「だ、『大日如来』ですって!?」
「馬鹿な……だがこの神性は……!」
「オイ!どういうことだテメェら!」
合流して日が浅い凛とアーチャー、こちらについたばかりのランサーは説明を求めるが、仲間たちは青ざめ、脂汗を流し、震えている者までいる。
無理もない、彼らは目の前のサーヴァントの正体を知っていた。
その力の強大さと、やらかし具合も。
およそ10年前、この世界に来た時のバーサーカー……不動明王の元となった女性はまだ人間だった。
不動明王と誤解されるような英雄的活躍をしたことで人々に記憶され世界に記録されたが、不動明王の名を名乗るには資格も実力も足りず、ただの名もなき英雄として座の一角に彼女のコピーが焼きついただけだった。
しかしこの世界を去った彼女の本体はそれからも多くの世界を渡り、人々を救い、世界を救い、自らを『神霊』へと昇華させた。
その後も彼女は活動と成長を続け、こことは違う世界でついに『宇宙全てを統括する守護神』へと至った。
『大日如来』とは『宇宙そのもの』を司る密教の最高神であり、『不動明王』の真の姿ともされている。
つまり彼女の本体が『大日如来』を名乗る資格と力を得たことで、この世界の座にいたコピーが『不動明王』に昇格し再登録されたのだ。
「いやぁ~~、この世界のことは、この世界に生じた儂に任せるべきかと思うておったがな」
そして今彼らの目の前に現れたサーヴァント、『
この世界の座にいるコピーには、その名を名乗る資格はない。そこまでの力は持っていない。
これらの情報から導き出される結論は一つ。
この世界の座から新たな『不動明王』を呼び出す儀式に、別世界にいた本体が割り込んできた。
「なんか大変そうじゃし、直接儂が出向こうかと」
「「「「「お引き取りください」」」」」
「なぜにっ!?」
本体はこの世界に産まれた自分のコピーのことも、その動向も全て把握していた。
しかし大変な状況になっていると分かってなお本体が手を出さず、敢えてこの儀式に乗っかってフォーリナーとして現れたのは、自分のコピーと対面する可能性を避けるためだ。
コピーは自分が操る分霊とは違う、性格や根本が同じでも別の精神を持つ別存在。しかし確かに自分自身である。
リンクを通じて同期し対話するくらいではなんともないが、直接顔を合わせたらどんな問題が起きるかわからない。
自我すら含めて複製された自分自身と衝突し精神が崩壊寸前にまで陥った男を、彼女は知っている。
だからこの聖杯戦争でコピーが生存している限りは乱入を控え、脱落することがあれば参戦しようかと考えていたのだが、悠久の時を生き多くの世界を把握する彼女が細かい時間と場所を指定して顕現するのはなかなか大変。
なので、英霊召喚の儀式を目印として転移してきたわけだ。
それにあれだ。その方がカッコイイから。
「んお?」
戦場で下らぬ雑談をしていたフォーリナーにいくつもの鎖が巻き付く。
その出所は怒りを隠せずにいるギルガメッシュだった。
「貴様ぁ……まさか神だったとはなぁ!
どこまでも我を苛立たせてくれる!」
ギルガメッシュは神に反旗を翻した英霊であり、神という種族に対し激しい怒りを抱いている。
彼が操る『天の鎖』は神に対して絶大な拘束力を発揮するという宝具であったのだが。
「うりゃ」
「馬鹿なっ!?」
簡単に引きちぎられた。
神の力を封じられていようと関係ない。
この神霊は単純な筋力だけで、ただのパンチやキックだけで星を粉々にできるのだから。
本来は世界を破壊しないように、その強度に合わせて実力を制限せねばならないのだが、この冬木の地にはバーサーカーだった不動明王が強固に敷いた結界がある。
そのおかげでフォーリナーは容易に降臨に成功し、そしてフォーリナーが結界を強化し再構成したことで、彼女はその内側に限って十全な力を振るうことができるのだ。
「くっ……おのれぇーーーっ!!」
ギルガメッシュはならば力づくで破壊してやると『王の財宝』を呼び出そうとしたが。
「……なに?」
何も、出てこなかった。
「儂を前にして『空間』に関連する能力は使えんよ。
何を隠そう、儂は『空間制御』の達人じゃからな」
フォーリナーが宝物庫の空間の座標を書き換え、ギルガメッシュからのアクセスを無効化し奪い取った。
……この程度なら『キャスター』として召喚された不動明王でもできるだろう。
「ば、かなぁ……っ!?」
「頭が高いぞ雑種」
「ぐぁぁっ!?」
フォーリナーが重力を操作し、裸の王様の額を地面に押さえつける。
「き、さ、まぁぁぁぁあああっ!!!」
「ん〜……良い声で鳴きよる。
しかしまだまだ道化具合が足りんのぅ……」
フォーリナーは空間に腕を突っ込むと、中から何かを取り出した。
「あったあった。これじゃな」
「「「!?」」」
剣のような、棒のような、よく分からない形の武器。
しかし放たれる圧力と存在感に一同が息を飲む。
『乖離剣』
混沌の世界を天と地に分けたとされる、ギルガメッシュの所有する開闢の宝具。
それをフォーリナーは。
「ほれ」
投げ捨てるようにギルガメッシュの前に転がした。
「「「なっ!?」」」
「これがご自慢の逸品なんじゃろ?
