バーサーカーは冬木の全域に結界を張り、その内側を観察し続けていた。
だからサーヴァントによく似ているが決定的に違う異質な存在がいることを、とっくの昔から気付いていた。
そいつがとある場所を拠点としていることも、今までも遠方からこちらを観察していたことも、そしてこの戦いはすぐ近くで観戦していたことも。
今までの騒動ではかなり距離を取った場所に留まっていたので訝しんでいたが、アーチャークラスだというならそこからでも見えていたのだろう。
「つまらん……実につまらん三文芝居だ。
わざわざ我が足を運んでやったというのにこんな下らんものを見せるとは。
これならば道化の方がまだ可愛げがあるぞ、雑種どもめ」
「なっ、なんだとぉ!?」
「……セイバー、アイツの情報を教えて」
「前回の聖杯戦争に勝ち残り、最後に私と戦ったサーヴァントです。
真名はわかりませんが、先ほどのように大量の宝具を射出する力を持っています。
遠坂の者が召喚したらしいのですが……」
「父さんの!?」
「待ってくれ!一人の英霊がそんなにたくさん宝具を持つことってあるのか!?」
「バーサーカーやシロウ……アーチャーみたいに複製品を造ってるって言うならあり得るけど……!」
「その瞬間を見てはいないのですが、私が聖杯を破壊したのですからバックアップを失い消滅したはずです。
いくら『単独行動』のスキルを持つアーチャークラスとは言え、十年以上も現世に留まり続けていられるはずが……!」
「……受肉しとるよ、アイツは」
バーサーカーがキャスターに生きた肉体を用意したのとはまた違う形で、確かに肉体を持っている。
「無断で他人の敷地に押し入り好き放題荒らしてその上文句をつけてくるのか?
盗人猛々しいという諺を知っとるか?」
「ほざけ、この世の全ては王たる我の所有物だ。
盗人は貴様らよ、雑種」
「
「「「!?」」」
受肉してなお感じる神性を、バーサーカーが見逃すはずがない。
そして彼女の発言により他の者たちも敵の真名を察する。
人類最古の英雄。あらゆる英雄譚の原型。古代ウルクを治めた英雄たちの王。
「「「ギルガメッシュ!?」」」
あらゆる英雄譚の原典であるからこそ、逆説的にあらゆる英雄の宝具を所有している。
彼にとっては彼以外の英雄は全て自身を模倣した『贋作』か、余計な物が混ざった『雑種』というわけだ。あまりにも傲慢な考えではあるが。
「貴様……言うに事欠いてこの我を『雑種』だと!?
早くに我が威光を察していたことはそこの愚物共よりはマシかと評価してやっていたが……口を慎め小娘!」
「ハッ!口を閉じるべきは貴様じゃろ成金!
そんな腐臭を漂わせては気付くに決まっておるわ!
英雄王さまは一体何を拾い食いしたんじゃろうなぁ!?」
「貴様ぁ!この我がわずかでも『聖杯の泥』なんぞに染まったとでも言いたいのか!?」
(……やはりか)
「聖杯の……『泥』?」
誰かが疑問を口にするが、ギルガメッシュとバーサーカーはそれを無視して互いを罵り合う。
ギルガメッシュが再び宝具を撃ち出すが、やはりバーサーカーの結界に阻まれ届かない。
「げらげらげら!一度試したじゃろうに学習しておらんのか!?
ひょっとしてお主は王は王でも、猿山の王じゃったのかな!?」
「……殺す!貴様はこの我自らの手でありとあらゆる恥辱を与え、この世に生を受けたことを存分に後悔させてから殺してやろう!
光栄に思うが良いわ!」
「げげげげ!後悔なぞ疾うの昔に済ませたわ!
ならば儂も宣言してやろう!貴様には最高に惨めで滑稽な最期をくれてやる!
抱腹絶倒な喜劇の道化役に抜擢してやろう!光栄に思うが良いわ!」
「バーサーカァーーーッ!!」
「死に場所は貴様が決めるが良い!
儂の方からわざわざ出向いてやろう!
精々お友達と一緒に震えて待っておれ!」
言いたいだけ言って、バーサーカーはその場から姿を消した。
結界と、その内側にいた他の人間やサーヴァントたちも同様に。
バーサーカーが転移能力を持っていると知っているギルガメッシュは、血管がちぎれそうなほどの青筋を浮かべながら八つ当たりのようにアインツベルンの城を破壊した後、身を翻しその場を立ち去った。
――――……
バーサーカーが転移したのは彼らが拠点としている衛宮家。
転移直後即座にこの家の結界を展開し、万が一の襲撃に備える。
「この人数を、一瞬で転移させるなんて……!」
「まったく……つくづく規格外なサーヴァントだ」
そして凛とアーチャーも連れて来た。
最後に余計なチャチャが入ったが士郎とアーチャーの決着はついており、何より事ここに至ってはもはや彼らと争っていられる状況ではない。
腹立たしいが、あのギルガメッシュという英霊はバーサーカーであっても侮ることができない相手なのだ。
「バーサーカー。あの男の口ぶり、貴女は奴の存在に気付いていたのですか!?」
「……あぁ。しかし気配が普通のサーヴァントとは明らかに別物であったし、所在は冬木の教会じゃった。
そこには聖杯戦争の監督役がおるんじゃろ?
気付いた当初はそ奴が使役する特殊なサーヴァント……ルーラーか何かかと思うておった。
……まぁ、観察する内にアレが裁定役はあり得ぬと気付き、警戒を続けておったんじゃが……」
「監督役って……あの言峰綺礼とかいう胡散臭い奴だよな!?」
「あのエセ神父、一体どういうつもりよ!?」
「……どうやら、そ奴が何らかの目的で暗躍していたようじゃな。
たった今、教会の外に出た奴の隣にランサーの出現を感知した」
「「「なっ!?」」」
監督役がマスターとして参加することなど許されるはずがない。
彼らはいくつかの特権を与えられており、その一例として特例にて参加者に譲渡するために多くの令呪を所有しているのだから。
その言峰という神父がランサーを従えている時点で明らかな黒。
そして奴がギルガメッシュのマスターだと言うのなら、ランサーをまるで捨て石のように扱っていたことも納得がいく。
本命はギルガメッシュであり、ランサーは実際に捨て石なのだろう。
「……奴との会話でいくつかの疑問にも確証を得た。
儂の知るあらゆる情報と、推測を明かす。
皆にはしばしお付き合い願おう」