『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第45話

緑谷は膝を屈した。

爆豪の顔から表情が消えた。

雄英プロヒーローたちが認める次代の英雄は、揃って戦意を失った。

そして二人は先日の彼女の意図に気づいた。

なぜ今話したかではなく、今しか話す機会がなかっただけだった。

彼女はOMTという個性を持っている。

だから彼らが受けた衝撃は、他の生徒や教師たちよりもずっと少ないはずだ。

すでに2度生まれ変わっている。例え死んだとしても、もう一度生まれ変わる可能性は十分にある。

 

(……だからなんだよ)

 

どうせ生まれ変わるから気にするな?無理に決まっているだろう。

数年後に見たこともない子供がやってきて『儂がヒノカミじゃ』なんて名乗ったとして、元通りの関係を築けると思うか?

勿論生まれ変わって会いに来てくれるのなら嬉しい。多少ギクシャクはするだろうが、最終的には受け入れるだろう。

しかし轟舞火である彼女と共に過ごすはずだった時間は帰ってこない。

生まれ変わるとしても彼女が戻ってくる間に彼らは月日を重ね、雄英を卒業し、大人になる。

彼らは共に、来年こそは体育祭で優勝すると意気込んでいた。しかしその頃にはもう彼女はいない。

『自分が来た!』という姿を、『今度こそトップになる』瞬間を、見せることができない。

 

「私からの話は以上だ……では、再開しようか!」

 

「「!?」」

 

気付けばオールマイトが再び戦意をたぎらせ、拳を構えている。

 

「待ってください!突然こんな話を聞かされて……戦えませんよ!」

 

「……戦えない?ヒーローが甘ったれたこと言ってんじゃないよ!!」

 

「がはっ!!」

 

緑谷を殴り飛ばしたオールマイトは、続けて爆豪に迫る。

 

「……クソッ!!」

 

「おいおいどうした?随分腑抜けた攻撃じゃないか。君らしくもない……!」

 

「ぐぅぅっ!!」

 

迎撃後にもう一度爆破を起こし、反動で距離を取る。緑谷と爆豪の二人でオールマイトを挟んだ形となるが、彼らの状態を考えればとても有利とは言えない。

 

「どうした!?目の前に敵がいるんだぞ!!ヒーローが戦わなきゃ誰が戦うっていうんだ!?

 それとも君たちは、ヒーローにふさわしくないのかな!?」

 

「っ!誰が!!」

 

「うぁぁあああっ!!」

 

挑発に応え立ち向かうがやはり普段の彼らに比べ明らかに精彩を欠いている。

あっさりと返り討ちに会い、爆豪は背中を踏みつけられ動けず、緑谷は腕を掴み上げられ捕まった。

 

「HAHAHA!!心の方はまだまだ弱かったようだね!」

 

「うっ……くうぅ……!なんでですか……オールマイト……!」

 

「うん?」

 

「なんで笑えるんですか!!あんなに仲良かったじゃないですか!

 大切な人がもうすぐ死ぬなんて知ってて、なんでそんな……!」

 

「笑うとも」

 

緑谷の叫びをオールマイトが遮り、応える。

 

 

「他ならぬ彼女が、それを望んでいるのだから」

 

 

緑谷と爆豪は揃って言葉を失う。

 

「ナンバー1ヒーロー……平和の象徴……そんな大層な称号を背負っておきながら、私は彼女を救うことができない。

 ならばせめて、彼女の想いに応えたい。

 彼女が心配しないよう、胸を張れるよう、笑って逝けるように生きると決めたんだ!!」

 

「……っ!オール、マイ……」

 

何かを目にした緑谷が言葉を止めた。地面に抑え込まれて見えない爆豪は訝しんだが、自分の顔の上に落ちてきた雫で気づいた。

 

「……なーんてカッコつけてみたけど、この有様じゃあねぇ。

 言ったろ?最近、涙もろくなったって。

 ……本当に……年を取ったなぁ……!!」

 

泣いている。

どんな時でも笑顔を絶やさない最強の男が、人目も憚らず涙を流している。

オールマイトは手を放して緑谷を落とし、爆豪の背に乗せていた足を除け、ふらりと数歩下がったところで瓦礫に腰かけた。

なぜ自分たちだけが悲しいと思い込んだのだろう。

長年連れ添ってきたオールマイトや、実の兄であるエンデヴァーの方が辛かったに決まっている。

それを周囲に明かせず、抱え込まねばならなかった苦しみもきっと。

 

「すまないね。心の強さを試すなんて言っておきながら。

 ……弱いのは、私も一緒さ」

 

そう呟いた彼の姿は、いつもよりずっと小さく見えた。

二人は起き上がるが言葉をかけることもできず、ただ俯き佇んでいた。

 

『何を揃ってベソをかいておるか。この馬鹿者共が』

 

そこに試験終了を告げるための放送を奪い取ったヒノカミが声で乱入してきた。

演習場にいた3人は思わず顔を上げる。

 

『人々の涙をぬぐい笑顔で照らすのがヒーローの仕事じゃろうが。

 貴様らがその有様でどうする』

 

「っ!テメ、誰のせいだと思ってやがる!!」

 

『儂のせいじゃなかろう』

 

「いや君が病気なのは君のせいじゃないけど……ここで開き直る!?」

 

『敢えて言うならそこの筋肉達磨のせいじゃろうが。まったくどうしてくれる。

 こっちもお通夜状態じゃぞ?』

 

「でしょうね!……そんな状況で皆を無視して放送してるんですか!?」

 

誰よりも辛く苦しいのは周りの人間ではなく、病気を患っている本人のはず。

しかし彼女はどこまでもぶれないというか。

先ほど爆豪が真っ先に嘘だと決めつけたのも無理はないというか。

 

『笑え。馬鹿は馬鹿らしく、馬鹿みたいに笑っておけ。

 笑ってる奴が一番強いんじゃろ?』

 

「……!」

 

『ほれほれ、残り時間ももうないぞ。

 こんなところで躓いてトップになれると思うとるんか?』

 

「「……!」」

 

『手早く済ませぃ。終わったら……話をしようか』

 

「……あぁ!」「はい!」「ケッ!」

 

オールマイトが立ち上がり、緑谷が両目をこすり、爆豪が拳と掌を打ち付け、一様に不敵に笑う。

 

「HAHAHA!肝心の彼女に情けないところ見せちゃったねぇ。幻滅されちゃったかな?」

 

「多分、大丈夫だと思いますよ」

 

「こんくらいで見損なうような奴なら、アンタはとうの昔に見限られてるだろうぜ!」

 

「手厳しィ~~~!でも確かに!流石に良くわかってるね!」

 

「「当然!!」」

 

「そんじゃあ……やるか!!」

 

「「オス!!」」

 

 

『……爆豪・緑谷チーム、条件達成じゃ』




今更になりますが、当方、こういうくっっっさい演出大好き人間です。
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