『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第23話 VSランサー

 

ギルガメッシュとの衝突の後、バーサーカーは冬木全域を監視し言峰とギルガメッシュとランサーの動向を注視していたが、連中は柳洞寺へと移動していた。

あそこはキャスターも利用していた、冬木の龍脈が集まる特殊な場所。

聖杯が現れるとしたら必ずそこになるらしく、連中はバーサーカーたちを返り討ちにしてそのまま聖杯を手に入れてしまおうという腹積もりなのだろう。

 

そして日が沈み、一行も動き出す。

衛宮士郎とセイバー。

遠坂凛とアーチャー。

イリヤスフィールとバーサーカー。

間桐桜とライダー。

元キャスターのメディアとアサシン。

加えて葛木宗一郎と間桐慎二、セラとリーゼリットも同行している。

慎二は全くの戦力外だが一人残しておくのは危険であり、何より彼の力も必要だとバーサーカーが頭を下げたので、嫌々ながら承諾した。

 

柳洞寺へと続く長い階段。

かつてはキャスターに召喚されたアサシンがここの門番を務めていた。

そして今、そこには別のサーヴァントが佇んでいた。

 

「……よォ」

 

「ランサー……」

 

全てのサーヴァントと戦うよう命じられた彼は、この場のほぼ全員と面識がある。

しかしかつての勇ましさはどこへやら、光の無い目で心底不服そうに一行を見下ろしている。

 

バーサーカーが一歩前に出て彼の瞳を見上げる。

 

「……令呪か?」

 

「あぁ。『一人でも多く殺してから散れ』とよ。

 重ね掛けされちゃあ抗うこともできねぇ。

 これじゃあマジで『狗』じゃねぇか……笑えねぇよチクショウ」

 

「……」

 

吐き捨てたランサーに、幾人かが同情した。

気高きケルトの戦士『クー・フーリン』が己を『狗』と呼ぶとは、それほどに重いことなのだ。

 

「面白れぇマスターに呼ばれて楽しい戦いができそうだと思ったんだがな。

 アイツに令呪ごと奪われて……そこからはケチのつきっぱなしだ。

 ワリィが手加減できねぇ。どんな手使ってもいい、オレを殺せ。

 そんでオレの代わりに、あのクソ野郎共をブチ殺してくれや」

 

腰を落とし、槍を構えたランサー。

釣られてサーヴァントたちもそれぞれの獲物を構えるが、バーサーカーが腕を広げて彼らを押しとどめた。

 

「バーサーカー?」

 

「……何のつもりだ?」

 

「武人への礼儀じゃ。お主の相手は儂一人で務める」

 

それに仲間たちには、ギルガメッシュたちとの戦いでやってもらわねばならないことがある。

言い方は悪いが前座のランサー相手で消耗や脱落は避けたい。

バーサーカーは仮面を顔に動かし鎧を召喚する。

 

「っ、ソイツがテメェの宝具か?」

 

「いかにも。全力で来るがいい。

 仮にも『不動明王』を名乗る者……圧倒的な実力の差を思い知らせてやろう」

 

「ハッ!そうか、よっ!!」

 

ランサーが駆け出し、バーサーカー目掛けて鋭い突きを放つ。

ランサーは7クラスの中で最速を誇るサーヴァント。

対してバーサーカーはその真名の通り、動きが遅い。

槍の穂先が動かぬバーサーカーの胸へと吸い込まれていき……弾かれた。

 

「っ!?傷すら!?」

 

「くけけ……次はこっちが行くぞ!」

 

弾かれると同時に距離を取っていたランサーの眼前に拳を振り上げた鬼が迫っていた。

ランサーは流石の機動力で躱すが、拳を振るっただけで生じる暴風に煽られ体勢を崩す。

バーサーカーは周辺に待機させた火球を爆発させ、その爆風を浴びた反動で高速移動し、ランサーに向けて拳を振るい続ける。

 

(なんだそりゃ!?硬ぇと強ぇはまだわかるが、そんな方法でオレに追いつくだと!?)

 

「DETROIT SMASH!!」

 

「ぐあぁっ!?」

 

階段の石畳がめくれ、周辺の木々が吹き飛んでいく。

なるほど、バーサーカーが仲間たちを下げたのも当然だろう。

彼女の周辺は爆発が連鎖し暴風が吹き荒れ、それをまともに受けているランサーは満足に立つこともできない。だが。

 

(……面白れぇ!)

 

自分一人で相手すると言われ侮られたかと苛立ったが、侮っていたのは自分の方だった。

目の前の鬼は口だけではない、本当に自分を遥かに超える力を持っている。

 

(最後の最後に……ありがとよバーサーカー!)

