青年の名は『キョウジ・カッシュ』。
東方不敗の弟子である『ドモン・カッシュ』の兄であることが判明した。
キョウジは弟からの手紙で彼が東方不敗に弟子入りしたと聞き及んでおり、東方不敗もまたドモンからキョウジが映った写真を見せてもらったことがあった。
「弟共々お世話になり、何とお礼を申したらよいか……!」
「構わん。若者に道を指し示すも先達の役目よ」
「ありがとうございます。
……そして貴方がクーロンガンダムのメカニックですか。
技術者として是非一度お会いしたいと思っておりました」
「うむ……なぁ東方不敗。お主の弟子はかなり直情的で礼儀知らずと言っておらんかったか?本当に兄弟か?」
「はは、お恥ずかしい限りで……」
キョウジは右手でヒノカミと握手したまま、苦笑しつつ左手で頭を掻いた。
ヒノカミは前回のガンダムファイトにて、ネオホンコン代表である東方不敗の専属サポーターとして活躍し彼を優勝へと導いた。
彼女が改修したクーロンガンダムの性能はまさに桁外れで、元々圧倒的な強さを誇る東方不敗の技と組み合わさって、本戦での蹂躙劇は観戦者たちの度肝を抜いた。
各国の技術者は謎のメカニックの正体を探っていたがヒノカミは表舞台に立つことを望まなかったので、こうして外部の人間に名乗るのはこれが初となる。
「さて、自己紹介はここまでとしよう。
早速で悪いが、お主の状況を説明してもらいたい」
「……事の発端はネオジャパンの軍部と、とある技術者の謀略です」
隣に佇むアルティメットガンダムを見上げ、キョウジはぽつぽつと語り始める。
元々自己再生する金属細胞は、『サバイバルイレブン』と呼ばれる過酷な予選を勝ち抜くためにモビルファイターのメンテナンスフリー化を目標として開発されたものだった。
しかしキョウジの父ライゾウ博士はこれを発展させてUG細胞を生み出し、荒廃した地球を救うガンダムを作り上げようとした。
上半身が人型をしているのは、当初はガンダムファイト用のモビルファイターとして開発される予定だったからだ。
そしてついにアルティメットガンダムが完成した時、ネオジャパンの軍部を掌握したウルベと、ライゾウ博士の親友であるミカムラ博士が結託し、アルティメットガンダムを強奪しようと極秘裏に軍を動かした。
事実この機体は誤った方向に進化すれば、敵対する全てを蹂躙し宇宙を支配する悪魔へと至る可能性を秘めている。
連中にこの機体を悪用されるわけにはいかぬと咄嗟にキョウジがこの機体に乗り込みネオジャパンから脱出、地球へと逃げ延びた。
しかしあまりに急な起動と突入であのような乱暴な降下になってしまい、墜落の衝撃によってガンダムが暴走したというわけだ。
「私を逃がすため母は凶弾に倒れ、父はおそらく捕らえられたかと……」
「……ふん、愚物が。身の丈に合わぬ欲を抱きおって」
「それでお主はこれからどうするつもりじゃ?」
「まずは姿を隠します。ウルベらがアルティメットガンダムを諦めたとは思えません。
……父を助けたい、母の仇を取りたいとは思いますが、まずは連中にこの機体を渡さないことを優先しなければ」
「う~む……じゃが今のこ奴は事実上儂にしか動かせんぞ?」
「なんですって!?」
「どういうことだ?」
「『人類を抹消すべき』というこ奴の考え自体はまだ改められておらんからじゃよ。
儂が睨みを効かせておるから渋々大人しくしとるだけ。
儂以外の者が乗り込めば支配され、こ奴は己の結論に従い殺戮を始めるかもしれん」
「そ、そんな……」
消沈し悩むキョウジだが、この状況では選択肢は一つしかない。
「こ奴が考えを改めウルベらが手出しできぬほどに強く成長するまで、儂が行動を共にするしかあるまい。
東方不敗、お主はどうする?」
「手を貸そう。お前が後れを取るとは思えぬが、欲に塗れた者にこの機体と力を奪われることは万が一にもあってはならぬ。
これが地球環境再生を成し遂げるためのガンダムというのなら猶更よ」
「っ!?ですが、これはネオジャパンの……身内の恥です!