使ってみよ。そして己の無力を知るがいい」
直後にフォーリナーは衝撃波を放ち乖離剣とギルガメッシュを吹き飛ばした。
地面を何度も跳ね転がったギルガメッシュは、怒りに震える腕で目の前に転がる乖離剣を掴み立ち上がる。
「後悔するなよ下郎ぉーーーーーーっ!!!」
乖離剣の刀身を構成する3つの円筒が回転し風を纏う。
『本気を出すなど王としての沽券に関わる』と常に相手を見下し手を抜くギルガメッシュの、全力全開最大最高出力。
彼の周囲の空間が悲鳴を上げ皆恐れおののくが、彼らの前に立つフォーリナーは心地よいそよ風を浴びるような穏やかな顔をしていた。
「『
刀身から吐き出された暴風、空間すら断絶する『天地開闢』の一撃がフォーリナーへと迫る。
対してフォーリナーは片腕を上げ掌を広げて突き出し。
軽く握ると同時に、暴風の回転方向とは逆の向きに手首を捻った。
それだけで世界に静寂が訪れた。
「「「…………?、!?」」」
「あ……が……?」
「『天地開闢』程度の力で『宇宙創世』を司る儂に敵うはずがあるまい」
乖離剣が切り分けた『世界』とは、地球規模の話に過ぎない。
どこまで話を広げたとしても精々太陽系、0.001光年ほどの範囲が限界だろう。
対して目の前にいる神はそれを包括する銀河どころか宇宙全域、137億光年を超える領域を掌握した存在。
広い広いこの宇宙、無数に存在する星々。
そのたった一つの星の、たった一つの国。
それを一瞬支配しただけの王。
「……ちっちぇのぅ、ギルガメッシュ」
「ぐぅ……ぁぁぁああああああっ!!!」
「……さっすがー。うっかり銀河系一つ消し飛ばしたことある神さまが言うと説得力が違うわねー」
「「「「「はぁぁっ!?」」」」」
「バラさんといて儂の黒歴史!!」
その逸話は初耳だと一同はイリヤの投げやり気味な呟きに悲鳴染みた声をあげるが、当の本人は両手で顔を隠して恥ずかしそうに背を向けただけ。
そんな可愛らしい反応で済ませていいことじゃないだろう。
「ふ……まさかリン以上の『うっかり』がいるとはな……」
「……冗談じゃないわよ!
宇宙を吹っ飛ばせる力を持つ神が『うっかりや』って……駄目でしょ!
存在しちゃ駄目に決まってるでしょ!」
「……お前らの反応の理由がよぉーくわかったぜ。
一刻も早くお引き取り願いてぇ……」
「ちゃ、ちゃんとすぐ元通りに治したぞ!?」
「治せばいいってもんじゃないだろうが馬鹿!!」
仮初とはいえ己の主人となった一般人の少年の説教を受け、宇宙を司る女神は半泣きで縮こまっている。
「……貴様らぁあ!この我を前にいつまでふざけた真似をしておるのだぁっ!!」
「「「!?」」」
あまりの衝撃ですっかり思考の外に追いやられていた英雄王が怒号を上げ再び宝具を構えていた。
「いや、もう終わりじゃよ」
バチンッ
「なっ……!?」
乖離剣が、ギルガメッシュの手から弾き落とされた。
……いや違う、乖離剣がギルガメッシュを『拒絶』した。
「先ほどの一撃、すさまじい威力であったなぁ。
流石は腐り果てても英雄王を名乗るだけはあった。
……儂が止めなければどうなっていたと思う?」
「……!?」
天地を分かつ一撃だ。
まともに放たれればどれほどの被害が出ただろうか。
放つ方向によっては地球の一部を抉り取り、世界そのものの存続を危ぶむ事態となっていたかもしれない。
『抑止力』が動くには十分な理由だ。
聖杯の泥とやらを呑んだ時点でギリギリだったが、ついに彼はデッドラインを越えた。
人類意志の抑止力である『アラヤ』と地球意志の抑止力である『ガイア』の両方が、彼を『この世界の敵』と見定めた。
受肉し現世で活動している霊体を、不純物として英霊の座から切り離した。
「つまり見限られたのよ貴様は。
この世界に必要ない、『英雄王ギルガメッシュを名乗る資格もない雑霊』であるとな」
「な……ん、だとぉっ!?」
「こちらで握っていた『王の財宝』の制御は既に手放した。
しかしそれに気付けんかったじゃろ?
とっくに貴様は宝を扱う資格を失っとるんじゃよ。
何しろ、もはや『王ではない』のだからな」
否定するかのように地面に転がる乖離剣に手を伸ばしたギルガメッシュだが、触れる事さえ許されず弾かれた。そして彼の前で乖離剣が光の粒となって消え去った。
宝物庫を開こうとしたが、やはりできなかった。
「さて、あとは頼んだぞ。『正義の味方』」
フォーリナーが一歩下がり、代わりに一騎のサーヴァントが前に出る。
抑止力の使役する守護者である『エミヤシロウ』は、誰よりも早くフォーリナーの言葉が真実だと気付いていた。
『無様に転がる目の前の存在を消滅させよ』と、世界が語り掛けてくるのだから。
「良いのかね?
『コレ』が聖杯に呑まれれば浄化の妨げになるという話だったが」
「安心せい。もはやサーヴァントですらなくなっとるんじゃ。
聖杯の中どころかあの世へもいけず、死と共に完全に消滅する」
「なるほど。では手早く済ませよう」
「ふっ……ふざけるな!
この我がこんなっ、『贋作者』風情にぃっ!!」
もはや一本の剣すらその手にはなく、『ギルガメッシュを名乗っていたモノ』はただ己の拳を振りかざす。
「貴様が言うな、『粗悪品』め」
「さらばだ。『名もなき亡霊』よ」
戦士ではなかった『ソレ』はわずかな抵抗すらできず、一太刀で両断され鮮血を巻き散らす。
やがて地面に広がった血だまりと共に、遺体は跡形もなく消滅した。