己の譲れぬ想いを貫くため、アーチャーはマスターである凛の制止を拒絶してまで、衛宮士郎との戦いを望んだ。
指定された戦場であるアインツベルンの居城に、凛と共に足を運ぶ。
そこにはすでに衛宮士郎が待ち構えていた。
それは、いいのだが。
「おぅ、来たか」
「ようこそアインツベルンの城へ……と言っても、庭だけどね」
「ほほぅ、あれがアーチャーであるか。
私も仕合うてみたいものよ」
「弓兵とは思えぬほど、白兵戦に優れた英霊ですよ。
貴方とも良い戦いになるとは思いますが、此度はシロウに免じて抑えてください」
衛宮士郎の向こうには、大勢の野次馬がいた。
ピクニックシートを敷いてワイワイやっていた。
「……衛宮くん、何あれ?」
「いや、皆も見に来るって聞かなくて……。
見世物じゃないって言ったんだけど、『ランサーのことも気になるし全員一緒に行動した方がいい』って言われると言い返せなくて……。
悪い、アーチャー。気に食わないってんならやっぱり席を外してもらうよう説得するから」
「……構わん。戦いを望んだのはこちらだ」
凛の方は呆れかえっていたが、アーチャーの方はなぜか眩しいものを見るように目を細めるだけで不満を漏らさなかった。
勝手に審判を引き受けたバーサーカーが中央に立ち、士郎とアーチャーが向かい合う。
士郎の応援団と凛はそれぞれの後ろに距離を取ってもらった。
彼らと戦場を仕切るように半球状の結界を展開する。
「では、これより衛宮士郎とアーチャーの試合を行う。
時間は無制限。勝敗はどちらかが降参するか意識を失うか。
殺生は禁止。明らかにトドメを刺そうとする動きが見られれば儂が止める。
しかし命を失わぬ限りは止めぬ。腕を失おうが足を失おうが、儂が後で治してやる。
双方、異存はないな?」
「「あぁ」」
「よし……では準備を」
二人が互いに背を向け、それぞれ少し歩いて離れる。
「せんぱーい!頑張ってー!」
「カッコ悪いところ見せるなよ衛宮ー!」
「……シロウ!勝ちなさい!!」
「あぁ!」
士郎は軽く手を振って声援に応え、立ち止まって振り返る。
アーチャーは既にこちらを向いていた。
「……?」
何故だろう、また妙な目をしていた。
戦いに臨む戦士の目というには、あまりにも穏やか過ぎた。
しかし士郎は気持ちを切り替えて、腰に手を伸ばす。
「それでは……試合、開始!!」
アーチャーはセイバー戦でも見せていた陰陽の二刀を具現化した。
対して士郎は右手に握った、『赤い石剣』を突き出した。
衛宮士郎がイリヤとバーサーカーに弟子入りし、彼女らの指導と検査を受けてわかったことが二つある。
それは、切嗣が彼にちゃんとした魔術の使い方を教えていなかったということ。
そして彼に適性がある魔術とは『投影』、それも『刀剣類』に限定したものだけだったということだ。
彼は一度見聞きした剣を己の精神世界に記憶し、それを永続的に実体化することができるという能力を持っていた。
対象が剣でさえあれば、英霊たちが用いる宝具ですら例外ではないという破格の能力だ。
しかしそんな力がノーリスクで使えるはずがない。
消耗する魔力が大きいことはもちろん、文字通り致命的なのは制御が非常に難しいということ。
暴走すれば体の内側から剣が生え、己を串刺しにしてしまうという危険極まりないものだった。
訓練中に一度失敗したのだが、セイバーの鞘とバーサーカーの治療が無ければ命はなかったかもしれない。
記憶の実体化という点では、バーサーカーが上位互換と言える能力を持っていたので的確な指導を行うことができた。
しかし数週間で使いこなせるような単純な能力ではない。
戦闘中で制御を誤らずに安定して発動できるようになるのは何年も先の話になると判断した。
そこでバーサーカーは己が使っている石剣……『フツノミタマノツルギ』の複製品を創造し、彼に与えた。
それは異世界のものではあるが、神武天皇が振るったとされる日本最古の霊剣。
いわば日本の刀剣のルーツとも言える存在だ。
士郎はこれを触媒とすることで『日本由来の剣』に限定し、魔力の消耗を抑えつつ安定して刀剣を投影することが可能になった。
そして日本に由来する刀剣であれば、それがたとえ『異世界由来』であろうと対象となる。
「弾け!『飛梅』!」
士郎の持っていた石剣が七支刀に姿を変え、刀身から炎の球が撃ち出された。
「な……!?」
「うぉぉぉおーーーっ!!」
士郎は炎の球を撃ち出しながらそれを追いかけるように、未知の武具に驚くアーチャーに向けて突撃していく。
「面を上げろ、『侘助』!」
「ちっ……っ!?」
士郎の武器は再び姿を変え、先端が『コ』の字になっているという妙な刀になる。
その斬撃をアーチャーは片手の剣で受け止めたのだが、すぐに違和感に気付いて士郎にそれを投げつける。
攻撃を受け止めた剣が、重くなっていた。
アーチャーの扱う武器は『干将莫邪』。黒と白の一対の夫婦剣。
士郎は投げつけられた剣を躱すが、アーチャーが持つもう一方の剣に引き寄せられ彼を背後から奇襲する。
「っ、咆えろ『蛇尾丸』!」
寸前で気付いた士郎は剣を大きな蛇腹剣に変え、自分を覆うように巻きつけ攻撃を弾き返した。
その隙にアーチャーは距離を取りつつ、新たに剣を作り出す。
そこに追撃するように、士郎は蛇腹剣をアーチャーへと伸ばした。
(なんだ、奴の剣は!?起源が……次の手が、読みきれない!?)