ネオホンコンのお二人を巻き込むわけには……!」
「いやぁ、儂ら別にネオホンコン出身というわけでもないしなぁ。
人種としては『ジャパン人』じゃし」
「そうなのですか!?」
第9回から第11回までの大会にて、銃器を用いるネオイングランドのブリテンガンダムが3連覇を成し遂げてしまったことで『格闘大会』であるはずのガンダムファイトの存在意義が問われ、軍拡と戦争の機運が高まってしまった。
その流れを絶つためにシャッフル同盟を代表して東方不敗が第12回ガンダムファイトに参戦し、武闘家の強さを知らしめることで正しいガンダムファイトに戻そうとした。
ヒノカミは地球への被害を抑えるためにも自然を愛する東方不敗が所属し、唯一地球を領土としているネオホンコンという国が勝者となった方が都合が良かった。
そして現在のネオホンコン首相であるウォンという男もまた俗物であり、飴と鞭での説得が容易だった。
以上の要因から彼らはネオホンコン所属となっているが生まれは異なり、国に対する帰属意識も持っていない。そして何より。
「事はもはやネオジャパンに限った話ではない。
このアルティメットガンダムとやらが本当にそれほどの力を秘めていると言うのならば、全宇宙の危機である。
地球再生は儂らにとっても悲願。これを妨げられてたまるものか」
「言うたじゃろ?どうやら我らは同志であるようじゃと。
ここまで来たら一蓮托生じゃ。それとも儂ら二人では不安か?
……であれば早速頼りになるところを見せておこうかの」
そう言うとヒノカミはガンダムのコクピットに飛び込む。
機体のツインアイに光が灯り、上空を見上げた。
「何を!?」
『お出ましじゃよ、大軍が降下してくる』
「なんだと!?コロニーが地球に軍隊を送るなど、他国に知られれば戦争の引き金になるぞ!?」
『そのリスクに見合うリターンを見込んでおるということじゃろう。
東方不敗はキョウジを連れてこの場を離脱せよ。
ガンダムは呼ぶなよ。ネオホンコン代表のお主が関わっているとネオジャパンに知られれば面倒が増える』
「無茶です!アルティメットガンダムは圧倒的な存在に進化する可能性を秘めていますが、今はまだ産まれたばかり!
それに非戦闘用の機体なのですよ!?」
内蔵火器は頭部のバルカンのみ。
上半身は人型だが、下半身はハサミと複数の脚を持つ巨大な昆虫のような姿をしている。
地球の自然の根本は植物。そして植物と最も密接に関わる生命体と言えば昆虫だろう。
であれば地球再生を目的としたガンダムがこの姿であるのは納得がいくが、戦いに向いているかと言われれば頷くことはできない。
『問題ない。……機影が見えたぞ、急げ東方不敗!』
「ゆくぞキョウジ!」
「うっ!?」
東方不敗がキョウジを掴み強引にその場を離れる。
「何故です!?彼女とアルティメットガンダムだけでは!?」
「奴が『問題ない』と言った。であれば問題はない。
奴は嘘をつかぬ。そして何より奴もまた、この儂に並ぶファイターであるのだからな」
「なっ!?」
高齢になってきたとは言えシャッフル同盟の長、キング・オブ・ハートの称号を持っていたコロニー格闘技の覇者。
その男が彼女を同格と呼んだ事実が信じられない。
ちなみに、確かに『
「そして教えておこう……奴はな、儂より年上だ」
「……はぁぁっ!?」
クーロンガンダムのメカニックなら成人はしていて当然だが、精々20代だと思っていた。
東方不敗の年齢は47歳。蓄えた口ひげと髪の色、何より貫禄で誤解されがちだが老人というにはまだ若い。
そしてヒノカミは小柄で体つきも起伏に乏しく、15歳前後と言っても通用するだろう。
そんな彼女の方が年上だと見た目で気付く者がいるはずもない。
ちなみに彼女の肉体年齢は20歳でもう成長もしないので、残念ながら将来性はない。
「……彼女はおいくつなんですか?」
「わっはっは!若いな、若造。
男が女の年齢を尋ねるものではない。命が惜しくばな」
「準備はいいか?」
(ーー……!)
「ん、よし。ではこれが我らの初陣じゃ!
ゆくぞ、アルティメットガンダム!!」
ヒノカミが来訪したのは『荒廃する地球に住む人々の救いを求める声に引かれて』です。
第12回大会前はコロニー間全面戦争一歩手前だったらしいので、彼らの祈りも一層真摯であったはず。
この世界にやって来た彼女は状況を把握するや否や、破壊活動を行うガンダムファイターを襲撃していました。
そして東方不敗ともぶつかり意気投合。
彼を勝利させることが目的達成の近道と判断し、彼のサポーターになっています。
勿論彼の病気はヒノカミが治療済みで、彼女の再生と活力の炎は人間以外の動植物にも活用可能。
よって東方不敗はまだまだ寿命には程遠く余裕があり、大会後3年間は二人で地球環境再生の旅を続け着実に成果を上げており、人類に対する失望や敵意はありますが積極的に滅ぼしてやろうという考えまでには至っていません。
それに何より、人類を敵に回そうとするとヒノカミも敵に回ってしまうので。