「ギルガメッシュ!……くっ」
単騎で聖杯を満たし、浄化までしようという英霊だ。
そんなものを再召喚されたら確実に厄介なことになる。
だがギルガメッシュはバーサーカーだったその英霊を自らの手で八つ裂きにすることに拘っていた。
『この程度でやられる連中に後を託すなら戦うまでもない』とは考えているだろうが、その本心は『奴が現れるまで他のサーヴァントを駆除しておこう』だろう。
サーヴァントに守られたマスターたちに『王の財宝』を撃ち出しているが、明らかに本気でない。
彼は言峰のサーヴァントだが、ある意味でバーサーカー以上に制御不能。
命じられて行いを変えるはずもなく、しかし言峰の力では再召喚を止められそうにない。
サーヴァントたちに阻まれるだろうし、ギルガメッシュの不興を買えば彼が王の財宝に撃ち抜かれる。
やむなく言峰は聖杯の方に対処することにした。
彼もまた前回の戦争で聖杯の泥に汚染された人間。
『この世全ての悪』との親和性が非常に高く、実体化した聖杯に干渉して悪意を暴走させれば逆にバーサーカーを飲み込むことができるかもしれない。
「っ!?」
しかし聖杯に近付こうとした彼の前に、3つの影が立ちはだかる。
「…………」
「我が主命により、アナタのお相手は我々が勤めます」
「バーサーカーが、『任せた』って言ったの。
……今回ばかりは、本気だから」
拳を構えた葛木宗一郎と、それぞれの武器を構えたセラとリズが言峰を取り囲む。
「この……人形共がぁ!」
歪な形で人間を愛する自称聖職者は感情無き暗殺者とアインツベルンのホムンクルスを認めず、黒鍵を構えて叫ぶ。
「『降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ』……ひっ!?」
自分に直撃するルートで射出された武器がサーヴァントたちに弾かれ、今自分が死にかけたという事実を一瞬遅れて理解して言葉を詰まらせた。
なぜ、こんなところに自分がいるのか。
なぜ、自分が世界の運命を背負う立場になっているのか。
間桐慎二の心の中は疑問と恐怖と憤りでいっぱいだった。
彼もかつては、魔術師に憧れた。
サーヴァントを召喚し、聖杯と栄光を手にする自分の姿を夢想した。
「くそっ……『王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ』」
だが仮初の形で聖杯戦争に参加し、魔術に触れ魔術師を知り、彼の抱いていた幻想は打ち砕かれた。
魔術とは恐ろしくて、禍々しくて、くだらなくて。
聖杯とは願いを曲解して世界を壊してしまうような物騒な代物で。
そして魔術師はどいつもこいつも、頭のイカレた馬鹿ばっかりだった。
もはやなりたいとも思えないし、なれるとしても願い下げだ。
今なら一度出奔した叔父の気持ちが嫌と言うほどわかる。
「『
特にそう痛感したのはアーチャー……エミヤシロウを知った時だった。
慎二も少年だ。ヒーローというものに漠然とした憧れならあった。
だが彼の辿った道は、至った姿は、直視しがたく受け入れがたいものだった。
「『ただ、満たされる刻を破却する』」
自分は人間だ。人間で十分だ。
英雄になんかになれないしなりたくもない。
それでもここにいるのは、こんな馬鹿で頼りない奴らに任せっぱなしじゃ安心できないから。
自分の知らないところで自分の生死を決められてはたまらないから。
ただ、自分が死にたくないから。
この場の誰よりも臆病で、誰よりも無力な彼は、誰よりも人間らしい理由で戦場に立っていた。
『自分が生き残るために、仕方なく世界を救う』。
あるいはそれもまた、一つの英雄の姿なのかもしれない。
「『――――告げる』!」
雨あられと降り注ぐ武器の嵐を、サーヴァントたちは己の武器で一つ残らず弾いていく。
慢心しているとはいえ相手は英雄王ギルガメッシュ。
手を抜いてなお苛烈な攻撃から、召喚の儀式が終わるまで力無きマスターたちを守り抜かなければならない。
「『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に』」
召喚に集中するため後方からの援護は期待できず、供給される魔力もない。
あらかじめバーサーカーからの魔力で満たされているとはいえ、宝具を使えば枯渇しかねない。
「『聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』」
アーチャーは複製した剣を射出して撃ち落とし。
ライダーは鎖を打ち付けて軌道を曲げ。
ランサーは槍を回転させて弾き。
アサシンは長大な刀を舞い踊らせて。
そしてセイバーは風を纏った剣を振りかざして。
「『誓いを此処に』」
余裕などない。一瞬でも気を抜けば殺される。
だが確かな高揚感がセイバーの胸を満たしていた。
「ハハッ!楽しいなぁオイ!」
それは他のサーヴァントたちも同じのようで、ランサーが叫ぶ。
だがセイバーは『楽しい』のではない。『嬉しい』のだ。
「『我は常世総ての善と成る者』」
殺し合うはずだった異なる国、異なる時代の英雄たちと肩を並べ。
己の後ろに守るべき主君を背負い。
私欲のためではなく、世界のために戦える。
『騎士』としてこれ以上の喜びがあるものか。
「『我は常世総ての悪を敷く者』」
……詠唱は、あとわずか。
長いようで短いこの時間も間もなく終わる。
「『汝三大の言霊を纏う七天』」
セイバーは心のどこかで『もう少しだけ』と思ってしまった。
だがその願いは叶わない。
『夢』は、いつか覚めるものだから。
「『抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――』!!」
慎二が詠唱を終えると同時に、彼が手をかざしていたバーサーカーの残した炎が、爆発するかのように燃え上がる。
「「うわぁっ!?」」
「「「キャァァアッ!?」」」
「せ、成功したの……!?」
衝撃で子供たち5人が吹き飛ばされ、メディアが呟く。
ギルガメッシュが攻撃を止め、サーヴァントたちも思わず振り返る。
炎の中に人影が見えた。サーヴァントの召喚が成功したのは間違いない。
……だがおかしい。
バーサーカーと比べて、影が一回り大きいような。
「……げっげっげっげっげ!!」
人影が声を発した。
この個性的な笑い声、間違いなくバーサーカー……いや、クラスは変わっているのでキャスター?
とにかく不動明王の名を借りたあの女だ。
「……儂を呼ぶ、声が聞こえた。
救いを求める、声が聞こえた。
ならば異界の果てでも馳せ参じようぞ!」
「「「「「!?」」」」」
炎が吹き飛び、サーヴァントが姿を現した。
不動明王……いや、違う。
その背丈は高く、手足は長く、少年と見まがうほどチンチクリンだった彼女とはまるで異なる女性的なシルエット。
そして最も違うのは、一般人の慎二ですらはっきりとわかるほど濃密な『神』の気配。
「我が名はヒノカミ……いや、この世界の流儀に合わせて名乗ろうか!
サーヴァント、フォーリナー!……『大日如来』!!
ご期待にお応えして、ここに見参!!」
サーヴァントを名乗る女がその美しい姿に見合わぬ残念なポーズを取ると同時に、彼女の背後で爆発が起き、背中の炎の光輪が大きく燃え上がった。
イリヤは顔を青ざめさせ、目尻に涙を浮かべ、口を引きつらせながら呟く。
「本物来ちゃった」
真名:大日如来(ヒノカミ)
クラス:フォーリナー
属性:秩序・善・天
マスター:間桐慎二
筋力:EX(測定不能)
耐久:EX(測定不能)
敏捷:EX(測定不能)
魔力:EX(測定不能)
幸運:F
宝具:EX(測定不能)