『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第27話 聖杯

 

ギルガメッシュの消滅により勝敗は決した。

フォーリナーが現れてからのドタバタでセラたちも思わず攻撃の手を止めてしまっていたが、その時点で言峰の受けていたダメージは深刻。

そして聖杯の浄化も随分と進んでおり、今更彼が足掻いても止められない段階になっていた。

 

「……フォーリナー。貴様が神だと言うのなら答えろ」

 

「なんじゃ?」

 

泥ではなく白い炎を吐き出し始めた聖杯を背に、傷だらけの言峰が決意を込めた瞳で女神を睨みつける。

 

「何故神は私のような……他者の不幸でしか幸福を感じることができない、歪んだ人間をお創りになられたのだ!?」

 

彼は生まれてからこの方一度として、人間らしい感性というものを持てなかった。

美しい物が美しいと思えなかった。

素晴らしい物が素晴らしいと思えなかった。

藻掻き苦しむ人間こそが何より美しく愛おしかった。

彼はそれが人間として異常であると理解し、必死に正しい人間になろうとした。

神の敬虔な信徒となり、命を落とすような激しい修行も積んだ。

愛することを学ぶために余命いくばくもない妻を娶り、子も成した。

そして妻の最期を看取った時、しかし湧き出た感情は『どうせなら自分の手で殺したかった』だった。

 

 

「……儂は貴様の崇める神ではないんで、推測と持論を交えて語らせてもらう。

 まったく歪みのない人間なぞおらぬよ。

 何故なら最初から、人間は不完全な存在として生み出されたからじゃ」

 

アダムとイヴは神の言いつけを破り、知恵の実を口にした。

創造主の定めた規則に逆らうなど欠陥品ではないか。

神が直接創り出した最初の人間がその有様なのだから、そこから生まれた人間が完全であるはずがない。

 

「ならば何故、神は人間を不完全な存在として創られた!?」

 

「完全な存在とは、完成された存在であるということ。

 完成されたものにはそれ以上の成長や変化がない。

 進歩を失った世界が迎えるのは永い永い停滞と、緩やかな滅び。

 ……だから神は、人間に希望と世界を託したんじゃよ」

 

「託した……!?」

 

「人間は不完全だからこそ可能性に満ちている。

 いずれ神を超え遥かな高みへと羽ばたき、新たな世界を生み出す可能性がある。

 ……儂という実例もおるしな。げらげらげら」

 

後ろで話を聞いていたイリヤたちは『お前みたいなのがポンポン生まれてたまるか!』と叫ぼうとして、空気を読んで何とか押し黙った。

 

「だから神は下界に住む人間たちをただ見ている。良くも悪くも不干渉でな。

 神は加減を知らぬからな。彼らが余計な手を出した物語の結末はいくらでも残っておるじゃろう?

 簡単に手を貸して可能性の目を潰すわけにはいかず。

 過剰な試練を課して押し潰すわけにもいかず。

 故に彼らは天への門を開いて待っている。

 生を全うし傷つき疲れた魂を迎え入れ、優しく抱きしめるために」

 

「……ふざけるな。神は見守ってくださると、正しい道を示してくださると、そう信じて私は!」

 

「思い通りに正しく生きる人間だけを求めていたなら、最初からそのように創っていたさ。

 彼らは自らの想像を越えた、新たな可能性が産まれることを望んでいる。

 ……もし儂の予想通りだとしたら、貴様のような反抗的で規格外な者こそが、あるいは神に望まれて生まれた人間なのかもしれんな」

 

「私が……望まれた……!?」

 

「そうじゃ、いっそクレームつけてこい。

 実際に体験した者からの貴重な意見をフィードバックすれば後の改善に繋がるであろうからな。

 きっと喜ぶじゃろう。くけけけ」

 

「……ふん、わずかな反抗すら神を利する結果となるのか。

 全くもって腹立たしい」

 

背を向けて疲れたように歩き出す言峰。

彼の進む先には、炎を噴き出す白い穴が浮かんでいた。

彼はその寸前で立ち止まり、再び振り返る。

 

 

 

「では、精々悪態をついてくるとしよう」

 

「おう、行ってこい」

 

 

 

聖杯から溢れ出した浄化の炎が言峰を包み、彼を燃やし始めた。

 

彼はすでに10年前に死んだ人間であり、彼もまた汚染された聖杯の泥を浴びて生き延びた。

彼の命を支えていた力が浄化により消滅したことで、彼の苦悩に満ちた旅路はようやく終わりを告げた。

不敵な笑みを浮かべたままの彼の遺体は灰となって、風に流され消えていった。

 

 

「綺礼……」

 

「……聖杯の浄化も、完全に終わったようじゃな」

 

