『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第20話 『正義の味方』

 

「アーチャー!」

 

「お前……なんで……!」

 

バーサーカーが結界を解除し、力なく佇むアーチャーと呆然とする士郎に全員が駆け寄る。

 

「……『負けた』と思ったからだ。

 実力がではない、『衛宮士郎』という存在に。

 それ以上の理由はない」

 

「なっ、なんだよそれ!?

 わけがわからないぞ!?」

 

「……説明してあげなさい、アーチャー。いえ……!」

 

「……やはり気付いていたか、イリヤ」

 

「当たり前よ……私はシロウのお姉ちゃんだもん……!」

 

泣き出しそうな顔でスカートのすそを握るイリヤを見て苦笑し、アーチャーは自分を気遣う凛と周囲の者たちを見渡し、最後に衛宮士郎を真っすぐに見つめて宣言する。

 

 

 

 

「サーヴァント、アーチャー……我が真名は、『エミヤシロウ』」

 

 

「「「…………え?」」」

 

「『正義の味方』を目指し続けた愚かな男が至った……成れの果てだ」

 

 

聖杯戦争のサーヴァントは、時代を越えて召喚されている。

であれば『平行世界』や『未来』から呼ばれることも、確かにあり得るのだろう。

 

 

 

かつて第5次聖杯戦争を経験し生き残ったエミヤシロウは、『正義の味方になる』という信念を貫き通した。

己の身を案じる知人や友人たちの静止を振り切り、己の命を削りながら人を助け、見返りを決して求めなかった。

 

そして彼は人々に……受け入れられなかった。

その生き様はあまりにも不気味だったから。共感を得られるようなものではなかったから。

 

「他人のために命を捨てる男など、誰にも理解されるはずもない。

 ……最期には助けた者に裏切られ、『争いの元凶』だと罪を押し付けられて、絞首台だ」

 

「「「っ……」」」

 

瓦礫の一つに腰かけたアーチャーは、淡々と語り続けた。

 

そしてエミヤシロウは人々に罵声を浴びせられ、人々に死を望まれ生涯を終えた。

しかし彼は生前、助けられぬ者たちを助けるために世界と契約し力を借り受けていた。

結果彼は死後英霊に……この世界の守護者となった。

それは確かに世界が定義する『正義の味方』だったのかもしれない。

 

だがその実態は……『多数を生かすために少数を切り捨て続ける』掃除屋だった。

 

「殺して、殺して、殺し尽くして。

 殺した人間の数千倍の人々を救ったよ。

 ……そうして殺してきた人間たちこそ、オレが守りたかったもののはずだったのにな」

 

それでもいつかは報われる日が来ると、世界に平和が訪れると信じていた。

だが終わることはなかった。キリがなかった。

何度も、何度も、何度も戦場へ降りたち、この世界の抑止力の意のままに操られる道具となって死と絶望をまき散らし続けた。

人々に笑顔でいてほしいと願い続けた男は、誰かの笑顔を奪い続ける存在となった。

 

「それが英霊『エミヤシロウ』の正体……そんな男は、今のうちに死んでおくべきだ」

 

「じゃあアーチャー、アンタの願いって……!」

 

「あぁ……『エミヤシロウの抹消』だ」

 

しかし彼はすでに英霊として座に登録されてしまっている。

時間とも空間とも、世界の概念からも切り離されている。

例え過去の衛宮士郎を殺したとしても消滅することはない。

だがそれでもと、一縷の望みを抱かずにはいられなかった。

それだけを願って機会を待ち続けた。

 

「そしてようやく、その時が訪れた。だが……」

 

そこでアーチャーは少し顔を上げ、目の前にいる大勢の人間と、衛宮士郎を見つめて眩しそうに目を細める。

 

「『衛宮士郎(お前)』は『エミヤシロウ(オレ)』にはなるまい」

 

衛宮士郎の周りには彼を支える人が、声援を送る人がいる。

エミヤシロウには、いなかったものだ。

 

「空っぽの理想のままで、偽善者のままで、お前はオレとは違う『正義の味方』になるだろう。

 それが正しき英雄となる保証はない。オレより愚劣な存在になるかもしれん。

 だが可能性は示された。衛宮士郎の願いは、間違いではなかった。

 ……『エミヤシロウ(オレ)』が間違えただけだった」

 

そこまで言い切った彼は一振りの剣を作り出し、己の首へと向ける。

 

「アーチャー!?」

 

「そして『エミヤシロウ(オレ)』の願いは変わらん。

 『衛宮士郎(お前)』が『エミヤシロウ(オレ)』でないのなら、殺すべきは『エミヤシロウ(アーチャー)』しかいまい。

 『衛宮士郎』が真に『正義の味方』になり得るのならば、あるいはオレの存在を上書きする正しき英霊となるかもしれん。

 そして『衛宮士郎』に敗れ心が折れた今のオレが自らの存在を否定するような真似をすれば、『エミヤシロウ』が英霊として不適格と見なされる可能性も高まるだろう」

 

「……ダメ、ダメですシロウ!

