衛をお願いするわ」
「お任せください」
「あいわかった」
「単独行動ができて、例え仕掛けられても単独で撃退できるバーサーカーには引き続き街の調査とランサーのマスターの捜索、そして結界の強化とやらを。
勿論、坊やたちや私たちに襲撃があった場合はすぐに転移で参戦して」
「んむ。全員の状況は常に把握しておこう。
そしてお主とイリヤはこの拠点の強化、セイバーとセラたちはその護衛というわけじゃな」
「その通りよ。これが当面の我々の活動方針。
……そして非道な命令をしかねないようなマスターに、願いを渡すわけにはいかない。
前回起きたという『冬木の大火災』……そんなものが再発する可能性を見過ごせない。
私は宗一郎さまと、この地で生きると決めたのだから」
その場にいる全員が、力強く頷く。
蚊帳の外の慎二は面白くないという顔をしていたが、ふと思い至って声を上げる。
「……なぁ。キャスターもアサシンも葛木も聖杯への願いはないんだよな?」
「えぇ。私の願いは既に叶っています」
「私も真っ当な英霊とは言えぬのでな。
一度だけとはいえライダー殿との力試しもできたことだし……これと言った願望は思い当たらぬ」
「私の願いはキャスターの願いを叶えることだ。他に望むことはない」
「……で、桜もライダーもイリヤスフィールもバーサーカーも、衛宮も願いはないんだろ?」
「「「えぇ」」」
「んむ」
「あぁ」
「ってことは、願いを叶えるのはセイバーなんだな?
セイバーの願いってなんなんだ?」
「……そういえば結局聞いてなかったな。
無理やり聞き出すのも悪いと思って」
「はぁ!?コイツがろくでもない願いを叶えるつもりだったらどうするんだよ!?」
「セイバーが、そんなこと……!」
「……いえ、よい機会です。
願いを譲っていただくのですから、皆さんにもお話しするのが礼儀でしょう」
全員の視線が集中する状況で、セイバーは居住まいを正し宣言する。
「私の願いは、『選定のやり直し』。
愚かな私に代わる正しき者に王の座を託し、ブリテンの崩壊という結末を回避することです」