 

ランサーの目に光が戻って来た。

『敵を倒せ』という令呪の命令と『敵を倒したい』というランサーの感情が一致した。

令呪により己の全力が引き出されていくのを感じる。

槍を握る手に力が籠る。胸が躍る。心が弾む。そして頭は冷静に勝機を探し続ける。

 

(とんでもねぇ力!掠っただけで致命傷だ!

 加えて強度!おそらく宝具を解放しても貫ききれねぇ!

 狙うは鎧のつなぎ目……投擲じゃこの風で狙いがズレる!)

 

心臓は無理だ。胸部には隙間がない。

鎧を纏ったことで体格が大きく変化したことから、手足には中身が詰まっているかすら怪しい。

顔は仮面で覆われている。となれば狙うは1か所。

東洋の鬼の弱点と言えばここと決まっている。

 

 

「その『首』もらったぁ!」

 

 

剛腕の嵐の隙間を潜り抜けてランサーがバーサーカーを射程に捉えた。

 

 

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』!」

 

 

呪いの朱い槍は、確かに鬼の喉を貫いた。

 

そして鬼は首に槍を突きさしたまま、ランサーに覆いかぶさり締め上げ、動きを封じた。

 

「んなっ!?」

 

「つーかまーえたー」

 

女の声が、後ろから聞こえた。

ランサーは首だけを動かして背後を確認する。

 

「くけけ、儂の宝具はただの鎧ではない。

 短距離なら外から操作可能なんじゃよ。ほい、タッチ」

 

激突の寸前で転移し鎧の外に出ていたバーサーカーは、ランサーの背中に触れた。

 

「……チッ。テメェの転移術を忘れてたぜ。

 鎧を囮にして奇襲できるってんなら、最初から勝ち目は無かったか」

 

「げらげらげら。んじゃ、次はお主が鬼な」

 

「……は?何言ってんだテメェ」

 

「こういうことよ」

 

いつの間にか近づいてきていたメディアが、抵抗できないランサーに歪な短剣を突き刺している。

人間に生まれ変わってもなお所持している彼女の宝具『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』により、ランサーと言峰の契約は破棄され、新たにメディアを主として契約が結ばれた。

 

「どうじゃ?負担はないか?」

 

「えぇ、問題ないわ。宝具の発動と合わせて相応の魔力を持っていかれたけど、このくらいならすぐに回復する。

 アサシン共々こき使ってあげるから、覚悟しなさい」

 

「はっはっは、歓迎しよう、新たな同僚よ」

 

言峰とギルガメッシュを相手とした最後の戦いには、戦力は多ければ多いほどいい。

特にランサーは嫌々ながら従っている様子だった。

なので隙があれば彼も自軍に取り込むというのは、あらかじめ決めていたことだった。

 

「連中に一泡吹かせたいなら自分でやれ。

 その機会なら与えてやる」

 

「……へっ!今度のマスターたちは随分気前がいいみてぇだな」

 

「突入前に、お主にも作戦を説明する。耳を貸せ」

 

バーサーカーは言峰らに盗み聞きされないよう結界を張り、ランサーに求める役割を伝えた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……臆せず来たか、バーサーカー」

 

「げらげらげら、貴様こそ臆せず待っていたか、ギルガメッシュ」

 

「言峰、綺礼!」

 

「久しいな衛宮士郎。そして凛。

 どうやらようやく知ったようだな?

 冬木の大火災を起こしたのも、遠坂時臣を殺したのも、この私であったということを」

 

「っ!?このぉっ!!」

 

「落ち着けリン」

 

湖と呼べる大きさの水場がある広場にて、言峰とギルガメッシュが待ち構えていた。

龍脈が集まるのはその中心。そこに聖杯が現れるはず。

 

「ランサー、君は裏切りを嫌うのではなかったのかな?」

 

「俺のマスターはアイツだった。それを裏切らせたのがテメェだ。

 ……だったらテメェを殺すことがアイツへの裏切りになるはずがねぇよ」

 

「ふん、下らん矜持だ。負け犬は引っ込んでいろ。

 ……さぁ来るがいいバーサーカー。

 王たる我に逆らった罪、思い知らせてくれるわ!」

 

未だバーサーカーへの怒り冷めやらぬギルガメッシュは彼女にあらん限りの殺意を向けるが。

 

「……んじゃ、全員準備と覚悟はいいな?手筈通りに行くぞ」

 

「アンタは、本当に……いや……あぁ!」

 

「貴様ぁ……!」

 

肝心のバーサーカーが、ギルガメッシュを眼中に入れていなかった。

彼女は武器を構えるサーヴァントたちの隣でなく後ろに立ち、石剣を取り出す。

 

「……そいじゃ、任せた」

 

「「「「「任された」」」」」

 

最後に全員に一声かけて、バーサーカーは右手の剣で。

 

 

 

己の首を刎ねた。

 

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