1日2回投稿に切り替えます。
巡回のモビルスーツに見つかることなく、無事ネオジャパンコロニーに接近した鬼。
(……ふむ、警戒はぬるいんじゃな)
思えば彼女がこの世界の宇宙に上がり、コロニーに来るのはこれが初めて。
とは言え各国のコロニーがどのようなものかはある程度調べている。
当初は実用性皆無、デザイン最優先の設計思想に驚愕したものだ。
しかし把握できるのは表に出ている情報だけ。各国の警備体制なんて調べられるはずがない。
永い冷戦が続いている世界だと言うし、想定よりも遥かに甘いのも『そういうものか』と納得していた。
これほどコロニーに接近しては炎を噴き出しての移動は不可能。
熱源反応が隠せても生じる光は隠しきれないから。
彼女は左腕の白い帯で周囲のデブリを掴んで引っ張り、その反動を利用してコロニーの外壁周辺をゆっくりと移動する。
あまりスピードを上げると察知されるかもしれないので、ゆっくりと。
仮にも一国の領土。コロニーはとんでもない大きさであり、こんな方法では目当ての場所に辿り着くまでにとんでもない時間がかかる。
酸素も食事もいらずエネルギー消費もない彼女だからこそ出来る芸当だ。
(あの辺りがよいか)
目的の施設の近くの外壁に大きな窓を見つけ、取り付いてその中を覗き込む。
誰もおらず、無人警備の類も見当たらない。
「よっと」
ヒノカミは室内を視認し転移で侵入した。
どれほど厳重な扉であろうとその中をはっきり把握できているならいくらでも素通りできる。
コンソールにアクセスし、ハッキングを仕掛ける。
侵入の形跡を隠し、ライゾウ博士の所在と警備状況を調べ、ついでに取れる限りの情報を抜き取っていく。
この世界よりも遥かに進んだ世界の知識と技術を持つヒノカミにとってこの程度のセキュリティなどないも同然だ。
情報をダウンロードする手間すら必要ない。
彼女は一度覚えたことは忘れないので、彼女自身が記録媒体だ。
「ふむ……ふむ……ふむ?」
ライゾウ博士の居場所は判明した。
座標と周辺の構造も把握した。これだけ正確な情報があればここからでも直接転移できる。
しかし調査の過程でネオジャパン軍の動向の情報を見つけてもう少し深く潜ってみる。
「…………」
ウルベにより隠されたライゾウ博士らの真実の証拠文書。
呼称をデビルガンダムと改めたアルティメットガンダムへの対応。
読み進めて、読み進めて、読み進めて。
「……くそっ!!」
コンソールを殴りつけようとする寸前で思いとどまり、ヒノカミは即座に行動を再開する。
速やかにライゾウ博士を救出し、地球に戻るために。
「無事でいろよ……キョウジ、アルティメットガンダム!」
――――……
キョウジはアルティメットガンダムが隠れていた廃墟の壁を破壊して姿を現したシャイニングガンダムを前に息を呑む。
先ほどの声は間違いなく、弟のドモン・カッシュだ。
会うのは数年ぶりだが聞き間違えるものか。
(だが……っ)
彼の声は怒りが込められていた。
やはり完全にキョウジが悪だと思い込んでいる。
しかし事情を明かして説得することはできない。
真実を知ればドモンはウルベらを許さず、そしてウルベもドモンを邪魔者として排除しようとするだろう。
「……アルティメットガンダム!」
(ーー……!)
キョウジの呼びかけに応え、アルティメットガンダムが胸のコクピットハッチを開く。
そして彼はためらいなくその中に飛び込んだ。
ヒノカミがあらかじめ満たしてくれていたが蓄積できるエネルギー量は有限であり、一時的にキョウジが生体ユニットとなり自身の生命エネルギーを譲渡しなければアルティメットガンダムは満足に動くこともできない。
『……っ!?待てぇ!!』
彼らが選んだのは逃げの一手。
巨大な下半身の多脚を動かしてシャイニングガンダムを背に走り出す。
大通りにすら収まらない巨体はその両脇に立つ廃墟のビルをなぎ倒しながら進み、そしてシャイニングガンダムからいくらか距離が取れたところで地面に潜り地中を移動して離脱しようとするが。
『させるかぁ!!』
「ぐぁあっ!?」
(ーー!)