 そんなことをしても、アナタが解放されるはずが!」

 

「わかっているさ。だがオレを止めるために、もはやオレは止まれんよ。

 ……ありがとな、セイバー。もう一度オレを、『シロウ』と呼んでくれて」

 

「!」

 

「……悪い、遠坂。お前にもらった命、ちゃんと返すことができなくて」

 

「っ、『令呪をもって命ずる!アーチャー!止まり……』!」

 

凛が最後の令呪を使うよりも早く、刃は彼の喉元へと吸い込まれていく。

 

 

 

「満たせ『瓠丸』」

 

 

 

だがそれよりも早く、飛来した一本の刀が彼の胸に突き刺さった。

 

「「「バーサーカー!?」」」

 

「儂の具現化は士郎の半端な投影の比ではない。

 ましてその身で受ければ……『記憶したな』?」

 

「……っ!?」

 

それもまた斬魄刀。

弱くて、臆病で、お人好しで、しかし誰かを救うために勇気を振り絞ることができる、とある死神の持っていた刀。

 

特性は『斬りつけた対象の心身の傷を癒す』こと。

 

アーチャーが震える手で刀を掴み抜き取ると、先ほど士郎に斬られた傷が完治していた。

 

「貴様は殺す術しか知らんから、殺すためにしか呼ばれんのじゃよ」

 

「……なん、だと?」

 

「命じられたからでなく自分の意思でじゃが、儂もお主と同じことをしてきた。

 害悪と見なした命を躊躇うことなく奪ってきた。お主とは桁違いの数を。

 しかし同時に儂は、儂が救うべきと見なした命を拾い上げてきた。

 殺すことではなく癒すことによってな。そして……」

 

アーチャーが士郎と同じ起源であるなら、同じ能力を持ち遥かに習熟しているのなら、この斬魄刀も記憶し投影できるようになっているはずだ。

傷ついた人々を救う『癒しの刀』を。

 

サーヴァントとして弱体化した状態でだが、バーサーカーが可能な限り強化した状態で具現化した武装だ。

投影によりランクが落ちることを加味してもその効果は絶大。

四肢や臓器の欠損、精神の喪失、病や呪い。

その悉くを打ち消し死に瀕する者の運命を覆すことができる。

 

そんな便利な力を持った存在を、世界がただの『掃除屋』程度で留めておくものか。

 

「貴様はこれより『癒し手』としても酷使されることとなる。

 殺して、癒して、殺して、癒して、殺し尽くして癒し続けろ。

 そしてより一層険しい道に挑む若者に、先達として激励の言葉を送ろう。

 『諦めるな。頑張れ。もっと努力しろ』」

 

「……く……くっくっくっく。鬼かね?キミは」

 

「「「そうだな」」」

「「「そうね」」」

「「「そうですね」」」

 

「自覚はあるが他人に言われると傷つくぞ!?」

 

(((((めんどくさい……)))))

 

「……お主もまだ道半ばなんじゃよ。

 長い旅の途中でお主は儂と出会い、『救いの力』を得た。

 であればここに至るまでの道のりを『間違いだった』と決めつけるのは早過ぎる」

 

「……!」

 

「十年か?百年か?千年か?

 貴様が戦い続けた時間なぞ精々その程度であろう。

 舐めるなよ若造。したり顔で語るには、貴様の人生には厚みが足りぬわ」

 

「……バーサーカー、貴女は一体どれほどの時を生きてきたのです……!?」

 

「……何桁目まで切り捨てていい?」

 

「そんな豪快なサバの読み方は初めて聞くわね」

 

 

 

「くっくっく……はっはっはっは!!

 そうか……私はまだ、まだまだだったということか……」

 

「アーチャー……!」

 

 

 

 

「つまらん」

 

 

 

 

「シッ!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

この場にいない誰かの声が聞こえた瞬間にバーサーカーは試合に使った結界を再展開。

内側に集まった全員を覆う半球状の障壁により、雨のように飛来した刀剣は全て逸れてその外側の地面を抉り取っていった。

 

「な、なんだよ!?ランサーの襲撃か!?」

 

「……まさか、貴様は、まさか!?」

 

アインツベルンの居城の屋根に立つ金髪の青年を見上げ、セイバーが声を張り上げる。

 

「何故貴様がここにいる!?アーチャー!!」

 

「『アーチャー』!?え?でもアーチャーはこっち……」

 

「違います、アレは……アレは10年前の!

 『第4次』聖杯戦争に参戦していたアーチャーです!」

 

「「「!?」」」

 




・斬魄刀『瓢丸』

四番隊、山田花太郎の斬魄刀。
切りつけた対象の傷を心身ともに癒すと同時にそのダメージを蓄積していき、一定量を超えると『朱色瓢丸』という医療メスの形をした攻撃形態へと変化し斬撃として放出する。
その最大出力は更木剣八すら一目置くほど。
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