まるで世界を照らす太陽のように、暖かく輝く光が浮かんでいた。

フォーリナーはイリヤに右手を伸ばし、小聖杯を切り離して実体化し頭上に掲げる。

 

「……さて、聖杯はここに成った。

 これは我ら皆で勝ち取った勝利。

 ここにいる誰もが願いを叶える権利があるじゃろう。

 では望みのある者は、前へ」

 

しかし光を背にして杯を持つフォーリナーの前に、歩み出る者はいなかった。

 

「……おらぬ、か」

 

「あぁ、下手な願いを言えば世界を滅ぼしちまうようなもの、おっかなくて使えやしない」

 

「その点でも実例が目の前にいるからね」

 

「くけけけけけ。しかし儂がいる今ならば問題が起きたとしても対処できる。

 セイバー、お主は良いのか?

 歴史の改変は言うた通り避けるべきじゃが、守護者となる契約の破棄ならできるぞ?」

 

「いえ、お気持ちだけで。

 確かにブリテンは滅びましたが、そこから産まれた命と歴史があると知りました。

 ならばブリテンの生きた証の残るこの世界の未来を守ることが、私の新たな望みです」

 

「……辛いぞ?」

 

「わかっています。

 ……ですが大丈夫です。『先輩』もいますから」

 

「わかった。セイバーもアーチャーも、あんまりにも待遇悪かったら儂を呼べ。

 抑止力の奴らに説教してやるから」

 

「……パワハラ上司?」

 

「くけけ。ブラック上司よりマシじゃろ?」

 

「とんでもない相手の名刺をもらってしまったな。

 ……下手をすれば聖杯以上の切り札になりそうだ」

 

「ライダーはこの世界を好いておったろう?

 受肉し桜と共に生きたいとは思わんか?」

 

「思わないと言えば嘘になります。

 ですがサクラにはもう私は必要ないでしょう。

 それに、ずるずると引き伸ばしてしまうといずれ訪れる別れが辛くなりますから」

 

「ランサー、アサシンは?」

 

「最初にヘマした時点で終わってたようなもんだったんだ。

 戦い足りねぇが、これ以上を望むのは野暮ってもんだろ」

 

「うむ、何事も腹八分であろう」

 

「……そうか」

 

フォーリナーは聖杯を持った腕を下ろし、背中の炎を燃え上がらせる。

炎は巨人の姿を取り、フォーリナーが小聖杯を上へと放り投げた。

巨人が大口を広げ、小聖杯と大聖杯をまとめて飲み込んだ。

 

 

「聖杯よ、お主は願望機としての役目を見事全うした。

 ……これを持って第5次聖杯戦争、そして冬木の聖杯戦争の終結を宣言する!」

 

 

聖杯による補助は消えた。まもなく英霊たちは彼らのいるべき世界へと帰る。

 

「英霊たちは聖杯に飲まれず、そのまま座に戻る。

 この戦いの記憶もまた座へと持ち帰ることができるじゃろう」

 

「そいつぁ朗報だ。楽しい戦いだったからな。

 テメェらとは短い付き合いだったが、肩を並べるのも悪くなかったぜ」

 

「はっはっは、善哉善哉。……では失礼しよう。息災でな」

 

まずランサーと、アサシンが消えた。

 

「サクラ、アナタは幸せになってください」

 

「今までありがとう、ライダー」

 

「アーチャー……」

 

「大丈夫だよ遠坂。俺ももう一度、頑張ってみるから。

 ……『衛宮士郎』に、負けないようにな」

 

「あぁ。オレだって自分には負けられないさ」

 

「シロウ」

 

「?」

 

「……アナタが、私の鞘でした」

 

「……出会えてよかった。ありがとな、セイバー」

 

「はい」

 

ライダー、アーチャー、セイバーも消えた。

メディアという例外を除けば、もはや残るサーヴァントはフォーリナーだけ。

彼女は聖杯のバックアップを受けていないのでいつまでもここに残ることができるが、もはやその意味もない。

 

 

「では、儂も失礼するか。

 メディア、子供らを邪な魔術師どもから守ってやってくれ。

 そしてようやく手に入れた幸せ、今度こそ手放すなよ」

 

「もちろんよ。……じゃあ、またね」

 

フォーリナーは巨大な白い左腕を作り出して、5人の元マスターたちを胸元に抱きしめる。

 

「わぷっ!?」

 

「慎二。お主は一瞬とは言え、宇宙を司る神の主君となった男じゃ。

 それ以上の価値などこの世界のどこにもあるまい。胸を張れ」

 

「……フン、今更そんなもんに興味はないね」

 

「士郎。『お主なら正義の味方になれる』などと安易に言うつもりはないし、なれる保証もできん。

 それでもなると決めたなら、その思いを貫き通せ」

 