シャイニングガンダムが地面に叩きつけた渾身の一撃が大地を揺らし、半ばまで埋まっていたアルティメットガンダムにダメージを与えつつ地上へと弾き出す。
『づぁぁぁぁぁあああああっ!!!』
「うっ、ぐっ、くぅぅ……っ!」
目の前にまで迫ったシャイニングガンダムが攻撃を仕掛けてきた。
おそらくドモンはネオジャパン軍から、アルティメットガンダムが熱やビームを吸収する特性を備えていることを聞かされているのだろう。
腰に下げたビームソードを抜くことなく拳と蹴りで苛烈に攻め立てる。
キョウジも鍛えているがまだ人間の範疇。
人外の領域にまで足を踏み入れたガンダムファイターたち、その中でも最強とされるコロニー格闘技の覇者であるキング・オブ・ハートの称号を継いだドモンには遠く及ばない。
キョウジの操るアルティメットガンダムでは、ドモンの操るシャイニングガンダムには敵わない。
まして防戦一方とあっては。加えて。
(ーーーー……!)
「頼む、堪えてくれアルティメットガンダム!
アレは私の弟で……お前の兄とも呼べる存在なんだ!」
(ーー……)
キョウジは怒りで暴走しそうになるアルティメットガンダムに必死に呼びかけ続けねばならず、まともに戦う余裕などない。
アルティメットガンダムはライゾウ博士が生み出した機体であり、シャイニングガンダムと同じ素体から作り上げられたのだから、目の前にいるのは二つの意味でアルティメットガンダムの兄弟だ。
「ヒノカミ達が旅立って、しばらく経った。
いつ戻ってきてもおかしくないはずだ。
情けないが、私ではお前を逃がしてやることすらできない。
彼女らが戻ってくるまで、なんとか耐えてくれ……!」
(ーーーー)
キョウジの懇願に応えたアルティメットガンダムは顔の前で腕を交差させ、上半身と下半身を繋ぐ蛇腹ケーブルを縮め、明らかな防御の姿勢を取った。
『なっ……このぉっ!!』
「ぐぅぅ……!」
あまりに消極的な姿勢にドモンは驚き、しかし怒りのままに拳を振るい続ける。
だがその戦いは長くは続かなかった。
キョウジが耐えられなくなる前に、シャイニングガンダムが拳を止めたからだ。
『……何故だ!何故戦わない!』
「ドモン……!」
シャイニングガンダムのスピーカーからドモンの声が響くが、アルティメットガンダムからの通信は最初から切っている。
こちらに会話するつもりが無いと彼も理解しているだろうが、それでも彼は悲痛な叫びを止めない。
『何故母さんを殺したんだ!何故父さんを追い詰めたんだ!
なんで何も言ってくれないんだ!なんで違うって言ってくれないんだ!!
……答えてよ……答えてくれよ、兄さん!!』
「っ……ドモン……!」
彼を守るためだから。彼が大切だから。それは事実だ。
だがどんな言い訳をしても、自分の行いが弟を苦しめ続けているのも事実だった。
「……すまない……っ」
そう呟いて心の中で仲間たちに謝罪し、キョウジは指を伸ばして通信機能をオンにしようとした。
(ーー!?)
「!?」
その前にアルティメットガンダムが側面から攻撃を受け姿勢を崩した。
遠方から超高速で発射された鉄杭のような弾丸が、その体に突き刺さっていた。
『なっ、なんだっ!?……これは!?』
おそらくシャイニングガンダムのレーダーにも、同じものが映されているのだろう。
二人のいる戦場を囲む、数えきれないほどのネオジャパン軍のモビルスーツの反応が。