「今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た……と言っても、今のお前たちはそれどころではないようだな」
一夜明けても生徒たちにはヒノカミの死という事実が重くのしかかっており、全員が沈黙し項垂れている。
「……言いたくはないが、俺たちヒーローは最も人の生き死にを目の当たりにする職業だ。
俺も学生の頃にインターンで親友を亡くしてる。
慣れろとは言わんが、押しつぶされて足を止めてしまうようではヒーローは務まらんぞ」
下手な慰めに意味はないと、相澤は敢えて残酷な現実を突きつけた。
反応はないが耳に届いてはいるはずと、相澤は手早く次の話題に移る。
「まず言っておく。林間合宿は全員参加だ」
「「「……はぁ!?」」」
「個性把握テストに続けて繰り返しで悪いが、赤点は不参加というのは諸君らのやる気を出すための合理的虚偽さ。
むしろ赤点取った奴こそこの強化合宿で力をつけてもらわなきゃならん。
赤点5名は通常の訓練に加えて別途補習時間を設ける。
地獄を見ることになるが……今のお前たちなら大丈夫そうだな」
赤点を宣告された5名は地獄と聞いて落ち込むどころか、更にやる気を漲らせていた。
この合宿がヒノカミからの最後の授業。
何としても強くなり、彼女の期待に答えられるようなヒーローになるのだと意気込んでいる。
そして夏休みが始まり、林間合宿当日。
以前の敵連合の襲撃を警戒し彼らの合宿先は当人たちにも秘密になっているので、行先も告げずにバスで連行する。
バスで移動するのは途中までで、そこから山のふもとにある宿泊施設までサバイバル演習を兼ねて自力で向かうことになっている。
当初は浮かれた気分を叩きなおすために何も言わず森の中に連れ込んで突き落とす予定だったが、今のやる気みなぎる彼らならその必要はないだろうと判断しあらかじめ演習内容を通達済み。
生徒たちは制服ではなく体操服を着こみ、サバイバルキットを持たない者は雄英から貸し出している。
「ねこねこねこ……あ、あれ私らのグッズだにゃん!」
「儂とオールマイトから雄英合格祝いとして渡したのよ。雄英からのレンタルよりこっちの方が遥かに質が良いからの」
「あぁ、以前オールマイトから打診が来たアレね。ご愛顧いただきどうも」
「……うぉ~っ!あのキティたちやるじゃん!逆立ってきたぁ~!」
先に宿泊施設に移動していたヒノカミは、今回お世話になるプロヒーローチーム『プッシーキャッツ』と雑談していた。
生徒たちの妨害を行うピクシーボブは彼らの様子をカメラで確認しながらの会話だ。
案内と説明のため生徒たちと共にバスで移動した相澤は今からこちらに向かうところ。
ちなみにB組担任のブラドキングは生徒たちと共に演習に同行している。
協力はしないが、状況に応じて知識と技術を教えながら時間をかけて進む予定らしい。
厳しく突き放され自主性を身に着けるA組と、安全に基礎能力を高めていくB組。
教師の教育方針がはっきりと分かれた形だ。
「……それで、敵連合の襲撃……本当にあるのね?」
「間違いなく」
「ふぅむ……我ら4人と教師3名では心もとないが……」
「伝えた通り、対策は取ってある。念のため詳細は秘密にさせてもらうが万全の構えじゃ。
警戒を怠って良いというわけではないがの」
「りょーかい!あちきの個性で定期的に周囲を警戒しておくにゃん!」
すでに教師にも伝えているヒノカミの予知。それによればこの合宿中に敵連合が再び襲撃してくると判明している。
それを伝えた上でプッシーキャッツに協力を打診したのだが、彼らはためらうことなく快諾してくれた。
彼らもまた平和のために戦う真のヒーローなのだ。年齢と見た目のことは気にしてはならない。
遅れてやってきた相澤と合流し、今後の予定を打合せしながら待機すること約6時間。
プッシーキャッツたちはA組の到着は夕方頃になると予想していたが、彼らはまだ日が高い内に施設にたどり着いた。
特に活躍したのは実力が抜きんでている轟たち3人だが、他の生徒たちも彼らに頼り切ることなく最善を尽くした。
そして彼らは満身創痍だがその眼は未だ気迫に満ちている。
「うぉぅ、今年の1年はすっごいねぇ……私の土魔獣が手も足もでなかったにゃん。
特にそこの3人、体育祭で見てたけどずば抜けてるねぇ!3年後が楽しみ!」
未来ある轟たちに物理的に唾をつけようとするピクシーボブ。
普段ならともかく、疲労している彼らはそれを躱すことができなかった。
プッシーキャッツは女性3名と元女性1名による4人チーム。
プロになって間もなくチームを結成し、活動開始から今年で12年になる大ベテラン。
そして全員未婚。
特に彼女は結婚適齢期で焦っているのだ。頑張れピクシーボブさんじゅういっさい。
洸汰くんはいません。
危険な合宿だとわかっているし、両親も引退したとはいえ存命なので。
家族仲良く過ごしてね。出番なくなったけど。