無理もない。衛宮士郎が使っているのはバーサーカーが異界で記憶した『斬魄刀』という生きた武器だ。
士郎もまたバーサーカーに実体化した物を見せてもらい、借り受けて何度も振るい、ようやく記憶できたほど。
『たとえ同じ能力を持っていたとしても』容易に記憶、模倣できるものではない。
(くそっ、やっぱり戦闘しながらだと精度が甘い!)
そして士郎の模倣が不完全だということも、アーチャーが対象を正確に理解できずにいる理由の一つだろう。
そもそも斬魄刀はその全てが『宝具』と呼ぶに相応しい特殊な力を持った武器。
今の士郎ではフツノミタマノツルギの補助を得てようやく、いくつかの刀の『始解』と呼ばれる形態を真似するだけで精一杯。
その上の『卍解』になると十分に集中する時間を確保できたとしても一瞬だけ、そして消耗も桁違いだ。
(だが今の俺じゃ始解だけでも魔力がごっそり持っていかれちまう!
尽きる前に決める!畳みかけろ!)
「刈れ、『風死』!」
鎖で繋がれた2本の鎌を持って、士郎は果敢に攻め続ける。
しかし奇をてらい続けるのも限界がある。相手は英霊、百戦錬磨の武人。
やがて冷静になったアーチャーに形勢を逆転され、士郎は全身の至る所を何度も切り裂かれる。
バーサーカーからもらった『天神武装』とセイバーの鞘のお陰で傷はすぐに塞がるが余計に魔力を消耗し息が上がる。
「……何故、笑う?」
しかし明らかな劣勢だというのに、衛宮士郎は不敵な笑みを崩さずにいた。
「まさか奥の手でもあるというのか?
ならばさっさと出し切るがいい。
全て無駄だということを教えてやろう」
「……ハッ!そんなもんないさ。
だけどな……笑って見せないと、皆を不安にさせちまうだろ」
「……!」
衛宮士郎の背後、結界の向こう側には、未だ彼の勝利を信じ声援を送り続ける人たちがいた。
「それにいいことを教わったんだ……世の中、『笑ってる奴が一番強い』ってさ!」
士郎は己の残る魔力を全て注ぎ込み、最後の投影を行う。
「……『斬月』!!」
鍔もない巨大な包丁のような刀を振りかざし、アーチャーへと力の限り振り下ろす。
隙だらけだ。未熟極まる。避けるに容易く、受け止めることもできるだろう。
「……私の負けだな」
だがアーチャーは両腕を下ろした。
「「「!?」」」
「……それまで!勝者、衛宮士郎!」
アーチャーは袈裟切りにされてもなお倒れず、血まみれな姿のまま満足気に笑っていた。
士郎の習得した日本由来の刀剣類
〇斬魄刀
ヒノカミが記憶し再現できるもの一通り。
ただし炎熱系など使い手に特殊な耐性が必要なものは使用不可。
強力すぎるものも魔力が足りない。
〇ソードサムライX
激戦やサンライトハートは『剣』に分類されなかったのでフツノミタマノツルギの補助が受けられなかった。
〇スピリットオブソード
白鶴も含めて可能。ただしこちらも消費が激しい。
〇次元刀
究極の一振り。
今の士郎では形にすることもできないが、厳しい修行を続ければいつの日か振るうことができるようになるだろう。