「当たり前だ。どんな苦難も笑い飛ばせる、最高の正義の味方になってみせるさ。

 ……ありがとうございました、先生」

 

「桜。この二人を見ていてやれ。なんだかんだ危なっかしい奴らじゃからな。

 ずっと二人を見てきたお主ならできるはずじゃ」

 

「はい。お任せください」

 

「凛。いつかお主が第二魔法を手に入れたなら、儂の世界へ招待しよう。

 盛大に祝福してやるさ。宇宙を上げてな」

 

「うげ、むしろやる気なくしそうになったわ。

 ……ま、そのくらいで諦める夢じゃないけどね」

 

「イリヤ。お主はもう自由じゃ。

 ……家族と、仲良くな」

 

「……じゃあね、バーサーカー」

 

フォーリナーは子供たちを放し、数歩下がって距離を取る。

 

「本当にどうしようもなくなったら、儂の名を呼べ。

 聖杯に代わり、儂がお主らの願いを叶えよう」

 

「ふんっ、だから危なっかしくて嫌だって言ってんだろ!?

 二度とくんな、バーカ!」

 

「げらげらげら……じゃあな」

 

彼らがいつの間にか訪れた夜明けの光を浴びて目を細めると、その一瞬でフォーリナーは姿を消していた。

彼らの感じたぬくもりだけが、彼女がここにいたという証明だった。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……ん~~?」

 

穢れた聖杯へと飛び込み、『この世全ての悪』を燃やし尽くした不動明王は、しかしまだ現世にいた。

 

本体である大日如来とは同期していた。

突然『出番を譲ってくれ』と言われた時は驚いたが、結果的に丸く収まった。

第5次聖杯戦争は終わり、聖杯のバックアップを失った自分は座に帰るはず。

しかしここは確かに冬木の町だった。

 

だが人の姿はなく、町は至る所が燃え、サーヴァントの気配も感じる。

 

「一体何があったんじゃ……なんか、儂のクラスまで変わっとるし」

 

まぁ見た目は変わらないのだが。

なぜこんな状況になっているのかを知ろうと、彼女はてくてくと歩き出す。

暫くするとこの町に、突然人間の反応が現れたことに気づく。

 

「ふむ、サーヴァントが襲いかかっておる?何か知っておるかもしれんな」

 

即座に転移し、姿が変わり自分のことも覚えていないサーヴァントを撃退し、守ってやった見慣れぬ一団へと視線を向ける。

怯え切った女性、巨大な盾を持つ少女、そして令呪が刻まれた若者。

 

「そっちのお嬢ちゃんたちはサーヴァントとマスターか?」

 

「あ、アンタもサーヴァント!?一体何者なのよ!?」

 

「おっと、確かに。名乗るならまずは自分からじゃよな」

 

 

 

 

「サーヴァント『救済者(セイヴァー)』、不動明王じゃ。

 お主らとは長い付き合いになりそうな気がするな……よろしく頼むぞ?」

 




真名:不動明王(ヒノカミ)
クラス:セイヴァー
属性:混沌・善・天

筋力:A++
耐久:EX
敏捷:C
魔力:EX
幸運:F
宝具:EX


『第5次聖杯戦争』、これにて完結となります。

初のジャンプでない作品ですが、ヒノカミのモチーフやヒーローとしての在り方など、Fateとの関連性が多いので本編完結後に必ず触れようと決めていました。
むしろここまでよく続けられたものだと我ながら感心しています。

本作では真の外道以外すべてのキャラに救済ルートを用意することを目標として執筆しました。
ギルガメッシュは外道に含まれてしまいましたが、言峰は少し外れました。
最終的には堕落しましたがそこに至るまでの経緯を知ると、これくらいの救いがあってもいいかなと。

そして最後に突っ込んだのは言うまでもなく『Fate/GrandOrder』です。
クラスはセイヴァー。ほぼ制限のない神に匹敵する能力を持つサーヴァントが初期から人理修復に参戦する未来を用意しました。
FGOの話までは書ききれませんが、こんなのがいたらほとんどの問題は解決するでしょう。
無尽蔵の魔力の供給、負傷したマスターたちの蘇生、そして多彩な能力と圧倒的な戦闘能力。
そして彼女でもどうにもできない事態に直面し命を落としたら本体が顔を出す。
……うん!どうあがいても救済だね!

ひとまずこの話で、本編との関連性が高く書いておきたかった外伝は書き終えました。
作者としてはここで本当に一区切りです。
後はもう、何の縛りもなく好き勝手に好きな作品を書けます。
11月くらいから始められたらと思うのですが、最近多忙なため少し難しいかもしれません。
期待せず気長にお待ちいただければ幸いです。
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